裏庭

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裏庭


裏庭の畫の光のなかに

きんかんの木とみかんの木があつた。

蝶がひとつ遊󠄁んでゐた。

ひるはしづかだつた。

兄さんは緣側から

だまつてながめてゐた。

ながいあひだながめてゐた。

「きんかんの木があつて

みかんの木があつて

蝶が舞つてゐる」

と兄さんはつぶやいた、

「ただそれだけだ。

だが ここに僕たちの

平󠄁和と幸はあるんだ。

僕の親父󠄁 親父󠄁の親父󠄁 そのまた親父󠄁 

――とほい先からの

平󠄁和と幸はみなあるんだ。


ここをきやつらに

ふみにじられてなるもんか」


あくる日兄さんは出征した。


マライ半󠄁島を

いきもつかずに兄さんは走つた。


そしてブキ・テマでたふれた。


僕は緣側に立つて見てゐる

きんかんの木とみかんの木を

春の光の中に。ああ

兄さんのあとをつぐもの 僕だ。

この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


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