第74回帝國議會施政方針演説

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[全文]

事變下再度の新年を迎へ、時局愈々重大の秋、不肖揣らずも 大命を拜し内閣首班の重責に膺ることになりました、顧みて微力菲才、寔に恐懼に堪へませぬ、今や東亞新秩序建設の新段階に處すべき此の第七十四囘帝國議會に於きまして、諸君と共に聖壽の萬歳と皇室の御隆昌とを壽ぎ奉り、茲に政府の所信を披瀝して、國家の大業を翼贊するの機會を得ましたことは、私の最も光榮とする所であります

 天皇陛下に於かせられましては、事變下格別御多端なる御政務、御軍務に連日連夜御勵精遊ばされ、又今期議會開院式に當りましては、特に優渥なる勅語を賜り、時局に對する深き御軫念の程を拜しまして、洵に恐懼感激に堪へぬ次第であります、私は諸君と共に謹んで 聖旨を奉體し、誓つて報效の誠を竭し、宸襟を安んじ奉りたいと存ずるのであります

 事變勃發以來一年有半に亙り支那の各地に轉戰し、幾多の勞苦艱難を克服し、輝く連捷を収めたる皇軍出征將兵に對しましては、深き感謝を致すと共に、異境の土に骨を埋められましたる英靈に對しましては、衷心より哀悼の意を表し、其の遺志を成し遂げたいと存ずる次第であります

 畏くも 天皇陛下には昨年十月三日軍人援護に關する優渥なる勅語を下し給ひ、且つ巨額の御内帑金を下賜あらせられたのであります、皇恩の廣大洵に恐懼感激に堪へぬ次第であります、政府は 聖旨を奉體し、恩賜財團軍人援護會を創立せしめ、政府の施設と相俟つて軍人援護事業の完璧を圖り、出征將兵をして後顧の憂なからしめんことを期して居る次第であります

 現下我國朝野を擧げて對處しつつありまする支那事變に對しましては、曩に畏くも 聖 斷を仰ぎ奉り、確固不動の方針が定められて居りまして、之に基いて必要なる諸般の施策が進められて居るのであります、現内閣に於きましても、固より此の根本方針に基きまして、飽くまで所期の目的達成に邁進致す所存であります、申すまでもなく日滿支三國が相互に十分なる理解の上に立つて、相提携して政治に、經濟に、將又文化に、互助連環、友好善隣の實を擧げ、之を以て東亞興隆の基と爲すことは、我國肇國の精神を顯現する道であり、不動の國是でありまして茲に東亞永遠の平和は確立すべきであり、又以て世界の進運に貢獻する所以でもあるのであります

 東亞安定の責に任ずべき日本、滿洲、支那の三國は、須く速に此の公正なる目標に向つて協同し、舊套を脱して新しき秩序に趨くのでなければ、永遠の安定は遂に望むべくも無きこと、自明の理であります、畏くも 明治天皇は「舊來の陋習を破り天地の公道に基くへし」と仰せられました、私は是こそ我國の政治の基礎でなければならぬと信ずるのであります、此の大精神は遠く神代より皇祖皇宗の御遺訓となつて居りまして、御歴代は之を奉じて國家を統治されたのであります、惟ふに天地の皇道は、即ち萬物をして其の所を得しめることに歸著するのでありまして、政治の要諦茲にあらねばならぬと考へる次第であります、此の御精神の及ぶ所は、國内政治たると國際關係たるとは問はないのでありまして、東亞の新秩序建設も亦此の根本精神を基礎として、其の上に工作が進められねばならぬと信ずる次第であります

 支那側に於きましても能く此の帝國の大精神を諒解し、聊かの疑惧も、何等の誤解も持つことなく、速に之に協力するのでなければ、東亞の新秩序建設は成らぬのであります、若し今日以後に於ても飽くまで之を理解することなく、抗日を繼續する者に對しては、 斷乎として之を潰滅する事あるのみであります、併しながら支那に於ける具眼の士にして、能く帝國の國策に協力し、更生新支那建設の礎石とならんと欲する者に對しては、帝國は快く之を援けて、支那民衆を塗炭の苦より救ひ、舊き偏見と拘泥とより脱せしめて、東亞新秩序建設の歴史的事業に迎へ容るべきであります、今や支那には豫て臨時政府、維新政府、蒙彊政府の當局者が實踐致しましたる大道に目醒むる者が相踵ぎ、更生建設に向はんとする氣運が漸く支那全土に漲りつつありますことは、洵に東亞の安定の爲に喜ぶべきことであり、正義に立脚する帝國國是遂行の成果であると存ずる次第であります

 今日の如く共産主義が支那大陸に瀰漫し、遂に其の政權をも支配せんとするものあるに對しましては、眞實の道を實行する上に、何としても之を拂除せねばならぬのであります、之が爲には第三國の理解の増進を圖ると共に、理解ある第三國と提携協調して行かねばならぬのであります、盟邦獨伊兩國が、今次事變の當初より一貫して我國に全幅の支持を與へ來りましたることは、既に諸君御承知の通りでありまして、之に對しましては深く感謝致しますと共に、帝國と防共協定に依り結ばるる是等兩國との關係が、日を逐うて緊密を加へつつありますることは、洵に御同慶に堪へぬ次第であります

 又滿洲國の著しき發展は興亞の爲洵に頼もしきことでありまして、日滿不可分の諸方策は、當に益々強化せらるべきであると信ずるのであります、而して他の第三國との關係に付きましても、帝國は徒に之を經濟的に、或は文化的に排除するが如きことを考へて居るのではなく、彼等が帝國の眞意を理解し、東亞の新秩序建設に協力して參りますることを望んで已まぬのであります

 此の秋に方りまして事變處理の根本方針に則り、前内閣が發しましたる帝國政府聲明は、支那が新秩序建設の分擔者としての職能を實行するに必要なる保障を明にしたものでありまして、之に依りて支那民衆を覺醒せしめ、又列國を啓發すべき今日の情勢に最も適應した指針であると、政府は確信するものであります、勇敢なる皇軍將兵の活動と、内外地を通じて熱誠なる銃後國民の後援とに依りまして、武力的勝利は既に遺憾なく我に収め、抗日容共の迷夢に狂奔する國民政府は僻陬に遁走して、一地方政權に顛落致しました、併しながら今次事變の終局の目的は、單なる武力的勝利に在るのではなく、支那の更生と之に伴ふ日滿支三國の互助提携の上に、新しき東亞の秩序體制が確立されることに在るのであります、而して今日既に興亞院も設置され、對支業務の圓滑適正なる進捗を期待し得るやうになりました、固より時局の前途は、愈々多難でありますことは、察するに難くないのでありますが、之を克服致しまして光明ある前途を拓きます爲には、畢竟過去に於て吾々の祖先が有ゆる國難を克服して參りましたる如く、我等國民全體が親和協同して、皇室を輔翼し奉る萬民輔翼の精神を以て、一切の努力を之に傾倒すべきでありますることは、申すまでもないのであります、即ち國家の總ての力を目的貫徹の一途に集中することであります、是は國民の決意一つで成し遂げ得らるるものと確信致します、而して所期の目的が達成せられざる限り、事變は終結せぬのであります

 萬民輔翼は、大御心を奉體して之を徹底することに努力を致すことでありまして、政治に關與する者たると否とを問はず、又農工商等何れの事業たるを問はず、一切の事業に携はる者皆其の責に任じ、萬物をして其の處を得しめると云ふ御仁愛の精神を、全うすることであらねばならぬのであります、隨て總ての國民は、其の従事する業務の如何を問はず、其の精神に於ては國家に奉ずるを念とし、以て皇謨を輔翼せねばならぬと信ずるのであります、即ち今議會開院式に當り賜りました勅語の御精神を奉體致しまして、吾々が祖先より承け繼ぎました傳統的な國民精神の昂揚と國家總力の發揮との上に、東亞新秩序を建設する此の大事業の完成を圖らねばなりませぬ、是が爲には今次事變、更に續いては今後の國際情勢に對處する爲、先ず以て國民精神の昂揚を期すると共に、教育の刷新を圖ることが最も緊要でありまして、此の教育の方針竝に國民精神昂揚の運動は、皆萬民輔翼の精神を基礎として、實踐を尚び實行すると云ふことを第一義に考ふる次第であります

 更に國家總力、就中國防力の急速なる擴充、即ち強力なる軍備及び日滿支を通ずる經濟力の充實發展を速に具現することが、我國當面の最も重要なる目標であります、即ち此の軍備充實及び經濟建設に對應せんが爲には、時局の眞義に徹し、舉國一致異常の決意を以て生産力の擴充、貿易の振興、資金物資及び勞務の調整、物價の規整等に付、何れも今後一層の研究と努力とを重ね、以て是が遂行に邁進せねばならぬと考ふるのであります、殊に生産力擴充に付きましては、所要の目標に達せしむべき綜合的擴充計畫を樹立し、萬難を排し、今後是が實現を期する心算であります、又東亞の新情勢に即應し、運輸、交通、通信の全般に亙り、是が擴充強化を圖ることも喫緊の要務なりと認め、是が施策を進めて居る次第であります

 今日までの諸種の經濟統制の如きは、綜合國力を最も高度に發揮致します爲に、必要なる限度に於て今後も引續き之を行ふことを要することは勿論であります、但し今日までは戰鬪行爲の遂行と云ふ當面の急需に應ずる經濟方策が多かつたのでありますが、今後は之に加ふるに、恆久的にして建設的なる各般の方策をも、併せ遂行することが重要であると考ふる次第であります、即ち以上の見地に立ち、今後は更に國家總動員態勢を強化し、國家總動員法中所要の條項は逐次之を發動すると共に、國内諸般の改新を圖り、以て萬民輔翼の精神に基き、國家の總力を國策の嚮ふ所に集中發揮致しますることが緊要であると信ずる次第であります、又一面に於て其の影響を受くべき商工業者の休業失業に對する措置、健全なる農山漁村の維持振興其の他銃後國民生活の安定施設等にも深甚の考慮を拂ふ所存であります、而して是が爲には官民協力徒に因襲に囚はるることなく、積極的に時局に適應した施策を行ふことが肝要でありまして、諸般の政策遂行に當り、此の上とも朝野協力の成果に期待すべきもの極めて多きを感ずる次第であります

 以上の如き考慮を持ちまして、政府は各般の施策を遂行致したく、茲に豫算案及び各般の法律案を提出する次第であります、組閣以來日尚ほ淺く、政府は前内閣に於て作成致しましたる豫算案、法律案を基礎として研鑽を重ねた次第でありますが、現下の情勢に顧み適切と認めまして是を提出致した譯でありまして、諸君と共に光榮ある國家の大業を翼贊し奉らんとするものであります、幸に時局の須要に顧みられまして、政府の意の存する所を諒とせられ、速に諸案に對して協贊を與へられんことを切望する次第であります

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  1. 法律命令及官公文書
  2. 新聞紙又ハ雑誌ニ掲載シタル雑報及時事ヲ報道スル記事
  3. 公開セル裁判所、議会並政談集会ニ於テ為シタル演述

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