第123回国会における宮澤内閣総理大臣施政方針演説
演説
[編集]平成4年を迎えた我が国は,激動する国際情勢に適切に対応する必要に迫られ,また処理すべき内政の課題も山積しております。
このような年の幕開けに当たり,私は,ブッシュ大統領を我が国にお迎えし,また,初の外遊先である韓国で虜泰愚大統領と会談いたしました。米国とは,同国が今後も世界の秩序構築のリーダーとしてその役割を果たしていくことが必要であり,我が国もそれに全面的に協力し共同の責任を担っていくことで合意しました。韓国においては「アジアの中,世界の中の日韓関係」という視点から,アジア・太平洋の,ひいては世界の諸問題解決のために,共に協力していくことで一致しました。
私は,両大統領との話合いを通じて,これらの指導者と国民が,いかに世界平和を切望しているかを確認すると同時に,我が国への強い期待と担うべき重責に思いを致し,改めて,身を引き締めて国政に臨む決意を新たにしたところであります。
このように,内外ともに極めて重要な時に当たり,かつて国務大臣の職にあった同僚議員が収賄容疑で逮捕されたことは,誠に遺憾なことであります。この事件は,目下司直の手によって究明が進められておりますが,このような事が生じたことについて,国民の皆様に対し,深くお詫びいたします。
将来に向けて対処しなければならない問題を多く抱えている今日,政治がこのような事態によって停滞することのないよう,政治倫理の確立を期するとともに,政治改革の実現に全力を挙げて取り組む決意であります。何とぞ各党各会派,そして国民の皆様のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。
「新しい平和秩序」の構築と我が国の役割
[編集]歴史は今,第二次世界大戦後の世界の構図を大きく塗りかえようとしています。世界を二分してきた冷戦構造に終止符が打たれ,ソ連邦が解体し,朝鮮半島の南北対立も緩和の方向に急速に動きだしています。欧州では統合への歴史的作業が着々と進められ,中東やカンボディアでは和平への動きが現実のものとなっています。
その一方で,イデオロギーの対立と核による対峙を背景とした秩序が崩壊した後,かえって民族紛争や核拡散への懸念が高まっているように,世界は,不確実化,不安定化の様相も強めております。また,地球環境の悪化をはじめ,難民や麻薬,人口やテロの問題など,人類が共同で取り組まなければならない深刻な課題も増大しています。
このように来たるべき秩序の姿は未だ明確ではありませんが,大きな流れとして世界は,平和を求める人類の願いがかなう方向に進みつつあることはまちがいありません。先の所信表明演説で私が,冷戦後の時代を「新しい世界平和の秩序を構築する時代の始まり」ととらえたのも,まさにこのような認識に基づくものであります。我々は,このような流れを確実なものとし,人類の幸福と繁栄,そして地球の将来をかけて,新しい時代にふさわしい世界の平和秩序を創り出すことに成功しなければなりません。各国がそれぞれ,その国情と国力に相応した責任を引き受けながら,手を携えて,この問題に取り組むことが必要な時代が到来したのであります。
その中で我が国が,大きな経済力とこれを背景とする影響力に見合って,どのような責任と役割を果たすかに国際社会の注目が集まっています。そして今年,平成4年こそは,我が国がこの点で真価を問われる年であります。叡智を結集して,積極的,主体的,創造的に,新しい平和秩序の構築に参画し,この光栄ある時代的使命を全うしていかなければなりません。
「新しい世界平和の秩序」づくりを進めるに当たって,世界の人々とともに追及すべき目標として,私は,「平和」と「自由」と「繁栄」を挙げたいと思います。このような目標が一体的なものとして追及されてこそ,個人の尊厳が保たれ,真の人間的価値が保障されるのだと思います。私は,このような考え方に立って,我が国の担うべき責任と役割を,外に対しては,「国際貢献」,内にあっては,「生活大国の実現」を通じて果たしていく決意であります。
我が国の国際貢献
[編集]「平和」は,新しい国際秩序の基本であります。
冷戦後の国際社会において,国連の果たすべき役割はますます大きくなっています。国連中心外交を展開してきた我が国としては,国連の行財政改革や紛争予防制度の確立などを通じて,その活性化を図るとともに,安保理の非常任理事国という立場から様々な地域問題などに政治的役割を果たし,国際社会からの期待に応えてまいります。この意味からも,今月末の安保理首脳会議には,国会のお許しを得て私自身が出席し,理事国首脳と直接話し合ってまいりたいと思います。また,国連平和維持活動などに対して十分な人的貢献を行う見地から,いわゆるPKO法案を,国際緊急援助隊法の改正案とともに,今国会においてできるだけ速やかに成立させていただくようお願いいたします。
平和を担保する軍備管理・軍縮の動きは大きく進みましたが,ソ連邦の解体に伴う核管理問題や核拡散への懸念が生じています。核の究極的廃絶を願う我が国としては,関係各国と協力して,核軍縮のための国際的努力の促進や化学兵器禁止条約の本年中の妥結に積極的に取り組み,さらに,核,生物・化学兵器やミサイルの拡散防止の徹底を図ってまいります。また,昨年,我が国などの提案で創設された通常兵器の国連登録制度は,通常兵器の国際移転の透明性の増大と自主規制の強化を図る上で画期的なものであり,我が国としては,その効果的運用に努めてまいります。
日米安保体制は,アジア・太平洋地域の平和と繁栄に不可欠の枠組みであり,我が国としては,今後ともこの体制を堅持してまいります。
また,平和憲法の下,専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという基本理念に従い,文民統制を確保し,非核三原則を守りつつ,引き続き節度ある防衛力の整備に努めます。現行の中期防衛力整備計画は一昨年末に策定されましたが,その後の国際情勢はソ連邦の解体にみられるように激動しつつあります。政府としては,このような大きな情勢の変化などを見極めつつ,中期防の修正について前広に所要の検討を行ってまいります。
真の平和とは,単に戦禍がないというにとどまらず,人々に幸福を保障するものでなければなりません。したがって,私の言う新しい世界平和秩序が目指すところは,「自由と民主主義」が尊重され,市場経済の原理に基づく「繁栄」が享受される国際社会の構築であります。
この意味で,旧ソ連邦,東欧諸国,さらに多くの開発途上国がこの方向に沿った改革を進めることは,これらの価値が国際社会の中でより広く受け入れられ,新しい国際秩序の基礎となるために極めて重要であります。我が国としても,その支援に適切な役割を果たしていく考えであります。経済協力の実施に当たっても,このような観点に配慮してまいります。また,我が国がかつて先進諸国から学び,あるいは努力して蓄積してきた経済などに関するノウハウの提供など知的支援の展開に努めます。
繁栄の原動力である世界経済は,依然として多くの問題を抱えています。世界の繁栄の恩恵を最も多く享受してきた我が国としては,持てる経済力,技術力などを積極的に活用し,また,我が国の経済を世界経済と一層調和のとれた構造に転換し,世界の繁栄と発展に貢献していく考えであります。
このため,経常収支の動向などを注視しつつ,一層の輸入拡大を図るとともに,外資系企業や外国製品の我が国市場への参入を促進するなど,幅広い投資,産業分野の国際交流に努め,調和ある対外経済関係の形成に努めます。
ウルグァイ・ラウンド交渉を,早期に,かつ成功裡に終結させることは,多角的な自由貿易体制の維持・強化,さらには世界の繁栄のために重要な課題です。昨年末にはダンケル提案も出され,交渉は最終段階を迎えております。我が国としては,他の主要国とともに,引き続き交渉の成功に向け努力する決意であります。なお,農業については,各国ともそれぞれ困難な問題を抱えておりますが,我が国の米についてはこれまでの基本的方針の下,相互の協力による解決に向けて,最大限の努力を傾注してまいります。
また,我々は,世界平和への流れを将来にわたって確実なものとし,その結果生ずる「平和の配当」を,全人類,とりわけ,飢餓や貧困,疾病などに悩む「南」の国の人々に振り向けていかなければなりません。我が国としても,政府開発援助の拡充などにより開発途上国の自助努力を支援し,南北格差の是正に努めてまいります。
さらに,我々は,地球環境,難民や麻薬,人口やテロの問題など,人類共通の課題に真剣に取り組んでいかなければなりません。我が国としては,技術や経験の蓄積を活かしつつ,国連などの国際機関の場において積極的な役割を果たしてまいります。
特に,地球環境の悪化は人類の生存基盤を脅かしています。有限な環境と資源の中で,「持続可能な開発」を目指す経済社会を形成していかなければなりません。このため,6月に予定されている国連環境開発会議,いわゆる地球サミットの成功に向け,我が国としても,各国と協調しつつ,率先して努力してまいります。
また,相互理解促進のための文化の交流や教育問題,宇宙や地球そのものについての科学技術の振興や国際協力についても積極的に取り組んでまいります。
日米関係は,我が国外交の基軸であります。日本の戦後の繁栄は,米国からの善意に満ちた支援なしには実現できなかったと言っても過言ではありません。また米国は,戦後世界の平和を支えるため,多くの犠牲を払ってきました。その米国は今,少なからぬ困難に直面しており,我が国としては,その苦境克服の努力にできる限り協力すべきであります。そして,両国が力を合わせ,世界平和秩序の構築に向けて,地球的な規模の責任を共同で果たしていくこと,私は,それこそが真の両国間のグローバルパートナーシップだと思います。
このような認識に立って,私は,先般,ブッシュ大統領と会談し,その成果を東京宣言や行動計画として発表しました。我が国と米国は,共通の価値観を基盤として,日米安保体制の下,緊密な相互依存関係を発展させてきております。このような堅固な関係の上に立って,世界の平和と繁栄のための協力と,地球環境をはじめ幅広い分野の人類共通課題への共同取組について合意することができました。二国間関係についても,経済問題をはじめ,双方の努力を通じ,友好協力関係を深めていく考えであります。もとより,こうした協力関係を維持,発展させていくためには,両国の相互理解を更に進めることが重要であることは言うまでもありません。
アジア・太平洋地域の平和と繁栄を図るには,この地域の持つ多様性や活力ある経済を十分に活かすことが大切です。我が国は,域内諸国との緊密な協力の下,アセアン拡大外相会議やアジア・太平洋経済協力閣僚会議などの国際協力の場を通じて,経済,政治の両面で積極的な役割を担ってまいります。
我が国が,このような役割を果たすに当たり,留意すべきことは過去の歴史認識の問題であります。アジア・太平洋地域の人々は,過去の一時期,我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されました。私は,ここに改めて深い反省と遺憾の意を表します。我々は,過去の事実を直視し,歴史を正しく伝え,2度とこのような過ちは繰り返さないという戒めの心を更に培って,国際社会の一員としての責務を果たしていかなければなりません。
朝鮮半島では,非核化に向け大きな前進がみられるなど緊張緩和に向かう新たな動きが生じています。我が国の朝鮮半島政策の基本は,日韓友好協力関係の強化にあります。今般の私の韓国訪問では,21世紀に向けた未来志向的な協力関係を具体化していくため,両国国民の深い相互理解と幅広い交流の促進を図り,経済問題も率直な話合いによって協調を旨とする解決を図っていくことで認識が一致しました。北朝鮮とは,関係諸国と密接な連携を取りつつ,朝鮮半島の平和と安定に資する形で,引き続き国交正常化交渉に臨んでまいります。
カンボディアでは,国際社会の共同作業により,和平と復興のための画期的な試みが行われています。我が国としても,インドシナ全体の平和と繁栄への協力を行い,特に,カンボディアの復興については,そのための国際会議を今年我が国で開催したいと考えます。また,今年で国交正常化20周年を迎える中国については,政治,経済両面にわたる改革・開放政策への支援を行うとともに,間断のない対話を通じ,同国の国際社会との一層の協調を促していきたいと考えます。さらに,アセアン,南西アジア,大洋州諸国との一層の関係強化などを進めてまいります。
冷戦後の国際秩序を考える場合,その帰趨に重大な影響を及ぼすのが,旧ソ連邦諸国の動向であります。
我が国としては,これら各国が,内政,外交両面にわたる改革路線を推し進めるとともに,条約その他の国際約束に基づく義務の誠実な遵守,核兵器の一元的かつ厳格な管理,旧ソ連邦の債務の承継などを確保するよう期待します。このような正しい方向に沿った改革努力に対しては,国際社会とも協力して適切な支援を実施してまいります。
我が国は,独立国家共同体の参加各国との新しい関係を発展させていきたいと考えています。特に,我が国の隣国であるロシア連邦との関係については,「法と正義」に立脚して,北方領土問題の解決と平和条約の締結が1日も早く実現し,日露関係が抜本的に改善されることを強く期待します。
欧州諸国は,米国と同様,共通の価値を分かち合う重要な友人であります。本年は,ECにおいて市場統合が完成し,その後の,政治,経済・通貨統合の拡大のための基礎となるべき歴史的な年であります。我が国は,昨年7月,このように欧州の中核としての役割を高めているECと,日・EC共同宣言を発表しました。私は,その趣旨を踏まえ,双方の間の包括的な協力関係を促進していく考えであります。
中東地域では,アラブ・イスラエル間の中東和平問題の解決に向けて新たな展開が見られ始めています。我が国としても,近く開催される地域の諸問題解決に向けた多国間会議などを通じて,湾岸危機後の中東の真の安定のための国際努力に参画し,これを支援してまいります。
「生活大国」への前進
[編集]21世紀には,我が国も本格的な高齢化社会を迎えます。世の中に余力があるうちにできるだけ社会の基盤を強めていくことが,今を生きる我々の責務であると考えます。また,生産者中心の視点から消費者や生活者を重視し,効率優先から公正にも十分配慮した社会への転換を図らなければなりません。
これらの課題に応えるため,私は,内政の最重要課題として,「生活大国への前進」を挙げたいと思います。国民1人1人が豊がさとゆとりを日々の生活の中で実感でき,多様な価値観を実現できる,努力すれば報われる公正な社会,私は,こういう社会を育む国家を「生活大国」と呼び,その実現を目指してまいります。
私の描く生活大国とは,
第1に,住宅や生活関連を中心とする社会資本の整備により,環境保全も図られ,快適で安全な質の高い生活環境を育む社会であります。
第2に,労働時間や通勤時間の短縮により,個人が自己実現を図るため,自由時間,余暇時間を十分活用することのできる社会であります。
第3に,高齢者や障害者が,就業機会の整備などを通じ社会参加が適切に保障され,生きがいを持って安心して暮らせる社会であります。
第4に,女性が,男性とともに社会でも家庭でも自己実現を図ることのできる社会であります。今や女性の社会進出は当然のことでありますが,その能力と経験を活かすことのできる条件を一層整備していく必要があります。
第5に,国土の均衡ある発展が図られ,中央も地方も,ゆとりある生活空間や高度な交通,情報サービスなどを享受できる社会であります。
第6に,創造性,国際性を重んじる教育が普及し,国民が芸術,スポーツに親しみ,豊かな個性や香り高い文化が花開く社会であります。
私は,このように,国民生活の隅々に至るまで,活力と潤いに満ちた社会を建設していきたいと考えます。なお,この生活大国の実現などに向けて,先般,新しい経済5か年計画の策定を経済審議会に諮問いたしました。夏頃をめどに1つの方向を得たいと考えております。
社会資本,生活環境の整備
[編集]国民が快適な暮らしを営むために,下水道,環境衛星,都市公園などの社会資本を計画的に整備することが重要になっております。このため,昨年,「公正投資基本計画」を踏まえて策定した住宅,下水道など8分野の5か年計画では,直接的に国民生活の質の向上に結びつくように十分配慮しました。平成4年度予算においても生活関連分野の社会資本の充実に重点を置いているところであります。
また,きれいな空気と水と緑に囲まれた美しい生活環境づくりや,廃棄物の減量,再生,自然還元などのシステムの確立に取り組み,環境保全型社会の形成に努めてまいります。
土地・住宅問題
[編集]豊かな住宅水準を確保するためにも,社会の公正さを保つためにも,土地神話を打破し,二度と地価高騰を生じさせないことが必要です。監視区域の運用の強化,土地税制の総合的見直し,土地関連融資の総量規制などの対策により,既に東京や大阪などにおいては地価の沈静化のきざしが見えてきておりますが,政府としては,土地基本法の理念を踏まえ,引き続き「総合土地政策推進要綱」に基づき,需給両面にわたる構造的かつ総合的な土地対策を講じてまいります。また,特に,大都市地域における住宅・宅地の供給に努め,良質な住宅ストックや良好な住環境の形成を図ってまいります。
なお,総量規制は今年から解除しましたが,今後とも,金融機関に対して,投機的土地取引などに係る融資は厳に排除するよう指導するとともに,地価高騰のおそれが生じた場合には総量規制を臨機に発動することとしております。
労働時間の短縮,快適な職場づくり
[編集]労働時間の短縮や快適な職場づくりは,ゆとりある勤労者生活の実現のため,是非とも達成しなければならない国民的課題です。労使の自主的努力を一層支援するための仕組みを整備することなどにより,完全週休2日制の普及促進,所定外労働時間の削減などを推進してまいります。なお,国家公務員の完全週休2日制については,平成4年度のできるだけ早い時点での実施が可能となるよう,所要の法律案を今国会に提出することとしています。
健康で心豊かに暮らせる長寿福祉社会の構築
[編集]我が国の人口は今後急速に高齢化に向かい,30年後には国民の4人に1人が高齢者という本格的な高齢化社会となることが予測されます。「すこしのことにも,先達はあらまほしき事なり」と言いますが,高齢者の豊富な人生経験や知識は,我々の社会にとって貴重な資産であります。私は,高齢者の方々がこれを社会で活かしつつ,生き生きと安心してその人生を送ることができるような社会を造りたいと考えます。このため,雇用・就業環境の整備などにより社会参加を促進するとともに,ゆるぎない年金制度を確立し,また,適時に適切な保険・医療・介護が安心して受けられるような社会の実現に向けて真剣に努力してまいります。特に,今後一層困難になると見込まれる看護職員,福祉施設職員,ホームヘルパーなどの確保は重要な課題であり,その勤務条件の改善,養成の強化などに総合的な対策を講じてまいります。
次代を担う子供たちを取り巻く環境も,出生率の低下や女性の社会進出などにより大きな変化が生じております。引き続き,子供たちが健やかに生まれ育つための環境づくりに取り組んでまいります。
本年は,「国連障害者の10年」の最終年に当たります。障害を持つ人々が家庭や地域で安心して暮らすことができるよう,完全参加と平等の理念に沿ってきめ細かな施策を講じてまいります。
また,女性が男性とともに,あらゆる分野で平等に活躍できる社会の実現を目指して,「西暦2000年に向けての新国内行動計画」に基づき,女性の地位向上のための施策を鋭意推進してまいります。
国土の均衡ある発展と地域の活性化
[編集]東京一極集中を是正し,多極分散型の均衡ある国土の発展を図るため,国の行政機関などの移転や首都機能移転問題の検討に加え,都市・産業機能の地方分散を進め,特に,来年度からは,地方の自立的成長を牽引し,地方定住の核となるべき地方拠点都市地域の整備や産業の業務施設の再配置を促進してまいります。また,基幹的な高速交通網の整備など快適な交通体系の構築,生活や地域に密着した高度な情報・通信網の整備,高規格幹線道路をはじめとする道路網の体系的整備などを行い,人,物,情報の流れが全国的に及ぶ,いわば国土のネットワークの形成に努めてまいります。
また,地方の創意工夫に基づく地域づくりを図るため,国から地方への権限委譲を図るとともに,「ふるさと創生」を契機として高まってきた自主的,主体的な動きを更に支援し,住民が誇りと愛着を持ち得る地域づくりを推進します。北海道の総合開発と復帰20周年を迎える沖縄の振興開発に,引き続き積極的に取り組んでまいります。
希望と誇りを持てる農山漁村づくり
[編集]農林水産業は,国民生活に1日も欠かせない食料の安定供給という重要な使命を担っています。また,国土の広範な部分を占め,国民のふるさとの地である農山漁村は,緑豊かな自然と伝統文化に裏付けられた,ゆとりある生活・余暇空間を提供するなどの機能も併せ有しています。
こうした使命,機能を持つ我が国の農業,農村が今,担い手不足,高齢化,国際化などの進行により大きな節目を迎えています。私は,このような事態に対応して,農業を営む方々が,生産活動を活性化し,魅力と誇りを持って農業に従事し農村地域に定住できるよう,その基本的条件を整備することが特に重要であると考えます。このため,経済社会の中長期の展望を踏まえ,食料,農業,農村をめぐる施策について,21世紀という新しい時代にふさわしいものとするよう努めてまいります。また,林業,水産業については,国土・環境保全など緑と水の源泉としての森林の働きを増進させる森林づくり,恵まれた海の幸を活かした水産業の振興などに努めてまいります。
教育,文化・伝統,スポーツ,学術・科学技術の振興
[編集]教育や芸術文化,科学技術は,国家,社会のあらゆる分野の発展基盤です。
学校教育においては,個性や創造性を伸ばし,日本人としての自覚に立って国際社会で活躍し貢献できる,心豊かなたくましい国民を育成する教育に努めます。また,生涯にわたる学習機会を整備するとともに,スポーツや芸術文化の振興を図ってまいります。
さらに,人類全体の知的資産を創出し,国際的責務を果たしていくためにも,独創的,先端的な学術研究や科学技術の推進を図ることが必要です。高等教育機関の教育・研究環境の抜本的な改善や研究開発基盤の整備,研究交流や国際協力の一層の促進などを図るとともに,宇宙,海洋,原子力などの開発利用を推進してまいります。
消費者,一般投資家重視の行政の確立
[編集]市場における公正かつ自由な競争の維持,促進については,今後とも,独占禁止法違反行為に対して厳正に対処するとともに,その運用の透明性を高めてまいります。
証券・金融をめぐる一連の問題については,既に損失補てんの禁止などを内容とする証券取引法の改正,金融機関の内部管理体制の総点検などの対応策を講じました。今後,更に,利用者のため,証券・金融市場における適正な競争を促進するとともに,問題の再発を防止し,市場に対する信頼を回復するため,今国会に必要な改正法案を提出するなど,法制上,行政上の総合的な対策に取り組んでまいる決意であります。
さらに,国民が安全で豊かな消費生活を営むことができるよう,消費者の被害防止・救済のあり方の検討など,総合的な消費者行政を推進してまいります。
なお,行政手続法制の整備に取り組むなど,公正,透明で信頼される行政を目指します。
災害・治安対策
[編集]昨年,我が国は,雲仙岳の噴火,相次ぐ台風の襲来など数多くの災害に見舞われました。尊い生命を失われた方々やそのご遺族に対し,深く哀悼の意を表するとともに,住居を失い,農作物に壊滅的な打撃を受けた方々に,心からお見舞いを申し上げます。
これらの災害による被災者の救済については万全を期するとともに,雲仙岳噴火災害については,これに加え,将来の防災地域づくりと地域の振興・活性化に向けて,現在,必要な調査検討を進めております。私は,今後とも,生活大国にふさわしい災害に負けない国土造りを進めてまいります。
最近の治安情勢は,広域にわたる凶悪犯罪の多発,暴力団の市民への脅威,薬物乱用の深刻化など厳しさを増しています。私は,治安の確保は法治国家の根幹であるとの認識に立って,今後とも安全な国民生活の確保に万全を期してまいります。また,交通事故による死者の数が高水準で推移していることから,交通安全に努めてまいります。
経済・財政運営
[編集]世界の平和秩序の構築に貢献していくためにも,また,生活大国の実現を図っていくためにも,我が国の経済が健全に発展し続けることが不可欠の条件であります。政府としては,今後とも内需を中心とするインフレなき持続可能な成長を図ってまいります。
我が国経済は,住宅投資の減少などにみられるように,このところ拡大テンポが減速しております。したがって,こうした状況が企業家や消費者の心理を大きく冷え込ませないよう,内需を中心に景気に十分配慮した経済運営を行う必要があります。
平成4年度の予算編成においては,税収の鈍化など極めて厳しい財政事情の下,歳出の徹底した見直しに努めるとともに,建設公債の発行額の増加や税制面での所要の措置により財源を確保した上で,予算の重点的,効率的配分を図り,景気にも十分配慮した予算としました。特に公共投資については,生活関連分野を中心に,一般歳出や財政投融資,地方単独事業において思い切った拡充を図っております。これは,公定歩合の引下げなどの施策と併せ,今後の内需を中心とするインフレなき持続可能な成長の確保に十分に資するものと考えております。
我が国の財政は,公債残高が平成4年度末に約174兆円にも達する見込みであり,依然として構造的に厳しい状況にあります。後世代に多大の負担を残すことなく,再び特例公債を発行しないことを基本として,公債残高が累増しないような財政体質の確立に向けて努力を重ね,来たるべき高齢化社会においても経済社会の活力を維持し,また,国際貢献をはじめとする内外の諸要請に適切に対応できるようにしなければなりません。
地方財政についても,その円滑な運営を図ってまいります。
また,行革審の答申などを最大限に尊重し,規制緩和の推進などに努力するとともに,国,地方を通じた行財政改革を引き続き推進してまいります。
最近の物価動向をみますと,その基調は安定した動きを示しております。今後とも,原油価格,為替レート,国内需給などの動向を十分注視しつつ,物価の安定に最善の努力を尽くしてまいります。また,内外価格差の是正・縮小を引き続き図ってまいります。
雇用に関しては,中小企業や地域における人材の確保や定着などのための施策を推進するとともに,障害者雇用対策の充実強化,職業能力開発の積極的促進などを図ってまいります。
中小企業は,我が国経済の活力の源泉であります。厳しい環境の変化に柔軟に対応できる創意と活力に満ちた中小企業の育成を目指し,創造的な事業展開への支援や伝統的工芸品産業の振興など中小企業施策の充実,強化に努めてまいります。
エネルギーについては,環境調和型の需給構造への転換を図り,需要面ではあらゆる部門における抜本的な省エネルギーを推進するとともに,供給面では,石油の安定供給の確保に万全を期する一方,原子力や再生可能なエネルギーなどの開発導入により,石油依存度の低減に努めてまいります。原子力発電については,一層の安全性を確保しつつ,立地を促進し,国民の皆様の信頼感を醸成するよう最大限努力してまいります。
結び
[編集]以上,第123回国会の開会に当たり,内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにいたしました。冒頭に申し上げたとおり,我が国が激動する諸情勢に機敏に対応し,国政が的確に遂行されるためには,政治が国民の信頼に支えられて,その機能を十全に発揮することが必要不可欠であります。
政治改革の実現には,まず何よりも政治倫理の確立を図ることが重要であります。しかし,個々の議員の意識,行動とは別に,国民の政治不信の根底には,制度上解決を要する問題が横たわっていることも事実であり,金のかからない政治活動や政策を中心とした選挙が実現できる仕組みをつくる必要があります。このため,政治資金制度や選挙制度の改革が急務であります。また,投票価値の格差是正の要請にも応えられるよう努力しなければなりません。政治改革協議会における各党間のご議論を早急に深めていただき,実りある合意が得られ,国民の理解を得て改革が実現できることを心から期待するとともに,政府としても最大限の努力を払ってまいります。
私は,このような改革を通じて政治が国民の信頼を回復し,国家国民のため,また世界人類のため,時代の負託に応え,よくその使命を全うできるよう,真剣に努力していきたいと考えます。
重ねて,議員各位,国民の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
出典
[編集]- “1992年版外交青書 I 資料 第123回国会における宮澤内閣総理大臣施政方針演説”. 外務省 (1993年4月). 2019年2月8日閲覧。
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