祈祷惺々集/我等が聖神父階梯著者イオアンの教訓 (3)
我等が聖神父階梯著者イオアンの教訓
- 祈祷の説教及其の注釈
二十八、 ア〕たとひかの士師は神をも畏れずといへども罪と墜落との故に神より離れて
- アフ、 もし
彼 の不義なる士師は福音経に書 せる如く神を畏れざる者なりしかどただ嫠 のしばしば来り願 と涙とをもて彼を煩 したるのみにて終 に彼に義をあらはし彼れを保護して其の敵を罰したるならばまして大なる且多く仁慈なる神、誰をも畏るるなく又いかなる願 をも煩はしとせず矜恤 と恩 賜 とを毎時費 散 するに苦しまざる所の士師は彼 の天上の新郎ハリストスより離れて嫠 となれる霊魂が自己の罪の故に倦 まずして叫 び且哭 し彼れに助けを願ひて其の己をかくの如き苦境に陥れて繋留する所の敵より贖 はんことを願ひつゝ日夜其前に哭泣 するをきかば憐 を垂 れざらんや。彼れに憐を垂れ彼の為に疾 く疾 く報復をなして此の無智なる体に復 び霊魂を誘 はざるべきを命ずべく魔鬼 と其の力とを反拒 して彼等をして再び霊魂に対し疾 く誘 はしめざるべし、而して其の霊魂を安んじ且慰めん。 - ミンヌ 神の為には自ら畏るる所の神あるなく自ら
耻 づる所の人もあるなし。彼れの眼前にこれあるなし而して其の常に義なる裁判は義と仁慈とによりて侮らるる者を保護し侮る者に報いて裁判せんとす。
二十八、 カ〕我等が慈善なる贖者〈贖罪主〉は感謝すべき者を己の愛に誘引して
- イリ、 神は其の感謝すべき僕の願をば準備して遂げしめこれをもて其の神に於けるの愛に更にいよいよ誘引するなり、而して感謝を知らざる者の願は遅々として遂げしむ、これ彼等をして更に長く祈祷せしめんが為めなり、又労して祈祷したる後に願ふ所を
速 にうくるや恩惠の事を忘るることも速 なるはイズライリ人に於て屡々見るが如くなればなり、曰く『イアコフは食ふて飽き而して至愛者は棄てられたり………己れを造りし神を棄てたり』〔復傳律例三十二の十五〕。 - アフ、 我等が至善なる天の
償贖 者 、我等を得んことを百方捜索する所の神は我等が霊魂の救を建設し其の良善にして感謝すべき所の僕には其の神に対するの愛をいよいよ興起せしめんが為め及び仁慈の奇異なるをもて彼等を己れに得んが為めに直ちに其の願ふ所を彼等に與ふるなり。然れども感謝を知らざる霊魂、即ち一朝恩寵をうくるや直ちに賜 の事を忘れ復 た祈祷をつづけずして神より遠ざかるべきものをば神は己れの前に長く祈祷せしむるなり。これ其の願ふ所に飢え且渇して神より離れず其の聖なる旨にとどまらしめんが為めなり、且其の僅 に食をうくるや直ちにこれを與ふる者より離去るの無智なる犬に似るなからしめんが為なり。
二十九、 長く祈祷に
- アフ、 あれ
丈 の時間祈祷に立ちかくの如く長く神に祈願して我れ何もうけざりきといふなかれ。汝はこれによりて祈祷に於 る善き練習を求め得たれば汝の為めに十分なり。けだし離れずして神と共に止まり愛する所の友の如く其の面前に立ちて喜ぶはこれ神 使 の行にして大 なる賜 なればなり。 - ミンヌ もし何か神に祈るあらん時神が
速 に汝にきかずして汝の願 の如くこれを遂げしむるを遷延 すとも悲むことなかれ。けだし汝は神より智ならざればなり。さて汝に此事あるは或は汝が願ふ所をうくるに堪 へざるによる、或は汝の心の企図が願ふ所の事に符合せずしてこれに反対するに依る、或は汝が願ふ所の賜 を容 るるの量に未だ達せざるに依る、けだし汝は高上の量に属する所のものを早計にも願ひ且尋ぬることを決して為すべからざればなり、願くは神の賜は汝がこれを用ふるの蒙昧によりて辱しめられざらんことを。然 のみならず易く得るものは易く失ふなり、これに反して酷 く労して得たるものはあらゆる注意と配慮とによりて守らるるなり。
三十、 定罪せられし者の罰の宣告を〈立つて聞くを〉
- イリ、 祈祷に練習を得たる者は一の畏れの働きにより即ち或る罪を犯したる者が神の前に祈祷に立つを畏るるの畏れによりて毎日毎時機會のあらはれ来る多くの罪より救はるるなり。
- アフ、 定罪せられたる者が其の將にうけんとする己の罰と死との宣告を聴くは熱心にして虔恭なる祈祷者の祈祷に神の前に立たん時を怖るる如くにあらざるべし、故に聡明なる人は此を記憶して其のすべての事を全くの
危懼 と戦慄とにて為し祈祷に神の前に立つ時神はファリセイ人の如くに己を定罪するなからんかと懼 るるなり、而して怒ることも人を議することも煩慮に沈むことも過分なる飽腹もいかなる不潔有罪の思念にて引誘せらるることも百方逃るるに尽力するなり。
三十一、 心中内部の祈祷をもて汝の祈祷に立つに自ら
- イリ、 祈祷に立たんを要するや其より先に己の心を建設して祈祷に向はしむべし、もし常にかくの如く為すあらば祈祷に於て
速 に上進せん。 - アフ、 祈祷に行くに先だち己の内部に於て當然に祈祷するを学ぶべし。又己の心を常に収束操持することを
力 めよ、汝は何 の為す所ありとも神の前にあるを記憶すべし。かくの如くならば汝は祈祷の時に於ても己の心を独一の神に句〔ママ〕はしむるに速 に練習し神の恩寵と天の照明の助けにより汝の労と熱心の量に随 つて祈祷に大 に進歩せん。或る人々が其の己れに課せられたる従順を熱心に行ふと同時に力に及ぶ丈神を記憶するを力 むるを余は見たりき、それが為め彼等は祈祷に立つや直ちに己が制し難き心を克服し収束してこれを己れに操持せり。さてこれと同時に其の心は大なる感動によりて開かれ其の目より涙の流れ出づること川の如くなりき。夫 れ此の賜 は先きに彼等が己の智と心とに固めたる良善熱心なる従順と潔浄なる祈祷心とが彼等の為めに代求したる所のものなり。
三十二、 他の人々と共に詩を唱ふは心の奪はるると飛揚のこれに伴はるるあり、されども独り
- アフ、 他の兄弟と共に詩を唱ふ者に於ては他の比例と他より弱く見られんことを欲せざるとにより興起されて熱心を助長すべし、されども其の
代 りにここには心の奪ひ去られ高慢して彼方 此方 にさまよふことあらん。然れども誰か独り詩を唱ふ時はただ其の憂鬱と規則に退屈することの襲ひ来るを以て誘 はるるあるべくして其者をしてこれを減少せんとか又は独り長く唱ふこと能はざらんとの主旨により或は疾 くこれを終 へしめ或は全くこれを棄てしむることあるべし。
三十三、 兵士の王に対する愛は
三十四、汝の祈祷は汝の性状〈心神の建設〉を汝に表示す、けだし神学者は祈祷を修士の鏡と名づけたり。
- アフ、 汝の祈祷は汝が心状の
如何 を露 はす、けだし我が教會の師のいへるあり修士の鏡は修士の祈祷なり、祈祷は修士の善きか將 た悪しきかを證すと。鏡が面貌の美なる或は醜なるを見せしむるが如く祈祷は修士の神に対する熱心或は不熱心を見せしむるなり。熱心にして虔恭なる者は祈祷の時の至るや直ちに其の業を全く抛 ちて祈祷に趨 ること恰も自己の為めに最 楽しく且最 喜ばしき事に趨 るが如くし全くの時を全くの霊 によりて祈祷するなり、されども熱心ならざる者及び虔恭ならざる者はもし祈祷に出で或は立つあれば大 に労し且好まずして祈祷し心を以てするよりもただ体に於てするなり。
三十五、 祈祷の時間の迫る時何か為しつゝあらんにそのままこれを為しつづくる者は
- アフ、 誰か祈祷の時間の至る時其の工作とすべて其の為す所の事を棄てざること恰も半ば成るになんなんとして偶然の事に出逢ふものの如くして祈祷に
趨 らず止 まりてこれを成して其後祈祷せんとする者は魔鬼 に笑はるること疑 なし、けだし魔鬼の目的は我等を慫慂 して事を便利の時より不便利の時に移し以て我等が生活の秩序をみだしこれと共に心霊をも擾さしめて我等を嘲笑するにあればなり、されば祈祷に関しても其の時間の將に過ぎんとするも我等其時最早 労働に疲るるにより其祈祷は全く廃さるべく或はたとひ祈祷に立つも注意も感覚も感動もなしに定まる所のものを匇々 に読過 せしめ心の擾乱と共に早急粗略にこれを終へしめんとするにあればなり。
三十六、 たとひ汝は祈祷〈有力なる且有効なる祈祷〉を
- アフ、 もし誰か己の霊魂の為に祈祷せんことを汝に願ふある時はたとひ汝は徳行も潔き祈祷も有するなしといへども又これと
併 て自己の不 堪 なることをも見つつありといへども其者の為めに祈祷するを辞するなかれ、何となれば謙遜して己の為に祈祷せんことを願ふ所の其者によりて汝等両人の救は建てらるべければなり、祈祷を願ふ者は己が信仰の為めに救はるべく又汝は其者の為めに祈祷するや中心の悲嘆の為めに救はるるなり。
三十七、 他人の為めに祈祷して聴かるるある時は高ぶるなかれ、何となればこれ他の信仰の応験して力を得たるなればなり。
- アフ、 慎めよ他人の為めに祈祷してきかれたる時は祈祷の
効 をもて己れに帰するなかれ、汝の善なるにより神が汝にきき給へる如くに誇るなかれ、却 て汝に祈祷することを願ひし者の信仰が神の前に代求したりしが為めに汝は自 から當 らざる者といへども神は其の大なる憐憫によりて汝にきき給へりとこれを心に藏 むべし。
三十八、 ア〕すべての児童は其の教師より学びし所を毎日弛みなくすべて解し難き事に於て試みらるるなり、されどもろもろの智識よりは其の神よりうけし力をすべての祈祷に於て現はさんことを促さるるなり。これが為めに注意せんことを要す。
- イリ、 言意はすべて生徒は其の授けられたる課目を学びしことの
如何 につきて毎日其の師に応答を為すなり。かくの如く智識よりは祈祷の為めに神よりうけたる所の力をすべての祈祷に於て促さるるなり。故に注意せんことを要す、願くは當然に祈祷し得る時に我等の祈祷の等閑なるあらざらんことを。 - アフ、 すべての師及び工匠は読書又は芸術を教授する所の児童に其の與ふる所の課目に善く習熟せしや
否 或は其の指定せし所の工事を竣 せしや否 を試み彼等をして後来自ら眞の師となり完全の工匠とならしめんが為めに日々すべて全く進歩せしむるなり。かくの如く我等各人も自から己をすべての徳行に試むべし。特に祈祷に於ては我等がこれにつきていかなる上達あるか又我等これに於て完全に進歩するや否 を試むべし。けだし我等には天の教師ありて我等を善に教へ我等が智識を善を行ふに照明すればなり。而して彼れが我等を試み其の教導の諸事につきて応答を促すの時あるべし。故に其時に面目を失ふものとなるを免れんが為めに我等今日すべての事に於て精密なるや否 を自ら試みもし何 に於てか精密ならざることの発見せらるるある時はこれを改むるに尽力すべきなり。特に祈祷の事は自らこれを心に懸けて當然にこれを行ふに百方尽力しこれに於て神の我等に於ける恩惠と降福とを記念し感謝の心をもて痛悔しもし何 に於てか罪に陥りし時は審判に於て定罪せられて永苦に付さるべきを免れんが為めに涕泣してこれが赦 を願ふべし。
三十八、 カ〕清醒して祈祷する時は直ちにこれに
- アフ、 我等が智と心を
盡 し又我等が全力を挙げて祈祷する時は悪魔は我と戦 を挑 まん、これ出来る丈 速 に我等を忿 怒 に陥 れて我等に何か不當なることをいはしめ又は行はしめてこれにより再びかかる強き誘惑に逢 はんことを懼 れてかかる熱心と虔恭 をもて祈祷し得るの力を失はしめ且其の望みをさへ失ふに至らしめんが為めなり。
三十九、 もろもろの徳行と
- アフ、 すべて善なる
行 と特に祈祷は全霊により又全心によりて行ふべし、彼等をして其名に応ぜしめて神の愛寵を引かんが為なり。怒を制したる霊 は常に全心により祈祷す、されども霊魂が猶 怒 に制せらるる時は其の祈祷は當然に堅固なるにあらずして眞實 の果 を生 ぜざらん。 - イリ、 神に依るの生活に
大 に上達したる者は忿怒より救はるべし近者に対していかなる不快をも心に懐 かざらん。