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独楽吟

提供:Wikisource


  1. たのしみは くさのいほりの むしろき ひとりこころを  静めをるとき
  2. たのしみは すびつのもとに うちたふれ ゆすりこすも 知らで寝し時
  3. たのしみは めづらしきふみ 人にかり 始めひとひら ひろげたる時
  4. たのしみは かみをひろげて とる筆の 思ひのほかに くかけし時
  5. たのしみは 百日ももかひねれど らぬ歌の ふとおもしろく できぬる時
  6. たのしみは 妻子めこむつまじく うちつどひ かしらならべて ものをくふ時
  7. たのしみは 物をかかせて あたひ しみげもなく 人のくれし時
  8. たのしみは 空あたたかに うちれし 春秋はるあきの日に でありく時
  9. たのしみは 朝おきいでて 昨日きのふまで かりし花の 咲ける見る時
  10. たのしみは 心にうかぶ はかなごと 思ひつづけて 煙艸たばこすふとき
  11. たのしみは こころにかなふ 山水やまみづ(さんすい)の あたりしづかに 見てありくとき
  12. たのしみは 尋常よのつねならぬ ふみに うちひろげつつ 見もてゆく時
  13. たのしみは つねに見なれぬ 鳥の来て のき遠からぬ に鳴きしとき
  14. たのしみは あきこめびつに 米いでき 今一月ひとつきは よしといふとき
  15. たのしみは もの識人しりびとに まれにあひて いにしへ今を 語りあふとき
  16. たのしみは 門売かどうりありく 魚買ひて なべを はなぐ時
  17. たのしみは まれに魚て 皆が うましうましと いひてふ時
  18. たのしみは そぞろ読みゆく ふみうちに 我とひとしき 人をみし時
  19. たのしみは 雪ふるよさり 酒のかす あぶりてひて にあたる時
  20. たのしみは ふみよみめる をりしもあれ こゑ知る人の かどたたく時
  21. たのしみは 世にきがたく するふみの こころをひとり さとりし時
  22. たのしみは ぜになくなりて わびをるに 人の来たりて 銭くれし時
  23. たのしみは すみさしすてて おきし火の あかくなりきて 湯のゆる時
  24. たのしみは こころをおかぬ ともどちと 笑ひかたりて はらをよるとき
  25. たのしみは ひるせしまに にはぬらし ふりたる雨を さめてしる時
  26. たのしみは 昼寝ざむる まくらべに ことことと湯の えてある時
  27. たのしみは わかしわかし うづを うちにさし置きて 人とかたる時
  28. たのしみは とぼしきままに 人あつめ酒飲め物を へといふ時
  29. たのしみは 客人まれびと(まらうど)えたる をりしもあれ ひさごに酒の  ありあへる時
  30. たのしみは 家内やうち(やぬち)五人いつたり いつたりが 風だにひかで  ありあへる時
  31. たのしみは はたおりたてて 新しき ころもをひて が着する時
  32. たのしみは 三人みたりの児ども すくすくと 大きくなれる 姿すがたみる時
  33. たのしみは 人もひこず こともなく 心をいれて ふみを見る時
  34. たのしみは 明日あすものくると いふうらを くともし火の 花にみる時
  35. たのしみは たのむをよびて かどあけて 物もてつる 使つかひえし時
  36. たのしみは こ(き)やして 大きなる 饅頭まんぢゅうを一つ  ほほばりしとき
  37. たのしみは つねに好める 焼豆腐やきどうふ うまくたてて はせけるとき
  38. たのしみは 小豆あづきいひの えたるを ちゃけてふ物に  なしてくふ時
  39. たのしみは いやなる人の たりしが 長くもをらで かへりけるとき
  40. たのしみは づらに行きし わらはが すきくはとりて 帰りくる時
  41. たのしみは ふすまかづきて ものがたり いひをるうちに りたるとき
  42. たのしみは わらはすみする かたはらに 筆のはこびを 思ひをる時
  43. たのしみは き筆をえて づ水に ひたしねぶりて こころみるとき
  44. たのしみは にはにうゑたる 春秋はるあきの 花のさかりに あへるときどき
  45. たのしみは ほしかりし物 ぜにぶくろ うちかたぶけて かひえたるとき
  46. たのしみは 神のくにの たみとして 神のをしへを ふかくおもふとき
  47. たのしみは 戎夷えみしよろこぶ 世の中に 皇国みくに忘れぬ 人を見るとき
  48. たのしみは 鈴屋すずのや大人うしの のちに生まれ そのさとしを  うくる思ふ時
  49. たのしみは かずあるふみを からくして うつしへつつ とぢて見るとき
  50. たのしみは でら山里やまざと 日をくらし やどれといはれ やどりけるとき
  51. たのしみは やまのさとに 人ひて われを見しりて あるじするとき
  52. たのしみは ふと見てほしく おもふ物 からくはかりて にいれしとき

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。