流鏑馬次第
【 NDLJP:381】流鏑馬次第
一馬塲たけの事。二町なるべし。馬返す所は。笠懸の馬塲の如し。埓は兩方に有べし。め埓お埓といふ。お埒は高く。め埓は低かるべし。射る時の馬手を。め埓といふ也。
一三の的の寸。一尺八寸。串の長さ。三尺五寸。はさみきは。四寸也。二所をとづる也。紙よりにてとづべし。
一一の的の間。弓杖。四十八杖。但馬の早き。遲きによりて的の間。延縮有べし。又射手の老少によりて。申も延縮め有べし。此等は故實也。
一二の的の間。三十八杖。三の的の間。三十七杖。
一的と。馬走の間。三尺五寸也。
一あけ裝束の次第。上射。 籠手は。ともにかはる也。
一ゆかけをさす。二袴のくゝりをゆふ。
三水干をきる。四行縢をはく。
五太刀をはく。六征矢をおふ。
七右の袖をくゝる。其時鞭を㧞入る也。
八左の袖をかたぬぐ。こてをさして。頓て左の袖をくゝり付べし。
九笠をきる。十沓をはく。
十一馬に乘る。十二弓を持つ。
一供者︀の次第。
馬の左。童。 | 裝束はきぬ水干。葛袴。裙を赤く染てもん有。上をくゝり。刀もさゝず。同はゞきもせぬ也。 |
【 NDLJP:382】馬の右。雜色。 | 裝束は。たうじき着るやうにて。色は別也。はゞきをしてくゝる。ゑぼしかけ赤がは也。 |
其後馬の尻に。弓袋白布也。 さし。よろひかぶとを着て。鞢をさして。こてをばさゝず。はゞきをして。上をくゝるべし。皆
雜色 人 人 人
前 馬 人 人 六人はたうじき也。
童 人 人 人
一
一的たては。武藏の黨の者︀共の役也。
一私に射る時は。的立雜色六人して立る也三所の的に。右の方に立添ふ二人づゝなり
一射手裝束次第。
一番に袴のくゝりをゆふ。次に水干を着る。次に右の袖を卷べし。次に左の袖をはだぬぐ。袴の後ろ腰の下へ入て。又袴の腰をゆふ。次に行縢をはく。次にこてをさす。緖をは。前後の緖に分て結ふべし。次に箙を負ふ。次に笠をきる。次に矢を箙にさす。次に沓をはきて馬にのる。
一其後弓を執て。馬塲へ打よせて。矢を㧞はげて。左にて手綱をとりて。右にて捨鞭の扇をぬきて。笠の端をつくろひて。扨右の手にて手綱を取て。弓を取直し。馬塲末を見歸て。馬をは返すべし。是は式の事也。笠のはをも。繕はず。矢をも
一射る時。若は弓を打入て。矢を落す事もあり。然ば頓て其所にて。矢を㧞てはぐべし。引時落したらば。弓計を廻して。捨鞭の時。矢を㧞まふけてはぐべし。
一矢を出して捌く時。弓と矢を打違ゆるともあり。然を。常よりも早く矢をはげて。少さげて。目の下にて弓の上より。矢を取落して。はげ直すべし。但的の間近くば本こすとも。只其儘にて。弓手の人さし指を添て射べし。同箙の矢もみな落。又は弓の弦など。きるゝ事も有べし。其時は弓の本をそらして。射るやうにて。的にても串にても。
一流鏑馬。可㆑仕由仰出されば。三的を先可㆑射也。扨作物の事。三々九八的たばさみ。こいたれわきほう也。此等は皆作物也。別に日記在㆑之。
一流鏑馬。其外矢つぎに。急ぐ事を騷ぐといへり。
當流の流鏑馬は。矢さす事。右の角へ出して。弓につがふ時は。笠の前にてつがふ也。もし打違てつがひたらば。弓に人さし指を添て。其儘引て射べし。
一轢の緖をば。例式の樣に廻して。手の甲の方に。三所結びて留る也。同作物とも。取とめなど【 NDLJP:383】の時も如㆑斯。鞢を手袋といふは。流鏑馬の時の事也。
一於㆓關東八幡宮㆒。賴朝御代。神︀事射手次第。
二月初卯。 十六騎。 四月四日。 十騎。
五月五日。 十六騎。 六月廿日。 十六騎。
八月十六日。 十六騎。 九月九日。 十六騎。
十月。 十騎。 十一月。 七騎。
此外用意之射手。每度に二騎づゝ有べし。
雖㆓如斯注置㆒。口傳等不㆑可㆓勝計㆒。於㆓流鏑馬㆒者︀。爲㆓作物最初㆒之間。殊以秘㆑之。仍輙不㆑能㆓傳授㆒。然者︀撰㆓器︀用㆒莫㆑作㆓當道之聊爾㆒。先人堅所㆓誠置㆒也。能々可㆑秘㆑之。
永享八年八月廿八日。