法例 (明治23年法律第97号)
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公布文
[編集]朕法例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年十月六日
内閣總理大臣 伯爵山縣有朋 |
本文
[編集]明治二十三年法律第九十七號(官報 十月七日)
法例
第一條 法律ハ公布アリタル日ヨリ滿二十日ノ後ハ之ヲ遵守ス可キモノトス但法律ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第二條 法律ハ既往ニ遡ル效力ヲ有セス
第三條 人ノ身分及ヒ能力ハ其本國法ニ從フ
親屬ノ關係及ヒ其關係ヨリ生スル權利義務ニ付テモ亦同シ
第四條 動產、不動產ハ其所在地ノ法律ニ從フ
然レトモ相續及ヒ遺贈ニ付テハ被相續人及ヒ遺贈者ノ本國法ニ從フ
第五條 外國ニ於テ爲シタル合意ニ付テハ當事者ノ明示又ハ默示ノ意思ニ從ヒテ何レノ國ノ法律ヲ適用ス可キヤヲ定ム
當事者ノ意思分明ナラサル場合ニ於テハ同國人ナルトキハ其本國法ヲ適用シ又同國人ニ非サルトキハ事實上合意ニ最大ノ關係ヲ有スル地ノ法律ヲ適用ス
第六條 外國人カ日本ニ於テ日本人ト合意ヲ爲ストキハ外國人ノ能力ニ付テハ其本國法ト日本法トノ中ニテ合意ノ成立ニ最モ有益ナル法律ヲ適用ス
第七條 不當ノ利得、不正ノ損害及ヒ法律上ノ管理ハ其原因ノ生シタル地ノ法律ニ從フ
第八條 本國法ヲ適用ス可キ諸般ノ場合ニ於テ何レノ國民分限ヲモ有セサル者又ハ地方ニ依リ法律ヲ異ニスル國ノ人民ハ其住所ノ法律ニ從フ若シ住所知レサルトキハ其居所ノ法律ニ従フ
日本人ト外國人トノ分限ヲ有スル者ハ日本法律ニ從ヒ又二箇以上ノ外國國民分限ヲ有スル者ハ最後ニ之ヲ取得シタル國ノ法律ニ從フ
第九條 公正證書及ヒ私署證書ノ方式ハ之ヲ作ル國ノ法律ニ從フ但一人又ハ同國人ナル數人ノ作ル私署證書ニ付テハ其本國法ニ從フコトヲ得
第十條 要式ノ合意又ハ行爲ト雖モ之ヲ爲ス國ノ方式ニ從フトキハ方式上有效トス但故意ヲ以テ日本法律ヲ脫シタルトキハ此限ニ在ラス
第十一條 外國ニ於テ其國ノ方式ニ依リテ作リタル證書ハ不動產物件ヲ移轉スル行爲ニ係ルトキハ其不動產所在地ノ地方裁判所長又他ノ行爲ニ係ルトキハ當事者ノ住所又ハ居所ノ地方裁判所長其證書ノ適法ナルコトヲ檢認シタル上ニ非サレハ日本ニ於テ其效用ヲ致サシムルコトヲ得ス
第十二條 第三者ノ利益ノ爲メニ設定スル公示ノ方式ハ不動產ニ係ルトキハ其所在地ノ法律、他ノ場合ニ於テハ其原因ノ生シタル國ノ法律ニ從フ
第十三條 訴訟手續ハ其訴訟ヲ爲ス國ノ法律ニ從フ
裁判及ヒ合意ノ執行方法ハ其執行ヲ爲ス國ノ法律ニ從フ
第十四條 刑罰法其他公法ノ事項ニ關シ及ヒ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ關スルトキハ行爲ノ地、當事者ノ國民分限及ヒ財產ノ性質ノ如何ヲ問ハス日本法律ヲ適用ス
第十五條 公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ關スル法律ニ牴觸シ又ハ其適用ヲ免カレントスル合意又ハ行爲ハ不成立トス
第十六條 身分又ハ能力ヲ規定スル法律ヲ免カルル合意又ハ行爲ハ無效トス
第十七條 判事ハ法律ニ不明、不備又ハ欠缺アルヲ口實トシテ裁判ヲ爲スヲ拒絕スルコトヲ得ス
本文(現代かなづかい版)
[編集]明治23年法律第97号(官報 10月7日)
法例
第1条 法律は公布ありたる日より満20日の後はこれを遵守すべきものとす。ただし、法律に特別の規定あるものはこの限りにあらず。
第2条 法律は既往に遡る効力を有せず。
第3条 人の身分及び能力は、その本国法に従う。
親属の関係及びその関係より生ずる権利義務についてもまた同じ。
第4条 動産、不動産はその所在地の法律に従う。
然れども相続及び遺贈に付いては、被相続人及び遺贈者の本国法に従う。
第5条 外国においてなしたる合意については当事者の明示または黙示の意思に従い、いずれの国の法律を適用すべきやを定む。
当事者の意思分明ならざる場合においては同国人なるときはその本国法を適用し、また、同国人にあらざるときは事実上合意に最大の関係を有する地の法律を適用す。
第6条 外国人が日本において日本人と合意をなすときは、外国人の能力についてはその本国法と日本法との中にて合意の成立に最も有益なる法律を適用す。
第7条 不当の利得、不正の損害及び法律上の管理はその原因の生じたる地の法律に従う。
第8条 本国法を適用すべき諸般の場合において、いずれの国民分限をも有せざる者または地方により法律を異にする国の人民は、その住所の法律に従う。もし住所知れざる時は、その居所の法律に従う。
日本人と外国人との分限を有する者は日本法律に従い、また、2個以上の外国国民分限を有する者は、最後にこれを取得したる国の法律に従う。
第9条 公正証書及び私署証書の方式はこれを作る国の法律に従う。ただし、1人または同国人なる数人の作る私署証書についてはその本国法に従うことを得。
第10条 要式の合意または行為といえども、これをなす国の方式に従うときは方式上有効とす。ただし、故意をもって日本法律を脱したるときはこの限りにあらず。
第11条 外国においてその国の方式によりて作りたる証書は、不動産物件を移転する行為に係るときはその不動産所在地の地方裁判所長、また、他の行為に係るときは当事者の住所または居所の地方裁判所長その証書の適法なることを検認したる上にあらざれば、日本においてその効用を致さしむることを得ず。
第12条 第三者の利益のために設定する公示の方式は不動産に係るときはその所在地の法律、他の場合においてはその原因の生じたる国の法律に従う。
第13条 訴訟手続はその訴訟をなす国の法律に従う。
裁判及び合意の執行方法はその執行をなす国の法律に従う。
第14条 刑罰法その他公法の事項に関し及び公の秩序または善良の風俗に関するときは、行為の地、当事者の国民分限及び財産の性質の如何を問わず、日本法律を適用す。
第15条 公の秩序または善良の風俗に関する法律に抵触し、またはその適用を免かれんとする合意または行為は不成立とす。
第16条 身分または能力を規定する法律を免かるる合意または行為は無効とす。
第17条 判事は法律に不明、不備または欠缺あるを口実として裁判をなすを拒絶することを得ず。