コンテンツにスキップ

水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法

提供:Wikisource

前文

[編集]
 水俣湾及び水俣川並びに阿賀野川に排出されたメチル水銀により発生した水俣病は、八代海の沿岸地域及び阿賀野川の下流地域において、甚大な健康被害と環境汚染をもたらすとともに、長年にわたり地域社会に深刻な影響を及ぼし続けた。水俣病が、今日においても未有の公害とされ、我が国における公害問題の原点とされるゆえんである。
 水俣病の被害に関しては、公害健康被害の補償等に関する法律の認定を受けた方々に対し補償が行われてきたが、水俣病の被害者が多大な苦痛を強いられるとともに、水俣病の被害についての無理解が生まれ、平穏な地域社会に不幸な裂がもたらされた。
 平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決において、国及び熊本県が長期間にわたって適切な対応をなすことができず、水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて責任を認められたところであり、政府としてその責任を認め、おわびをしなければならない。
 これまで水俣病問題については、平成七年の政治解決等により紛争の解決が図られてきたところであるが、平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決を機に、新たに水俣病問題をめぐって多くの方々が救済を求めており、その解決には、長期間を要することが見込まれている。
 こうした事態をこのまま看過することはできず、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々を水俣病被害者として受け止め、その救済を図ることとする。これにより、地域における紛争を終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する。

第一章 総則

[編集]

(目的)

第一条
この法律は、水俣病被害者を救済し、及び水俣病問題の最終解決をすることとし、救済措置の方針及び水俣病問題の解決に向けて行うべき取組を明らかにするとともに、これらに必要な補償の確保等のための事業者の経営形態の見直しに係る措置等を定めることを目的とする。

(定義)

第二条
  1. この法律において「関係事業者」とは、水俣病が生ずる原因となったメチル水銀を排出した事業者をいう。
  2. この法律において「関係県」とは、公害健康被害の補償等に関する法律(昭和四十八年法律第百十一号。以下「補償法」という。)第二条第二項の規定により定められた第二種地域のうち水俣病に係る地域(当該地域に係る第二種地域の指定が解除された場合を含む。以下「指定地域」という。)の属する県をいう。
  3. この法律において「継続補償受給者」とは、旧公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)第三条第一項の認定を受けた者、補償法第四条第二項の認定を受けた者その他の関係事業者が排出したメチル水銀により健康被害を生じていると認められた者であって関係事業者との間で当該健康被害に係る継続的な補償のための給付(以下「補償給付」という。)を受けることをその内容に含む協定その他の契約を締結しているものをいう。
  4. この法律において「個別補償協定」とは、関係事業者が継続補償受給者との間で締結している協定その他の契約(当該継続補償受給者及びその親族に対する補償給付に関する条項に限る。)をいう。
  5. この法律において「公的支援」とは、関係事業者に対し、水俣病に係る健康被害を受けた者に対する補償金及び公害防止事業費事業者負担法(昭和四十五年法律第百三十三号)に基づく負担金の原資等として、地方公共団体又は環境省令で定める団体が行う融資をいう。

(救済及び解決の原則)

第三条
この法律による救済及び水俣病問題の解決は、継続補償受給者等に対する補償が確実に行われること、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること及び関係事業者が救済に係る費用の負担について責任を果たすとともに地域経済に貢献することを確保することを旨として行われなければならない。

(国等の責務)

第四条
国、関係地方公共団体、関係事業者及び地域住民は、前条の趣旨にのっとり、それぞれの立場で、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済され、水俣病問題の解決が図られるように努めなければならない。

第二章 救済措置の方針等

[編集]

(救済措置の方針)

第五条
  1. 政府は、関係県の意見を聴いて、過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、かつ、四肢末しよう優位の感覚障害を有する者及び全身性の感覚障害を有する者その他の四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者を早期に救済するため、一時金、療養費及び療養手当の支給(以下「救済措置」という。)に関する方針を定め、公表するものとする。
  2. 前項の方針には、次に掲げる事項を定めるものとする。
    一 既に水俣病に係る補償又は救済を受けた者及び補償法第四条第二項の認定の申請、訴訟の提起その他の救済措置以外の手段により水俣病に係る損害のてん補等を受けることを希望している者を救済措置の対象としない旨
    二 四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者かどうかについて、口の周囲の触覚若しくは痛覚の感覚障害、舌の二点識別覚の障害又は求心性視野狭さくの所見を考慮するための取扱いに関する事項
    三 費用の負担その他の必要な措置に関する事項
  3. 第一項の方針のうち一時金の支給に関する部分については、関係事業者の同意を得るものとする。
  4. 政府は、関係事業者に対し、第一項の方針に基づき一時金を支給することを要請するものとする。
  5. 関係事業者は、前項の要請があった場合には、一時金を支給するものとする。
  6. 関係事業者は、前項の支給に関する事務を第十七条第二項の指定支給法人に委託することができる。
  7. 関係県は、第一項の方針に基づき療養費及び療養手当を支給するものとする。
  8. 政府は、関係県が前項の支給を行うときは、予算の範囲内で、当該関係県に対し必要な支援を行うものとする。

(水俣病被害者手帳)

第六条
  1. 政府は、前条第一項の方針において、同項及び同条第二項に定めるもののほか、関係県が水俣病にも見られる神経症状に係る医療を確保するためこの法律の施行の際に現にその医療に係る措置を要するとされている者に対して交付する水俣病被害者手帳に関する事項を定めるものとする。
  2. 関係県は、前条第一項の方針に基づき水俣病被害者手帳の交付をした者に対して、療養費を支給するものとする。
  3. 政府は、関係県が前項の支給を行うときは、予算の範囲内で、当該関係県に対し必要な支援を行うものとする。

第三章 水俣病問題の解決に向けた取組

[編集]

第七条

  1. 政府、関係県(補償法第四条第三項の政令で定める市を含む。第三項において同じ。)及び関係事業者は、相互に連携を図りながら、水俣病問題の解決に向けて次に掲げる事項に早期に取り組まなければならない。
    一 救済措置を実施すること。
    二 水俣病に係る補償法第四条第二項の認定等の申請に対する処分を促進すること。
    三 水俣病に係る紛争を解決すること。
    四 補償法に基づく水俣病に係る新規認定等を終了すること。
  2. 政府、関係県及び関係事業者は、早期にあたう限りの救済を果たす見地から、相互に連携して、救済措置の開始後三年以内を目途に救済措置の対象者を確定し、速やかに支給を行うよう努めなければならない。
  3. 政府及び関係県は、救済措置及び水俣病問題の解決に向けた取組の周知に努めるものとする。

第四章 公的支援を受けている関係事業者の経営形態の見直し

[編集]

(指定)

第八条
環境大臣は、関係事業者から申請があった場合において、次の各号のいずれにも該当すると認めるときは、当該関係事業者を、この章の規定等の適用を受ける者として指定することができる。
一 当該関係事業者が公的支援を受けていること。
二 当該関係事業者がその財産をもって債務を完済することができないこと。
三 当該関係事業者が第五条第五項の一時金の確実な支給を行うために必要があると認められること。
四 水俣病に係る補償を将来にわたり確保するために必要があると認められること。

(事業再編計画)

第九条
  1. 前条の規定による指定を受けた者(以下「特定事業者」という。)は、次に掲げる事項を記載した事業の再編に関する計画(以下「事業再編計画」という。)を作成し、環境大臣の認可を申請しなければならない。
    一 株式会社を設立すること及び当該株式会社が設立に際して発行する株式の総数を特定事業者が引き受けること。
    二 特定事業者が、個別補償協定に係る債務、水俣病に係る損害賠償債務及び公的支援に係る借入金債務その他環境大臣が指定する債務に係るものを除き、その事業を前号の株式会社(以下「事業会社」という。)に譲渡すること(以下「事業譲渡」という。)。
    三 特定事業者が、事業譲渡の対価として事業会社が新たに発行する株式を き受けること。
    四 事業再編計画の実施及び事業譲渡の時期に関する事項
    五 前各号に掲げる事項以外の事項であって、特定事業者の事業の再編に必要な事項
    六 事業会社の事業計画
    七 事業譲渡の時における特定事業者が総数を保有する事業会社の株式の評価額
    八 第二号に規定する個別補償協定に係る債務、水俣病に係る損害賠償債務及び公的支援に係る借入金債務その他環境大臣が指定する債務の支払に関する特定事業者の資金計画
  2. 環境大臣は、前項の認可の申請があった場合において、当該申請に係る特定事業者が第五条第一項の方針に基づく一時金の支給に同意しており、かつ、当該申請に係る事業再編計画が次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、前項の認可をするものとする。
    一 個別補償協定の将来にわたる履行及び公的支援に係る借入金債務の返済に、救済措置の開始の時点及び救済措置の対象者の確定の時点において支障が生じないと認められること。
    二 事業会社の事業計画が特定事業者の事業所が所在する地域における事業の継続等により当該地域の経済の振興及び雇用の確保に資するものであること。
    三 特定事業者が事業再編計画に基づいて行う事業会社の設立及び事業会社への事業譲渡その他の行為によって特定事業者の債権者に対する債務の履行に要する原資が減少しないものであること。
    四 その内容が債権者の一般の利益に反するものではないこと。
  3. 環境大臣は、第一項の認可をしたときは、遅滞なく、その旨を官報に公告するものとする。

(事業譲渡等に関する特例)

第十条
  1. 株式会社である特定事業者(以下「特定会社」という。)がその財産をもって債務を完済することができないときは、当該特定会社は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第四百四十七条第一項並びに第四百六十七条第一項第一号及び第二号の規定にかかわらず、裁判所の許可を得て、次に掲げる事項であって、前条第一項の認可を受けた事業再編計画(以下「認可事業再編計画」という。)に記載されたものを行うことができる。
    一 事業譲渡
    二 資本金の額の減少
  2. 前項の許可(以下「代替許可」という。)があったときは、当該代替許可に係る事項について株主総会の決議があったものとみなす。
  3. 代替許可に係る事件は、当該特定会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
  4. 裁判所は、代替許可の決定をしたときは、その決定書を特定会社に送達するとともに、その決定の要旨を公告しなければならない。
  5. 前項の規定によってする公告は、官報に掲載してする。
  6. 代替許可の決定は、第四項の規定による特定会社に対する送達がされた時から、効力を生ずる。
  7. 代替許可の決定に対しては、株主は第四項の公告のあった日から一週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
  8. 第三項から前項までに規定するもののほか、代替許可に係る事件に関しては、非訟事件手続法(明治三十一年法律第十四号)第一編第二条から第四条まで、第十五条第十六条第十八条第一項及び第二項並びに第二十条を除く。)の規定を準用する。

(代替許可に係る登記の特例)

第十一条
前条第一項第二号に掲げる事項に係る代替許可があった場合においては、当該事項に係る登記の申請書には、当該代替許可の決定書の謄本又は抄本を添付しなければならない。

(事業会社の株式の譲渡)

第十二条
  1. 特定事業者は、事業会社の株式の全部又は一部を譲渡しようとするときは、あらかじめ、環境大臣の承認を得なければならない。
  2. 環境大臣は、前項の承認をしようとするときは、あらかじめ、総務大臣及び財務大臣に協議するとともに、第十七条第二項の指定支給法人にその旨を通知しなければならない。
  3. 環境大臣は、第十九条第一項の補償賦課金の確保及び公的支援に係る借入金債務の返済の確保その他債権者の保護に関する政府の方針に従って、次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、第一項の株式の譲渡に係る承認をすることができる。
    一 第十九条第一項の補償賦課金を株式の譲渡により確保できること。
    二 公的支援に係る借入金債務の返済に支障が生じないと見込まれること。
    三 第一項の株式の譲渡の後に債権者の一般の利益が害されることがないこと。
  4. 環境大臣は、第一項の承認をしたときは、遅滞なく、その旨を官報に公告するものとする。

(事業会社の株式の譲渡の暫時凍結)

第十三条
事業会社の株式の譲渡は、救済の終了及び市況の好転まで、暫時凍結する。

(詐害行為取消権及び否認権の適用除外)

第十四条
特定事業者が認可事業再編計画に基づいて行う事業会社の設立及び事業会社への事業譲渡その他の行為については、民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二十四条破産法(平成十六年法律第七十五号)第百六十条及び第百六十一条民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第百二十七条及び第百二十七条の二並びに会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)第八十六条及び第八十六条の二の規定は適用しない。

(報告及び検査)

第十五条
  1. 環境大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、特定事業者に対し、その業務若しくは財産の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、特定事業者の事務所その他その業務を行う場所に立ち入り、業務若しくは財産の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
  2. 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
  3. 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(特定事業者に係る命令)

第十六条
  1. 環境大臣は、特定事業者の業務又は財産の状況に関し改善が必要であると認めるときは、特定事業者に対し、その改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
  2. 環境大臣は、特定事業者の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者又はこれらに準ずる者をいう。以下この項において同じ。)がこの法律又はこの法律に基づく環境大臣の処分に違反したときは、当該特定事業者に対し、当該役員の解任を命ずることができる。

第五章 定支給法人

[編集]

(指定)

第十七条
  1. 環境大臣は、一般財団法人であって、次条第一項に規定する業務(以下「支給業務」という。)を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、その申請により、支給業務を行う者として指定することができる。
  2. 環境大臣は、前項の規定による指定をしたときは、当該指定を受けた者(以下「指定支給法人」という。)の名称及び住所並びに事務所の所在地を官報で公示しなければならない。
  3. 指定支給法人は、その名称及び住所並びに事務所の所在地を変更しようとするときは、あらかじめ、その旨を環境大臣に届け出なければならない。
  4. 環境大臣は、前項の規定による届出があったときは、当該届出に係る事項を官報で公示しなければならない。

(業務)

第十八条
  1. 指定支給法人は、次に掲げる業務を行うものとする。
    一 第五条第六項の規定により関係事業者から委託を受け、同条第五項の一時金を支給すること。
    二 継続補償受給者(第十二条第一項の株式の譲渡の開始の時までに継続補償受給者となった者(その親族を含む。)に限る。以下同じ。)に対し個別補償協定に定められた補償給付の支給に相当する支給を行うこと。
    三 前二号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。
  2. 指定支給法人は、次条第四項の規定により特定事業者から補償賦課金の納付があった時から、前項第二号に掲げる業務(以下「個別補償支給業務」という。)を開始するものとする。

(個別補償支給業務に要する経費の確保)

第十九条
  1. 第十二条第一項の規定により特定事業者が事業会社の株式を譲渡した場合には、指定支給法人は、将来にわたる個別補償支給業務の実施に必要な経費に充てるため、特定事業者から補償賦課金を遅滞なく徴収しなければならない。
  2. 指定支給法人は、第十二条第二項の通知を受けた場合には、前項の補償賦課金の額及び徴収方法について、環境大臣の認可を受けなければならない。
  3. 指定支給法人は、前項の認可を受けたときは、特定事業者に対し、その認可を受けた事項を記載した書面を添付して、補償賦課金の額、納付期限及び納付方法を通知しなければならない。
  4. 特定事業者は、第十二条第一項の事業会社の株式の譲渡によって得られた収入(以下「事業会社株式に係る譲渡収入」という。)から、前項の通知に従い、指定支給法人に対し、遅滞なく補償賦課金を納付しなければならない。
  5. 指定支給法人が継続補償受給者に前条第一項第二号の支給を行った場合には、特定事業者は、その価額の限度で、当該継続補償受給者に対し、補償給付を支給する義務を免れる。
  6. 指定支給法人は、第四項の規定により特定事業者から納付された補償賦課金を個別補償支給業務に充てるため、次条の補償基金に積み立てなければならない。

(補償基金)

第二十条
指定支給法人は、個別補償支給業務に関する基金(以下「補償基金」という。)を設け、前条第四項の規定により特定事業者が補償賦課金として納付した金額をもってこれに充てるものとする。

(事業計画等)

第二十一条
  1. 指定支給法人は、毎事業年度、環境省令で定めるところにより、支給業務に関し事業計画書及び収支予算書を作成し、環境大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
  2. 指定支給法人は、環境省令で定めるところにより、毎事業年度終了後、支給業務に関し事業報告書及び収支決算書を作成し、環境大臣に提出しなければならない。

(区分経理)

第二十二条
指定支給法人は、補償基金に係る経理については、その他の経理と区分し、特別の勘定を設けて整理しなければならない。

(秘密保持義務)

第二十三条
指定支給法人の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者は、支給業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

(帳簿)

第二十四条
指定支給法人は、環境省令で定めるところにより、帳簿を備え、支給業務に関し環境省令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。

(解任命令)

第二十五条
環境大臣は、指定支給法人の役員が、この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくは処分に違反したとき、又は支給業務に関し著しく不適当な行為をしたときは、指定支給法人に対して、その役員を解任すべきことを命ずることができる。

(監督命令)

第二十六条
環境大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、指定支給法人に対し、支給業務に関し監督上必要な命令をすることができる。

(報告及び検査)

第二十七条
  1. 環境大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、指定支給法人に対し、支給業務若しくは財産の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、指定支給法人の事務所に立ち入り、支給業務若しくは財産の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
  2. 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
  3. 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(業務の休廃止)

第二十八条
  1. 指定支給法人は、環境大臣の許可を受けなければ、支給業務の全部又は一部を休止し、又は廃止してはならない。
  2. 環境大臣が前項の規定により支給業務の全部の廃止を許可したときは、当該指定支給法人に係る指定は、その効力を失う。
  3. 環境大臣は、第一項の許可をしたときは、その旨を公示しなければならない。

(指定の取消し等)

第二十九条
  1. 環境大臣は、指定支給法人が次の各号のいずれかに該当するときは、第十七条第一項の指定を取り消すことができる。
    一 支給業務を適正かつ確実に実施することができないと認められるとき。
    二 この法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に違反したとき。
    三 不正の手段により第十七条第一項の指定を受けたとき。
  2. 環境大臣は、前項の規定により指定を取り消したときは、その旨を公示しなければならない。
  3. 第一項の規定により指定を取り消した場合において、環境大臣がその取消し後に新たに指定支給法人を指定したときは、取消しに係る指定支給法人の支給業務に係る財産は、新たに指定を受けた指定支給法人に帰属する。
  4. 前項に定めるもののほか、第一項の規定により指定を取り消した場合における支給業務に係る財産の管理その他所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、合理的に必要と判断される範囲内において、政令で定める。

第六章 雑則

[編集]

(法人税に係る課税の特例)

第三十条
  1. 特定事業者が認可事業再編計画に基づいて事業会社への事業譲渡を行ったときは、当該事業譲渡の日の属する事業年度又は連結事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額及び各連結事業年度において生じた個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該特定事業者に帰せられる金額を加算した金額)で政令で定める金額のうち、当該事業譲渡の時における当該事業会社の株式の価額として政令で定める金額から当該事業譲渡に係る純資産価額(当該事業譲渡に係る資産の帳簿価額から当該事業譲渡に係る負債の帳簿価額を控除した金額をいう。)を控除した金額に達するまでの金額は、当該事業譲渡の日の属する事業年度又は連結事業年度の所得の金額又は連結所得の金額の計算上、損金の額に算入する。この場合において、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第六十一条の十三及び第八十一条の十の規定は、適用しない。
  2. 前項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
    一 事業年度 法人税法第十三条及び第十四条に規定する事業年度をいう。
    二 連結事業年度 法人税法第十五条の二に規定する連結事業年度をいう。
    三 欠損金額 法人税法第二条第十九号に規定する欠損金額をいう。
    四 連結欠損金額 法人税法第二条第十九号の二に規定する連結欠損金額をいう。
    五 個別欠損金額 法人税法第八十一条の十八第一項に規定する個別欠損金額をいう。
    六 連結所得 法人税法第二条第十八号の四に規定する連結所得をいう。
  3. 特定事業者が第十九条第四項の規定により指定支給法人に補償賦課金を納付した場合における当該補償賦課金に係る租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第六十六条の十一及び第六十八条の九十五の規定の適用については、同法第六十六条の十一第一項中「長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるもの」とあるのは「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(平成二十一年法律第八十一号)第二十条に規定する補償基金に係る同法第十九条第四項の補償賦課金」と、同法第六十八条の九十五第一項中「長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で第六十六条の十一第一項各号に掲げるもの」とあるのは「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法第二十条に規定する補償基金に係る同法第十九条第四項の補償賦課金」とする。
  4. 第二項に定めるもののほか、第一項の規定の適用がある場合における法人税法その他法人税に関する法令の規定に関する技術的読替えその他同項又は前項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

(登録免許税に係る課税の特例)

第三十一条
  1. 特定事業者が、認可事業再編計画に基づき事業会社を設立する場合には、当該事業会社の設立の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令・環境省令で定めるところにより登記を受けるものに限り、登録免許税法(昭和四十二年法律第三十五号)第九条の規定にかかわらず、千分の一とする。
  2. 前項の事業会社が、認可事業再編計画に基づき事業譲渡の対価として新たに株式を発行する場合には、当該株式の発行による当該事業会社の資本金の額の増加の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令・環境省令で定めるところにより登記を受けるものに限り、登録免許税法第九条の規定にかかわらず、千分の一とする。
  3. 第一項の事業会社が、認可事業再編計画に基づいて行われる事業譲渡により特定事業者から不動産の所有権を取得した場合には、当該不動産の所有権の移転の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令・環境省令で定めるところにより当該取得後一年以内に登記を受けるものに限り、登録免許税法第九条の規定にかかわらず、千分の一・五とする。

(不動産取得税に係る課税の特例)

第三十二条
事業会社が認可事業再編計画に基づいて行われる事業譲渡により特定事業者から不動産を取得した場合における当該不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。

(救済措置の実施等に必要な支援)

第三十三条
  1. 特定事業者が第五条第五項の一時金の支給を円滑に行うことができるよう、政府及び関係県は、予算の範囲内において、特定事業者に対する支援について、所要の措置を講ずるものとする。
  2. 環境大臣は、関係金融機関等に対して、特定事業者に対する支援の継続を要請するものとする。

(公的支援に係る借入金債務の返済等の方針)

第三十四条
特定事業者は、事業会社株式に係る譲渡収入から第十九条第四項の規定により指定支給法人に納付した金額を控除した残額(当該残額の運用によって得られた収益を含む。)については、まず水俣病に係る損害賠償債務及び公的支援に係る借入金債務に充当し、次に環境大臣が指定する債務及び認可事業再編計画の遂行に必要な費用に充当することができる。

(地域の振興等)

第三十五条
政府及び関係地方公共団体は、必要に応じ、特定事業者の事業所が所在する地域において事業会社が事業を継続すること等により地域の振興及び雇用の確保が図られるよう努めるものとする。

(健康増進事業の実施等)

第三十六条
  1. 政府及び関係者は、指定地域及びその周辺の地域において、地域住民の健康の増進及び健康上の不安の解消を図るための事業、地域社会のきずなの修復を図るための事業等に取り組むよう努めるものとする。
  2. 政府及び関係者は、関係事業者が排出したメチル水銀による環境汚染を将来にわたって防止するため、水質の汚濁の状況の監視の実施その他必要な措置を講ずるものとする。

(調査研究)

第三十七条
  1. 政府は、指定地域及びその周辺の地域に居住していた者(水俣病が多発していた時期に胎児であった者を含む。以下「指定地域等居住者」という。)の健康に係る調査研究その他メチル水銀が人の健康に与える影響及びこれによる症状の高度な治療に関する調査研究を積極的かつ速やかに行い、その結果を公表するものとする。
  2. 前項の公表に当たっては、指定地域等居住者又はその家族の秘密又は私生活若しくは業務の平穏が害されることがないよう適切な配慮がされなければならない。
  3. 政府は、第一項の調査研究の実施のため、メチル水銀が人の健康に与える影響を把握するための調査、効果的な疫学調査、水俣病問題に関する社会学的調査等の手法の開発を図るものとする。
  4. 関係地方公共団体は、第一項の調査研究に協力するものとする。

第七章 罰則

[編集]

第三十八条

第十五条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

第三十九条

第二十三条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第四十条

次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第二十四条の規定に違反して、帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかった者
二 第二十七条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
三 第二十八条第一項の規定による許可を受けないで支給業務の全部を廃止した者

第四十一条

法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第三十八条又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

第四十二条

第十六条第一項の規定による命令に違反した者は、百万円以下の過料に処する。

附則

[編集]

附則 抄

(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から施行する。



この著作物は、日本国著作権法10条2項又は13条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同法10条2項及び13条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 憲法その他の法令
  2. 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
  3. 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
  4. 上記いずれかのものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの
  5. 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道

この著作物は、米国政府、又は他国の法律、命令、布告、又は勅令等(Edict of governmentも参照)であるため、ウィキメディアサーバの所在地である米国においてパブリックドメインの状態にあります。“Compendium of U.S. Copyright Office Practices”、第3版、2014年の第313.6(C)(2)条をご覧ください。このような文書には、“制定法、裁判の判決、行政の決定、国家の命令、又は類似する形式の政府の法令資料”が含まれます。