春秋左氏傳/002 桓公/18

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訓読文

【經】　十有《いう》八年、春王の正月、公、齊侯《せいこう》に濼《らく》に會《くわい》す。公、夫人《ふじん》姜氏《きやうし》と遂《つひ》に齊に如《ゆ》く。夏四月丙子《へいし》、公、齊に薨《こう》ず。丁酉《ていいう》、公の喪《も》、齊より至《いた》る。秋七月。冬、十有二月己丑《きちう》、我《わ》が君《きみ》桓公《くわんこう》を葬《はうむ》る。

【傳】　十八年（周ノ莊王三年）春、公、將に行《ゆ》くことあらんとし、遂に姜氏と齊に如く。申繻《しんじゆ》曰く、『女《じよ》に家《いへ》あり、男《だん》に室《しつ》あり^[1]て、相瀆《あひけが》すこと無《な》きを、之を禮《れい》ありと謂《い》ふ。此《これ》を易《か》へば必ず敗《やぶ》れん』と。公、齊侯に濼^[2]に會し、遂に文姜《ぶんきやう》と齊に如く^[3]。齊侯通《つう》ず。公、之^[4]を謫《せ》む。以て（齊侯ニ）告《つ》ぐ。夏四月丙子《へいし》、公を享《きやう》し、公子彭生《こうしはうせい》^[5]をして公を乘《の》せしむ。公、車中《しやちう》に薨ず^[6]。魯人、齊に告げて曰く、『寡君《くわくん》、君の威《ゐ》を畏《おそ》れて、敢《あへ》て寧居《ねいきよ》せず、來りて舊好《きうかう》を脩《をさ》む。禮成《な》りて反《かへ》らず。咎《とが》を歸《き》する所無《な》く、諸侯に惡《あ》し^[7]。請《こ》ふ彭生を以て之を除《のぞ》かん^[8]』と。齊人、彭生を殺す。
　秋、齊侯、首止《しゆし》^[9]に師《し》す。子亹《しび》、之に會す。高渠彌《かうきよび》相《たす》く^[10]。七月戊戌《ぼうじゆつ》、齊人、子亹を殺して、高渠彌を轘《くわん》^[11]にす。祭仲《さいちう》、鄭子《ていし》^[12]を陳《ちん》より逆《むか》へて之を立つ。是《こ》の行《こう》や、祭仲、之を知れり。故《ゆゑ》に病《やまひ》と稱《しよう》して往《ゆ》かざりき。人《ひと》曰く、『祭仲、知《ち》を以て免《まぬか》れたり』と。仲《ちう》曰く、『信《まこと》なり^[13]』と。
　周公《しうこう》^[14]、（周ノ）莊王《さうわう》を弑《し》して王子克《わうしかつ》^[15]を立てんと欲す。辛伯《しんはく》^[16]（之ヲ）王に告ぐ。遂に王と與《とも》に周公黑肩《こくけん》を殺《ころ》す。王子克、燕《えん》に奔《はし》る。初め、子儀《しぎ》、桓王《くわんわう》に寵《ちよう》あり。桓王、これを周公に屬《ぞく》す。辛伯諫《いさ》めて曰く、『后《こう》に竝《なら》び^[17]、嫡《ちやく》に匹《たぐ》ひ^[18]、政《まつりごと》を兩《ふたつ》にし^[19]、國《くに》に耦《なら》ぶ^[20]は、亂《らん》の本《もと》なり』と。周公、從《したが》はざりき。、故に（難ニ）及《およ》ぶ。

註

1. 古は、妻、夫を謂ひて家と爲し、夫は妻を謂ひて室と爲す。
2. 水の名。
3. 濼より歸らず齊に如く。
4. 之は文姜をさす。
5. 齊の公子にて多力の人。
6. 彭生之を殺ししなり。
7. 諸侯に對して外聞惡し。
8. 請ふ彭生を殺して此恥辱の惡名を除かん。
9. 衞の地。
10. 子亹と高渠彌の二人、齊が己を討ぜんと欲するを知らざるなり。
11. 轘は車裂なり。
12. 昭公の弟子儀。
13. 鄭人、祭仲を疾む、故に之を毀りて曰く、祭仲も亦當に高伯と同じく戮せらるべき者なり、特に知を以ての故に免れたるのみと。仲之を聞きて曰く、人の言は信なり、我唯だ智ある、故に往かざりきと。是れ鄭人、多智老奸を以て仲を目し、而して仲、甘受して辭せず、却て是れ得意の語氣あるなり。
14. 黑肩。
15. 莊王の弟子儀。
16. 周の大夫。
17. 妾、后の如き也。
18. 庶、嫡の如く也。
19. 寵臣、正卿の如き也。
20. 都、國の如き也。