コンテンツにスキップ

明治元訳新約聖書(大正4年)/彼得前書

提供:Wikisource
Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (大正4年) > 彼得前書(元訳大正4年)
Wikipedia
Wikipedia
ウィキペディアペテロの第一の手紙のページがあります。

[二千六十五]
新約全書使徒しんやくぜんしょしとペテロ前書まえのふみ

第一章

[編集]

イエス キリスト使徒しとなるペテロふみポントガラテヤカパドキアアジアビチニアちりとゞまれるもの
すなはちゝなる神福音かみふくいんしたがはしめイエス キリストそゝがれしめんとして其預そのあらかじめしりたまふところしたがみたま聖潔きよめをもてえらたまひし人々ひとゞゝおくねがはくは爾曹なんぢら恩寵めぐみ平康やすきまさんことを


ほむべきかなかみわれらのしゅイエス キリストちゝかれ其大そのおほいなる衿恤あはれみ我儕われらふたた生我儕うみわれらをしてイエス キリストよみがへたまひしことによりいけのぞみさせ
またわれらのためてんをさめあるくちけがれずおとろへざる嗣業しげふしめたまふなり
なんぢら信仰しんかうよりかみちからまもられすでそなへあるところ末時すえのときあらはれんとするすくひうるなり
これより爾曹喜なんぢらよろこべり今暫いましばら各樣さまゞゝ艱難かんなんあひうれへざるをずといへどかへっよろこびをなせり
爾曹なんぢら信仰しんかうこゝろみらるゝはくずきんこゝろみらるゝよりもたふとくして爾曹なんぢらイエス キリストあらはたまはんとき稱讃ほまれ尊貴たふとき榮光さかえうるいたらん
爾曹なんぢらイエスざれどもこれあい今見いまみずといへどもしんじてよろこ其快樂そのよろこびいひがたく且榮光かつさかえあり
そはなんぢら信仰しんかうしるしすなはち靈魂たましひすくひるによる
爾曹なんぢらうくところめぐみ預言よげんせし預言者等よげんしゃたち此救このすくひかゝこと探索さぐりもとめかつ推究おしたづねたり
十一 すなは彼等かれらそのうちをるキリストみたまキリストうけんとする苦難くるしみそののちんとするさかえあらかじめあかししたるいついかなるときしめせると推究おしたづねたり
十二 彼等かれら黙示もくしこうむりて其傳そのつたふところことおのれのためあら爾曹なんぢらためなることをしれ其傳そのつたへしこと今天いまてんよりおくたま聖靈せいれいより福音ふくいんつたふもの爾曹なんぢらつぐところことなり斯事このことてん使等つかいたちしらんことをねがへり
十三 され
[二千六十六]
爾曹心なんぢらこゝろこしおびしてつゝしみイエス キリストあらはたまときなんぢらにきたらんとする恩惠めぐみうたがはずしてのぞむべし
十四 なんぢら孝子かうしなるにより從前さき蒙昧時くらきときよくならふことなく
十五 爾曹なんぢら召給めしたま聖者きよきものならひすべておこなひきよくすべし
十六 そはしるして我潔われきよければ爾曹なんぢらきよくすべしとあればなり
十七 ひと偏視かたよりみ各人おのゝゝおこなひよりさばもの爾曹なんぢらもしちゝよばやどれるおそれてすごすべし
十八 そはなんぢらあがなはれて先祖せんぞよりつたはりたるむなしおこなひよりはなれしはぎんきんごとくずものよるあら
十九 きづなくしみなきこひつじごとキリストたふときよれることをしればなり
二十 キリスト世基よのもとゐおかざりしさきさだめられ此末時このすえのとき爾曹なんぢらためあらはたまへり
二一 爾曹なんぢらキリストよみがへらせかつこれにさかえあたたまひしかみキリストよりしんずるものなり是故このゆゑ爾曹なんぢら信仰しんかうのぞみかみよれ
二二 爾曹なんぢらすでにみたまにより眞理まことしたがひて霊魂たましひきよいつはりなく兄弟きゃうだいあいするにいたりたれば潔心きよきこゝろをもてたがひあつ相愛あひあいすべし
二三 爾曹なんぢらふたゝうまるゝはくずべきたねよらくずべからずたねすなはちかぎりなくたもかみいけことばよるなり
二四 それひとすでくさごと其榮そのさかえすべてくさはなごとくさかれそのはなおつ
二五 されしゅことばかぎりなくたもつなり爾曹なんぢら宣傳のべつたふ福音ふくいんすなはちこのことばなり

第二章

[編集]

是故このゆゑ爾曹なんぢらすべての怨恨うらみすべての詭譎いつはりまた僞善ぎぜん娟嫉ねたみおよびすべて謗言そしりすて
今生いまうまれし嬰兒をさなごちゝしたごと爾曹心なんぢらこゝろやしな眞乳まことのちゝしたふべしこれより爾曹なんぢらそだちすくひいたらん
なんぢらあぢはひてしゅめぐみあるものしりたらんにはかくごとくすべし
しゅひとすてられたまへどかみえらばれたるたふと活石いけるいしなり
爾曹なんぢらかれにきた活石いけるいしごとたてられてれいいへとなり亦潔またきよ祭司さいしとなりイエス キリストよりかみよろこばるゝれい祭物そなえものさゝぐべし
そは聖書せいしょしるして我選われえらびところたふとすみ首石おやいし
[二千六十七]
ヲンおくこれをしんずるものはづかしめられじとあればなり
この石信いししんずる爾曹なんぢらにはたふとものとなりしんぜざるものには工師いへつくりすてられてすみ首石おやいしとなれるいしとなり
またつまづ石礙いしさまたぐるいはなるなり彼等かれらことばしんぜざるによりこれつまづこれ彼等かれらかくさだめられたるなり
爾曹なんぢらえらばれたる族王やからわうなる祭司聖民神さいしきよきたみかみつけものなり爾曹なんぢらをしてめし幽暗くらきよりいだ其異そのたへなるひかり入給いれたまひし者己ものおのれとくあらはさしめんため爾曹なんぢらかくごとものとなしたまへるなり
爾曹なんぢら素民もとたみあらされ今神いまかみたみとなる素衿恤もとあはれみうけされ今衿恤いまあはれみうけたり


十一 あいするものわれなんぢらにすゝ爾曹なんぢら賓旅たびゞとまた寄寓者やどれるものなれば靈魂たましひさからひてたゝかにくよくさるべし
十二 またなんぢら異邦人いはうじんうちあり善行よきおこなひなすべし是爾曹これなんぢらそしりてあくおこなものいへ異邦人いはうじんをして爾曹なんぢら善行よきおこなひ眷顧かへりみたまふかみあがめしめんためなり
十三 なんぢらしゅためすべひとたつところものしたがあるひかみにあるわう
十四 あるひあくおこなものばっぜんおこなものほむためわうよりつかはされたる方伯つかさしたがふべし
十五 そはなんぢらぜんおこなふをおろかなるひと無知むちことばとゞむるはかみむねなればなり
十六 なんぢら自由じゆうなるものごとくせよされ其自由そのじゆうあくおほふことなくかみしもべごとくすべし
十七 すべてひとうやま兄弟きゃうだいあいかみおそわうたふとぶべし


十八 しもべなるもの畏懼おそれ主人しゅじんしたがふべし只善良者たゞよきもの柔和にうわなるものにのみならず苛刻者なさけなきものにもしたがふべし
十九 ひともしうくべからざる苦難くるしみをうけかみうやまひてこれしのバゝほむべきことなり
二十 爾曹なんぢらもしあやまちをなしうたれてこれしのべどもなんほむべきことならんされどぜんをなしくるしめられてこれしのバゝかみ嘉稱ほまれべし
二一 爾曹なんぢら
[二千六十八]
めされたるはこれためなりそはキリスト爾曹なんぢらためくるしみをうけ爾曹なんぢらをしておのれあとしたがはしめんとて爾曹なんぢらかたのこたまへばなり
二二 かれつみをかさずまたそのくち詭譎いつはりなかりき
二三 かれのゝしられてのゝしらずくるしめられて厲言はげしきことばいださず只義たゞぎさばものこれまかせたり
二四 かれうへかゝり我儕われらつみみづかおの任給おひたまへり是我儕これわれらをしてつみしにいかしめんためなりかれ鞭扑むちうたれしにより爾曹醫なんぢらいやされたり
二五 それ爾曹なんぢらはもとひつじごとまよひたりしがいまなんぢらの靈魂たましひ牧者監督ぼくしゃかんとくかへれり

第三章

[編集]

つまなるもの爾曹なんぢらそのをっとしたがふべしをしへしたがはざるをっとあらばをしへよらつまおこなひよりしたがはん
そは爾曹なんぢら敬懼おそれきよおこなひをなすをみるよりてなり
爾曹なんぢら裝飾かざりかみ辮金くみきんかけまたころもるがごと外面そと妝飾かざりあら
たゞこゝろうちかくれたるひとすなはちくずることなき柔和にうわ恬靜おだやかなるれい妝飾かざりとすべし此靈このれい妝飾かざりかみまへにて価貴あたひたかきものなり
昔神むかしかみ依賴よりたのみし聖女きよきおんな其夫そのおっとしたがひてかくごとおのれかざりたり
サラアブラハムしたがひてこれしゅとなへしがごともしなんぢらぜんおこな何事なにごとをもおそれずバすなはサラたるなり
をっとたるもの爾曹なんぢらつまあつかふことよわうつはごとくしことわりしたがひてこれともをりこれをうやまふこと生命いのちめぐみ嗣者つぐものごとくすべしこれなんぢらの祈禱いのり阻礙さまたげなからんためなり


をはりわれこれをいは爾曹なんぢらみなこゝろおなじうしたがひ體恤おもひやり兄弟きゃうだいあいあはれ謙遜へりくだり

あくあくむくゆなかかへっかくごとひとためさいはひもとむべしそはなんぢらのめされたるもさいはひつがためなればなり
それ生命いのちあいして佳日よきひおくらんとおもものしたおさへあくいはくちびるとぢ詭譎いつはりいはざらんことをせよ
十一 あくさけぜんおこな和睦やはらぎもとめこれおふべし
十二 そはしゅ義人たゞしきひとうへとゞま其耳そのみゝ義人たゞしきひと祈禱いのりかたむしゅかほあくおこなものむかひいかればなり
十三 なんぢ
[二千六十九]
もし熱心ねっしんぜんおこなはゞたれ爾曹なんぢらそこなはん
十四 たとたゞしことためくるしめらるゝとも爾曹なんぢらさいはひなるものなりひと爾曹なんぢら威嚇おどすおそるゝなか亦憂またうれふなか
十五 なんぢらこゝろうちしゅなるキリストあがむべし亦爾曹またなんぢらうちにあるのぞみ緣由ゆゑよし問人とふひとには柔和にうわ畏懼おそれこたへをなさんことをつねそなへ
十六 かつこたふるときは善良心よきりょうしんしたがふべしこれなんぢらをあくおこなものしひなんぢらがキリストありおこな善行よきおこなひそしものみづかはぢためなり
十七 爾曹なんぢらぜんおこなふによりくるしみうくることかみ意旨みこゝろならばあくおこなふによりくるしみうくるにまされり
十八 キリスト一次罪ひとたびつみよりくるしみ義者たゞしきもの不義者たゞしからざるものためにせりこれわれらをひきかみいたらんとてなりかれその肉體にくたいころさ其靈そのれいいかされたり
十九 かれそのれいひとやにあるれい宣傳のべつたへたり
二十このひとやにあるれいむかしノア方舟はこぶねそねふ間神あひだかみしのび待給まちたまへるときしたがはざりしれいなり此方舟このはこぶねにいりみづよりすくはれしものわづかにして惟八人たゞはちにんなりき
二一 其水そのみづよりへうしたるバプテスマイエス キリスト復生よみがへりより今我儕いまわれらをもすくこのバプテスマはてんゆき今神いまかみみぎいませりもろゝゝ天使てんのつかひ權威けんゑある者能ものちからあるものみなかれしたがふなり

第四章

[編集]

キリストすで我儕われらため肉體にくたい苦難くるしみ受給うけたまひたれば爾曹なんぢらまたそのこゝろみづかよろふべしそは肉體にくたいくるしみうけものつみたちたればなり
これいまより後人のちひとよくしたがはずかみむねしたがひて肉體にくたいやどれる餘時のこりのときすごさんためなり
それわれらすですぎにし異邦人いはうじんこゝろしたがひて好色かうしょく私慾しよく沈湎ちんめん醉興すいきゃう酒宴しゅえん偶像ぐうざうまつにくむべきことおこなひてもはたれ
なんぢら彼等かれらとも放蕩はうたうきはみはしらざるにより彼等かれらこれをあやしみて爾曹なんぢらそしるなり
かれら生者いけるもの死者しねるものさばかんとそなへなしをるものおのれことのべ
[二千七十]

福音ふくいんしにもの宣傳のべつたへたり蓋彼等そはかれらをして其肉體そのにくたいひとより審判さばきうくるとも其靈そのれいかみより生命いのちしめん爲也ためなり
萬物よろずのもの末期邇をはりちかづけり是故このゆゑつゝしみてみづかせいすることをなし祈禱いのりすべし

何事なにごとよりもまづたがひにあつ相愛あひあいすることをすべし蓋愛そはあいおほくつみおほへばなり
なんぢらたがひをしむことなく接待せったいすべし
かみ各樣さまゞゝめぐみつかさどる善家宰よきつかさごと各人おのゝゝそのうけところたまものたがひほどこすべし
十一 ひともしみちかたらばかみしめしおもひてかたるべしひともし服役つとめなさかみたまちからおもひて服役つとめなすべしこれイエス キリストより毎時ことごとかみさかえせんためなり夫榮それさかえちからかみして世々よゝいたなりアメン


十二 あいするもの爾曹なんぢらこゝろむるごとくるしみ非常時つねならぬことごとくして爾曹異なんぢらあやしとするなか
十三 かへりキリストくるしみあづかるを歡樂よろこびとすべしされ其榮そのさかえあらはれんときまた爾曹喜なんぢらよろこおどらん
十四 もしなんぢらキリストためそしられなばさいはひなり蓋榮そはさかえみたますなはちかみみたまなんぢらのうへとゞまればなりキリスト彼等かれらけがされ爾曹なんぢらあがめらるゝなり
十五 爾曹なんぢらうちあるひはひところあるひぬすみをなしあるひあくおこなあるひみだりひとこと干渉たちいりなどしてくるしみあふものあらざれ
十六 もしキリステアンたるによりくるしみあははづることなかかへりこれよりかみあがむべし
十七 そはかみいへはじめとして審判さばきするときすでいたればなり我儕われらなほはじめ審判さばきせらるゝときかみ福音ふくいんしたがはざるもの其終局そのをはり如何いかにぞや
十八 もし義者たゞしきものからうじてすくはるゝをかみうやまはざるもの罪人つみびと何處いづこたゝんや
十九 是故このゆゑかみむねしたがひてくるしみあふものはぜんおこなひて其靈魂そのたましひしんずべき造物者ざうぶつしゃまかすべし


第五章

[編集]

キリストくるしみしたしあかしをなし且顯かつあらはれんとするさかえあづかることをものなる長老ちゃうらうたるわれなんぢらのうちにてわれおなじ長老ちゃうらうたるものすゝ
爾曹なんぢらうちにあるかみひつじむれかへこれを牧司かひつかさ
[二千七十一]
どるにやむずしてなさこのみてなしむさぼるためになさたのしみてなすべし
またなんぢらまかせられたるものしゅなるべからずひつじむれのりなるべし
なんぢら牧者ぼくしゃをさあらはれんときくづることなきさかえ冠冕かんむり
また幼者わかきものすゝ爾曹なんぢら長老ちゃうらうしたが且互かつたがひにみな相服あひしたがひて謙遜けんそん夫神それかみ驕傲者たかぶるものふせぎて謙遜者へりくだるものめぐみ與給あたへたまふなり
是故このゆゑ爾曹神なんぢらかみ大能たいのう手下てのしたおのれひくゝすべし期至ときいたらばかれなんぢらをたかくせん
爾曹なんぢらその憂慮おもひわづらふところを悉神みなかみゆだぬべしそはかれ爾曹なんぢらかへりたまへばなり


謹愼つゝしめ儆醒まもれなんぢらのあだなる惡魔吼あくまほゆ獅子ししごと徧行へめぐりのむべきものたづ
なんぢら信仰しんかうかたくしてこれふせそはなんぢらにある兄弟きゃうだいおなじ此苦このくるしみうくるをしればなり
すべて恩惠めぐみあたふるかみすなはち爾曹なんぢらをしてしばらくるしみうくのちキリスト イエスにあるかぎりなきさかえいらしめんとて爾曹なんぢらまねきし神爾曹かみなんぢらまったうしかたくしつよくしてもとゐうへ置給おきたまふべし
十一 ねがはくは榮光さかえ權力ちから世々神よゝかみあれアメン


十二 われおもふにシルワノ忠信ちゅうしんなる兄弟きゃうだいなり我片われすこしことばふみかれゆだ爾曹なんぢらおくりすゝめをなしかつなんぢらがたつところのめぐみすなはかみ眞恩まことのめぐみなることをあかしせり
十三 バビロン在所あるところ爾曹なんぢらともえらばれたる教會けうくわいなんぢらにやすきとふまた吾子わがこマコ爾曹なんぢらやすきとへ
十四 なんぢらあい接吻くちつけたがひやすきをとへねがはくはキリスト イエスあるなんぢらすべて平康やすきあらんことをアメン


新約全書彼得前書 終