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日韓日本軍慰安婦被害者問題合意 (2015.12.28.) 検討結果報告書

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I. 「日韓日本軍慰安婦被害者問題合意検討タスクフォース」の発足

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2015年12月28日,日本及び韓国の外務大臣は,共同記者会見で,日本軍慰安婦被害者問題(以下「慰安婦問題」)に関する両国の合意内容(以下「慰安婦合意」)を発表した。これにより,日韓両国の重要な外交懸案であったのみならず,国際社会の注目してきた慰安婦問題が一段落されるかのようであった。

しかしながら,慰安婦合意の直後批判の世論が出始めた。時間が過ぎるとともに,国民多数の反対していることが明らかになり,被害者及び関連団体をはじめとした市民社会の反発が表面化した。特に,朴槿恵大統領の弾劾の後行われた2017年の第19代大統領選挙では,与野主要政党候補らが合意の無効化又は再協議の公約を発表した。

2017年5月10日文在寅政府が誕生した。外務省は,7月31日大臣直属で「日韓日本軍慰安婦被害者問題協議検討タスクフォース」(以下「慰安婦TF」)を設置し,慰安婦合意の経緯及び内容を検討・評価することとした。慰安婦TFには,呉泰奎委員長をはじめとし,日韓関係,国際政治,国際法,人権等多様な分野の委員9名が参与した。

〈慰安婦TF委員名簿〉
委員長 オ・テギュ(呉泰奎) 元寛勲クラブ総務(元ハンギョレ新聞論説委員室長)
副委員長 ソン・ミラ 韓国人権財団理事長
チョ・セヨン 東西大学特任教授
民間委員 キム・ウンミ 梨花女子大学国際大学院教授
ソン・ヨル 延世大学国際学大学院教授
ヤン・ギホ 聖公会大学日語日本学科教授
外務省委員 ペク・チア 国立外交院外交安保研究所長
ユ・ギジュン 国際法律局審議官
ファン・スンヒョン 国立外交院教授

市民社会,政界,マスコミ,学界等は,慰安婦合意以降,被害者の参加,裏合意,「最終的・不可逆的解決」等に関連し,多様な疑惑及び批判を提起した。慰安婦TFは,このような疑問及び関心に答えようと努めた。

慰安婦TFは,2014年4月16日の慰安婦問題関連第1次日韓局長級協議から2015年12月28日の合意発表までを検討期間とした。また,事案をより正確に理解するため,当該検討期間前後の経過及び国内の動向も調査した。TFは,全20余次の会議及び集中討論をした。TFは,外務省が提供した協議経緯の資料をまず検討した後,これを土台として必要な文書を外務省に要請し,閲覧した。外務省が作成した文書を主に検討し,外務省が伝達を受け,又は保管していた大統領府及び国家情報院の資料を調査した。文書及び資料で把握が不足した部分に関しては,協議の主要関係者を面談し,意見を聴取した。

慰安婦TFは,次のような基準で経緯を把握し,内容を評価した。

1つめに,「被害者中心のアクセス」である。慰安婦問題の解決は,本質的に「加害者対被害者」の構図から被害女性の尊厳及び名誉を回復し,傷を治癒するところにある。被害救済過程から被害者の参加がなにより重要であり,政府は,被害者の意思及び立場を収㪘し,外交交渉に臨む責務がある。

2つめに,戦時性暴力である慰安婦問題は,反人道的不法行為であるとともに,普遍的人権の問題である。国際社会は,戦時性暴力問題に関する持続的,かつ,体系的な解決の努力をするとともに,被害救済のための国際規範を発展させてきた。従って,慰安婦問題に関しては,日韓両者の次元のみならず,国際的な次元も ともに考慮されなければならない。

3つめに,過去とは異なり,今日の外交は,政府官僚の手に全的に委ねられたものではなく,国民とともにするものでなければならない。さらに,慰安婦問題のように国民の関心が大きな事案は,国民とともに呼吸する民主的な手続及び過程を通じ,きちんと解決することができる。

4つめに,慰安婦問題は,日韓関係のみならず,韓国外交全般に大きな影響を及ぼす事案である。従って,関係部署間,協議関係者間の有機的協力体系及び緊密な疎通を通じ,全般的な対外政策と均衡をなす協議戦略を策定することが重要である。

慰安婦TFは,報告書において,慰安婦合意がなされた経緯を検討し,(1)合意内容,(2)合意の構図,(3)被害者中心の解決,(4)政策決定の過程及び体系に分けて評価を行った。

慰安婦TFは,慰安婦合意の経緯及び内容に関する検討及び評価に任務が限定されているから,慰安婦合意の今後の処理方向性に関しては,扱わなかった。

〈慰安婦TF会議開催日時〉
全体会議(計12次) 補充会議(計10次)
TF発足及び第1次会議 7月31日 - -
第2次会議 8月25日 - -
第3次会議 9月1日 3-1次会議 9月7日
第4次会議 9月15日 4-1次会議 9月22日
第5次会議 9月29日 - -
第6次会議 10月13日 6-1次会議 10月17日
第7次会議 10月27日 7-1次会議 11月6日
第8次会議 11月10日 8-1次会議 11月14日
第9次会議 11月24日 9-1次会議 12月1日
9-2次会議 12月2日
9-3次会議 12月6日
第10次会議 12月8日 10-1次会議 12月15日
10-2次会議 12月18日
第11次会議 12月22日 - -
第12次会議 12月26日 - -

※ 12月1日から12月16日まで集中討論

II. 慰安婦合意の経緯

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1. 局長級協議前の段階(~2014年4月)

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1991年8月の日本軍慰安婦被害者キム・ハクスンの最初の公開証言は,日韓両国のみならず,国際社会で本格的に慰安婦問題を公論の場に引き出す契機となった。

1993年3月,金泳三大統領は,慰安婦問題に関して,日本に金銭的補償を要求せず,韓国政府が被害者を直接支援すると明らかにした。代わりに,日本政府に,慰安婦問題の真相を調査することを要求した[1]

日本政府は,1993年8月慰安所の設置及び管理等に日本軍が関与し,日本軍慰安婦の募集及び移送等が総体的に本人の意思に反してなされたことを認める河野官房長官談話を発表した。これを契機として,韓国政府は,同日慰安婦問題を日韓両者次元の外交協議の対象としないとの方針を明らかにした。

日本政府は,1995年7月「女性のためのアジア平和国民基金」(以下「アジア女性基金」)を設立し,慰安婦被害者らに日本総理名義の謝罪の手紙とともに,人道的措置として金銭を支給した[2]

日本政府は,1965年「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下「請求権協定」)により慰安婦問題がすでに解決され,法的責任はないという立場である。反面,韓国政府は,反人道的不法行為である慰安婦問題は,両国間の財政的,民事的債権・債務関係を扱った請求権協定では解決されていない事案であるという立場である[3]

日韓両国の立場が平行線をたどっている中,2011年8月韓国憲法裁判所が慰安婦問題に関する違憲決定を下した。憲法裁判所は,請求権協定により慰安婦被害者らの日本に対する賠償請求権が消滅したか否かに関し,日韓両国間に解釈上の紛争があり,韓国政府がこれを請求権協定の紛争解決手続[4]により解決しないでいることが違憲であると決定した。これに従い,韓国政府は,2011年9月,11月の2度請求権協定第3条第1項による両者協議を日本に要請した。しかしながら,日本は,応じなかった。

2011年12月,日韓首脳会談において李明博大統領は,慰安婦問題解決のための日本政府の決断を促求した。日本側は,2012年3月「佐々江案」として知られる人道的次元の解決構想[5]を非公式に提案したが,韓国政府は,国家責任の認定が必要であるという理由で拒否した。2012年後半日韓両国政府は,水面下で慰安婦問題に関する協議を推進しもしたが,成果を収められなかった。

2013年2月発足した朴槿恵政府は,日本を説得し,誠意ある措置を引き出すという方針を立て,日本側に慰安婦問題を論議する実務協議を開催しようと持続的に要求した。だが,慰安婦問題を含む歴史認識に関する両国政上の異見のために特に進展はなかった。

2. 局長級協議を通じた解決の努力(2014年4月~2015年2月)

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2014年3月24日-25日オランダのハーグにおいて核安保首脳会議が開かれた。米国は,日米韓協力の次元で,日韓関係改善のため努め,3月25日日米韓3国首脳会談が別途開催された。この過程で,日韓両国は,慰安婦問題を扱う局長級協議を開始することで合意した。

慰安婦問題関連日韓局長級協議は,韓国外務省東北亜局長と日本外務省アジア大洋州局長の間に2014年4月16日から2015年12月28日の合意発表一日前まで全12次が開かれ,中間に非公開協議もあった。

〈慰安婦問題関連日韓局長級協議の開催の日時及び場所〉
日時 区分 場所
2014.4.16 第1次協議 ソウル
2014.5.15 第2次協議 東京
2014.7.23 第3次協議 ソウル
2014.9.19 第4次協議 東京
2014.11.27 第5次協議 ソウル
2015.1.19 第6次協議 東京
2015.3.16 第7次協議 ソウル
2015.6.11 第8次協議 東京
2015.9.18 第9次協議 東京
2015.11.11 第10次協議 ソウル
2015.12.15 第11次協議 東京
2015.12.27 第12次協議 ソウル

局長級協議が開始された後も,双方は基本的な立場のみを繰り返しながら,なかなか交渉に進展がなく,協議代表の級を高め,首脳と直接疎通することのできる高官級非公開協議が必要との意見が双方から出始めた。

3. 高官級協議を通じた合意の導出(2015年2月~2015年12月)

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(1) 高官級協議の開始

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韓国政府は,局長級協議の膠着状態を解消するため,2014年末高官級協議を並行して推進することに方針を定めた。このときから,協議の中心が高官級非公開協議に移っていくこととなった。日本側が協議代表として国家安全保障会議事務局長を立てたことに従い,韓国側は,大統領の指示でイ・ビョンギ国家情報院長が代表に立った[6]

(2) 高官級協議を通じた暫定合意

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第1次高官級協議は,2015年2月開かれ,同年12月28日の合意発表直前まで8次の協議があった。双方は,随時に高官級代表間の電話協議及び実務級次元の協議も並行した。主務部署である外務省は,高官級協議に直接参与することはできなかった。しかしながら,高官級協議の結果を青瓦台から伝えられた後,これを検討し,意見を青瓦台に伝えた。

韓国側は,第1次高官級協議に先立ち,2015年1月開かれた第6次局長級協議において,核心的要求事項として,「道義的」等の修飾語のない日本政府の責任認定,以前よりも前進した内容の公式謝罪及び謝罪の不可逆性の担保,日本政府の予算を使用した履行措置の実施を提示した。

日本側は,第1次高官級協議において,日本側が取るべき措置とともに,最終的・不可逆的解決の確認,駐韓日本大使館前の少女像問題の解決,国際社会における非難・批判の自制等韓国側が実施すべき措置を提示した。日本側は,これを公開部分及び非公開部分に分けて合意に含ませることを望んだ。

双方は,高官級協議開始約2ヶ月目である2015年4月11日第4次高官級協議で大部分の争点を妥結し,暫定合意した。合意内容は,日本政府の責任問題,謝罪及び金銭的措置のような3つの核心事項はもちろん,最終的・不可逆的解決,少女像問題,国際社会における相互非難・批判の自制の項目を含んでいた。また,関連団体の説得,第3国祈念碑。「性奴隷」用語に関する非公開内容も含まれていた。

(3) 高官級協議の膠着及び最終合意

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2015年4月暫定合意内容に関して両国首脳の追認を受ける過程で,日本側は,非公開部分である第3国の祈念碑に関して,祈念碑の設置の動きを韓国政府が支持しないという内容を追加することを希望した。韓国側は,そのような内容を追加することは,すでに妥結された内容に関する本質的修正であるため。受け入れられないとした。

このような中2015年6月末,いわゆる「軍艦島」を初めとした日本近代産業施設のユネスコ世界遺産登載問題により両国政府の葛藤が大きくなり,慰安婦問題に関する協議もそれ以上進展しなかった。

2015年11月1日ソウルで開かれた日中韓3国首脳会議は,中断されていた高官級協議を再開する契機となった。11月2日日韓首脳会談で両国首脳は,日韓国交正常化50周年という点を勘案し,可能な限り早い期間内に慰安婦問題を妥結することで意見を収㪘した。朴槿恵大統領は,年内妥結に強い意欲を見せ,2015年12月23日第8次高官級協議で合意が最終妥結された。

日韓外務大臣は,2015年12月28日ソウルで会談を開き,合意内容を確認したのに引き続き,共同記者会見を開き,これを発表した。そして,大統領は,慰安婦問題に関連した対国民メッセージを発表した。

最終合意内容は,第3国祈念碑及び少女像の部分が一部修正されたことを除いては,暫定合意内容と同一であった。

III. 慰安婦合意の評価

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次では,合意の内容,合意の構造,被害者中心の解決,政策決定の過程及び体系に分けて評価した。

1. 合意内容

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(1) 公開部分

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イ.日本政府の責任
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(日韓外務大臣共同記者会見の日本側発表内容)
□ 慰安婦問題は,当時軍の関与下に多数の女性の名誉及び尊厳に深い傷を負わせた問題であって,このような観点から,日本政府は,責任を痛感する。

責任の部分において,日本政府の責任を修飾語なしに明示するようにしたことは,責任に関する言及のなかった河野談話及び責任の前に「道義的」の付いていたアジア女性基金当時の日本総理の手紙と比較して進展であると解することができる。また,「日本政府として責任を痛感」するというのに加え,総理の謝罪及び反省の気持ちの表明,そして日本政府の予算出捐を前提とした財団設立が合意内容に含まれたことは,日本が法的責任を事実上認めたものと解釈しうるという側面がある。

しかしながら,日本政府は,請求権協定で慰安婦問題がすでに解決されたから,法的責任が存在しないとの立場を堅持している。日本側は,協議の全過程及び妥結直後の首脳間の電話通話に至るまで一貫して反復的にこのような立場を明らかにした。

韓国政府は,日本が確固たる法的立場を固守しており,法的責任認定を引き出すことは困難であると見て,日本政府が法的責任を事実上認めたことと解釈することができるようにする現実的な方法を推進した。韓国側は,「消耗的な法理論争を繰り広げることよりは,被害者を中心として考えつつ,被害者が納得しうる解決方法を導き出すという姿勢で,創意的な解決方法を模索することが望ましい」との立場から交渉を行った。

法的責任認定は,被害者側の核心要求事項の一つであった。外務省も,内部検討において法的責任は,国内の説得における核心的な事案であり,単純に「日本政府の責任」とした場合,国内の説得に難航が予想されるとして,問題点を認識していた。日韓双方は,この部分が議論になることを予想し,「発表内容に関するマスコミの質問の際の応答要領」で「合意文案中「責任」の意味に対する質問の際『日本軍慰安婦被害者問題は,当時軍の関与下に,多数の女性の名誉及び尊厳に深い傷を与えた問題であり,このような観点から日本政府は,責任を痛感している』との表現そのままであり,それ以上でも以下でもない」と答弁することで調整した[7]

韓国側は,協議で従来の日本の「道義的責任の痛感」よりも進展した「責任の痛感」の表現を得た。しかしながら,「法的」責任や責任の「認定」という言葉は,引き出せなかった。韓国側は,これを補完するため,被害者訪問等の被害者の心を得られる措置を日本側に要求したが,合意に含められなかった。

ロ.日本政府の謝罪
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(日韓外務大臣共同記者会見の日本側発表内容)
□ 安倍内閣総理大臣は,日本国内閣総理大臣とし,今一度慰安婦として多くの苦痛を経験し,心身にわたって治癒しがたい傷を負った全ての方々に対する心からの謝罪と反省の気持ちを表明する。

安倍総理は,内閣総理大臣の資格で謝罪と反省を表明した。過去アジア女性基金当時,被害者に伝達された日本総理の手紙にも「謝罪と反省の気持ち」という表現が入っていたが,慰安婦合意では,もう少し公式的な形態でこのような意思を明らかにしたという点で,今回の謝罪と反省の表明は,従来よりは進んだものと解せられる。

被害者及び関連団体は,日本政府の「取消しのできない」謝罪を要求してきており,韓国政府も協議過程において不可逆的,かつ,公式性の高い内閣決定(閣議決定)形態の謝罪を要求した。だが,内閣決定を通じた謝罪には至らなかった。また,形式が被害者に謝罪と反省の気持ちを直接的に伝えるものではなかった。内容も,アジア女性基金の総理の手紙の中,「道義的」の用語だけを除いて同一の表現及び語順をそのまま繰り返した。

ハ.日本政府の金銭的措置
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(日韓外務大臣共同記者会見の日本側発表内容)
□ 日本政府は,今までも本問題に真摯に望んできたし,そのような経験に基づいて,今回日本政府の予算による全ての元慰安婦の心の傷を治癒する措置を講ずる。
具体的には,韓国政府が元慰安婦の方々の支援を目的とする財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括拠出し,日韓両国政府が協力して全ての元慰安婦の方々の名誉及び尊厳の回復並びに心の傷の治癒のための事業を行うこととする。

金銭的措置部分において,アジア女性基金とは異なり,日本政府が予算で全額出捐した金銭を使用して韓国内に財団が設立された[8]。そして,慰安婦合意当時の生存被害者47名の中36名及び死亡被害者199名の遺族68名がこの財団と通じて金員(生存者1億ウォン/死亡者2千万ウォン)を受領し,又は受領する意思を明らかにした(12月27日現在)。

慰安婦問題が請求権協定で解決され,法的責任はないという日本を相手として日本政府の予算のみを財源として個人に支払うことのできる金員を引き出したのは,いままでになかったことである[9]

しかし,日本側は,合意の直後から,財団に出捐する金員の性格は,法的責任による賠償ではないと言っている。一部被害者及び関連団体も賠償次元の金員ではないから受け入れられないとしている。このように,被害者の立場から責任問題が完全に解消されない限り,被害者が金銭を受け取ったとしても,慰安婦問題が根本的に解決されたものではない。

日本政府が出捐する金員が10億円と定められたことは,客観的算定基準によるものではない。日韓外交当局の協議過程で韓国政府が被害者から金員の額数に関して意見を収㪘したという記録も見られない。

また,韓国に設立された財団を通じて被害者及び遺族に金銭を交付する過程で,受け取った者と受け取らなかった者に分かれた。これにより,日韓の紛争構造である慰安婦問題が韓国内部の紛争構造に変わった側面がある。

ニ.最終的・不可逆的解決
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(日韓外務大臣共同記者会見の日本側発表内容)
□ 日本政府は,上記を表明するとともに,以上に申し上げた措置(外務大臣会談のときは「上記②の措置」)[10]を着実に実施するということを前提として,今回の発表を通じて同問題が最終的及び不可逆的に解決されるものであることを確認する。

(日韓外務大臣共同記者会見の韓国側発表内容)
□ 韓国政府は,日本政府の表明及び今回の発表に至るまでの措置を評価し,日本政府が先立って表明した措置(外務大臣会談のときは「上記1.②の措置」)を着実に実施するということを前提として,今回の発表を通じて日本政府とともにこの問題が最終的及び不可逆的に解決されるものであることを確認する。韓国政府は,日本政府が実施する措置に協力する。

※下線追加は慰安婦TF。

最終的・不可逆的解決という表現が合意に入ったのは,慰安婦合意発表後,国内で国内で論難の大きな事案であった。

「不可逆的」という表現が合意に入った経緯を見ると,2015年1月第6次局長級協議で韓国側が先にこの用語を使用した。韓国側は,既存に明らかにしたものよりも進展した日本総理の公式謝罪がなければならないとしつつ,不可逆性を担保するため,内閣決定を経た総理の謝罪表明を要求した。

韓国側は,日本の謝罪が公式性を有さねばならないという被害者団体の意見を参考として,このような要求を行った。被害者団体は,日本がその間謝罪をした後覆す事例が頻繁であったとしつつ,日本が謝罪する場合,「取消しできない謝罪」にならなければならないという点を強調してきた。2014年4月被害者団体は,「日本軍慰安婦問題解決のための韓国市民社会の要求書」で,「犯罪事実及び国家的責任について,覆すことのできない,明確な方式の公式認定。謝罪及び被害者に対する法的賠償」を主張したことがある。

日本側は,局長級協議初期には,慰安婦問題が「最終的」に解決されなければならないとのみ述べたが,韓国側が第6次局長級協議で謝罪の不可逆性の必要性に言及した直後開かれた第1次高官級協議から,「最終的」以外に「「不可逆的」解決をともに要求した。

2015年4月第4次高官級協議でこのような日本側の要求が反映された暫定合意がなされた。韓国側は,「謝罪」の不可逆性を強調したが,当初の趣旨とは異なり,合意では,「解決」の不可逆性を意味するものに脈絡が変わった。

外務省は,暫定合意直後「不可逆的」の表現が含まれれば,国内的に反発が予想されるから,削除が必要であるという検討意見を青瓦台に伝達した。しかし,青瓦台は,「不可逆的」の効果は,責任痛感及び謝罪表明を行った日本側にも適用されうるという理由で受け入れなかった。

「最終的及び不可逆的解決」の入った文章の前に,「日本政府が財団関連措置を着実に実施するということを前提として」という表現を入れようと先に提案した側は,韓国であった。韓国側は,慰安婦合意発表時点には,日本政府の予算出捐がまだなされていないため,履行を確実に担保するため,このような表現を提案した。

この句節は,最終的,かつ,不可逆的な解決の前提に関する議論を生んだ。日本政府が予算を出捐することだけで慰安婦問題が最終的,かつ,不可逆的に解決されると解釈される余地を残したためである。しかし,韓国側は,協議過程で韓国側の意図を確実に反映することのできる表現を含めようとする努力を積極的にしなかった。

結局双方は,慰安婦問題の「解決」は,最終的・不可逆的,と明確に表現しながら,「法的責任」の認定は,解釈を通じてのみ行いうる線で合意した。それなのに,韓国政府は,日本側の希望に従い,最終合意で日本政府の表明及び措置を肯定的に評価した。また,日本政府が実施する措置に協力するとも言及した。

ホ.駐韓日本大使館前の少女像
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(日韓外務大臣共同記者会見の韓国側発表内容)
□ 韓国政府は,日本政府が駐韓日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持という観点から憂慮している点を認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

日本側は,少女像問題に関して,格別な関心を見せた。合意内容は,外務大臣が共同記者会見で発表した部分と発表しなかった部分に分けられているが,少女像問題は,双方に全て含まれた。

少女像問題等に関して,双方が非公開とした部分は,次の通りである。

日本側は,「今回の発表により,慰安婦問題は,最終的及び不可逆的に解決されるもであるから,挺対協等各種団体等が不満を表明する場合にも,韓国政府としては,これに同調せず説得してくれることを望む。駐韓日本大使館前の少女像をどのように移転するのか,具体的な韓国政府の計画を問いたい」と言及した。

これに対し,韓国側は,「韓国政府は,日本政府が表明した措置の着実な実施がなされたということを前提として,今回の発表を通じて,日本軍慰安婦被害者問題は,最終的及び不可逆的に解決されるものであることを確認し,関連団体等の異見表明のある場合,韓国政府としては,説得のため努める。韓国政府は,日本政府が駐韓日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持という観点から憂慮している点を認知し,韓国政府としても,可能な対応方向に関して関連団体との協議等を通じ適切に解決されるよう努める」とした。

日本側は,協議初期から少女像移転問題を提起し,合意内容の公開部分に含めることを希望した。韓国側は,少女像問題を協議対象としたという批判を憂慮し,この問題が合意内容に含まれることに反対した。しかし,協議過程で結局,これを非公開部分に入れようと提案した。

双方が協議で具体的な表現を巡って駆け引きをした末に,最終的には「関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努める」という表現が合意内容の公開部分と非公開部分に同時に入ることとなった。韓国側は,これが少女像移転を合意したものではなく,発表内容にある「努める」以上の約束は他にないと説明してきた。 特に,国会,マスコミ等が公開された内容以外に合意があるか質疑したのに対し,少女像に関してそのようなものはないという旨で答弁してきた。

しかし,韓国側は,公開部分で少女像関連の発言をしたのと別途に,非公開部分で日本側が少女像問題を提起したのに対して対応する形式で同一の内容の発言を更に反復した。特に,非公開部分での韓国側の少女像関連の発言は,公開部分の脈絡とは異なり,「少女像をどのように移転するのか,具体的な韓国政府の計画を問いたい」という日本側の発言に対応する形態となっている。

少女像は,民間団体主導で設置されただけに,政府が関与して撤去するのは難しいとしてきたにも拘らず,韓国側は,これを合意内容に含めた。

このため,韓国政府が少女像を移転することと約束しなかった意味が褪色することとなった。

ヘ.国際社会での非難・批判の自制
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(日韓外務大臣共同記者会見の日本側発表内容)
□ また,日本政府は,韓国政府とともに今後,国連等国際社会において同問題について相互に非難・批判することを自制する。

(日韓外務大臣共同記者会見の韓国側発表内容
□ 韓国政府は,今回日本政府が表明した措置が着実に実施されたということを前提として,日本政府とともに今後国連等国際社会において同問題について相互に非難・批判することを自制する。

国際社会における相互非難・批判の自制に関連して,韓国側は,この問題もまた慰安婦問題が解決されれば自然に解消されるであろうと主張したが,日本側は,このような内容を含めるよう望みつつけた。韓国側は,「日本政府が表明した措置が着実に実施されたということを前提として」,非難・批判を「相互に」自制することに同意した。

慰安婦合意以降青瓦台は,外務省に基本的に国際舞台において慰安婦関連発言をするなという指示もしはした。そのため,あたかも本合意を通じて国際社会において慰安婦問題を提起しないことと約束したという誤解をもたらした。

しかしながら,慰安婦合意は,日韓両者の次元で日本政府の責任,謝罪,補償問題を解決するためのものであり,国連等国際社会において普遍的人権問題,歴史的教訓として慰安婦問題を扱うことを制約するものではない。

(2) 非公開部分

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慰安婦合意には,外務大臣共同記者会見発表内容以外に非公開部分があった。このような方式は,日本側の希望により高官級協議で決定された。非公開部分は,①外務大臣会談の非公開言及内容,②財団設立に関する措置内容,③財団設立に関する議論の記録,④発表内容に関するマスコミの質問の際の応答要領になっている[11]

非公開言及内容は,韓国挺身隊問題対策協議会(以下「挺対協」)等被害者関連団体の説得,駐韓日本大使館前の少女像,第3国の祈念碑,「性奴隷」用語等国内的に敏感な事項である。非公開言及内容は,日本側が先に発言をし,韓国側がこれに対し対応する形式で構成されている。

まず日本側は,(1) 「今回の発表により,慰安婦問題は,最終的及び不可逆的に解決されるのであるから,挺対協等各種団体等が不満を表明する場合にも,韓国政府としては,これに同調せず,説得してくれることを望む。駐韓日本大使館前の少女像をどのように移転するのか,具体的な韓国政府の計画を問いたい」,(2) 「第3国において,慰安婦関連像・碑の設置に対しては,このような動きは,諸外国で各民族が,平和と調和の中で共生することを望んでいる中,適切でないものと考える」,(3) 「韓国政府は,今後「性奴隷」という単語を使用しないことを望む」と言及した。

次いで韓国側は,(1) 「韓国政府は,日本政府が表明した措置の着実な実施がなされたということを前提として,今回の表明を通じて日本軍慰安婦被害者問題は,最終的及び不可逆的に解決されるものであることを確認し,関連団体等の異見表明がある場合,韓国政府としては,説得のため努める。韓国政府は,日本政府が駐韓日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持という観点から憂慮している点を認知し,韓国政府としても,可能な対応方向に関し関連団体との協議等を通じ,適切に解決されるよう努める」,(2) 「第3国での日本軍慰安婦被害者関連の石碑・像の設置問題に関連し,韓国政府が関与するものではないが,今回の発表により韓国政府としても,このような動きを支援することはなく,今後日韓関係が健全に発展することができるよう努める」,(3) 「韓国政府は,この問題に関する公式名称は,「日本軍慰安婦被害者問題」のみであることを再度確認する」と対応した。

韓国政府は,公開された内容以外の合意事項があるかを問う質問に対し,少女像に関連してはそのようなものはないとしつつも,挺対協の説得,第3国の祈念碑, 「性奴隷」表現に関連した非公開内容があるという事実は,言わなかった。

韓国側は,協議初期から慰安婦被害者団体と関連する内容を非公開に受け入れた。これは,被害者中心,国民中心でなく,政府中心で合意をしたものであることを示している。

日本側は,挺対協等被害者関連団体を特定しつつ,韓国政府に説得を要請した。これに対し,韓国側は,挺対協を特定せずに,「関連団体説得の努力」をすると日本側の希望を事実上受容した。

また,日本側は,海外に祈念碑等を設置することを韓国政府が支援しないとの約束を手に入れようとした。韓国側は,第3国祈念碑の設置は,政府が関与するものではないとし,日本の要求を拒否したが,最終段階で「支援することなく」との表現を入れることに同意した。

日本側は,韓国側が性奴隷の表現を使用しないことも望んだ。韓国側は,性奴隷が国際的に通用する用語である点等を理由として反対したが,政府が使用する公式名称は,「日本軍慰安婦被害者問題」のみであると確認した。

非公開言及内容は,韓国政府が少女像を移転し,もしくは第3国祈念碑を設置することができないよう関与し,又は「性奴隷(sexual slavery)」表現を使用しないことと約束したものではないが,日本側がこのような問題に関与しうる余地を残した。

2015年4月,第4次高官級協議において暫定合意内容が妥結された後,外務省は,内部検討会議で4つの修正・削除必要事項を整理した。ここには,非公開部分の第3国祈念碑,性奴隷表現の2つが入っており,公開及び非公開部分の少女像への言及も含まれていた。これは,外務省が非公開合意内容が副作用を呼び起こしうることを認知していたこということを示している。

(3) 合意の性格

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慰安婦合意は,両国外務大臣共同発表及び首脳の追認を経た公式的な約束であり,その性格は,条約ではなく政治的合意である。

日韓両国政府は,高官級協議の内容を外務大臣会談で口頭で確認し,会談直後共同記者会見で発表した。そして,事前に約束したとおり,両国首脳が電話通話で追認する形式を取った。

双方が発表内容を各々公式ウェブサイトに掲載し,互いに内容が一致しない部分が生じた。外務省は,外務大臣共同記者会見で発表した内容を,日本外務省は,双方が事前合意した内容を公式ウェブサイトに掲示した。また,双方がそれぞれ公式ウェブサイトに掲載した英語翻訳文も違いがあり,混乱を助長した。そして,実際に合意した内容がなにであるか,発表された内容が全部であるのか等に関し,疑惑と論争を生んだ。

2. 合意の構図

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その間,被害者側の3大核心要求事項,すなわち日本政府の責任認定,謝罪,賠償の観点から見ると,慰安婦合意は,アジア女性基金等従来と比較して進められたと解しうる側面がある。特に,安倍政府を相手としてこれ程の合意を成し出したことを評価する一部視角もある。

3大核心事項は,日本側が他の条件をかけず,自発的にすることが望ましかった。しかしながら,慰安婦問題の最終的・不可逆的解決の確認,少女像問題の適切な解決の努力,国際社会での相互非難・批判の自制等,日本側の要求を韓国側が受け入れる条件で妥結された。

韓国側は,最初には,河野談話に言及した未来世代の歴史教育,真相究明のための歴史共同研究委員会の設置等,日本側がすべき措置を提示し,正面対応をしもしたが,結局日本側の構造どおり協議をすることとなった。このように,3大核心事項と韓国側の措置が交換される方式で合意がなされたことにより,3大核心事項において,ある程度進展を評価することのできる部分措置もその意味が褪色した。

その上,公開部分以外にも,韓国側に一方的に負担となり得る内容が非公開で含まれていることが発覚した。それも全て市民社会の活動及び国際舞台における韓国政府の活動を制約するものと解釈される素地のある事項である。このため,公開された部分だけでも不均衡な合意がより傾くこととなった。

3. 被害者中心の解決

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慰安婦合意に関して重要に俯角されている問題認識は,この合意が慰安婦被害者並びに関連団体及び国連等の国際社会が強調してきた被害者中心のアクセス及びその趣旨を反映しているかという点である。韓国政府は,慰安婦問題を戦時性暴力等普遍的価値であって,女性の人権を保護するための次元から扱ってきた。

戦時女性人権問題に関連して,被害者中心のアクセスは,被害者を中心に置いて救済及び補償がなされなければならないということである。2005年12月国連総会決議によれば,被害者の経験した被害の深刻性の程度及び被害の発生した状況の歴史的脈略に従い,それに相応する完全で効果的な被害の回復がなされなければならない。

朴槿恵大統領は,慰安婦問題に関連して,「被害者が受け入れられ,わが国民が納得しうる」,「国民目線にも合致し,国際社会も受け入れられる」解決にならなければならないという点を強調した。外務省は,局長級協議開始決定の後,全国の被害者団体,民間専門家等に面会した。2015年の1年だけで全15次以上被害者及び関連団体に接触した。

被害者側は,慰安婦問題解決のためには,日本政府の法的責任認定,公式謝罪,個人賠償の3つがなによりも重要であると言ってきた。外務省は,これらの意見及び専門家の助言を基礎として,修飾語なき日本政府の責任認定,日本総理の公式謝罪,個人補償を主要内容とする協議案を策定し,局長級及び高官級協議に臨んだ,

外務省は,協議に臨みつつ,日韓両国政府間で合意しても,被害者団体が受け入れなければ,再度原点に返るほかないから,被害者団体を説得することが重要であるという認識を持った。また,外務省は,協議を行う過程で,被害者側に随時に関連内容を説明した。しかしながら,最終的・不可逆的解決の確認,国際社会での非難・批判の自制等の韓国側が取るべき措置があるということに関しては,具体的に知らせなかった。金銭の額数に関しても,被害者の意見を収㪘しなかった。結果的に,同人らの理解と同意を引き出すのに失敗した。

被害者団体は,合意発表直後説明書を通じ,『被害者及び支援団体,そして国民の熱望は,日本政府が日本軍「慰安婦」犯罪に対し,国家的,かつ,法的な責任を明確に認め,それによる責任を履行することにより,被害者が名誉及び人権を回復し,再びこのような悲劇が再発しないようにせよということであった」と反発した。同人らは,また最終的・不可逆的解決の確認及び少女像問題等が含まれたのに対し強く批判した。

女性差別撤廃委員会(CEDAW)は,日本政府の定例報告書に関する2016年3月の最終見解において,『慰安婦問題が「最終的及び不可逆的に解決されたもの」であると主張した発表は,「被害者中心のアクセス」を完全に取れていなかった』と評価した。また,合意を履行する過程で被害者の意思を十分に考慮し,真実,誠意,賠償に対する被害者の権利を保障することを日本政府に促した[12]。拷問防止委員会[13]等も,慰安婦合意に関して被害者中心のアクセスが欠如していたと指摘した。

4. 政策決定過程及び体系

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慰安婦問題を外交事案として扱う際は,人類普遍の価値を追求すると同時に,対外政策全般と適切な均衡を考慮しなければならない。引火性の大きい慰安婦問題に慎重にアクセスしなかった場合,対日外交のみならず,外交全般に大きな影響を及ぼすためである。朴槿恵政府は,慰安婦問題を日韓関係改善の前提とし,硬直した対応で様々な負担をもたらした。

朴槿恵大統領は,就任初年である2013年3・1節記念の辞で,「加害者と被害者という歴史的立場は,1000年の歴史が流れても変わらない」として,対日強硬策を主導した。韓国政府は,慰安婦問題と首脳会談の開催を連携させるに伴い,歴史紛争とともに安保,経済,文化等の分野で巨額の対価を支払った。政府次元の紛争が相互の過剰反応及び国際舞台における過度な競争を醸成しつつ,両国国民次元の感情の溝も深まった。

日韓関係の悪化は,米国のアジア・太平洋地域戦略に負担として作用することにより,米国が両国間の歴史問題に関与する結果をもたらした。このような外交環境の下で,韓国政府は,日本政府と協議を通じて慰安婦問題を粗末に解決しなければならない状況に面した。

韓国政府は,慰安婦問題と安保・経済部門等を分離して対応することができず,「慰安婦外交」に没頭した。また,大統領は,慰安婦問題解決のため米国を通じ,日本を説得するという戦略を導いた。数次の米韓首脳会談で日本の指導層の歴史観により日韓関係改善が達成されずにいるという点を繰り返して強調した。しかしながら,このような戦略は,効果を上げられず,むしろ米国内に「歴史疲労」現象をもたらした。

慰安婦協議と関連した政策の決定権限は,著しく青瓦台に集中していた。大統領の核心参謀らは,大統領の強硬な姿勢が対外関係全般に負担をもたらしうるにも拘らず,首脳会談と連携して日本を説得しようという大統領の意向に順応した。その上,大統領の意思疎通が不足していた状況で,調整のされていない指示をすることにより,協議関係者の身動きの幅を制約した。

主務部署である外務省は,慰安婦協議の脇役で,核心争点に関して意見を十分に反映できなかった。また,高官級協議を主導した青瓦台と外務省間の適切な役割分担及び有機的協力も不足していた。

IV. 結論

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慰安婦TFは,ここまで被害者中心のアクセス,普遍的価値と歴史問題に対する姿勢,外交における民主的要素,部署間の有機的協力及び疎通を通じた均衡のとれた外交戦略策定という次元から合意の経緯を把握し,内容を評価した。

慰安婦TFは,次のような4つの結論を下した。

1つめ,戦時女性人権に関して,国際社会の規範として位置した被害中心のアクセスが慰安婦協議過程で十分に反映されず,一般的な外交懸案のようにギブアンドテイクの協議がなされた。韓国政府は,被害者が1名でも多く生きている間に問題を解決しなければならないとして,協議に臨んだ。しかしながら,協議過程で被害者の意見を十分に収㪘しないまま,政府の立場を第一に合意を締結した。今回の場合のように,被害者らが受け入れない限り,政府間に慰安婦問題の「最終的・不可逆的解決」を宣言したとしても,問題は再燃するほかない。

慰安婦問題のような歴史問題は,短期的に外交協議や政治的妥協では解決されがたい。長期的に価値と認識の拡散・未来世代の歴史教育を並行して推し進めなければならない。

2つめ,朴槿恵大統領は,「慰安婦問題の進展なき首脳会談は不可」を強調する等,慰安婦問題を日韓関係全般と連携して解決しようとして,却って日韓関係を悪化させた。また,国際環境が変化しつつ,「2015年内協議集結」の方針で旋回し,政策の混乱をもたらした。慰安婦等歴史問題が,日韓関係のみならず,対外関係全般に負担を与えないよう,均衡ある外交戦略を策定しなければならない。

3つめ,今日の外交は,国民とともにしなければならない。慰安婦問題のように国民の関心の大きな事案であるほど国民と呼吸をともにする民主的な手続及び過程がより重視されなければならない。しかしながら,高官級協議は,終始一貫して秘密協議で行われ,知られている合意内容以外に韓国側に負担となり得る内容も公開されなかった。

最後に,大統領,協議責任者及び外務省の間の疎通が不足していた。この結果,政策方向が環境の変化に従い修正又は保管されるシステムが働かなかった。今回の慰安婦合意は,政策決定過程で幅広い意見収㪘及び有機的疎通,関連部署間の適切な役割分担が必要であるということを示している。

外交は,相手方があるだけに,最初に立てた目標や基準,検討過程で提起された意見を全て反映させることはできない。しかしながら,このような外交協議の特性や困難さを勘案しても,慰安婦TFは,右のような4つの結論を下さざるを得ない。<終>

  1. 1993年3月,韓国外務省は,政府の自体的な救護対策を策定し,日本側に対し誠意ある真相調査を促すと発表した。同年6月「日帝下日本軍慰安婦被害者に対する生活安定支援法」が制定され,被害者に1人あたり5百万ウォンの生活保護基本金が支給され,生活保護法,医療保護法等により生活支援金の支給(月15万ウォン),医療サービス等の支援がなされた。
  2. アジア女性基金から金銭を受領した韓国人被害者は,公式的に7名と知られているが,2014年6月日本政府が発表した河野談話検討報告書では,アジア女性基金が韓国人被害者61名に1人あたり慰労金200万円及び医療福祉支援金300万円を支給したと記述されている。
  3. 2005年8月26日,総理室傘下の日韓会談文書公開後続対策関連民間共同委員会は,『日本軍「慰安婦」問題等,日本の政府・軍等の国家権力が関与した反人道的不法行為に対しては,請求権協定により解決されたものと解することはできず,日本政府の法的責任が残っている』と発表した。
  4. 請求権協定によれば,解釈及び履行に関する両国間の紛争は,まず外交上の経路を通じて(第3条第1項),外交上の経路により解決することができなかった紛争は,仲裁により解決(第3条第2,3項)するよう規定している。
  5. 2012年3月日本外務省の佐々江事務次官が提示した構想で,①総理の謝罪表明,②政府予算による医療費支援等の人道的措置の実施,③駐韓日本大使の被害者訪問の内容で構成されている。
  6. イ・ビョンギ氏は,最初から最後まで高官級協議代表として参与した。1次協議の際は国情院長であったが,2次協議直前である2015年2月大統領秘書室長となった。
  7. 「発表内容に関するマスコミの質問の際の応答要領」には,右の内容以外にも次のような内容がともに入っている。
    (質問)今回の合意により実施しようとする具体的な事業内容があるか,また本事業に伴う予算規模はどの程度を想定しているか?
    (回答)韓国政府が日本軍慰安婦被害者に対する支援を目的として財団を設立し,ここに日本政府予算で資金を一括拠出し,日韓両国政府が協力して全ての日本軍慰安婦被害者らの名誉及び尊厳の回復,心の傷の治癒のための事業を実施することとする。具体的には,▲全ての日本軍慰安婦被害者らの名誉及び尊厳の回復に寄与する心の傷を治癒するための措置,▲医療サービスの提供(医薬品の支給を含む),▲健康管理及び療養・看病の支援,▲上記財団の目的に照らして適切なその他の措置を考えているが,事業は,今後日韓両国政府間の合意された内容の範囲内で実施する。日本政府が拠出する予算規模についても,今後調整していく予定であるが,大体000円程度を想定している。
  8. 高官級協議において合議された「財団設立に関する措置内容」で以下のような内容がある。
    ―全ての日本軍慰安婦被害者らの名誉及び尊厳の回復並びに心の傷を治癒するための目的で,韓国国内の適切な財団に対して日本政府は,その予算で資金を一括拠出し,事業の財源とする。(※日本政府予算による拠出は1回に限る。)
    ―同財団の活動は,以下の通り。▲目的:すべての日本軍慰安婦被害者の名誉及び尊厳の回復並びに心の傷の治癒,▲対象:すべての日本軍慰安婦被害者の方々,▲事業:①全ての日本軍慰安婦被害者の方々の名誉及び尊厳の回復に寄与する心の傷を治癒のための措置,医療サービスの提供(医薬品の支給を含む),②健康管理及び療養看病の支援,③上記財団の目的に照らして適切なその他の措置,▲実施体制:財団は,両国政府間の合意された内容の範囲内で事業を実施する。財団は,両国政府に対し事業の実施について定期的に通報するものとし,必要時は,両国政府間で協議する。
    ―財団設立の方法:韓国政府は,公益法人の設立手続に従い政府登録公益財団の形態で推進する。
    ―財団設立及び日本政府予算の拠出手続は,次の通り進める:①韓国内の財団設立準備委員会の発足,②両国政府間で財団の事業内容及び実施方式等を含む口上書の交換,③準備委員会-韓国政府間の財団事業等権限委任のための書簡交換,④準備委員会-日本政府間の資金拠出のための書簡交換,⑤日本政府の財団に対する資金拠出。
  9. 高官級協議で合意された「財団設立に関する論議記録」に次のような内容がある。
    -現金支払いに関し,韓国側代表から,使用先を問わない現金を日本軍慰安婦被害者らに配布することは考えておらず,本当に必要な場合にその使用先によって現金支払いを行う場合を排除しないことを望むという旨の発言があったことを勘案し,日本側代表は,その前提として,「現金の支払いは含まない」という表現の削除に同意する。
    -「財団は,両国政府に対し事業の実施について定期的に通報し,必要時両国政府間に合意する」という文案に対し,日本側代表から同文案で同意するためには,日本政府の意図に反して財団事業が実施されないものであることの確認を望むと言及した点に対し,韓国側代表からそのようにするという旨の応答があった。
  10. 双方が高官級協議で合意した内容は「日本政府は上記を表明するとともに,上記②の措置を着実に実施するということを前提として」であったが,日本側は,共同記者会見で「以上に申し上げた措置を着実に実施するということを前提として」と発表した。韓国側は,事前に合意された内容である「日本政府が上記1.②の措置を着実に実施するということを前提として」を,共同記者会見で「日本政府が先立って表明した措置を着実に実施するということを前提として」と発表した。
  11. 高官級協議の際議論された「財団設立に関する措置内容」及び「財団設立に関する議論の記録」等に基づき,「和解治癒財団」が設立され,関連事業が実施された。「財団設立に関する措置内容」は報告書14ページ脚注8),「財団設立に関する論議記録」は15ページ脚注9),「発表内容に関するマスコミの質問の際の応答要領」は12ページ脚注7)で確認できる。
  12. CEDAW/C/JPN/CO/7-8(2016)。
  13. 2017年5月拷問防止委員会は,被害者の権利及び国家責任を規定した拷問防止条約第14条の履行に関する一般論評に慰安婦合意が十分に符合しないという点等を指摘し,慰安婦合意の修正を勧告した。(CAT/C/KOR/CO/3-5)。

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