日本国との平和条約の説明書
日本国との平和条約の説明書
日本国との平󠄃和条約の說明書の正誤󠄄表
頁 | 行 | 誤󠄄 | 正 |
七 | 一一 | 漁族 | 魚族 |
一二 | 四(終りから) | 連󠄃合国 | 政府 |
一八 | 一〇 | 白瀨元中尉 | 白瀨矗元中尉 |
一九 | 三 | 六十マイル | 百六十マイル |
二一 | 二(終りから) | 定めらたている。 | 定められている。 |
三五 | 八 | 2 すでにのべた日本の国営の | 2 日本の国営の |
四〇 | 四 | 広議の | 広義の |
五〇 | 二 | 善意をものて | 善意をもつて |
五八 | 一 | 解除されたとは | 解除されたこととは |
日本国との平和条約の説明書
目次
一、対日平和問題の経緯………………………………………………………………………………一
二、サン・フランシスコ会議の経過…………………………………………………………………五
三、平和条約の内容…………………………………………………………………………………一三
四、議定書の内容……………………………………………………………………………………五五
五、宣言の内容………………………………………………………………………………………六一
一、対日平和問題の経緯
一、千九百四十七年三月十七日連合国最高司令官マックアーサー元帥は、その声明において、「いまや平和条約のための会談を開始する時機が到来しており、条約締結後の監督は、国際連合に委任すべきである」と述べた。そして、同年七月十一日平和予備会議招集に関する提案が米国政府から発せられた。この米国の提案は、極東委員会の十一箇国で会議を構成󠄃し三分の二の多数決による議決方式をとろうとするものであった。
ソ連及󠄃び中華民国以外の諸国は、同意したが、ソ連は、四大国外相会議で条約案を作成󠄃する方式を強く主張した。すなわち、四大国の拒否権を認めようとするものである。英連邦諸国は、四十七年八月にキャンベラで会合し米国提案に同調することを確認し、平和条約の内容についてもある程度の結論を得た模様であった。中華民国は、同年十一月十七日に、極東委員会の全構成󠄃国で会議し(米案と同じ)、四大国の拒否権をふくむ(ソ案と同じ)、単純多数決で議決するという妥協案を米・英・ソ三国に提案したが、容れられなかつた。ソ連は、千九百四十八年一月三日、四大国以外の国には意見のみ開陳できて投票権はもたない地位を与えて会議に参加させる方式を主張したが、米・英・華の反対にあつた。こうして、手続問題に関する関係国間の意見の対立は、遂に打開されなかつた。
この連合国間の交󠄄渉は、四十八年初めで一応打ちきりの形となり、以後四十九年の夏まで足ぶみを続けることとなつた。この間、ソ連は、あらゆる機会をとらえて、米国の対日政策を非難し、平和条約の早期締結、占領軍の即時撤退を要求した。四十八年十月には、ロンドン英連邦会議が対日平和促進の希望を再確認した。中国の世論及び国民党政府もまた平和の促進について活۵な意見を表明した。
このような情勢のうち、四十九年夏にいたり再び対日平和促進の問題が再燃した。四十九年九月十三日のベヴィン外相との会談の後、アチソン長官は、米国が二年前と変ることなく対日平和条約の早期締結を希望していること及󠄃び依然として対日平和は、五大国のみの問題ではないと考えている旨を明らかにした。翌千九百五十年四月には、共和党のダレヌ氏が国務長官顧問に就任し、対日平和問題を担当することになつた。六月にはジョンソン国防長官及󠄃びブラッドレー統合参謀本部議長、続いて、ダレス顧問が日本に来訪した。
これと時を同じくして、朝鮮動乱が勃発した。事変勃発直後は、対日平和問題の前途につき悲観的な見方が強かった。しかし、九月十五日、トルーマン大統領は、対日平和条約に関して公式談話を発表し、既に日本が国際社会に復帰すべき充分の資格があること、国務省に極東委貝会構成国代表者と非公式討議を開始することを許可したことを述べた。
じ来、米国政府は、極東委員会構成各国と非公式会談に入り、ダレス顧問が責任者としてその衝に当つた。その際、米国政府は、七項目の基礎案を各国に提示した。このいわゆる七原則は、⑴当事国の定義、⑵日本の国際連合への加入、⑶日本の領域の決定、⑷日本の安全保障、⑸政治的経済的取極、⑹戦争請求権の放棄及び⑺紛争の解決に関するもので、十一月二十四日に公表された。
これに対して、ソ連は、十一月二十日付で補足的情報を求める回答をし、十二月四日には、中共の周恩来外相がソ連に同調した見解を表明した。
二、千九百五十一年一月下旬、ダレス特使󠄃が再び来訪し、講和七原則を中心として日本政府当局及び各界代表と三週間にわたり、意見の交󠄄換を行つた。
ダレス特使は、これに引き続いて太平洋諸国を歴訪した。帰国後も同特使󠄃は、極東委員会構成各国と個別的折衝を続けたが、三月三十一日ロス・アンゼルスのホィツティア大学における演説によつて、対日平和條約に関する米国案の全ぼうを明らかにするに至つた。この演説は、米国がソ連なしでも講和を推進すること及びこれが法的に可能であること、並びに、この講󠄃和が和解と信賴の講和であることを述べた点で注目をひいた。
四月十一日に行われた連合国最高司令官の更󠄃迭も対日講和問題には、影響ないものであることが、その直後三度日本を訪れたダレス特使󠄃によつて明らかにされた。
一方、英国政府は、一月上旬に英連邦首相会議を開催して、早期講和の意図を表明した。ソ連は、五月七日中共を含む四国外相会議を提案したが、米国は、同十九日これを拒否した。
四月下旬から五月初めにかけてワシントンで行われた米英両国の事務当局間の折衝に引き続いて、ダレス特使は、六月四日ないし十四日ロンドンを訪問した。その結果、六月十四日ロンドンで発表された米英共同コミュニケは、対日平和に関する米英間の主要懸案について両国の意見が一致した旨を明らかにした。
ダレス特使󠄃とともにこのロンドン米英会談に列席したアリソン公使󠄃は、帰米の途󠄃次󠄄、パキスタン、インド、フィリピンなどを歴訪して、六月二十四日日本に到着し、日本政府当局と会談した。
三、千九百五十一年七月十二日米英両国政府は、関係各国に回付された七章二十七条から成る対日平和条約草案の全文󠄃を公表した。米国政府は、さらに七月二十日、日本及󠄃び連合国五十一箇国(米英を含む。)に対して、七月十二日公表の条約案に若干の修正を加えた条約案を添付して、対日講和会議への正式招請状を発した。この招請状は、条約案に対する各国の所見を受領後八月十三日に条約の最終案を各国に回付すべきこと、この最終案の条項により日本国との平和条約を締結署名するための会議を九月四日サン・フランシスコにおいて開会すべきことを明らかにした。
対日平和条約の最終案は、八月十五日に公表された。
サン・フランシスコ会議に招請をうけた国は、米、英、日を含めて当初五十二箇国であつたが、後に、インドシナのヴィエトナム、ラオス及󠄃びカンボディア三国が加えられたので計五十五箇国となつた。しかし、インド、ビルマ及びユーゴースラヴィア三国が参加しなかつたので、会議の参加国は、結局日本を含めて五十二箇国となつた。
二、サン・フランシスコ会議の経過
一、サン・フランシスコにおける対日平和会議は、千九百五十一年九月四日午後七時の開会式に始まり、予定どおり、九月八日午前十時からの調印式に終󠄃つた。署名は、参加五十二箇国のうち、ソ連、ポーランド、チェッコスロヴァキアの三国を除く四十九箇国によつて行われた。議定書は、二十七国によつて署名された。
この会議においては、さきに公表された條約案に何らの修正も加えられなかった。
二、会議は、九月四日夕、開会式で、ロビンソン、サン・フランシスコ市長、ウォーレン加州知事の歓迎の辞についで、トルーマン大統領の演說をきき、九月五日午前の第一回全󠄃体会議で、米英両国の提案になる議事規則を採択し、議長にアチソン国務長官、副議長にスペンダー、オーストーラリア駐米大使󠄃を選挙した。ソ連代表は、中共の招請問題を提起したが、会議は、これを認めなかつた。九月五日午後第二回全体会譲では、ダレス米国代表及びヤンガー英国代表から平和條約案についての説明を聴取した後、各国代表の条約案に対する意見陳述にいり、これは、九月五日夜(第三回全体会議)、九月六日午前(第四回全体会議)、九月六日午後(第五回全体会議)、九月七日午前(第六回全体会議)、九月七日午後(第七回全体会議)と継続された。
各国代表は、ソ連、ポーランド、チェッコスロヴァキア三国を除き、圧倒的に条約案を支持した。
また、一部には日本の過去を責め、あるいは、日本の将来について再侵略または通商上の競争等に対する危ぐをもらす向もあつたが、前記の三国を除き、すべて民主日本に対し理解と同情を示し旧来の友好協力関係にいらんことを希望した。
ソ連代表は、米英案は、カイロ宣言、ヤルタ協定、ポツダム宣言、単独不講和に関する連合国宣言、極東委員会の決定に違反し、日本の軍国主義を助長するものである、中共、インド、ビルマが会議に参加しないことは大なる欠陥のあることを立証しているとして、十三項にわたる修正案を提議した(もつとも同代表は、議長の注意に対し、「修正の提案にあらずして、ソ連政府の所見の表明である」と弁明した)。 エジプト代表は、条約第二条(領土条項)でだれのために主権を放棄するかが明らかにされていないのは、原地住民の希望を考慮する趣旨にでたものと信ずる、南西諸島については国際連合に問題が提起されるまで発言を留保する、条約第六条⒜末段の規定(外国軍隊の駐とん)は不必要である、経済条項についてアラブ諸国間の特殊関係に影響を及ぼさないものと認めること等を述べたが、これは、アラブ諸国代表の支持をうけたところであつた。
セイロン代表は、ソ連代表の意見に激しい攻撃を加え、ソ連は中国、インド、ビルマ等のアジア諸国が参加しないでは平和会議も意味をなさぬというが、拒否権をもつ四大国会議で対日平和問題を解決すべしと主張したのはソ連ではなかつたか、セイロンは賠償を要求しない、日本に友情の手を差しのべ平和と繁栄のため協力せんとするものである、と述べ、非常な拍手をうけた。
ノールウェー代表は、捕鯨問題にふれ、日本が現在以上に捕鯨船󠄅隊を増加しないよう要望し、フランス代表は、強い国民が劣等の地位におかれる場合、結局その国民が再軍備することを阻止できるものではないから、むしろ彼らを平和的再建󠄄という共同事業の仲間にすべきである、インドシナの盟邦󠄄は、賠償、将来の経済関係等について日本と交󠄄渉しなければならぬ、といい、インドシナ地域について近い将来防衛のため相互援助条約ができるよう希望するところがあつた。ニュー・ジーランド代表は、日本の再軍備に対する懸念を表明しつつ、諸般の考慮から条約において日本の国防力を制限することを断念する危険をあえてした、日本が各国から寄せられた信賴を裏切らないことを期待すると述べた後、ソ連の態度を烈しく非難し、対日平和という困難複雑な問題を処理しようとする米国その他の誠意ある、細心な、穏健な試みに悪口雑言を吐くのは、満洲のりやく奪と千島列島の占領により大もうけをした国の役柄ではないはずであると難じ、満場の拍手をうけた。
カナダ代表は、日カ漁業条約の締結と日本の国際商業道徳の改善を希望し、インドネシア代表は、条約調印後すみやかに賠償を具体的に規定する条約及󠄃びインドネシア近海の漁族保護のための条約を締結することを要望し、フィリピン代表は、日本の賠償を役務に限ることに賛成󠄃できない、条約所定以外の方式による賠償交󠄄渉を行う権利を留保するものなることを明らかにし、フィリピン人が日本人を許し友情の手をさしのべる前に日本人は精神的悔悟と再生の証拠を示さなければならないとした。
オーストラリア代表は、条約第十六条(日本の捕虜たりし連合国軍人に対する補償)に日本が同意したことを多とした後日本が将来これ以上の補償をすることを希望したが、これは、ノールウェー、オランダ代表もふれたところである。
三、各国代表の意見陳述が終了した後、七日夜(第八回全体会議)、吉田首相は、平和条約の受諾演説を行つた。演説の要旨は、次󠄄のとおりである。
「提示された平和条約は、懲罰的な条項や報復的な条項を含まず、わが国民に恒久󠄂的な制限を課することもなく、日本に完全な主権と平等と自由とを回復し、日本を自由且つ平等の一員として国際社会へ迎える「和解と信賴」の文󠄃書である。日本全権はこの平和条約を欣然受諾する。
会議の席上若干の代表は、条約に対して批判と苦情を表明したが、多数国間における平和解決にあつては、すべての国を満足させることは、不可能である。日本人にとつても若干の点について苦悩と憂慮を感ずることを否定できない。
第一、領土の処分問題である。
奄美大島、琉球諸島、小笠原群島その他平和条約第三条によつて国際連合の信託統治制度の下におかるることあるべき北緯二十九度以南の諸島の主権が日本に残されるというアメリカ合衆国全権及󠄃び英国全権の言明を、多大の喜をもって諒承する。世界とくにアジアの平和と安定がすみやかに確立され、これらの諸島が一日も早く日本国の行政の下に戾ることを期待する。
千島列島及󠄃び南樺太の地域は日本が侵略によつて奪取したものだとのソ連全権の主張は、承服できない。
日本開国の当時、千島南部の二島、択捉、国後両島が日本領であることについては、帝政ロシアもなんら異議を捿さまなかつた。得撫以北の北千島諸島と樺太南部については、一八七五年五月七日日露両国政府は、平和的な外交󠄄交󠄄渉を通じて樺太南部は露領とし、その代償として北千島諸島は日本領とすることに話合をつけた。その後樺太南部は、一九〇五年九月五日ルーズヴェルト・アメリカ合衆国大統領の仲介によつて結ばれたポーツマス平和条約で日本領となつた。
千島列島及󠄃び樺太南部は、日本降伏直後の一九四五年九月二十日一方的にソ連領に編入された。
また、日本の本土たる北海道の一部を構󠄃成󠄃する色丹島及び歯舞諸島も終戦当時会々日本兵営が存在したためにソ連軍に占領されたままである。
第二、経済問題である。
日本は、この条約によつて全領土の四五パーセントをその資󠄄源とともに喪失し、八千四百万に及ぶ日本の人口は残りの地域に閉じ込められ、しかもその地域は、戦争のために荒廃し、主要都市は燒失した。又󠄂この平和条約は、莫大な在外資産を奪う。かくの如くにしてなお他の連合国に負担を生ぜしめないで特定の連合国に賠償を支払うことができるかどうか甚だ懸念をもつ。しかし既に条約を受諾した以上は、誠意をもつて、義務を履行せんとする決意である。関係諸国が理解と支持を与えられることを要請する。
戦争で破壊された日本経済は、合衆国の援助をえて、回復の途󠄃に進むことができた。日本は、国際通商上の慣行を遵奉しつつ世界経済の繁栄に寄与する覚悟である。そのため、国内法制を整備したが、今後もその完整につとめ、且つ、関係国際条約にすみやかに加入して、国際貿易の健全なる発展に参与する覚悟である。この平和条約は、このような日本国民の念願を実現しうべき途を開いてはいるが、この途は、連合国側で一方的に閉ざしうることになっている。すべての連合国が現実にこの途を最大限に開かれるよう希望してやまない。
インドネシア外相が提起した二つの質問(賠償と漁業の問題に関するもの)に対する答は、「然り」である。けだし、それは条約第十四条及󠄃び第九条の公正な解釈だと思うからである。
第三、未引揚者の問題である。
すべての連合国が国際連合を介し、または他の方法によつて、未引揚邦󠄄人のすみやかなる帰󠄃還を実現するためにあらゆる援助と協力を与えられるよう人道のために切望する。引揚に関する規定が起草の最終段階において平和条約に挿入されたことは日本国民の満足とするところである。
上述のような憂慮すべき事由があるにもかかわらず、否、その故にこそ日本は、いよいよもつて、この平和条約を締結することを希望する。けだし、日本は平等な主権国家として上述のような懸念を除去し、諸国の不満、疑惑等を解消するために現在よりも大なる機会をもつことを期待するからである。
この会議に代表されている諸国がなるべく多く平和条約に署名されることを希望する。インドとビルマが会談に連なつていないのを残念に思う。アジアに国をなすものとして日本は、他のアジア諸国と緊密な友好と協力の関係を開かたいと熱望する。また、中国の不統一のためその代表がここに出席されることができなかつたことを遺感とする。中国との貿易の日本経済において、占める地位は、重要であるが過去六箇年間の経験が示しているように、しばしば事実よりもその重要性を誇張されている。
近時共産主義的の圧迫と專制を伴う陰険な勢力が極東において、不安と混乱を広め、且つ、各所に公󠄃然たる侵略に打つて出つつあり、日本の間近にも迫つている。日本国民は、何らの武装をもつていない。この集団的侵攻に対しては、他の自由国家の集団的保護を求める外はない。これ、日本が合衆国との間に安全保障条約を締結せんとする理由である。
日本が前述の安全保障の措置をとりたりとて、これをもつて直に日本の侵略の恐怖を惹き起すべきいわれはない。敗戦後多年の蓄積を失い海外領土と資源を取り上げられる日本には、隣国に対して軍事的な脅威となる程の近代的な軍備をする力は全然ない。この会議の開会式の席上トルーマン大統領も、日本が過去六箇年にわたる連合国の占領下に総司令官マックアーサー元帥及びリッジウエー大将の賢明にして好意に満ちた指導を得て遂行した精神的再生のための徹底的な政治的及び社会的の改革、ならびに、物質的復興について語つたが、今日の日本は、もはや、昨日の日本ではない。
日本は、一八五四年アメリカ合衆国と和親条約を結び、国際社会に入った。その後一世紀を経て、その間二回にわたる世界戦争があつて、極東の様相は一変した。数多のアジアの新しき国家は平和と繁栄を相ともに享受しようと努力している。対日平和条約の成󠄃立が、この努力の結実の一つであることを信じ、日本も国際連合の一員として迎えられる日の一日も速かならんことを祈つてやまない。世界のどこにも、将来の世代の人々を戦争の惨害から救うために全力を尽そうという決意が日本以上に強いものはない。諸国の全権は、太平洋戦争において人類がなめた恐るべき苦痛と莫大なる物質的破壊を回顧した。われわれは、この人類の大災厄において古い日本が演じた役割を悲痛な気持をもつて回顧するものである。
われわれは、平和、正義、進步、自由に挺󠄃身する国々の間に伍し、これらの目的のために全力をささげることを誓い、今後日本のみならず全人類が協調と進歩の恵沢を享受せんことを祈る。」
四、八日午前平和条約は、署名された。署名国は、ソ連、ポーランド、チェッコスロヴァキアを除く四十八の連合国と日本とであつた。議定書には、日本と二十六の連合国が署名し、二つの宣言は、日本のみが署名した。
アチソン議長は、閉会の辞において、「日本の友人」にとして「世界における平等と名誉と友好への大道に横わる障害は、連合国の方で取り除きうる限りのものは、すべて取り除かれた。残りの障害は、諸君のみが取り除きうる。諸君が理解と寛大と懇情とをもつて他の諸国と行動するならば、それは、可能である。これらの性質は、日本国民の本性のうちにある。この本性を日本政府の政策にされることをすすめる。」と述べた。
三、平和条約の内容
日本国との平和条約は、前文、本文二十七箇条及󠄃び末文からなる。
前文
条約の前文には、その条約を締結するに至つた事情をのべ、条約の指導精神を明らかにするのが例である。この条約の前文は、連合国及び日本国がこの平和条約を結ぶに至つた事情として三つのことを掲げている、その趣旨は、大要次󠄄のとおりである。(イタリア平和条約の前文のように、戦争責任や無条件降伏の事実に言及しない。)
㈠ 連合国と日本とは、今後、共通の福祉を増進し且つ国際の平和及󠄃び安全を維持するために主権を有する対等のものとして友好的に連携して行く関係を結ぶことを決意し、双方の間の戦争のため生じた問題を解決する平和条約を結ぶことを希望すること
㈡ 日本は、その意思として国際連合への加盟を申請し、国際連合憲章の原則を守り、世界人権宣言の目的を実現するために努力し、国際連合憲章第五十五条及󠄃び第五十六条に定められ且つ降伏後の日本の法制で作られはじめた安定及󠄃び福祉の条件を引き続き創造する努力をし、国際の公私の貿易、通商について公正な慣行に従うことを宣言すること
㈢ 連合国が前記㈡の日本の意思を歓迎すること
世界人権宣言とは、千九百四十八年十二月十日に国際連合第三回総会で布告された宣言であつて、条約ではない。
すなわち、千九百四十八年十二月十日の国際連合第三回総󠄃会は、世界人権宣言案を四十八対○、棄権八(ソ連、ウクライナ、白ロシア、ポーランド、チェッコスロヴァキア、ユーゴースラヴィア、サウディ・アラビア、南アフリカ)、欠席二(ホンデュラス、イェーメン)をもつて採択し、すべての人民とすべての国とが達成󠄃すべき共通の基準として、この宣言を布告した。この宣言は、前文及び本文三十条から成󠄃つている。その内容の項目は、㈠人は生れながら自由平等であること、㈡人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上もしくは他の意見、出身、財産、門地などによつて差別されないことと、㈢生存、自由及󠄃び身体の安全、㈣奴隷の禁止、㈤非人道的刑罰の禁止、㈥法の前で人として認められる権利、㈦法の前での平等、㈧国内裁判所による救済を受ける権利、㈨ほしいままに逮捕、監禁又󠄂は追放されないこと、(一〇)公正な裁判を受ける権利、(一一)有罪の判決あるまでは無罪と推定される権利及󠄃び罪刑法定主義、(一二)信書の秘密、(一三)移転、居住及󠄃び国外移住の自由、(一四)迫害から保護を求める権利、(一五)国籍保有及󠄃び変更󠄃の権利、(一六)婚姻及󠄃び家庭󠄄を設ける権利、(一七)財産所有権、(一八)思想、良心及󠄃び宗敎の自由、(一九)意見及󠄃び発表の自由、(二〇)集会結社の自由、(二一)参政権、(二二)社会保障を受ける権利、(二三)労働、職業の自由、(二四)休息及󠄃び余暇をうる権利、(二五)充分な生活水準を享有する権利、(二六)教育を受ける権利、(二七)文化生活参加の権利、(二八)社会的及󠄃び国際的な秩序を享有する権利、(二九)社会に対する義務、並びに(三〇)人権及󠄃び基本的自由の破壊に従事することの禁止である。
国際連合憲章第五十五条及󠄃び第五十六条は、諸国間の平和的、友好的関係の維持に必要な安定と福祉の条件を創造するために、一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及󠄃び社会的進歩発展の条件を促進し、さらに、人種、性、言語又󠄂は宗教に関する差別のないすべての者のための人権及󠄃び基本的自由の世界的な尊重及󠄃び遵守を促進することを定める規定である。
本文
本文は、㈠平和、㈡領域、㈢安全、㈣政治及󠄃び経済条項、㈤請求権及󠄃び財産、㈥紛󠄃争の解決並びに㈦最終条項の七章に分れている。
第一章 平和
次󠄄の一箇条だけである。
第一条
第一項は、日本と各連合国との間の戦争状態がいつ終了するかについて規定している。すなわち日本と各連合国との間で平和条約が効力を生じたそれぞれの日にその間の戦争状態が終了するというのである。この平和条約の効力発生の日については、第二十三条に詳細な規定がある。
第二項は、日本がその領域及󠄃び領水に対して完金な主権を有することを連合国が承認する。ことを規定する。
第二章 領域
第二章は、第二条ないし第四条の三箇条からなる。日本の領土の処分に関する規定である。(別紙地図参照)。
第二条
⒜ 朝鮮の独立について規定する。日本は、朝鮮の独立を承認して、朝鮮に対するすべての権利、権原及󠄃び請求権を放棄する。戦前朝鮮総督府の行政管轄下にあつた済州島、巨文島及び鬱陵島も朝鮮に含まれる。ここにいう権利、権原及󠄃び請求権は、いずれも領有権的のものであり、以下の諸項においても同ようである。
⒝ 台湾及󠄃び澎湖諸島に関する規定であつて、日本は、これらの地域に対する権利、権原及󠄃び諸求権を放棄する。日本による放棄後の帰󠄃属については、以下の各項の場合と同ようにふれられていない。
⒞ 千島及󠄃び近接諸島を含む南樺太に対する権利、権原及び請求権の放棄を規定する。南樺太の近接諸島の主なものは、海豹島及び海馬島である。
なお、千九百五年九月五日のボーツマス条約とは、米国のポーツマスの講和談判において締結された日露間の講和条約である。この条約は、日露間の戦争状態を終了させ、わが国の韓国における優位、両国軍隊の満洲撤兵、わが国の旅順大連等の租借権、わが国への長春旅順鉄道及󠄃びその支線の譲渡、ロシアの樺太南部の割譲、両国間における漁業協約締結の約諾、通商航海に関する最恵国待遇等を規定している。ソ連は、大正十円年一月二十日に北京で署名された日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦間の関係を律する基本的法則に関する条約において、ポーツマス条約が完全に効力を存続することを約束している。ロシアによる樺太南半割譲については、第九条第一項に「ロシア帝国政府は、サガレン島南部及びその附近における一切の島嶼並びに該地方における一切の公󠄃共営造物及󠄃び財産を完全なる主権とともに永遠に日本帝国政府に譲与する。その譲与地域の北方境界は、北緯五十度と定める。該地域の正確なる境界線は、この条約に附属する追加約款第二の規定に従つて決定するものとする。」と規定している。
⒟ 第一次世界大戦の結果結ばれたヴェルサイユ平和条約によつて日本が得た国際連盟の委任統治制度に関連する権利、権原及󠄃び請求権の放棄を規定し、さらに、日本は、日本の委任統治の下にあつた南洋諸島を国際連合がアメリカ合衆国の信託統治制度の下に置くこととした千九百四十七年四月二日の国際連合安全保障理事会の決議を受諾することを規定する。
委任統治地域に関する権利、権原及󠄃び請求権とは、日本が第一次󠄄世界戦争における五大国(日、英、仏、伊、米)及󠄃び四大国(日、英、仏、伊)の一つとして、旧ドイツ植民地(B式、C式委任統治地域)及󠄃び旧トルコ領土(A式委任統治地域)に対して有するすべての権利、権原及󠄃び請求権をさす。
また、千九百四十七年四月二日の国際連合安全保障理事会の措置とに、千九百四十七年四月二日に国際連合安全保障理事会がわが国の委任統治の下にあつた太平洋の赤道以北の諸島を米国を施政権者とする戦略的信託統治制度の下に置く信託統治協定案を承認した措置をいう。千九百四十六年十一月六日トルーマン大統領は、「米国が、日本の委任統治諸島及󠄃び第二次󠄄世界戦争の結果米国が責任を負う日本の諸島を米国を施政権者とする信託統治の下に置く用意がある」と述べた。この政策に従つて、米国は、千九百四十七年二月二十六日安全保障理事会に日本の委任統治諸島に関する信託統治協定案を正式に提出した。安全保障理事会は、同年三月七日、十二日、十七日、二十八日及󠄃び四月二日の会議においてこの協定案を審議して、若干の修正を施した後に国際連合憲章第八十三条に基いて採択した。これらの会議には、極東委員会の構成󠄃国で理事国でないカナダ、インド、オランダ、ニュー・ジーランド及びフィリピンの諸国が利害関係国として投票権なしで審議に参加した。この協定は、千九百四十七年七月十八日に米国政府が承認したのでその日に効力を生じた。この協定は、日本の委任統治の下にあった旧ドイツ領の赤道以北のマリアナ、カロリン及びマーシャルの諸群島を米国を施政権者とする戦略的信託統治制度の下に置くものであつて、施政権者の権利義務を詳細に規定している。
⒠ 南極地域に対する権利、権原又󠄂はこれに関する利益について、すべての請求権を放棄することを定める。南極地域については、明治四十五年(千九百十二年)一月二十八日に、白瀬元中尉を隊長とする日本の南極探険隊の一行が、南緯八十度五分、西経百五十六度三十七分の地点まで達した。日本政府は、昭和十三年(千九百三十八年)三月に、駐米日本大使󠄃館から米国国務省に対して、「日本政府は、南極地域に対する主権設定の問題については、常に発言権を留保するものであつて、形式のいかんを問わず、この問題が国際的に論議される場合には、必ず日本政府にも協議されることを期待する」旨の申入れを行つたことがある。
⒡ 新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及󠄃び請求権の放棄を規定する。
新南群島は、わが国が昭和十四年(千九百三十九年)三月三十日に、台湾の高雄州高雄市の管轄に編入した南支那海中の群島である。昭和八年(千九百三十三年)以来、フランス政府との間にその帰属についてしばしば外交󠄄交󠄄渉が行われたが、最終的には解決していなかつた。
西沙群島は、インドシナ半島の東方約六十マイルの洋上にある一群の島で、フランスと中国との間では領有問題が起つていたが、日本はこの島に対して領有権を主張したことはない。しかし、大正六年(千九百十七年)以来日本人はしばしばこの島を踏査し、大正九年(千九百二十年)以降一時この島で燐鉱の採掘を行つていたことがある。
第三条
第三条は、合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下に置くべき地域として、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及󠄃び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及󠄃び火山列島を含む。)沖の鳥島及び南鳥島について規定している。これらの地域については、将来合衆国が国際連合に対して信託統治の提案を行つた場合に、日本は、これに同意することになる。また、このような提案が行われ、且つこれが可決されるまでの間は、これらの地域と住民に対して、合衆国が行政、立法及󠄃び司法の権力のいかなるものも行使󠄃できることになつている。しかしながら、これらの地域に対しては、この条約の制限の下において日本が主権を保有することは、サン・フランシスコ会議における米国及󠄃び英国の代表によつても明らかにされたところである。
第四条
第四条は、領土の変更󠄃に伴う財産の処理の規定である。
⒜ 第二条に掲げられた地域と日本との間の財産及󠄃び請求権の処理は、すべて日本と当該地域を管治している当局との間の将来の特別取極によつて決定される。また、第二条に掲げた地域内にある連合国財産は、当該管治当局が現状のまま返還する。
⒝ 第二条及󠄃び第三条に掲げた地域における日本財産の合衆国軍政府による処分の効力に関する規定である。日本は、これまでに行われた処分の効力を承認することになる。
⒞ 平和条約によつて日本の支配から除かれる領域と日本とを結ぶ海底電線の処分に関する規定であつて、当該地域と日本との間で折半することになつている(別紙地図参照)。
第二章 安全
第三章は、第五条及󠄃び第六条の二箇条からなる。安全に関する規定である。国際連合憲章第二条に関する日本及び連合国の関係、占領軍の撤退及󠄃び日本軍隊の引揚が規定されている。
第五条
⒜ 日本は、国際連合に加盟を申請する意思を前文において宣言している。しかしこの加盟が実現する以前においても、国際連合憲章第二条に掲げる義務を平和条約上の義務として受諾する。国際連合憲章第二条は、国際連合及󠄃びその加盟国が国際連合の目的である世界平和及󠄃び国際協力を達成󠄃するに当つて従うべき原則として七箇の原則を掲げている。これらの原則とは、㈠主権平等の原則、㈡憲章に従つて負う義務の誠実な履行、㈢国際紛争の平和的解決、㈣武力による脅威又󠄂は武力の行使󠄃を慎むこと、㈤国際連合の行動に援助を与え、且つ国際連合が防止行動又󠄂は強制行動をとることのあるいかなる国に対しても援助の供与を慎むこと、㈥国際連合非加盟国によるこれらの原則の遵守の確保、㈦国内事項不干渉の七つである。そのうち平和条約は、特に前記の㈢ないし㈤の原則を明記している。
⒝ 連合国の側でも、日本との関係において国際連合憲章第二条の原則を指針として行動することを確認することを規定している。国際連合加盟国は、すでに国際連合憲章自体によってこのような義務を負つているわけであるが、ここで特に日本との関係においてこれを確認しているわけである。
⒞ わが国が主権国として国際連合憲章第五十一条に掲げられている個別的又󠄂は集団的の自衛の固有の権利を有すること及󠄃びわが国が集団的安全保障取極を自発的に締結しうることが連合国によつて承認されている。
第六条
⒜ 占領軍の撤退に関する規定である。連合国のすべての占領軍は、平和条約の効力発生後九十日以內に日本から撤退すべきものとされている。しかし、日本が連合国と協定を結んで日本領域における外国軍隊の駐とん又󠄂は駐留を認めれば、それができることになつている。なお、ポツダム宣言第十二項には、「前記諾目的が達成󠄃せられ且つ日本国国民の自由に表明せる憲思に従い平和的傾向を有し且つ責任ある政府が樹立せらるるにおいては、連合国の占領軍は直ちに日本国より撤収せらるべし」と定めらたている。
⒝ 日本軍隊の引揚に関する規定であるポツダム宣言の第九項で約束されたこの引揚がまだ完全に実施されていない限り、これが実施されるべきものとする。ポツダム宣言第九項には、「日本国軍隊は完全に武装を解除せられたる後各自の家庭󠄄に復帰し平和的且つ生産的の生活を営むの機会を得しめらるべし」と定められている。
⒞ 日本における占領軍の撤退に伴う財産の返還に関する規定である。占領軍の使用に供されている日本財産で代価がまだ支払われていないものは、平和条約の効力発生の後九十日以内に返還されることが規定されている。しかしこの返還は、日本と関係連合国の間で別段の取極が行われた場合には、その取極に従うことになる。
第四章 政治及󠄃び経済条項
この章は、第七条ないし第十三条の七箇条からなる。戦前二国間条約の効力、戦前の多数国間条約に基いて日本が有する権利、利益の放棄、漁業協定の締結、中国における特殊権益の放棄、戦爭裁判の承認及󠄃び刑の執行、通商関係並びに民間航空に関する規定が設けられている。’
第七条
⒜ 戦争前の二国間条約の効力に関する規定である。戦前、日本と各連合国との間に結ばれていた二国間条約の効力は、戦争によつで、不明確な状態にある。これらの条約を存続又󠄂は復活させるかどうかについては、当該連合国が選択権をもつ。すなわち、平和条約の効力発生の後一年以内に、各連合国は、その希望する条約を存続させ又󠄂は効力を復活させることを日本に通告することによつて、通告の日から三箇月後にその条約をそのまま復活させ又󠄂は効力を存続させることができる。この引き続いて有効とされ又󠄂は復活された条約の規定が平和条約に反する場合には、その条約は、この平和条約の規定に合致するような修正を受けることとなる。さらに、これらの条約は、国際連合憲章第百二条の規定に従つて、国際連合の事務局に登録される。こうして通告されなかつたすべての条約は、廃棄されたものとみなされる。国際連合憲章第百二条は、次󠄄のとおり定めている。
「この憲章が効力を生じた後に国際連合加盟国が締結したすべての条約及󠄃びすべての国際協定は、なるべくすみやかに事務局に登録され、且つ、事務局によつて公表されなければならない。
この条の第一項の規定に従つて登録されなかつた前記の条約又󠄂は国際協定の当事国は、国際連合のいかなる機関においても、それを援用することができない。」
⒝ 前項によつて、引き続いて有効とし又󠄂は復活される条約について、通告国は、その希望するところに従つて、植民地等その国が国際関係について責任をもつ地域への適用を除外することができることを定めている。こうして除外した地域についての除外を終止することが通告されたら、その日から三箇月後に、その地域について条約の適用が開始されることになる。
第八条
⒜ 千九百三十九年九月一日の対独戦によつて開始された戦争状態を終了するために連合国が現に結んでいる又󠄂は今後結ぶことのある平和条約その他の平和回復のための取極の効力に関する規定である。現在までに、第二次󠄄世界大戦を終結する平和条約としては、連合国とイタリア、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリア及󠄃びフィンランドとの間にそれぞれ結ばれた平和条約がある。また、平和の回復のための又󠄂はこれに関連する取極としては、千九百四十五年八月一日のベルリン会議の議事に関する米、英、ソ間の議定書、千九百四十五年六月五日発表されたドイツの敗戦と米英仏ソ四国によるドイツの最高権限を掌握する宣言、及󠄃び千九百四十六年六月二十八日に署名されたオーストリア国における管理機構に関する米英仏ソ四政府間の協定などがある。日本は、これらの条約及󠄃び取極の完全な効力を承認する。これらについて説明すれば、次󠄄のとおりである。
㈠ イタリア平和条約は、連合国とイタリアとの間に千九百四十七年二月十日に結ばれた平和条約であつて、日本に直接関係のある規定としては、イタリアの軍備制限と日独の再軍備防止の目的をもつて、イタリアと日独とに間に、資󠄄材その他の交󠄄流の行われることを禁ずる趣旨の規定がある(第四編第二款、第五十二条、第六款、第七款)。掠奪財産及󠄃び在イタリア連合国財産に関し「枢軸国」という言葉の使󠄃つてあるところがあるが、日本には直接関係がない。軍事条項における旧枢軸国との関係についての制限は、バルカン諸国の平和条約においても、イタリアの場合と大体同様である。
㈡ ベルリン会議の議事に関する議定書については、第二十条で説明する。
㈢ ドイツの敗北とアメリカ公衆国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、連合王国、フランス共和国の政府によるドイツに関する最高権限の掌握に関する宣言は、ドイツに対する占領管理の基本を定めるものである。無条件降伏後のドイツの秩序を維持し、行政を管理する必要から千九百四十五年六月五日に米、英、仏、ソ四国代表がベルリンに会同し、四国間の覚書をもつてドイツの最高権限を掌握するために発せられたものである。前文十五簡条から成󠄃り、ドイツの敗北に伴うドイツ軍の武装解除、航空機、船󠄅舶、軍用器材、軍需施設及󠄃び交󠄄通機関等の処置並びに捕虜の解放及び戦争犯罪人の逮捕等連合国による初期のドイツ管理政策を定めたものである。
㈣ オーストリアにおける管理機構に関する連合王国、アメリカ合衆国、ソヴィエト社会主義共和国連邦、フランス共和国の政府の間の協定は、オーストリアに対する占領管理の基本を定めるものである。千九百四十六年六月二十八日にウィーンーにおいて米英仏ソ四国高級󠄃委員によつて署名されたもので全文十四箇条から成󠄃る。オーストリア政府の権力の性質及󠄃び範囲(オーストリアの権力は、同国の非軍事化及び非武装化に関する権限及び同国における同盟国軍隊の保護及󠄃び安全等に関する権限を除き、オーストリアの全領域に及󠄃ぶ。)並びにオーストリアにある同盟国の機関及󠄃び軍隊の任務の性質及󠄃び範囲等を規定したものである。
日本は、また、国際連盟及󠄃び常設国際司法裁判所を終止するために作成された取極を受諾する。
旧国際連盟及󠄃び常設国際司法裁判所を終止するために作成された取極には、次󠄄のものがある。
㈠ 国際連盟における取極
⑴ 千九百四十六年四月十八日国際連盟第二十一回総󠄃会における決議(国際連盟の存花の終止を決議し併せて清算の事務を規定したもの)
⑵ 千九百四十六年四月十八日国際連盟第二十一回総会における決議(常設国際司法裁判所の解体を決議したもの)
⑶ 千九百四十六年四月十八日国際連盟第二十一回総󠄃会における決議(国際連盟の資産の国際連合への移譲に関し国際連合の特別小委員会と国際連盟監督委員会とにより作成された共同計画を承認する旨の決議)
㈡ 国際連合における取極
⑴ 千九百四十六年二月十二日国際連合第一回総会における決議(国際協定に基き国際連盟に属する任務及󠄃び権限の国際連合への移譲、これら以外の国際連盟の非政治的任務及󠄃び活動の国際連合への移譲、国際連盟の資產の国際連合への移譲、これが実施のための交󠄄渉委員会の設立などを規定したものである。)
⑵ 千九百四十六年七月十九日、国際連盟事務総長と国際連合事務総長代理との間で署名された「国際連盟のある種の資󠄄産の国際連合への移譲の実施に関する協定」
⑶ 千九百四十六年八月一日、前記⑵の両者間で署名された「国際連盟のある種の資󠄄産の国際連合への移譲における諸種の運用の実施に関する議定書」
⑷ 千九百四十六年十二月七日、国際連合第一回総会における前記⑵の協定及󠄃び⑶の議定書を承認する旨の決議
⑸ 千九百四十六年十二月十一日、国際連合第一回総󠄃会におけるヘーグの平和宮の施設の使用及󠄃び貸借料に関する国際連合とカーネギー財団との協定を承認する旨の決議
⑹ 千九百四十八年十二月十一日、国際連合第一回総会における国際連盟の資󠄄産移譲に関する決議
(前記1及び4に従い行われる国際連盟資産の国際連合への移譲に基く清算から生ずる債権の国際連盟国への配分に関する決議)
⒝ 特定の多数国間条約又󠄂はその規定に由来する権利及び利益の放棄に関する規定である。千九百十九年九月十日のサンジェルマン=アン=レイの諸条約及󠄃び千九百三十六年七月二十日のモントルー海峡条約並びに、千九百二十三年七月二十四日のローザンヌの対トルコ平和条約第十六条を掲げて いる。
㈠ ここに千九百十九年九月十日のサン・ジェルマン=アン=レイの諸条約とは、次󠄄の二条約をさす。
⑴ アフリカにおける火酒類取締に関する条約。わが国は、千九百二十二年(大正十一年)二月一日批准、同年四月六日に批准書を寄託した。この条約は、米国、ベルギー、英帝国、フランス、イタリア、日本及󠄃びポルトガルの諸国が、これらの諸国の施政下にあるアフリカ各地(アルジェリア、チュニス、モロッコ、リビア、エジプト及󠄃び南アフリカ連邦を除く。)において火酒類に漸次󠄄高率の税金を課すること、により酒精中毒の危険防止事業を遂行し、蒸溜酒類は、その成分中に含有する物質の性質により、又󠄂はその売価が低廉なために、伝播が容易であることから、土著人民に特に危害を与えるものであるのでその輸入を禁止し、且つ、蒸溜酒類の製造を厳重に取締ることを約束した条約である。また国際連盟の指揮下に国際中央事務局が設置され、この事務局は、この条約に掲げた条件による火酒類の輸入及び製造に関して締約国間に交󠄄換される各種の文󠄃書を収集し且つ保存する任務を有することになつている。
⑵ コンゴー盆地条約。わが国は、千九百二十二年(大正十一年)二月一日この条約を批准し、同年四月六日パリにおいて批准書を寄託した。条約の正式の名称は、「千八百八十五年二月二十六日のベルリン一般議定書並びに千八百九十年七月二日のブラッセル一般議定書及び宣言書の改正に関する条約」である。千九百十九年九月十日サン・ジェルマン=アン=レイで署名された。この条約においては、米国、ベルギー、英帝国、フランス、イタリア、日本及󠄃びポルトガルの諸国がこれらの国の国民及󠄃びこの条約に加入する国際連盟国(エティオピアが後に加入した。)の国民が、コンゴー盆地地域(ベルギー領コンゴーの全部、フランス委任統治領カメルーン、ベルギー委任統治領ルアンダ及󠄃びウルンディ、英領北部ローデシア、英国委任統治領タンガンイーカ、英国保護領ウガンダ、アングロ・エジプシアン・スーダンのそれぞれ一祁を含む。)において、商品の輸出入の自由及び均󠄂等待遇、道路鉄道又󠄂は傍系運河の均󠄂等開放、費用の均󠄂等徴収、内水における警察規則の無差別待遇など通商航海上の完全な自由及󠄃び均󠄂等無差別な待遇を享有することを約束しており、また、コンゴー盆地地域の東方、アフリカ東海岸に面する地域(英領ケンヤ植民地及󠄃び英国保護領ニアサランドの全部ならびに英国保護領ウガンダの大部分、英国委任統治領夕ンガンイカの大部分、ポルトガル領東アフリカの一部、イタリア委任統治領ソマリランド)については、この条約の署名国間において通商自由の原則、国民の通過に関し最恵国待遇を与えることと規定している。
㈡ 千九百三十六年七月二十日のモントルーの海峡条約は、わが国が千九百三十七年(昭和十二年)二月十六日に批准したものである。第一次󠄄世界戦争後に千九百二十三年七月二十四日にローザンヌで署名された対トルコ平和条約第二十三条は、同日付で締結された海峡制度に関する特別条約が規定しているダルダネル海峡マルマラ海及󠄃びボスボロス海峡(以下総称して「海峡」という。)における平時及び戦時の海路又󠄂は空中の通過及󠄃び航行の自由の原則を承認していた。この特別条約には、わが国も千九百二十四年(大正十三年)八月六日に批准書を寄託して当事国となつていた。千九百三十六年七月二十日のモントルーの海峡条約は、対トルコ平和条約第二十三条で確立された原則を、トルコの安全及󠄃び黒海における沿󠄅岸諸国の安全の範囲内で擁護するように前記の海峡制度に関する特別条約を改正して、これに代るものとして締結された条約である。この条約の署名国は、ブルガリア、フランス、英国(インド及びオーストラタアを含む。)、ギリシャ、日本、ルーマニア、トルコ、ソ連並びにユーゴースラヴィアの諸国で、後にイタリアが加入した。
この条約上日本が有する権利には、次󠄄のものがある。
⑴ 黒海における各沿󠄅岸国の軍艦の合計トン数についてトルコ政府から毎年二回通知を受ける権利(第十八条一(ロ))
⑵ トルコが急迫した戦争の危険に脅威されているときに軍艦の通過を制限する場合にトルコ政府から通知を受ける権利(第二十一条第三項)及󠄃びトルコが右のように軍艦の通過を制限する理由があるかないかについて意見を述べる権利(同第四項)
⑶ 海峡における外国軍艦の動静並びに条約に規定されている航海及び航空のために有益な情報を含む年報の送付をトルコ政府から受ける権利(第二十四条第五項)
⑷ 批准書の寄託、加入及び廃棄の予告に関してフランス政府から通知を受ける権利(第二十六条、第二十七条及󠄃び第二十八条)
⑸ 条約改正を発議する権利及󠄃び条約改正のために招集される会議に代表者を派遣する権利(第二十九条) これらの権利が平和条約によつて放棄される。
㈢ 千九百二十三年七月二十四日にローザンヌで署名されたトルコ国との平和条約第十六条は、次󠄄のとおり規定している。
「トルコ国は、本条約に規定する国境の外に位する地域に対し又󠄂はこれに関して有するすべての権利及󠄃び権原並びに本条約によりトルコ国の主権を認められた諸島以外の諸島に対して有するすべての権利及󠄃び権原は、その性質のいかんを問うことなくこれを放棄すべきことを声明する。これらの諸地域及󠄃び諸島の貴族は、関係国により既に解決せられ又󠄂は将来解決せらるべきものとする。
本条の規定は、各自国の隣接関係に基きトルコ国とその隣接国との間に既に成󠄃立し又󠄂は将来成立すべき特別協定を害することはないものとする。」
㈣ 対ドイツ諸協定は、ヴェルサイユ平和条約によつて連合国が得た対ドイツ賠償請求権に関するいわゆるヤング案によるドイツ賠償計画を実施するための協定及󠄃び附属書であつて、この案に基く賠償請求権と、その実施のために設立された国際決済銀行に対する出資󠄄権とがこの項によつて日本の放棄すべき利益の主なものである。
千九百三十年一月二十日のドイツ国と債権国との間の協定及び千九百三十年五月十七日の信託協定を含むその附属書のうち協定については、わが国は、千九百三十一年(昭和六年)八月二十七日にこの協定を批准して、当事国となつている。千九百二十八年九月十六日にジュネーヴに会合したドイツ、ベルギー、フランス、英国、イタリア及󠄃び日本の代表者は、ドイツの賠償問題を完全且つ最終的に解決するために財政專門家委員会を設置した。この委員会は、パリに会合して、千九百二十九年六月七日にその報告書(ヤング案)を提出した。この報告書は、同年八月三十一日のベーダ議定書によつて主義上承認された。この協定は、右の報告書及󠄃び議定書とともに新案(ドーズ案に対応して新案と呼ばれる。)と呼ばれ、戦争から生ずる財政上の諸問題のドイツに関する限りにおいて完全且つ最終󠄃の解決として締約国(ドイツ、ベルギー、英国、カナダ、オーストラリア、ニュー・ジーランド、南アフリカ連邦󠄄、インド、フランス、ギリシャ、イタリア、日本、ポーランド、ボルトガル、ルーマニア、チェッコスロヴァキア及びユーゴースラヴィア)により受諾されたものである。協定は、本文及󠄃び十二の附属書から成󠄃り、信託協定は、その第八附属書になつている。わが国は、平和条約によつて、この新案に基くすべての請求権を放棄すると共にこれから生ずるすべての義務を免かれることとなる。
国際決済銀行に関する千九百三十年一月二十日の条約は、ドイツ並びに債権国(ベルギー、フランス、英国、イタリア及び日本)とスイスとの間にヘーグで締結された条約で、国際決済銀行の定款は、この条約の附属書である。この条約に従つて、スイスは、国際決済銀行を設立した。
国際決済銀行は、ドイツ賠償金の受取、管理及󠄃び分配を目的とする機関で、賠償支払事務所及󠄃びこれに関係するベルリンの諸機関並びに賠償委員会(ヴェルサイユ条約により設立された。)の職能の中、ヤング案の実施に必要なものを受け継いだ。
平和条約によつてわが国は、国際決済銀行に対する出資権、同銀行の理事選出権、純益の分配を受ける権利、賠償案実施に伴う紛争処理のための仲裁裁判所の組織に参加する権利などすべての権利、権原及󠄃び利益を失うとともにすべての義務を免れる。
第九条
公海における漁業に関する協定についての規定である。公海漁業について、日本は、希望する連合国と漁猟の規制又は制限並びに漁業の保存及󠄃び発展を規定する協定を結ぶために交󠄄渉を開始するものとされる。
第十条
中国における日本の特殊権益の放棄を規定する。特に北清事変の後千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書及󠄃びこれを補足するすべての文󠄃書から生ずる利得及󠄃び特権が放棄の対象に含まれることが明示されている。また、これらの議定書その他の文󠄃書が日本国に関して廃棄されることに、日本は、同意する。
千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書は、千九百一年九月七日に北京においてドイツ、オーストリア、ベルギー、スペイン、米国、フランス、英国、イタリア、日本、オランダ、ロシア及󠄃び清国の間に締結された議定書である。この議定書から生ずる利得及󠄃び特権としては、㈠団匪賠償請求権(第六条)、㈡北京公使󠄃館区域行政権(第七条)、㈢公使󠄃館区域の駐兵権(第七条)、㈣北京海港間の連絡主要地点の占領権(第九条)がある。
中国における特殊の権利及󠄃び利益とは、不平等条約に基き、中国の主権を制限するような日本の権利及󠄃び利益を総称するものであつて、その主要なものは、戦争前すでに放棄されたものを除いて、專管租界(天津、漢口、、蘇州、杭州、沙市、重慶)及󠄃び共同租界(上海、鼓浪嶼)に関する権利、関東州租借権、治外法権(領事裁判権)、海関特権(一部)、鉄道利権(一部)、満鉄守備兵駐屯権、内水航行権、沿󠄅岸貿易権、不割譲約定に基く権利、鉱山利権(一部)、一方的最恵国条項に基く権利等が考えられる。これらの諸権益のうち、租界に関する権利及󠄃び北京公使󠄃館区域行政権は、千九百四十三年一月九日の日華協定で、また北京公使󠄃館区域駐兵権及󠄃び北京海港間の連絡主要地点占領権は、千九百四十三年十月三十日の日華同盟条約で、それぞれ汪政府に対して返返還されたものである。また治外法権(領事裁判権)についても、千九百四十年十一月三十日の日華基本条約及󠄃び前記の日華協定によつてその撤廃の方針が定あられたが、実施をみるに至らなかつたものである。
第十一条
日本が極東国際軍事裁判所をはじめ、すべての連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、日本に拘禁されているいわゆる戦争犯罪人の刑を日本が執行することに関する規定である。これらの拘禁されている者の赦免、減刑、仮出獄は、刑を課した連合国政府の決定と日本の勧告に基く場合のほか行うことができない。
極東国際軍事裁判所によつて刑を宣告された者については、この裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定と日本の勧告がある場合の外行いえない。
なお、国外で服役中の戦争犯罪人については、規定がない。
第十二条
この条は、平和条約の効力発生後における貿易、海運その他の通商関係について定める。
⒜ 通商について日本と連合国との将来の関係に安定的且つ友好的な基礎を与えるため、条約又󠄂は協定を結ぶための交󠄄渉を開始する用意があることを日本が宣言する。この条約又󠄂は協定のうち最も重要なものは、通商航海条約である。これらの条約又󠄂は協定が締結された後においては、この条の⒝以下の規定は、当該国については適用されない。
⒝1 前記の条約又󠄂は協定が締結されるまで、日本が、平和条約の最初の効力発生の後四年間、連合国民、連合国の産品及ぴ船󠄅舶に日本が与える待遇を規定している。
(ⅰ) 日本が最恵国待遇を与えるのは、貨物の輸出入に対する、又󠄂はこれに関連する関税、課金、制限その他の規制についてである。
(ⅱ) 日本国が内国民待遇を与えるのは、海運、航海及󠄃び輸入貨物についてと自然人、法人及󠄃びその利益についてである。自然人、法人及󠄃びその利益に関する内国民待遇は、課税及びその徴収、出訴及󠄃び受訴、契約の締結履行、すべての財産権、法人への参加及󠄃びすべての種類の事業活動及󠄃び職業活動の遂行に関するすべての事項を含む。
2 すでにのべた日本の国営の商企業の国外における売買に関するもので、その売買が商業的以外の考慮に基いて行われることがないように確保すべきことを規定する。日本のこの義務も平和条約の最初の効力発生後四年間に限られる。国営商企業としては、專売公社、食糧配給公団その他がある。
なお国際貿易憲章や関税貿易一般協定にもこれと同ようの規定かある。
⒞ これらの待遇が相互主義に基いて、与えられるべきことを規定している。そして、この相互主義は、連合国の属地、邦󠄄又󠄂は州についてそれぞれ適用される。
⒟ 例外として差別的措置の認められる三つの場合を定めている。
その一つは、適用国の通商航海条約に通常規定されている例外である。
通常の例外としては、内水航行、沿岸貿易、国境貿易、道徳、人道上の理由によつて課される措置、公安に関する法令及び規則に必要な措置、人及󠄃び動物の保護のために必要な措置、刑務所において造られた物品に関する措置、美術的、歴史的又󠄂は孝古学的価値のある国宝の保護のため課せられる措置がある。次は、当事国の対外的財政状態又󠄂は国際収支を保護する必要に基くものである。「自国の通貨準備の重大且つ急迫な減少の危機の予防又󠄂はこのような減少を防止するために必要な輸入制限の新設、維持又󠄂は強化」(国際貿易憲章第二十一条)の措置、及󠄃び「戦後過渡期における経常的国際収引のための支払及󠄃び振替に対する制限の継続及󠄃び事情の変化に応ずるその改訂」の措置は、これに該当する。第三は、重大な国の安全上の利益を維持する必要に基くものである。
しかし、これらの例外に認められる差別待遇は事態に相応しており、且つ、勝手に又󠄂は不合理な方法で適用されてはならないものとされる。
(e) この条に基く日本の義務が第十四条に基く連合国の権利行使󠄃によつて影響されることもなければ、また、この条が第十五条による日本の義務に影響することもないことを規定している。
第十三条
国際民間航空に関する規定である。連合国から要請があれば、日本は、国際民間航空運送に関する協定を締結するための交󠄄渉を行う義務を負い、このような協定が締結されるまでの期間、連合国は、少くとも平和条約の効力発生時に享有しているとおりの権利と特権を引き続いて享有することができる。もつとも、右の期間は、無制限ではなくて、秘話条約の最初の効力発生後四年間に限られている。国際民間航空条約については、後に日本が平和条約と同時に行つた宣言の項で説明するが、この条約の第九十三条は、㈠国際民間航空条約の署名国(第九十一条)㈡連合国(千九百四十二年一月一日の連合国宣言に署名し又󠄂は加入した国及󠄃びこれと連合している国、並びに㈢今次󠄄戦争中中立であつた国(第九十二条)の三種の国を除いた他の国の国際民間航空条約加入に関する規定である。すなわち、第九十一条及󠄃び第九十二条⒜に規定した以外の国は、世界の諸国が平和を維持するために設定する一般的国際機構(国際連合を指す。国際民間航空条約が成立した千九百四十四年十二月七日には国際連合は、成󠄃立していなかつた。)の承認(国際連合憲章第十八条に基く総会の過半数による承認)を受けることを条件として、国際民間航空機関総会の五分の四の賛成󠄃投票によって、且つ、総会が定める条件(多くは分担金に関する条件)に従つて、この条約に参加することを承認されるが、各場合において、承認を求める国によつて今次󠄄大戦の間に侵略され又󠄂は攻撃された国の同意を要することになつている。
なお、国際連合と国際民間航空機関との協定第七条は、国際民間航空条約第九十一条及󠄃び第九十二条⒜に規定した国以外の国が右の条約の締約国となるために国際民間航空機関に提出した申請は、機関の事務曲が、国際連合の総会直ちに送付しなければならない。総会は、右の申請の却下を勧告することができ、この勧告は、機関が受諾しなければならない。総会が申請受領後の最初の会議において右の勧告を行わない場合は、右の申請は、条約第九十三条に規定した手続に従つて機関が決定する」と規定している。
右の条約に対する日本の加入が仮に早急に実現しない場合にも、日本は、条約の規定並びに条約の附属書として採択された航空関係の標準方式及󠄃び手続を事実上実施することを約束する。
国際民間航空条約の附属書として採択される基準、慣行及󠄃び手続とは、国際民間航空条約第三十七条に基いて国際民間航空機関が採択する国際基準並びに勧告される慣行及󠄃び手続をいう。この条は、次󠄄のとおり規定している。
「各締約国は、航空機、職員、航空路及󠄃び附属業務に関する規則、標準、手続及󠄃び組紐の実行可能な最高度の統一を、この統一が航空を容易にし且つ改善するあらゆる事項について確実にすることに協力することを約束する。
このために、国際民間航空機関は、次の事項に関する国際基準及󠄃び勧告される慣行手続(リコメンデッド=プラクティシズ=アンド=プロシデュアズ)を、必要に応じて随時採択し及󠄃び改正する。
⒜ 通信組織及󠄃び航空援助・施設・地上標識を含む。
⒝ 空港及び離着陸場の性質
⒞ 航空規則及󠄃び航空交󠄄通管制方式
⒟ 運航及󠄃び機関職員の免許
⒠ 航空機の滞空性
⒡ 航空機の登録及󠄃び識別
⒢ 気象情報の収集及󠄃び交󠄄換
⒣ 航空日誌
⒤ 航空地図及󠄃び航空図
⒥ 税関及󠄃び出入国の手続
⒦ 遭難航空機及󠄃び事故調査
並びに、航空の安全、正確及󠄃び能率に関係のある他の事項で随時適当と認めるもの。」
これらの国際基準並びに勧告される慣行及󠄃び手続は、国際民間航空機関の理事会が採択する(第五十四条⑴)。国際基準並びに勧告される慣行及󠄃び手続に従うことができない国は、自国の方式と国際基準によつて設定された方式との間の差異を直ちに図際民間航空機関に通告しなければならない(第三十八条)。
国際民間航空機関の第一回総会が採択した定議によると、「基準」とは、物理的特性、構󠄃造、材料、性能、職員又󠄂は手続の明細であつて、国際航空の安全又󠄂は正確のためにその一律な適用が必要であると認められ、且つ、加盟国がシカゴ条約に従つてそれに従うべきもので、それに従うことができない加盟国は、条約第三十八条に基きその旨を理事会に通告すべきものをいい、「勧告される慣行」とは、物理的特性、構󠄃造、材料、性能、職員又󠄂は手続の明細であつて、国際航空の安全、正確又󠄂は能率のためにその一律な適用が望ましいと認められ、且つ、加盟国がシカゴ条約に従つてそれに従うよう努力すべきものをいう。
第五章 請求権及󠄃び財産
第五章は、第十四条ないし第二十一条の八箇条からなる。戦争び結果として生じた連合国側の日本に対する請求権及󠄃び一般財産関係の処理に関する規定である。
第十四条
広議の賠償に関する規定である。
⒜ 日本が連合国に賠償を支払うべきものであることは承認されるが、同時に、日本の資󠄄源をもつてしては、現在完全な賠償支払と他の債務の履行をあわせて行うものとすれば、日本はとうていその経済を維持することができないことも承認されている。そこで、
1 第一に、現在の領域が日本国軍隊によつて占領され、且つ、日本国によつて損害を与えられた連合国から希望があるときには、日本人の役務を提供することによつて償いをするものとし、そのための取極を締結するための交󠄄渉をすみやかに開始しなければならない。役務を提供すべき作業の例として生産と沈船引揚げが挙げられている。この取極の内容について、二つの条件が付けられている。第一は、他の連合国に迷惑をかけてはならない、ということである。例えば、日本がその取極によつて賠償を支払う結果、他の連合国が日本に与える経済上の援助の額を増さなければならない、とふうようなことがあつてはならない。第二は、役務の内容が原材料からの製造である場合には、日本に外貨の負担を課さないために、その原材料は、その製造を要求する連合国が供給しなければならないということである。
2 前項1は、狭義のいわゆる賠償であるが、第二種の賠償として、日本の在連合国財産は、連合国の処分にゆだねられる。日本の国家及び国民、それらの代理者又󠄂は代行者、並びにそれらが所有し又󠄂は支配した団体に俗する財産が対象となる。その留置、清算及󠄃び処分は、連合国の国内法に従つて行われる((Ⅳ)参照)。ただし、処分から除外される日本財産がある。すなわち、㈠日本に占領されなかつた地域に当該国の許可を得て戦争中に居住した日本人個人の財産、同大公使󠄃館、領事館及󠄃びその職員の財産、㈢宗教団体又󠄂は慈善団体の財産、㈣終戦後の正常な取引に基いて得た財産、㈤日本国若しくは日本国民の債務で円貨表示のものがこれである((Ⅱ)参照)。これらの財産の返還を受けるためには、保管及󠄃び管理のための費用を支払わなければならない((Ⅲ)参照)。なお、一般の財産、権利及び利益とことなり、特に日本の商標及󠄃び著作権については、連合国でなるべく有利な取扱いをすることになつている((V)参照)。
⒝ 前項⒜の日本の賠償義務に対応して、本項は、連合国が、この平和条約中で特に規定されているものを除いて、㈠すべての賠償請求権、㈡戦争遂行中に日本及び日本国民がとつた行動から生ずる連合目及󠄃び連合国民の他の請求権並びに、㈢占領の直接軍事費に関する請求権を放棄する旨を規定する。直接占領軍事費とあるのは、占領期間中の経済援助費等を含まない意味である。
第十五条
在日連合国財産の返還及󠄃びこれに関する補償に関する規定である。
⒜ 戦争の開始から終󠄃戦(昭和二十年九月二日)までのいずれかの時に日本国内にあつた連合国及󠄃びその国民の有体及󠄃び無体財産は、返還される。この財産には、いわゆる掠奪財産が含まれる。原所有者たる連合国民が強迫又󠄂は詐欺によらないで、自由意思に基いて処分した財産は、返還する必要はない。返還は、申請に基いて行われ、申請がないものは日本政府が処分することができる。申請は、平和条約が当該連合国との間に効力を発生してから九箇月以内に行われることを要し、申請があつたならばその日から六箇月以内に返還が行われなければならない。開戦時に日本にあつた財産で返還不能のもの及󠄃び戦争の結果損傷若くは損害を受けているものに関する補償は、昭和二十六年七月十三日に政府が決定した連合国財産補償法案で定められた条件よりも不利でない条件で行わなければならないとしている。すなわち、この立法が予想され、また、その内容は、補償法案におけるよりも連合国側にとつて不利なものであつてはならないとされている。
⒝ 戦争中に侵害された工業所有権については、日本の「連合国人工業所有権戦後措置令」、「連合国人商標権戦後措置令」及󠄃び「外国人の商号に関する臨時措置令」の三政令で定められた条件よりも不利でない条件を連合国及󠄃びその国民に与えなければならない。しかし、それは申請があつた場合に限るのであり、申請の期間は、政令に定められたとおりとされている。
⒞ 連合国及󠄃びその国民が昭和十六年十二月六日(日本の日時では、十二月七日)に日本に所有していた著作権は、戦争中引き続いて有効であつたものとし、前記の日に日本が当事国であつた著作権に関する条約又󠄂は協定が戦争中に日本によつて又󠄂は連合国によつて廃棄され又󠄂は停止されていたとしても、これらの条約又󠄂は協定が有効であつた場合に生ずるはずであつた権利を承認しなければならない((Ⅰ)参照)。これらの権利の期間の算定については、戦争開始の日から当該連合国との間で平和条約が効力を発生する日までの期間を差し引き、日本で翻訳権を取得するために著作物が日本語に翻訳されるべき期間からは、前記の期間に六箇月を追加したものを差し引かなければならない((Ⅱ)参照)。
千九百四十一年十二月六日に日本が当事国であつた文󠄃学的及󠄃び美術的著作権に関する条約及󠄃び協定には、次󠄄のものがある。
㈠ 千九百八年十一月十三日にベルリンで及󠄃び千九百二十八年六月二日にローマで改正された千八百八十六年九月九日の文学的及󠄃び美術的著作物保護に関するベルヌ条約。日本国は、于九百三十一年七月十日に批准書を寄託している。日本国は、批准書の寄託に当つて、この条約の第二十七条⑵の規定に従つて従前の留保の利益すなわちこの条約の第八条に定められた著作物を翻訳し又󠄂は翻訳を許可する著作者の特権に関しては、千八百九十六年五月四日にパリで署名された追加規定第一条第三により改正された千八百八十六年九月九日のベルヌ条約第五条の規定(同盟国の一に属する著作者又󠄂はその継承人は、他の同盟国において原著作物に関する権利の継続期間その著作物を翻訳し若しくはその翻訳を訐可する特権を享有する。もつとも、原著作物第一発行の日より起算して十年以内に同盟国の一でその保護を請求しようとする国語に翻訳したものを公にし若しくは公󠄃にさせてその権利を使用しないときは、翻訳の特権は消滅するものとする。)に引き続いて準拠することを望む旨を宣言している。
この条約において同盟国は、他の同盟国国民の著作物及󠄃び自国の領域内ではじめて公󠄃にされた著作物に原則として内国民待遇を与えることについて約束しており、この待遇は、なんらの方式の履行をも要せずして与えられることが規定されている。また、ベルヌに文󠄃学的及󠄃び美術的著作物保護国際同盟事務局を維持することについても規定されている。
㈡ 日米著作権保護に関する協約。千九百五年十一月十日に東京において署名、千九百六年四月二十八日に日本国が批准した。第一条において、複製に関する内国民待遇、第二条について、翻訳自由について規定している。
第十六条
中立国及び旧枢軸国にある日本資󠄄産の引渡に関する規定である。引渡の目的は、日本の捕虜であつた者が戦争中にこうむつた不当な苦難に対して償いをすることにある。引渡先は、赤十字国際委員会である。
赤十字国際委員会は、引渡を受けた資産を清算し、その結果生ずる資金を、委員会が衡平と決定する基礎において、捕虜であつた者及󠄃び家族に分配する。分配は、各国の適当な国内機関を通じて行う。日本資󠄄産のなかには、この処分から免除されるものがある。その資󠄄産は、第十四条⒜2(Ⅱ)の(ⅱ)から(ⅴ)までに掲げた種類のもの及󠄃び平和条約の最初の効力発生の時に日本に居住していない日本の自然人が有するものである。また、日本の金融機関が現に所有する国際決済銀行の株式一万九千七百七十株も引渡の対象にならない。出資󠄄株の払込金は、返還される。国際決済銀行の資本金は、五億フランで、二十万株になつており、四分の一払込済みである。日本の払込額は、千二百三十五万六千二百五十金フランで米貨換算約四百万ドルになる。出資󠄄者は、民間有力銀行十行である。
第十七条
日本の捕獲審検所及󠄃び裁判所が行つた決定、命令及び裁判の再審査を行うことに関する規定である。今次󠄄の戦争における日本の捕獲審検機関は、明治二十七年八月二十一日公布の勅令第百四十九号「捕獲審検令」により、昭和十六年十二月十七日公󠄃布の勅令をもつて開設された。だ捕した船舶の審査決定がその主任務であつた。
⒜ 連合国の要請があれば、日本政府は、当該連合国の国民の所有権に関係がある日本の捕獲審検所の決定又󠄂は命令を再審査しなければならない。再審査は、国際法に従つて行われる。その結果、必要と認められれば、修正をしなければならない。また、事件の記録のすべての文󠄃書の写を提供しなければならない。再審査又󠄂は修正の結果、返還すべきことが明らかになれば、第十五条の連合国財産返還の規定が適用される。
⒝ 戦争の開始期から平和条約の効力発生までの期間に、日本の裁判所が行つた裁判で、連合国国民が原告又󠄂は被告となつており、事件について十分な陳述をすることかできなかつたものについて、当該国民が当該国との間に平和条約が効力を発生してから一年以内にその再審査を求めることかできるようにするための措置をとらなければならない。再審査は、日本の機関によつて行われる。再審査の結果、当該国民が不当な裁判に服していたことが明らかとなつた場合には、その国民を裁判前の地位に回復し、又󠄂は公正且つ衡平な救済を与えなければならない。
第十八条
⒜ 戦前の金銭債務に関する規定である。戦争の存在は、戦前の債務及び契約並びに権利から生ずる金銭債務に影響なきものとされる。連合国側の日本側に対するものも、日本側の連合国に対するものも、そうである。但し、連合国は、この条の規定にかかわらず、第十四条の規定によつて在連合国財産として本条によつて有効とみとめられる日本金銭債権に対し留置、清算及び処分の措置を行う権利を有する。
⒝ 日本は、その外債に関する責任を確認する。そして、国の責任となつている外債については、その支払の再開について債権者側とすみやかに交󠄄渉を開始し、また、その他の請求権及󠄃び債務については、交󠄄渉を捉進し、支払を容易にするという意思を表明している。
第十九条
日本が有する請求権を放棄することに関する規定である。
⒜ 日本及󠄃び日本国民が連合国及󠄃び連合国民に対して打する請求権で、戦争から生じ、又󠄂は戦争状態が存在したためにとられた行動から生ずるもの及󠄃び平和条約の効力発生前に日本国内における連合国の軍隊又󠄂は当局の存在、職務遂行又󠄂は行動から生ずるものを放葉する。
⒝ 前項⒜の請求権の中には、千九百三十九年九月一日以後に連合国が日本船󠄅舶についてとつた行動及󠄃び日本人捕虜と抑留者についてとつた行動から生ずる請求権が含まれる。しかし、終戦後にいずれかの連合国が法律で特に認めた日本人の請求権は含まれない。
⒞ ドイツとの関係においては、相互主義を条件として、千九百三十九年九月一日の欧州戦争勃発前のものと、千九百四十五年九月二日の終戦後に発生したものとを除き、すべての請求権を放棄する。
⒟ 日本は、占領中に、占領当局の指令又󠄂は日本の法令によつて行われた行為(作為又󠄂は不作為)の合法性を認め、これについて連合国民の民事又󠄂は刑事の責任を問わないこととされる。
第二十条
在日ドイツ財産に関する規定である。
ドイツの有する在外資󠄄産は、連合国の管理下におかれ、米、英、仏その他ドイツから賠償を受ける権利を有する諸国のための賠償にあてられることが、千九百四十五年のベルリン会議の議定書に規定されている。この措置の履行を確保させるために、日本は、日本にあるドイツ財産の保存及󠄃び管理について責任を負わされる。
ベルリン会議の議事に関する議定書とは、千九百四十五年八月一日、ベルリンにおいてソ連のスターリン、米国のトルーマン、英国のアトリーの三者によつて署名されたものである。全文二十一節より成󠄃り、別に二つの附属書がついている。内容は、イタリア、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、フィンランド等との平和条約を起草し、且つ、平和解決のための必要な準備的事業を行うための外務大臣理事会の設置(第一節)、初期の管理期間におけるドイツの待遇を規律する原則の設定(第二節)、ドイツからの賠償(第三節)、戦争犯罪人、オーストリア、ポーランド、イラン等に関する事項、平和条約の締結及󠄃び国際連合への加入等に関する事項等である。
この議定書の第二節第十八項は、「ドイツに対する戦争に参加した連合国の管理の下にいまだ属していないドイツ所有の外国資󠄄産に対する管理を行い、且つ、この資󠄄産に対する処分権を行使󠄃するため管理理事会(千九百四十五年八月二日の「ポツダム協定」の結果設立された連合国管理機構󠄃の一部を成󠄃すもので米英仏ソ四国軍司令官をもつて構󠄃成󠄃され、ドイツ全体の管理に関する連合国側の最高機関である。)は、適当な手段をとらなければならない」と規定している。従つてこの条文だけから見れば在日ドイツ財産の管理処分も、米英仏ソの四国より成󠄃る管理理事会の権限に属するわけである。しかし第三節第八項は「ソヴィエト政府は、賠償に関する請求権であつて、ドイツ西部占領地帯内にあるドイツ企業の株式及󠄃び次󠄄の9、に明示されている国を除いたすべての国にあるドイツの外国資󠄄産に対するものの全部を放棄する」と規定し、第9項には、日本の名は明示していないから、ソヴィエト政府は、在日ドイツ資󠄄産に対する賠償に関する請求権を放棄したことになる。従つてこの条の「ドイツ財産を処分する資格をもつ各国」とは、在日ドイツ資産が適用を受ける限りにおいては、英米仏の三国ということになる。
第二十一条
中国と朝鮮についての受益規定である。この条約の第二十五条は、この条約に署名、批准をしない国には、いかなる権利、権原、利益も与えないことを明らかにしている。これに対する特則として、特に中国及び朝鮮は、この条約の若干の条項の利益をうけることを規定した。すなわち、中国は、第十条(日本の中国における特殊権益の放棄)及󠄃び第十四条⒜2(連合国にある日本財産の処分)の利益をうけ、朝鮮は、第二条⒜(朝鮮の独立承認と朝鮮に対する領有権の放棄)、第四条(日本と割譲地域との間の財産関係の処理)、第九条(漁業協定の締結のための交󠄄渉)及󠄃び第十二条⒜(通商航海条約の締結のための交󠄄渉)の利益をうける。
第六章 紛󠄃争の解決
本章は、次の一箇条だけである。
第二十二条
この条約の解釈や実施に関し、紛争が生じた場合の措置を規定している。このような紛争で特別請求権裁判所又󠄂は他の合意された方法で解決されないものは、紛󠄃争当事国の要請により、国際連合の主要機関の一であり、ヘーグに所在する国際司法裁判所の決定に付託される。そのため、わが国と国際司法裁判所規程の当事国でない連合国(例えばセイロン)とは、この条約の批准と同時に、紛争に関し、国際司法裁判所の管轄権を受諾するため宣言についての千九百四十六年十月十五日の国際連合安全保障理事会の決議に従つて、この条約に関するすべての紛争について裁判所の管轄を受諾する一般宣言書を裁判所書記に寄託しなければならない。国際司法裁判所規程第三十五条第二項は、裁判所が安全保障理事会の定める条件の下で裁判所が規定の当事国以外の国にも開かれることを定めている。この決議は、右の条件を定めたものである。この条件は、次󠄄のとおりである。
国際連合憲章並びに国際司法裁判所規程及󠄃び規則の条項及󠄃び条件に従つて裁判所の管轄を受諾し、また、裁判所の決定に善意をものて従い、且つ、憲章第九十四条に基く国際連合加盟国のすべての義務を受諾することを約束する宣言書を裁判所書記に寄託すること。
この宣言書には、特定の紛󠄃争についてのみ裁判所の管轄を受諾する特定宣言書及󠄃びすべての紛󠄃争又󠄂は特定の種類の紛󠄃争について裁判所の管轄を受諾する一般宣言書とがある。
ここに国際司法裁判所規程というのは、国際連盟の機関であつた常設国際司法裁判所規程(千九百二十年十二月十三日の署名議定書)にならつて、国際連合の主たる司法機関である国際司法裁判所が組織を定める規定であつて、国際連合憲章に附属し、この憲章と不可分の一体を成󠄃すものである。この規程は、国際司法裁判所の構成󠄃管轄及󠄃び手続について規定している。現在の国際連合加盟国六十国のほかに、スイス及びリヒテンシュタインの二国が当事国となつている。
第七章 最終条項
第二十三条ないし第二十七条の五箇条からなり、条約の発効要件、二国間平和条約の締結についての規定を設けている。
第二十三条
この条約の効力発生に関して規定している。
⒜ この条約は、批准を要する。日本の批准も必要とされる。条約の効力は、わが国の批准書の寄託とオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュー・ジーランド、パキスタン、フィリピン、英国及󠄃び米国の十一国の過半数すなわち六国(この中には、主たる占領国としての米国が含まれていなければならない。)の批准書の寄託とが行われた時に、それまでに批准している国に関して効力を生ずる。その後批准する国については、ぞれぞれ批准書を寄託する日に効力を生ずる。
⒝ わが国の批准書の寄託の日から九箇月を経過してもこの条約が発効しなかつた場合には。この条約を批准した国は、日、米両国政府へ通告することにより、その国とわが国との間に平和条約の効力を発生させることができる。この通告のための期間は、日本の批准書寄託の日から三年間である。
第二十四条
批准書の寄託についての技術的規定である。批准書は、米国政府に寄託される。米国政府は、この寄託や、前条⒜によるこの条約の発効期日や、前条⒝に規定された通告を署名国全部に通告することになつている。
第二十五条
第一に、この条約の適用上における「連合国」の定義を下している。すなわち、連合国とは、日本に対して戦争していた国又󠄂は以前に第二十二条に掲げた国の領域の一部をなしていたもので、当該国がこの条約に署名し且つ批准しているものである。第二に、先に述べた中国及󠄃び朝鮮の受益規定を留保して、この条約は、連合国でないいかなる国に対してもいかなる権利、権原又󠄂は利益をも与えるものでないこと、したがつて、また、わが国の権利、権原、利益は、この条約のどの規定によつても連合国でない国のために減損されたり、害されたりするものでないことを規定している。
第二十六条
二国間平和条約の締結に関する規定である。一定の条件に適合する国からこの条約に定めるところと同一の又󠄂は実質的に同一の条件で二国間平和条約を締結することを提議して来た場合には、日本は、これに応じなければならない。一定の条件とは、第一に、連合国宣言(千九百四十二年一月一日に、ワシントンで署名されたもので、前年八月ルーズヴェルト米大統領とチャーチル英首相との間に署名された大西洋憲章に賛同し、枢軸国との戦争のため協力し、且つ単独不休戦及󠄃び不講和を約している。署名国は、二十六国、加入国は、二十一国、合計四十七国が当事国である。)に署名し又󠄂は加入していること、第二に、日本と戦争状態にあることである。以前に第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていた国も、この二国間平和条約を締結する権利を有する。但し、この日本の義務は、この条約の最初の効力発生後三年間で満了する。この適用がありうるのは、ビルマ、中国、チェッコスロヴァキア、インド、ポーランド、ソヴィエト連邦、ユーゴースラヴィアの七国である。なお、日本がいずれかの国とこの二国間平和条約で、この条約に規定するよりも大きな利益を与える平和処理又󠄂は戦争請求権処理を行つたときは、これと同一の利益は、この条約の当時国にも及󠄃ぼされなければならない。
この条の規定は、この条約には、加入条項が設けられていないために、これに代るものとして置かれたものである。
第二十七条
この条約の正文は、米国政府の記録に寄託し、保管されること及󠄃び同政府は、この条約の認証謄󠄅本を各署名国に交󠄄付することが規定されている。
末文󠄃
各国の全権委員は、以上の証拠としてこの条約に署名するものであることを述べ、この条約の作成期日、場所及󠄃び各国語による条約の本書の作成について述べている。条約の正文󠄃は、英語、フランス語及󠄃びスペイン語であつて、同時に日本文󠄃も作成されたが正文󠄃ではない。
四、議定書の内容
議定書案は、平和条約案と同時に本年七月十二日はじめて発表され、その後多少の変更󠄃を加えたものが八月十五日に、平和条約とともに最終案として発表された。サン・フランシスコ会議においでは、この案のとおり何らの変更󠄃を加えられずに署名された。署名した連合国は、オーストラリア、ベルギー、カンボディア、カナダ、セイロン、ドミニカ、エジプト、エティオピア、フランス、ギリシャ、ハイティ、インドネシア、イラン、イラーク、ラオス、レバノン、リベリア、ルクセンブルグ、オランダ、パキスタン、サウディ・アラビア、シリア、トルコ、連合王国、ウルグァイ、ヴィエトナムの二十六箇国である。
議定書は、契約、時効の期間、流通証券、保険契約、特別規定及󠄃び最終条項について規定している。
が、この種の規定は、ヴェルサイユ平和条約等の第一次󠄄世界戦争後のものにも、イタリア平和条約等の第二次󠄄世界戦争後のものにも含まれている。
議定書の内容は、次󠄄のとおりである。
A 契約
1、敵人間の契約で、その履行のために交󠄄渉を必要としたものは、原則として、当事者のいずれかが敵人となつた時から解除されたものとみなされる。しかし次󠄄項以下に掲げる例外については、この項の適用はなく、また、平和条約の第十五条、第十八条の規定を害するものでもない。更󠄃に、契約の当事者に対しては、前渡金又󠄂は内金として受領され、且つその当事者が反対給付を行わなかつた金額を払いもどす義務を免除するものでもないことを規定している。
2、敵人間の契約で分割󠄅することができ、且つその履行のために交󠄄渉を必要としなかつた契約の一部は、解除から除外され、且つ平和条約第十四条に含まれる権利を害することなく、引き続き有効である。契約の規定が分割できないものである場合は、その契約は、解除されたものとみなされる。上述のことは、この議定書の署名国で且つ平和条約にいう連合国であり、当該契約又󠄂はその当時者に対して管轄権をもつものが制定した国内法、命令又󠄂は規則の適用をうけ、且つ当該契約の条項に従うものとされる。
3、解約に関する上述の原則は、連合国たる関係政府の許可を得て行われた敵人間の契約には適用されない。
4、また、この議定書D及びE項で規定される当事者が適人となつた日の前に終了していなかつた保険及󠄃び再保険契約には適用されない。
B 時効期間
1、戦争中時効の進行が中断されることを規定している。この項の規定の利益は、連合国と日本との間に相互主義の下で適用される。この場合連合国のうちでこの利益を相互主義によつてわが国に与えない国に対しては、適用されない。中断される時効は、戦争のために権利保全上の手続ができなかつたすべての時効期間及󠄃び制限期間とされ、その期間が戦争の発生前に始まつたものであるか又󠄂は後に進行し始めたかを問わない。この期間は、平和条約の発効と同時に再び進行する。この項の規定は、利札または配当金受領証の呈示及び償還される有価証券の支払を受けるための呈示の期間にも同様に適用される。
2、戦争中に何らの行為もせず、又󠄂は、何らかの手続をしなかつたため、処分が日本国内においてすでに行われ、その結果、連合国民が損害を受けた場合には、日本政府は、損害を生じた権利の回復を一方的義務を負い、また、公平且つ衡平な救済が与えられるようにしなければならないことを規定している。
C 流通証券
1、戦前作成された流通証券が、戦争を理由としては無効とされない旨を規定している。
2、流通証券の支払のための呈示、引受もしくは支払の拒絶又󠄂は証書作成󠄃のため、平和条約の発効の日から三箇月以上に期間が与えられなければならないことを規定している。
3、戦前又󠄂は戦争中に、後に敵人となつた者から流通証券に基く債務を負つたものがある場合、戦争の発生を理由にして当該債権債務を消滅することはできないとして取引の安全を考慮している。例えば、「後に敵人となつた者から与えられた約束の結果として」の債務とは、戦前に行われた日本の銀行と当該連合国の銀行との間の為替手形の決済が未済のうちに戦争が発生し、その結果日本の銀行に引き続いて残つている債務のごときものをいう。
D 保険及び再保険契約
1、保険契約は、当事者が敵人となる前に保険責任が開始し、且つ保険料が払い込まれているときは、戦争を理由としては、解除されたとはされない。
2、前項により引き続き効力を有しているもの以外の保険契約は、存在しなかつたものとし、支払われた金額は、返済されなければならない。
3、ここでは特約又󠄂は随意再保険契約のすべてに適用されるべき原則を述べている。すなわち、再保険契約は、当事者が敵人となつた日に終了したものとし、これに基く出再保険契約は、航海保険に関するものを除いて、その日に取り消されたものとする。
以上が原則であつて、以下4、は、任意再保険契約の効力について、5、は、前項の例外について、6、は、保険料の清算について、7、は、保険契約と当該関係国の捐害又󠄂は請求権の担保との関係について、8、は、保険の移転又󠄂は再保険の効力と原保険者の責任について、9、は、同一当事者間の二以上の保険契約の問題について、10、は、保険料等の利息の支払いについてそれぞれ規定している。
なお最後に11、として、Dの規定が平和条約の第十四条の権利を害さないことを規定している。
E 生命保険契約
生命保険が原保険者から他の保険者に戦争中に移転され又󠄂は再保険された場合、それが日本の行政又󠄂は立法機関の要求により行われたものであるときは、有効と認め、原保険者の責任は、移転又󠄂は再保険の日に消滅したものとみなされる。
F 特別規定
この項は、いつから当事者を敵人とみなすかに関する規定で、この議定書の適用上は、ある取引が当事者又󠄂は当該契約の準拠する法令により違法となつた日から敵人とみなすとしている。
最終󠄃条項
第一項は、この議定書がわが国及󠄃び平和条約の署名国による署名のために開かれ且つ当該関係国が平和条約に拘束される日からこの議定書が取り扱う事項について当該国の関係が律せられるものとしている。
第二項は、この議定書が米国の記録に寄託されること、同政府は、その認証謄本を各署名国に交󠄄付するものであることを規定している。
末文󠄃
この議定審が作成された日及󠄃び場所を記し、英語、フランス語、スペイン語の正文󠄃と日本語で作られたことを述べている。
五、宣言の内容
平和条約の関係文書として、さらに、日本政府による二宣言がある。
㈠ 国際条約加盟に関する宣言
この宣言では、日本が戦前に加入していた多数国間の国際条約の効力と、平和条約の効力発生後日本が加入すべき国際条約及󠄃び国際機関に関する事項をのべている。
1、多数国間の条約
1では、わが国がヨーロッパ戦争開始の日、すなわち、千九百三十九年九月一日に当事国であつたすべての現存の多数国間条約は完全に有効であり、且つ、平和条約の効力発生の時に、これらの条約に基くすべての権利及󠄃び義務は回復される。もちろん、平和条約に別段の定めがあるときは、この限りでない。但し、いずれかの文󠄃書の当事国であるために前記の日付以後に構󠄃成󠄃員でなくなつた国際機関に関して、これらの機関に再加盟することが条約加盟の要件となつている場合は、この項の規定は、当該国際機関に日本が復帰󠄃した時に効力を生ずるものとしている。
2、日本が加入すべき国際条約
2において、日本がなるべくすみやかに且つ平和条約の最初の効力発生後一年以内に正式に加入の意思を有するものとして次󠄄の九種の国際条約を掲げている。これらの国際条約の締結の経緯、内容及󠄃び所定の加入手続は、簡単に述べれば次のとおりである。
⑴ 麻薬に関する協定、条約及󠄃び議定書を改正する千九百四十六年十二月十一日レーク・サクセスで署名のために開放された議定書
(イ) 国際連合第一総会で、千九百四十六年十一月十九日に採択され同年十二月十一日に各国の署名のために開放された議定書で千九百五十年末現在の当事国は、五十一国である。
(ロ) 千九百十二年一月二十三日ヘーグで署名された国際阿片条約、千九百二十五年二月十一日ジュネーヴで署名された第一阿片会議協定、議定書及󠄃び最終議定書、千九百二十五年二月十九日ジュネーヴで署名された第二阿片会議条約、議定書及び最終議定書、千九百三十一年七月十三日ジュネーヴで署名された麻薬の製造制限及󠄃び分配取締に関する条約、千九百三十一年十一月二十七日バンコックで署名された阿片吸󠄃食防止に関する協定(わが国は、以上の条約、協定及󠄃び議定書を署名の後批准して当事国となつている。)並びに千九百三十六年六月二十六日ジュネーヴで署名された危険薬品の不正取引防止に関する条約(わが国は、この条約に署名したのみで批准していない。)は、国際連盟に一定の義務及󠄃び任務を付与していた。連盟解体の結果、これらの義務及󠄃び任務を国際連合及󠄃び世界保健機関に引き継くことが必要となつた。この議定書は、この引継のために必要󠄃な措置を規定している。
(ハ) わが国がこの議定書に加入するためには、受諾書を国際連合事務総󠄃長に寄託しなければならない。
⑵ 千九百四十六年十二月十一日レーク・サクセスで署名された議定書によつて改正された麻薬の製造制限及󠄃び分配取締に関する千九百三十一年七月十三日の条約の範囲外の薬品を国際統制の下におく千九百四十八年十一月十九日パリで署名のために開放された議定書
(イ) 国際連合第三総会で千九百四十八年十月八日採択され、同年十一月十九日に各国の署名のために開放された議定書で、千九百五十年末現在の当事国は、三十三国である。
(ロ) 薬理学及󠄃び化󠄃学の進歩の結果、改正された千九百三十一年七月十三日の条約の範囲外にも中毒癖を生じうる薬品特に合成󠄃薬品が発見されるに至つたので、国際協定によつてこれらの薬品の製造を医療用及󠄃び科学用の正当な需要量に制限する目的のために、世界保健機関において当該薬品が中毒癖を生ずるものであると認定したときには、千九百三十一年の条約を適用することについて規定している。
(ハ) わが国がこの議定書に加入するためには、受託書を国際連合事務総長に寄託しなければならない。 麻薬取締法第一条第三号は、阿片その他の麻薬と同様に濫用のおそれがあり、且つ同様の害毒作用を引き起す化󠄃学的合成󠄃品で厚生大臣が指定するものは麻薬として取締ることになつているので、この条項の運用によつてこの条約を実施することができる。
⑶ 外国の仲裁判決の執行に関する国際条約
(イ) 国際連盟第八総󠄃会の承認を得て千九百二十七年九月二十六日署名のために開放され、千九百二十九年七月二十五日に効力を生じた。
(ロ) 千九百二十三年九月二十四日署名のために開放された仲裁条項に関する議定書(わが国は、千九百二十八年六月四日に批准書を寄託して当事国となつている。)は、第一に、仲裁に付託することを定めた約定(商事に関するものを含む)の効力を承認し、第二に、自国領域内において行われた仲裁裁判を執行すべきことについて規定しているが、このような仲裁裁判の国際的効果を保障することについては規定していない。
この条約は、この国際的効果を保障するために、締約国が外国の仲裁判決を一定の場合に執行すべきことについて規定している。
(ハ) わが国がこの条約に加入するためには、規定上は、批准書を国際連盟事務総󠄃長に寄託しなければならないことになつているが、実際には、批准書を国際連合事務総長に寄託することとなろう。
⑷ 千九百二十八年十二月十四日ジュネーヴで署名された経済統計に関する国際条約及び議定書並びに経済統計に関する千九百二十八年の国際条約を改正する千九百四十八年十二月九日にパリで署名された議定書
(イ) 千九百二十八年の国際条約及󠄃び議定書は、千九百二十八年十一月二十六日から十二月十四日までジュネーヴで開かれた国際経済統計会議で締結された。千九百四十八年の議定書は、国際連合第三総会で千九百四十八年十一月十八日に採択され、同年十二月九日に署名のために開放された。
(ロ) 千九百二十八年の国際条約は、経済統計の画一的方法について規定している。議定書は、条約の解釈及󠄃び条約の適用に関する諸国の留保について記述している。
千九百四十八年の議定書は、国際連盟解体の結果この条約が連盟に付与していた義務及び任務を国際連合が引き継ぐために必要な改正について規定している。
(ハ) わが国は、千九百二十八年の国際条約及󠄃び議定言に署名したが批准しなかつた。わが国の加入は、千九百四十八年の議定書によつて改正された千九百二十八年の国際条約に加入するという形で行われることとなろう。このためには加入書を国際連合事務総長に寄託しなければならならい。
⑸ 税関手続の簡易化󠄃に関する国際条約及󠄃び署名議定書
(イ) 千九百二十三年十月十五日から十一月三日までジュネーヴで開かれた税関手続の簡易化󠄃に関する国際会議で締結された。
(ロ) 国際条約は、税関手続の公平、簡易化󠄃及󠄃び公開の三原則並びに税関制度における專門的事項(見本、雛形及󠄃び旅商、原産地証明書の発給、領事仕入書等)について規定している。議定書は、条約の解釈、留保又󠄂は除外等について規定している。
(ハ) わが国は、この条約及󠄃び議定書に署名したが、批准していない。当事国となるためには、規定上は、批准書を国際連盟事務総󠄃長に寄託しなければならないことになつているが、実際には、批准書を国際連合事務総󠄃長に寄託することとなろう。
⑹ 千九百三十四年六月二日にロンドンで署名された商品の原産地虚偽表示の防止に関する協定
(イ) 千九百三十四年五月三十一日から六月一日まで開かれたロンドン会議でドイツ、ブラジル、キュバ、スペイン、シリア及󠄃びレバノン、フランス、英国、リヒテンシュタイン、モロッコ、ポーランド、ポルトガル、スウェーデン、スイス、チェッコスロヴァキア、チュニス並びにトルコの諸国が署名した。
(ロ) 締約国間で原産地虚偽表示を有する商品を輸入に際し及󠄃び虛偽表示が貼付された国において差し押えることにより原産地虚偽表示を防止することを目的としている協定で、千九百十一年六月二日ワシントンで及󠄃び千九百二十五年十一月六日ヘーグで改正された商品の原産地虚偽表示防止に関する千八百九十一年四月十四日のマドリッド協定に代るものである。
(ハ) わが国がこの協定に加入するためには、工業所有権保護同盟条約第十六条に従つて加入通告書をスイス連邦󠄄政府に寄託しなければならない。
⑺ 国際航空運送に関するある種の規定の統一のための条約及󠄃び追加議定書
(イ) ワルソーで開かれた第二回国際航空私法会議で、千九百二十九年十月十二日に署名され、千九百三十三年二月十三日効力を生じた。
(ロ) 国際航空輸送に使󠄃用される書類(旅客券、手荷物券及󠄃び航空運送状)と輸送者の責任とに関する国際航空輸送の条件を統一的方法で規制することを目的としている。
(ハ) わが国は、この条約及󠄃び追加議定書に署名しているが批准していない。当事国となるためには、批准書をポーランド外務省の記録に寄託しなければならない。
⑻ 千九百四十八年六月十日ロンドンで署名のために開放された海上における人命の安全に関する条約
(イ) 千九百四十八年四月二十三日から六月十日までロンドンで開かれた海上人命安全会議で起草された条約で、千九百二十九年五月三十一日の海上における人命の安全に関する条約(わが国は、千九百三十五年六月十一日に批准書を寄託して当事国となつている。)に代るものである。
(ロ) 最近の船󠄅舶構造技術、航海技術等の進歩に応じて、千九百二十九年の条約の内容を一新して船󠄅舶の構造、救命設備、通信設備、航海方法の安全確保、危険貨物の積載方法、船󠄅舶証書等について詳細に規定している。
(ハ) わが国がこの条約に加入するためには、受諾書を国際連合の專門機関である政府間海事協議機関(未だ発足していない。)に寄託にいなければならない。同機関の発足までは、臨時に連合王国政府に寄託することになつている。
⑼ 戦争犠牲者の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約
(イ) 千九百四十九年四月二十一日から八月十二日までジュネーヴで開かれた戦争犠牲者保護に関する国際条約協定のため会議において締結された千九百五十年十月二十一日に効力を生じた次󠄄の四条約をいう。
1、捕虜の待遇に関するジュネーヴ条約
2、傷者及󠄃び病者の状態改善に関するジュネーヴ条約
3、海上における傷者及󠄃び病者並びに難船者の状態改善に関する条約
4、戦時における文󠄃民の保護に関するジュネーヴ条約
(ロ) 1の条約は、千九百二十九年七月二十七月の条約に代るもので、捕虜の人道的待遇について規定している。
2の条約は、千八百六十四年八月二十二日、千九百六年七月六日及󠄃び千九百二十九年七月二十七日の条約に代るもので、戦時における敵国の傷者及󠄃び病者の待遇改善について規定している。
3の条約は、千九百六年のジュネーヴ条約の原則を海戦に応用するための千九百七年十月十八日の第十ヘーグ条約に代るもので、戦時における敵国の海上における傷者及󠄃び病者並びに難船󠄅者の状態改善について規定している。
4の条約は、新しい条約で、戦争の結果に対して住民を一般的に保護すべきこと、戦時占領地等における敵国の文󠄃民を保護すべきこと、及󠄃び抑留者の待遇󠄄を改善すべきことについて規定している。
なお、これら四個の条約はいずれも戦争の場合中立国の権利義務を規定すると共に国際戦争に至らない内乱の場合にも適用される規定が定められている点において、わが国のような軍備を有しない国でも当事国となることが望ましいとされるものである。
(ハ) これらの条約こ加入するためには、わが国は、加入書をスイス連邦󠄄政府に送付しなければならない。
3、日本が参加すべき国際機関
宣言第3項によつて、日本政府は、平和条約の効力発生後六箇月内に二種の国際条約に加入する手続を執ることについて宣言する。第2項に掲げた国際文󠄃書への加入が加入書等の寄託という一方的な行為のみによつて効力を生ずるものであるのに対し、ここに掲げた国際条約は国際機関を設立しているものであり、わが国の加入には、それぞれ一定の承認を必要としている点において相違している。二種の国際条約の締結の経緯、内容及󠄃びわが国の加入手続は、次󠄄のとおりである。
⑴ 千九百四十四年十二月七日シカゴで署名のため開放された国際民間航空条約
(イ) 千九百四十四年十一月一日から十二月七日までシカゴで開かれた国際民間航空会議で起草された条約で、千九百十九年十月十三日パリで署名された航空法規に関する条約(わが国は、千九百二十二年六月一日批准書を寄託して当事国となつていた。)及󠄃び千九百二十八年二月二十日ハバナで署名された商業航空に関する条約に代るものである。
(ロ) 国際民間航空の将来の発達が諸国間の友好と理解を助長する反面、その濫用は、軍事的用途と結びつくこと等によつて平和に対する脅威ともなることを認識して、航空に関する諸原則(定期国際航空業務が、締約国の特別の許可又󠄂は他の認可を必要とすること、国内営業の拒否権、禁止区域の設定等)を規定し、国際規則を設定し、また、モントリオールに本部をおく国際民間航空機関(国際連合の專門機関)の設立を規定している。
(ハ) わが国がこの条約に加入するためには、⑴国際連合総会の過半数による承認を受け、⑵国際民間航空機関総会の五分の四の賛成投票による承認を受け、且つ、⑶わが国が第二次󠄄世界争中に侵略又󠄂は攻撃を行つたすべての国の同意を得た後に、加入通告書を米国政府に寄託しなければならない。
わが国は、平和条約第十三条⒞において国際民間航空条約の当事国となるまでこの条約の規定を実施することを約束しているので、平和条約の発効と同時に条約上の義務を負うことになる。国際民間航空条約への加入が実現した場合には、条約に基く権利を享有することとなり、国際民間航空機関の正式の当事国となる。
わが国は、更󠄃にこの条約に加入した後なるべくすみやかに千九百四十四年十二月七日シカゴで署名のために開放された国際航空業務通過協定を受諾することを宣言している。この協定は、「二つの自由協定」とも呼ばれ、⑴定期国際航空に関して無着陸通過の自由と⑵非商業的目的のための着陸の自由との二つの特権について規定している。わが国がこの協定に加入するためには、加入通告書を米国政府に寄託しなければならない。
⑵ 千九百四十七年十月十一日ワシントンで署名された世界気象機関条約
(イ) 千九百四十七年九月二十二日から十月十一日までワシントンで開かれた国際気象機関の第十二回台長会議で起草された条約である。
(ロ) 半官半民の学術機関である国際気象機関に代つて、国際連合の專門機関である世界気象機関(本部ワシントン)を設定して、国際協力の下に気象観測網を確立し、相互に気象情報を交󠄄換し、気象学の航空、航海、農業等に対する応用をはかり、また、気象学の研究を促進することを目的としている。
(ハ) わが国がこの条約に加入するためには、加盟国の三分の二の承認を得た後に加入書を米国政府に寄託することになつている。
㈡ 戦死者の墳墓に関する宣言
日本政府は、平和条約に関連して、わが国の領域内にある連合国の戦死者の墓、墓地及󠄃び記念碑を識別し、そのリストを作成し、維持し又󠄂は整理する権限をいずれかの連合国によつて与えられた委員会、代表団その他の機関を承認し、このような機関の事業を容易にし、またこれらの墓、墓地及󠄃び記念碑に関して必要となるような協定を締結するため前掲の委員会、代表団その他の機関と交󠄄渉を行うことを述べ、また、連合国が連合国の領域にある日本の戦死者の墓や墓地を保存し、維持するために取極をする目的で日本政府との協議を開始すべきことを信ずる旨を宣言している。
㈢ 以上の二宣言は、日本の全権委員がこれに署名した。
この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。
- 法律命令及官公󠄁文󠄁書
- 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
- 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁
この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。