日本の議会と過激派

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日本の議会と過激派[編集]

目下開会中の日本の臨時議会の日程中に、最も重きを置かれ居る問題は即ち『露西亜問題』是れなり。

現今他の如何なる場合より、最も確乎たる最後の解決を与へざるべからざる問題は、露国の問題たると同時に又日本の問題たる極東に関しての問題是れなり。然のみならず、此問題は日本関係の問題たると共に亦是れ英国及支那其他にも関する問題なり『露西亜に関する問題』は是れ現今既に国際的問題たり一般人類社会に関する問題にて或る国々や国民などの利益関係の範囲を遠く逸出せる問題なり

日本国民の代表者たる議員諸君は今此露国問題を研究調査するに当りて、諸君の眼前ひ提出せられ居る問題は是れ決して一地方一小部の狭き国民的の問題にあらずして、是れ世界的の問題なれば、此問題の解決如何は遂には日本の運命にも関するものなることを充分に会得了解せられんことを要す。

露国の重患は是れ日本に取りては左まで危険にあらずと放言する者は是れ全く近視的の政治家にあらざれば、密に過激派に同情する其輩儕のみなるべし。極東問題の解決如何は是れ過激派の運命に関する問題の解決なり、而して過激派の運命に関しての問題の解決は是れ軈ては日本の運命に関する問題の解決たり、尚延いては支那や英国その他の運命にも関する問題の解決たるなり。

只米国のみは其領土の遠く隔離し居るがために、今日までの処にては過激派に対しては国際的優勝の地歩を占め、巧に過激派を外部より助け居るも国内には一歩も入らしめず、其領域内に於ては過激派を殆ど根絶するを得たり。
過激派政治下の露西亜は、極東の過激派の経済的援助を有するにあらざれば存立するを得ざるなり。是れ第一に『ソウエト』政治の露国は極東過激派の経済的支援を受くるに非ざれは、遠隔せるシベリヤに其権勢を保持するを得ざるが故なり。

既に周知の如く、シベリヤに於ては現今既に『ソウエト』政府は然く安全にはあらざるなり、シベリヤには処々に農民の反過激派運動勃発し、布施氏の偽證に反して、『ソウエト』政府の発せる公文書は全くの破滅を自ら公言し居るにあらずやシベリヤを其唯一の物資供給者たる極東より、今後尚長く絶縁せんか、唯取ることのみを知りて何ものをも一物も与へざるシベリヤの過激派を全く絶滅せしむるを免れざるなり。

狡獪なる智謀者たる『ソウエト』政府の官吏等の提議せる緩衝国設立の提案は是れ過激派の最後の希望なるが、これ一方に取りては救ひの橋なるも、他の一方のために将に来るべき破滅の橋たるを免れざるなり。

極東過激派経済援助問題即ち『クラスノシチエコフ』一流の緩衝地帯問題は、是何より第一に『ソウエト』政府の存亡問題なり、蓋しシベリヤの如き斯かる給養地点の存するなくんば『ソウエト』政治の露国は存立するを得ざるが故なり。シベリヤは尚勢力充実し居りて、既に不平不満至る処に沸騰して其嫌悪すべき軌軛を脱却せんとせり。

然し露国問題の一部たる緩衝国設置問題は、独り是に止まらず、尚他に別の一面を有せり。流石の布施氏すらも、過激派を以て露西亜の国家的の事業を為し居るるのとは敢て断言せざるなり。ポリセシイズムは是れ幾度か其首領の声明せる如く又過激派の外国派遣員に与へたる訓令などの最近の文章にも声言し居る如くに、只世界主義の思想としての根底を有するのみなり。クラスノシチヨコフ一派一味の輩は此自明の原理を抹消し去らんとして徒労の努力を為し居れり。

斯の如くなるを以て極東に於て緩衝国といふ形式の下に過激派の根據を深からしめんとするは、之を渇望し居る『ソウエト』政府のために尚第二の優勝なる位置即ち彼等の憧憬に堪へざる東方─日本は勿論支那朝鮮を砲撃すべき要塞を築造せんとするものなり。

日本の一部の社会、真面目なる反過激派気分を抱き居る人々すらも、極東及シベリヤと速に貿易関係を調整せんことを渇望するの余り、蜿豆が投げつけたる壁より跳返る如く過激派が恐れて跳退く所の日本人の特質や日本の社会慣習までも犠牲に供せんとする如き人々なきにあらず。

革命勃発の際に露国の社会が演じたる如き大誤診は、革命前などには露国にはあり得べしとも思はれざりし事柄なりき。然るに日本に於て特に最近年に於ける情勢を観るに、社会の物質的動揺のために可燃的の材料が可なり多く備へられ居るを認めざるを得ず。過激派は既に之を目指して鋭意『プロパガンダ』に努力し、彼等の意見に依り破壊の始まるべき時期の如何すらも公々然と声言せり。最も注意すべきことは日本にも先見の明を欠ける軽躁無責任の政治家も少からざることにて、彼等に取りては一切の反対思想や誘惑なる『革命』といふ語や『世界改造』の実現の信念といふ如きことは今日の流行となれり。

自国革命の軽躁なる考へのために、殆んど惜むに足らざる旧国家のみならず、一切の国家と一切の国家的人物、一切の文明の利福も文明の価値をも悉く滅亡の犠牲に献げたる我々露国人には、特に此間の消息は甚だ明瞭なり。日本の社会の或る方面に斯の如き軽躁浮薄なる思想 跳梁を極め居るを観察しては我々露国人も痛惜に堪へざるなり。

今の反過激派を一変せるクロボトキンにあらずして英国居住時代の共産主義主張者としてのクロボトキンの著書が、日本の学生の座右の書となり、又経済学や社会学の真面目なる智識を却て毀損するを免れざる米国流の無政府主義を識ることが日本の知識階級者の一特徴なりと解せらるるを見ては、吾人は是より当然来るべき結果の如何に想到しては憮然たらざるを得ざるなり。軽浮なる思想と空想と又時としては故意の欺罔とは相伴ひて存することあり。過激派の主張する共産主義の悉く妄愚なることを正確に之を知らず又深く之を理解せずんば、恰も過激派の如くに欺罔欺瞞の事業のために露国の宝物の残片を全世界に散布することを続く可し。

且つそれ日本は鉄製の女神然もニユーレンベルグの鉄製の女像(古代の刑具)に自ら己を献げんとするが如し、一度この女像に己を献げんか其恐るべき鉄針は徐々に然も確実に致命の刺傷を与へて其酬ゆる所となる可し『ウエスツミニスター、ガゼト』曰く、日本が連合国同様に露国問題を如何に処置すべきかを解せずして暗中に彷徨し居る間に過激派は密かに陸続日本に乗込むべしと。赤衛軍は一時其進撃を阻止せられ居るも既にイルクックに達せり、過激派の洪水は堰を越して蕩々として氾濫し、唯り西利伯亜のみならず、其接境地方をも侵没せざれば止まざらんとす。過激派の派遣員は純朴なる朝鮮人の間に革命を扇動しつヽ既に朝鮮の排日主義の謀反党と共に活動し居れり。支那も亦過激派『プロパガンダ』のためには尠からず便利なる地盤なり。クレムリ城に居る執政官(過激派執政官)は宣言して曰く、彼等は亜細亜を欧羅巴の翻弄より救ふ者なりと。

日本も亦是れ決して過激派の病毒免疫の保険を附けられたるものにあらず、日本の社会主義者は近頃米国に於て宣言書を発して『露国赤軍の勝利は是れ社会的革命と『ソウエト』日本を意味するものなり』と放言せり。過激派の脅威は日本のために既に現然たるに至れり。日本は対過激派の確たる政策を定めざるべからざるの秋は来れり。日本は過激派と同盟を成立することも得べく、又過激派と事を共にすることを拒絶することも亦過激派の公然たる敵たることをも得べし。此問題は之を自主的に解決するには少しく複雑過ぎる問題なり。露国問題は是れ世界的問題なり、故に其最後の解決は連合国の相互の同意に俟たざるべからず。

故に緩衝国問題若くは其他何等かの相談或は勧説を信用するは、要するに是れ過激派をして一挙して両方面に勝利を得せしむるものなり。『ソウエト』政府は是がために其手段の如何を選ばざるべきは勿論なるを以て、是に対し日本の愛国者は特に注意して彼の布施氏の通信などに大に警戒せざるべからず。日本が自らも過激派の爪牙を免れ過激派の存在を其根底より爆破して、偉大なる世界的文明の使命を完うするがためには日本は果して如何なる方策を講ずべきか。

吾人の是に対する答へは現今日本の一般社会に広く唱へらるヽ両極端なる意見の中庸を得たるもの是なり。吾人の所見を以てすれば極東に健全なる統一的の極東政府の現出を見ざる前にシベリヤより日本の軍隊を撤退するは、是に依りて唯り数千の日露両国民を馬賊的「パルチザン」赤軍徒党の犠牲に供して之を滅亡せしむるに止まらず、尚極東に於ける商工業と文化をも挙げて之を滅亡せしむるを免れざるべし。且つそれ日本軍の撤退は唯り是に依りて日露間の経済的関係の改善進捗を利せざるのみならず、是れ日本を過激派の蹂躙に委せ去らんとするものなり。

問題は全体に亙りて的確に断然解決せられざるべからず。不徹底は是れ延引に延引を重ぬるに過ぎざるなり。吾人は斯く論するも是れ敢て西伯利の占領を可とする者に非ざるは勿論なり。

吾人は本紙上に於て幾度か言明せる如く、シベリヤの占領は是れ日露将来の親善の為に甚だ危険なり。吾人は茲に別の意見を抱懐する者なり、即ち極東に於て臨時に総督としての性質を有するものたりとも、統一のある極東の露国政府の組織を期するものなり、此政府は自己の露国軍隊を有し其基礎と広く社会全体に置き、過激派などの威嚇に依らずして招集せられたる地方人民の代表者に依りて支持せらるゝ政府たらんことを人民一般に之を期待し居るなり

人民は既に政府設立の試験と其屡発せらるゝ宣言標号とに倦み且困憊せり。新政府は是れ能く時勢を解し正義の要促する所と経済の要求する所との其間の平衡を得たる政策を取る政府たらざるべからず。又新政府は必ず民主的政府だらざるべからざると同時に又偽称民主主義やエス、エル党の放肆や過激主義の狂態を避け露国救済の酵母たらざるべからず。

現今極東に於て如何なる政府にても外国の援助を要せずに存立し得べしと思ふ者は只所謂政論家なる者か左もなくんば自ら己を欺く偽善者のみなるべきは自ら明かなりメドウエデフやクラスノシチヨコフ等一派の者すらも能く此間の消息を解せり。厳重なる財政的経済上の法則よりすれば総ての団体総ての党派の代表者に対して一視同仁ならざるべからず尚露国に対して親善なる関係を有する列国の対露援助の力労は従来相当の機会に於て復興せられたる露国の尊重承認する所となるに相違無し。左れど吾人は決して露国の新政府は其基礎を専ら外国の支持援助にのみ置くべきものとは思惟せざるなり。

斯の如き是れは全く愚妄の極まりなり。吾人は第一に先づ過激派は多くの知識階級者と特に農民の間に既に其根底を固うせりといふ如き状態より脱出せざるべからず。只過去生活状の結果として社会一般の疲憊よりして、臨時に政務を執る者を以て政府と認めて是と関係を成立するに至るなり。左れど彼等に代りて創設の力を有する政治上の思想家現出して、断然空想主義を排棄せんか、ニキフオロフ、パンドレエフ、クラスノシチヨコフ等の名は只嫌忌に堪へざる炭気の感を残すの外、何ものをも遺さゞるべし。

吾人の茲に論述せる見解は是れ唯り極東と西欧州の幾多政治家の見解たるのみならず、露国を愛し、露国将来の勢力の必然の一条件として親善を完うせざるべかざる日本のために心配する者の外に尚ほ一般文明のために嘆借する者の一般の見解なり彼等は過激派を以て何れも世界的の大罪悪なりと思想せり幸にして此関係上彼等はその徳狐ならずして米国の共和党も英国諸新聞の大部分もチエルケル卿が今より一年前に過激派に対して列国は文明のために戦はんがために同一戦線に立ちて連合せざるべからざることを提唱せるは流石に先見の明ありとして推稱せり。殆ど露国を殺せる過激派主義の野蛮の天刑病は露国に於てこそ多少下火となりたれ、今やいよ〳〵広く隠然蕩々として伝播せんとす。

今や正に智慮あり実験あり且先見の明ある良医が、此厭忌すべき病毒の蔓延を断乎として防止し得べき機会到来せり
 此良医は即ち日本の帝国議会是れなり。

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