新約聖書譬喩略解/第三十 百金僕を試むるの譬
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第三十 百 金 僕 を試 の譬
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- 〔註〕
此 譬 と第 十四條 の千金 僕 を試 るの譬 と似 たれども全 その同 からざることは前 に詳 に弁 ぜり イエス此 譬 を説 たまふはこの時 すでにエルサレムに近 く衆人 イエスユダヤの王 となりたまひ神国 興旺 んと思 へるゆへイエス神国 は顕 るゝものにあらず己 また権 威 を操 て地 上 の王 となるものにあらず必 ず人 のために害 なはれんと語 たまひ其 弟子 に艱難 を忍耐 また力 を尽 して工 をなし将来 の賞 を望 むべきことを教 へたまひまた弟子 にはあらざれども其道 を聞 を喜 ものに己 れは悪人 の為 に害 なはれんとすることを語 たまひ彼 等 に悪人 に附和 て己 れの敵 となり滅亡 の禍 を取 る勿 れと教 たまはん為 に前 三 十年 の事 を借 てこの譬 を説 たまへり イエス生 て第 二年 にヘロデ王 の子 アケラヲローマ国 に往 て封 を受 ユダヤの王 となれり ユダヤ人 はアケラヲの王 たるを欲 ずローマ国 に往 て訟 れども勝 ず アケラヲはローマの国王 並 に議 会 の喜悦 を得 て卒 に允準 を蒙 り命 を受 け王 となりて返 れりこの比 ユダヤはローマの管轄 を受 し故 なり此 譬 の本 意 を説 に(貴人 )とはイエスを指 し(遠国 )は天国 を指 し(領 地 を受 て返 る)とは将来 にイエス権 を執 て全地 に王 となりたまふを指 す (十人 の僕 を召 て金 十斤 を予 る)とはイエス暫 く天国 に登 り地上 を離 れ福音 の道 を以 て弟子 に託 したまふを指 す (我 が来 まで商売 せよ)とは弟子 に勉 て力 を尽 し眞 理 を四方 に傳 て救主 の再 び至 たまふを待 べきことを指 せり (国民 彼 を憾 む)とは国 はユダヤを指 し民 はユダヤの人 を指 す (後 より使 を遣 して曰 く我 儕 この人 を王 とする事 を欲 ず)とはユダヤ人 イエスを妬忌 てその教 の興旺 になり眞道 の管束 を受 を欲 せざるを指 せり後来 ユダヤ人 ピラトにイエスを十 字架 に釘 んことを請求 しかばピラト我 爾 の王 を十 字架 に釘 んやといひしに祭 司 の長 対 てカイザルの外 我 は王 なしといへり〔約翰福音十九章十五節〕 またイエスの釘 らるゝとき標札 にしるして十 字架 の上 に置 てユダヤ人 の王 ナザレのイエスとありしかば祭 司 の長 ピラトにいふやうユダヤの王 と書 こと勿 れ自 らユダヤの王 と称 と書 べしと〔上章二十節二十二節〕是 等 の事 は偶 然 たる戯言 にて認 めざれどもイエスの主 たるを欲 ざるの明徴 なり イエス神 の国 は速 に顕 るゝものにあらず地上 の多 の人々 己 に仇敵 となるによりて弟子 等 は恒 に忍耐 て終 に至 り救 を得 んことを待 べしと解明 たまへり (領 地 を受 て返 る)とはイエス末日 に再 び世 に臨 たまふを指 す (金 を予 おきたる僕 を召 て利 を獲 るの多 少 を問 ひ賞罰 を定 る)は末日 の審判 には各人 の行為 に依 て報応 をあたふるを指 す (二僕 賞 を受 るに利 を得 る多 ものは十 の邑 を宰 )とは眞 の弟子 主 のために力 を尽 すものは皆 永福 を得 てその内 に果 を結 多 ものは大 なる賞 を得 果 を結 少 ものは其 賞 も少 きことを指 す (金 を巾 に嚢 むの僕 は主人 の責罰 を受 る)は懶惰 弟子 は世 に悪 事 はなさゞれども主 の道 を以 て人 に訓 ざれば自己 もまた救 を得 がたきことを指 す (その所有 ものまでも取 らるべし)とは救 主 の恩典 を奪回 すことを指 せり生時 懶惰 ものは其 姓名 教会 の部 に有 てイエスの弟子 と称 らるれども審判 の時 救主 之 を認 たまはざれば其 姓名 も亡 たり (仇敵 のもの我 これを王 とするを欲 ずといふものを我前 に曳 来 て誅 すべし)とはユダヤ人 のイエスを憎 みその国 久 からずして滅亡 さるゝを指 す是 れユダヤの人 のみ然 とすべからず都 て真 理 を謗涜 信者 を迫害 イエスに敵 するものは皆 罰 を受 て陰 府 に堕 れり故 に黙 示 録 に聖 天使 等 および羔 の前 にて火 と硫黄 を以 て苦 めらるべしと〔十四章十節〕しるせり我前 に曳 来 て誅 すの句 は分 て両 に解 り近 きはその験 エルサレムを滅 すにあり遠 きはその験 天 地 の末日 に真 理 に敵 するものを滅 すにあり其要 を論 ずれば今日 はイエス救主 となり慈悲 を発 し罪悪 を救 たまへども後日 には審司 となり必ず公義 を乗 て審判 をなしたまへり若 早 イエスに頼 ずして将来 一 たび審判 を受 るに至 れば恩救 を求 めんとすれども必 ず得 がたし敵 となりて暗 を喜 び光 を悪 ものは厳 き刑罰 を受 また弟子 の名 のみにてその実 なきものも亦 義 怒 を逃 がたし されば艱難 を忍耐 て勤 て作工 をなさば庶 くは主 の喜悦 を得 べきなり此 譬 を読 ものは慎 みて忽 するなかれ
新約聖書譬喩略解 終