第十一章 冪及對數
冪根の存在,基數及び指數の變動に伴ふ冪根の變動,指數限りなく增大するとき冪根は限りなく に近迫す○冪の定義の擴張,有理の指數,無理の指數○對數,其性質○開平の演算
(一)
前章に於て連續的算法及び其轉倒につきて說きたる諸〻の結果を應用するときは,冪根及び對數の說明は極めて簡短なり.
冪の定義を擴張して指數が有理數なる場合及び更に進みて其無理數なる場合に及ぼさんが爲に先づ基數を正數に限り,冪根の性質を論ぜんとす.
を正數となすと は積の特例として連續的算法なり. が より順次增大して限なくば も亦 より增大して究まる所なし.卽ち は單調なる連續的算法なり.是故に前章(六)によりて正數 を任意に與ふるとき なる如き正數 は唯一個に限り必ず存在す. を の平方根といひ,之を表はすに
なる記法を以てす.開平は單調なる連續的算法にして が より始めて限りなく增大し行くとき も亦 より始めて限りなく增大す.
今指數 に代ふるに任意の自然數 を以てするとき, は亦單調なる連續的算法にして其轉倒
も亦然り. を の 次の冪根といふ.羃根の乘法及び除法は次の式による.
(1)
同階級の冪根の乘法,除法は基數の乘法及び除法に歸す.又冪と開法との順序は隨意なり.
(2)
卽ち の 次の冪の 次の冪根は, の 次の冪根の 次の冪に等し.此等の等式を證明せんと欲せば冪及び冪根が單調の算法なるを利用し,兩節の 次の冪を比較すべし.例へば (1) の第一式を證明せんと欲せば,其兩邊の 次の冪を此較すれば可なり. (2) は此等式を因子の數 個にして盡く相等しき場合に擴張せるに過ぎず.
指數の定まれるときは冪根の大小は基數の大小に伴ふこと明なり.次に又基數 を定まれる正數とし,指數 の變動に伴ふ冪根の變動を考へ次の諸定理を得.
は なるが故に,基數 の より大又は小なると共に, も亦 より大又は小なり.
基數
が
より大なるときは,指數の增大するに隨ひ冪根は減小す.基數が
より小なるときは,冪根は指數と共に增大す.卽ち
(3)
ならば
又
ならば
之を證明するには兩邊の 次の冪を比較すべし., にして の より大又は小なるに從ひ は よりも大又は小なり.
の より大なるときは の增大するに伴ひて は減小す. 愈〻增大して止まずば は愈〻 に近迫して究まる所なし.
證.先づ は の增大するとき減小すれども決して を下らざるが故に は より小ならざる極根を有す.今假に此極限 より大なりとせば,之を と名づくるに
卽ち
は が如何なる自然數なりとも常に成立すべきなり.然れどもこれ有り得べからざる事に屬す.げにも 卽ち は指數 を加ふる每に より小ならざる增大を來すが故に にして,此數は を限りなく增大して以て竟に如何なる數をも超えしめ得べき者なり.
是故に の極限は なり. が より小なるときは は と共に增大して限りなく に近迫す.
(二)
冪の定義を擴張して指數が有理數なる場合に及ぼさんとせば,整の指數につきて一般に成立すべき
なる關係を基礎とすべし.此法則にして犯すべからずとせられなば を指數とせる羃に之を適用して
を得.卽ち は之を 次の羃の昂上して, と等しからしむべき數なり.隨て
(1)
となさゞるを得ず.又若し之を以て分數を指數とせる羃の定義となすときは,第二章(六)及第六章(二)に說きたる冪の諸性質は,廣義の冪につきても亦盡く成立す.卽ち
(2)
(3)
(4)
今 , と置き,便利の爲め , は正の整數なりと定むるときは (1) の第一等式は畢竟
なる等式に外ならず,之を驗證せんと欲せば兩邊の 次の冪を比較すべし.
左邊の 次の冪は
にして(, は正又は負の整數なり)こは明に右邊の 次の冪に等し.
(3) の驗證は更に簡短なり.兩邊の 次の冪は共に に等し.(4) も亦容易に驗證せらるべし.
と置けば は に等しく.卽ち に二つの連續的算法を引續き施こせる結果なり.是故に指數 の定まれるときは は に施こせる連續的算法なり.基數 は正數に限り, も亦 が如何なる(正又は負の)有理數なりとも必ず正數なり. 若し正數なるときは が より漸次增大して已まざるとき, も亦 より漸次增大して究まる所なし.又若し が負數なるときは は單調に減小す,而して が限りなく增大するとき は限りなく減小し,又 が限りなく減小して に近迫するときは, は却て漸次增大して究まる所なし.
次に基數の定まれるとき,指數 の變動に伴ふ の變動を追蹤せんに,先づ基數が なるときは は に關係なく に等し.
基數 が より大なるときは,先づ が なるとき は に等し. が正數ならば は より大なり.げにも と置き , を共に自然數となさば, は より大にして前節の定理によりて は より大なり.又 が負數なるときは と置くに は の逆數に等しく は より大なるが故に は より小なり.
一般に なるときは は指數と共に增大す,卽ち に伴ひて なり.げにも にして は固より正,又 は正なるが故に よりて は正數なり.
是故に基數 が より大なるときは は と共に單調に增大す.今其連續的なるべきを證せんが爲に先づ が に近迫するとき は限りなく に近迫するを示さんとす.先づ を より大にして如何程 に近き數なりとすとも,前節の定理によりて
なる如き自然數 は必ず存在す.さて は と共に減小するが故に なるときは
又 が負數なるときは の絕對値を より小ならしむるとき
にして は任意に與へられたる より小なる正數と考ふることを得.
が に近迫するとき の極限 に等しきを確め得たる上は の與へられたるとき
よりて , の差を相當に小となして 隨て又 を如何程にても小ならむることを得. の變動に伴ふ の變動は連續的なり.
を に施こせる算法と見做すとき,こは有理數の範圍に於て連續的なるが故に, が無理數なる場合に於ける此算法の意義を補充して, を數の全範圍に於て連續的ならしむることを得.第十章(五)の定理はこゝに其最良の例を得たり. が無理數なるときは, を以て を極限とせる有理列數となすとき
の極限は卽ち なり.例へば
は
等の漸次近迫する極限 に外ならず.
斯の如くにして指數 の凡ての値の上に擴張せられたる羃 を に施せる算法と考ふれば,この算法は數の全範圍を通じて連續的にして,基數 が より大又は小なるに從ひて は の增大すると共に單調に增大し,又は減少して凡ての正の値を採る.
指數が有理數なる場合に於て證明せられたる (1),(2),(3) 等の諸定理は,指數が無理數なるとき仍成立す.第十章(五)を參照すべし.
(三)
基數 の與へられたるときは は に伴ひて單調に且つ連續的に變動するが故に,第十章(六)の定理によりて此算法の轉倒は,其結果唯一にして亦單調,連續的なり,卽ち を任意の正數となすとき
なる條件を充實すべき は と共に一定す. を の對數(ロガリズム)或は尙精密に, を基數としての の對數と云ひ,之を表はすに次の記法を以てす.
對數は正數の全範圍を通じて連續的の算法にして,基數 の より大又は小なるに從ひて單調に增大又は減小す.特に
前節の (1),(2),(3) より次の關係を得.
と置くときは
よりて
より
(1)
を得.或は
(1*)
積の對數は因子の對數の和に等しく,商の對數は實の對數と法の對數との差に等し.積の場合に於て因子の數二個より多くとも此事實は無論成立す.
又 , より
(2)
或は
(2*)
冪の對數は基數の對數と指數との積に等し.
對數が實用上の計算に於て極めて重要なるは以上の二性質に基く.之によりて對數表を用ゐて數の乘法餘法を其對數の加法,減法に,又羃の計算を對數の倍加に歸着せしむることを得べきなり.
又 , を以て二つの正數となし
(3)
と置けば
にして此相等しき正數を と名づくれば
卽ち
(4)
にして (3) より
(5*)
を基數とせる對數より, を基數とせる對數に移らんと欲せば,前者に を乘ずべし.
基數 が に等しきときは なるが故に,此場合は之を排斥すべし.實用上に於てなさるゝが如く,基數 を より大となさば, は が正なるとき より大にして,又 が負なるとき より小なるが故に, より大なる數の對數は正, より小なる數の對數は負なり.又基數より大なる數の對數は より大にして,基數より小なる數の對數は より小なり.
常用對數(ブリツグス對數)に於ては を基數とす. を基數とするときは
と共に
なるが故に, を十進命數法に表はせるとき, の小數點の位置の變動は,其對數 に整數を加減するに歸す.是故に若し例へば と との間にある諸數の對數を知らば,之よりして直に凡ての數の對數を知り得べし.
理論上の考究に於て用ゐらるゝは所謂自然對數(ネピール)對數にして, なる文字を以て表はさるゝ數を基數とす. は自然數 が限りなく增大するとき
の近迫する所の極限にして,其値は次の如し.
對數表の作者ジョン,ネピールは
を用ゐたり.
なる數の起源を說明せんこと此册子の分に過ぎたり.對數表の用法及び對數計算の巨細はた然り.
(四)
開法及び一般に の計算には,實際上封數表を用ゐるを便利とす.此處には其最簡單なる場合,卽ち開平法の演算を簡略に說明せんとす.
正數 が十進命數法に於て與へられたるとき,其平方根 の十進展開を求む.平方根は一般に無限小數なるべきが故に,求むる所の者は,根の首位若干なり.小數第 位卽ち の位まで計算して根の値 を得たりとせば( が 又は負の整數なるとき亦同じ)
よりて の數字を の位まで採りて作れる整數を ,又 の數字より成れる整數を と名づけ
と置かば より さて , は自然數にして は より小なるにより 又 より 隨て前の如く を得.卽ち
は其平方 を超えざる最大の自然數なり.卽ち の平方根を の位まで計算せんと欲せば, を の位まで採りて作りたる整數 の平方根の整數部分 を求めて之を にて除すべきなり.
の數字を一の位より始めて左右に二つづつに句切り,之を
なる形となす.こゝに ,, はいづれも百より小なる整數にして, の附數 は其 の位に屬せるを示せり. は正又は負の整數又は なることを得.
斯くするときは は平方根の最高位を與ふ.げにも を の位まで求めんと欲せば,前に言へる所によりて にして は其平方 を超えざる最大の整數,隨て 乃至 の外に出でず. を定むるには順次 より に至る整數を點檢すべし.
一般に
と置くときは は の平方根の「整數部分」なり.こゝに は數字 は二個の數字の連續を表はせるに注意すべし.根の數字の決定は循進的なり.
今相當の を採りて根の首位の數字若干個,例へば の位まで,旣に決定せられたりとし,卽ち
なる整數 を得たりとし,更に進みて根の數字一個 を求めんが爲に,, を姑らく略して , と書き, を の結尾に添附して
を作り
と置く, は 乃至 の數字を點檢して之を定め得べしと雖,其煩勞を成るべく節約せんが爲に,次の計算を行ふ.先づ
と置き , より
を得, は此不等式に適合すべき最大の整數なり.故に は決して なる商の整數部分を超えず.此事實を利用して を定むる點檢の區域を縮小することを得. が二桁以上の數なるときは は より小なるが故に, は一般に の整數部分に等し.
旣に を決定し得たる後,更に根の次位の數字 詳しく言はゞ を決定せんと欲せば, の末尾に (卽ち )を添附して を作り,又 を求む. を求むるには
を用ゐるべし.
例へば の平方根を求むるに
卽ち は , は , 以下盡 なり.先づ ,
は實は なり.次に
此場合には は なり.此計算をば次の如く排列す.
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左側の ,,, は卽ち逐次の にして其右端に該當の を添附して ,,, を作る.之に を乘じて得たる積を逐次引きて を作る.又 ,, に其末尾の數字を加へて,卽ち に を加へて ,, 卽ち を得.布置の技巧を看るべし.
又一般に の平方根の整數部分 を定め得たるとき, を以て より小なる數となして
と置き, を求めんとするに,上の關係より
左邊の數を計算して之を と名づけ,又 の より小なるに着眼して
を得.故に
を得. は と との中間にあり.此二つの商の數字の一致する限りは,卽ち の首位にして
なるが故に,此等の商と との差は を超えず.
例へば の平方根の整數部分 を求め,開平剩餘 を得たる時,根の小數部分を求めん爲に
を計算し,根の數字小數點以下二位を確むることを得たり.
此方法によりて平方根を豫定の位まで定むべき場合に於て,其位數の大約前一半を計算せる後,他の一半を除法によりて決定することを得.
新式算術講義終