第三章 負數,四則算法の再審
廣義に於ける整數の定義,其命名,アルキメデスの法則,數學的歸納法の原理○加法及其性質○正數及負數,減法の可能,絕對値○乘法及其性質,除法
(一)
負數の觀念を說明するに當りて,吾輩は第一章に揭げたる順序數の原則を考究の基點となさんとす.
順逆兩面に亙りて限りなく連續せる,(例へば西曆の年號の如き)ものゝ順序を表はさんとするに當りて,單に第一章に說きたる順序數のみを用ゐるときは,應用の敏活を缺くこと甚しく,稍複雜なる問題に遭遇するときは,多數の場合を區別するを避け難く,其煩殆ど堪ふるべからず.此弊を矯めんと欲せば,數の範圍を擴張して所謂負數(負の整數)を導入せざるべからず.
然れども吾輩は或る特殊の應用上の傾向に固着せずして最,袖象的に此廣義の「數」の意義を定め,且此機會を利用して再び四則算法の意義を精密に審査せんとす.
所謂廣義の數は次の條件によりて定めらるゝものなりとす.
一,凡て相異なる二つの數の中,いづれか唯一つは他の一つより大なり.
甲,乙,丙なる數ありて,甲は乙より大,乙は丙より大ならば,甲は又丙より大なり.
甲が乙より大なるときは,乙は甲より小なりといふ.よりて,甲は乙より小,乙は丙より小ならば,甲は又丙より小なり.
二,凡て數には直ちに之に次ぐ數あり,又直ちに之に先だつ數あり.
乙が直ちに甲に次ぐとは,甲より大にして,乙より小なる第三の數存在せざるを謂ひ,乙が直ちに甲に先だつとは甲が直ちに乙に次ぐを謂ふ.
三,相異なる數甲,乙の中乙を甲より大なりとせば,甲より直ちに之に次ぐ數に移り,又此數より直ちに之に次ぐ數に移り,次第に斯の如くなし行きて竟に乙に達することを得.
以上は數及び大小といふ語の定義なり.何故に數はかくあらざるべからざるかといふは意義なき疑問なり.姑らく吾人は數の觀念を失へりとすべし,是時に當りて卒然吾人の面前に投ぜられたるは上文の定義にして,數とはかゝるものぞと吿げられたる吾人は此三個條の規定を前提となして,こゝに定められたる「數」なるものゝ性質を研究せんとす,是吾人の立脚點なり.若此立脚點を忘するときは,或は恐る,後文說明の途上,三段論法の迷宮裡に沒入して茫然自失するに了らんことを.
吾輩は先づ上の三個の條件の最直接なる論理的結果の二三を擧げんとす.順序數の原則として第一章に列擧せる四個條と上文の規定とは,先づ其第二條に於て相背馳せり.凡て數には直ちに之に先てる數ありとなせるが故に,数に最小の者あるを得ず,是れ第一章の第四條を否認せるなり.又凡て數には直ちに之に次ぐ數ありとなせるが故に,數に最大の者あることを得ず.
第二條に於て凡て數には直ちに之に次ぐ數及直ちに之に先だつ數あるべきを言へり.さて斯の如き數は各唯一個に限り存在することを得.或一つの定まりたる數 を考ふるに, 若し直に に次ぐ數なるときは, と異なる數 は直に に次ぐ數にはあらず.其故如何にといふに と とは異なるが故に第一條によりて は より大なるか又は は より小ならざるを得ず. 若 より大ならば は直ちに に次ぐ數にあらず.又 は直ちに に次ぐ數なるにより,, の中間第三數あるを容さず,隨て 若 より小ならば は と同じ數なるか又は よりも小なる數ならざるを得ず.いづれにしても は直ちに に次ぐ數には非ず.直ちに に先てる數につきても亦同じ. 若し より大ならば, より直ちに之に次ぐ數に移り,此數より又直ちに之に次く数に移り,次第に斯くなし行きて竟に に到達することを得べしとは第三條の規定なり.さて,各の數には直ちに之に次ぐ及び直ちに之に先だつ唯一個の數あるべきにより,斯の如くにして より に移り行く徑路を遡りて より に到達することを得べきや必せり.
斯の如くにして より に又 より に到達し得べしといふ事實をアルキメデスの法則といふ.
アルキメデスの法則は數學的歸納法の基礎をなす.正又は負の整數の關係せる定理を證明せんとするに當り,先づ其證明の第一段に於て此整數を或一個の特別なる數例へば となすとき,此定理の成立すべきを辨明し,次に第二段に於て,姑らく此定理は一般に該整數が なるとき成立せるものと假定し,さて然る上は此定理は必ず又直ちに に次ぐ數につきても成立せざるべからざることを辨ず.しかするときは此定理は旣に につきては成立せるが故に又直ちに に次げる數につきても成立すべく,旣に直ちに に次げる數につきて成立せる上は,又直ちに此數に次げる數につきても成立すべく,一般に を より大なる任意の數なりとせば,次第に斯くの如く推して竟に此定理は につきても,卽ち より大なる如何なる數につきても成立すべきことを確むるを得.若し第二段に於て より直ちに に先てる數に推移することを得ば,此定理は又凡て より小なる數につきても成立すべきことを知るべし.或は第二段に於て, より に至る凡ての數につきて此定理正當なりと假定し,此假定を前提として,此定理の直ちに に次ぎ,又は直ちに之に先だてる數につきても正當なるべきを證明するも亦可なり.凡ての場合に於てアルキメデスの法則が此論法の骨子なるを看取すべし.
數の中より任意に一つを採りて之を と名づく,直ちに に次ぐ數を ,直ちに に次ぐ數を と名づけ,又直ちに に先だつ數を ,直ちに
に先だつ數を と名づく.小なる數を左,大なるを右にして,數の順序は次の如し.
より大なる數を正數, より小なる數を負數といふ, は中性の數なり.數字の上に附記せる箭は,其數の符號にして,常の記法に於ては 又は を數字の前に置きて,之を表はす.此一節に於て故らに常用の記法に乖けるは,依りて論理の了解を扶けんが爲なり., の如き文字を以て數を表はせる場合には,此文字は數字を代表せるにあらずして,一つの數を(數字及符號を倂せて)表はせるものなりとす.又「直ちに に次ぐ數」,「直ちに に先だつ數」を表はすに , なる記號を用ゆ,是れ卽ち常用の記法にて , と書かるべきものなり.「直ちに に次ぎ,又は直ちに に先てる數」といふべき場合には を用ふ.同一の算式の中にて, 又は の重記號を用ふる場合には,各處上號,又は各處下號を採りて,二個の事實を得べきことを示せり.例へば は , は ,又 は , は を表はし,
は 及 を倂せ表せるが如し.
凡てある數に直ちに次げる數及直ちに先てる數は各唯一個に限り存在せるが故に,
又 と とは同一の事實を表せり.
(二)
廣義の數に適用せらるべき一種の算法を次の等式によりて定むべし.
I
II
第二等式の意義は, と直ちに に次ぐ數とに此算法を施こせる結果は, と とに此算法を施して得たる數に直ちに次ぐ數に等しといふにあり.I も II も , が如何なる數なりとも必ず成立すべきものとなす.
今 II に於て に代ふるに を以てするときは,
II*
を得,II,II* を一括して
II**
となすことを得.
I,II は循環的に凡ての數に施こせる此算法の結果を與ふ.例へば を とせんに先づ I によりて
次に II によりて
さては は にして は なるにより
同趣の論法によりて
又
一般に を如何なる數なりとするも は I によりて定まれるが故に,II によりて順次 及 を定め得べく, を如何なる數とするも,アルキメデスの法則により,斯の如くになし行きて竟に を定め得べし.I,II は寔に一の算法を定むるものなり.
今數學的歸納法を用ゐて,此算法の諸性質を證明せんとす.
一,組み合せの法則,
第一段, が なるときは,I によりて此定理成立すること分明なり.
第二段, につきて此定理成立するものとせば
假定による,
前に同じ,
卽ち此定理は につきても亦成立す.
二,
II** にては關係せる二つの數の中後者に を附せり,こゝに證明せんとする定理にありては前の數に を附けたり.
第一段, が なるときは此定理は I によりて,無論成立す.
第二段,記法の混亂を避けんが爲に,先づ此定理を のみにつきて證明すべし,此定理 につきて成立すと假定せば
假定による,
の定義による,
卽ち此定理は につきても仍ほ成立す. に代ふるに を以てするとき亦同じ.
三,
第一段, の なるときは論を俟ず.第二段, より に移らんに,II** によりて さて旣に なりとせるが故に
四,交換の法則,
二,三は實は此法則を證明するの豫備なりしなり.第一段, が なるときは交換の法則は三によりて無論成立す.第二段,此法則 につきて成立せりと假定せば
假定による,
二による,
卽ち交換の法則は につきて,隨て が如何なる數なりとも成立せり.
組み合せの法則と交換の法則と旣に證明せられたる上は第二章(四)に說きたる定理を此算法に適用し得べきこと論を俟たず.
五, ならば, を如何なる數となすとも なり.
につきて數學的歸納法を適用せんに,第一段, を直ちに に次げる數 となすときは,勿論 .さて は二によりて に等しきが故に, 卽ち當面の定理は が なるとき旣に成立せり.第二段, より に移らんに, さて なりといふが故に,大小といふ語の意義によりて, なり.是故に,此定理は が より大なるときは恆に成立す. が より大なるときは も亦 より大なるべし.
六, より を得.
五によりて より
又 より
を得,此二つの不等式は六を證明す.
七,, の大小,相等と , の大小相等とは相隨伴す.
此定理は五によりて容易に證明せらるべし.
八,此處に定められたる算法は一價の轉倒を許す.詳しく言はゞ , が如何なる數なりとも
なる條件に適合せる數 は必,而も唯一個に限り,存在すべし.
之を證明すること次の如し.先づ が と同じ數なりとせば を となして此條件を充實することを得.今 の與へられたるとき, が如何なる數なりとも此條件に適合せる數 存在すと假定し,例へば なりとせば II によりて 是故に に代ふるに を以てするときは, に於て,上の條件に適合せる數を得へし.是に於て數學的歸納法の兩段完きを得たり.
さて上の條件に適合せる數は , の定まれる上は唯一個に限りて存在し得べきは,七によりて直ちに明了なるべし.
(三)
廣義の數の中, に先てるものを盡く除却して,唯
のみを保存するときは,此等の數相互の間,大小の關係は,全く狹義の順序數
に於けると同一にして,兩者を區別すべき所以の者全く有ることなし.廣義の數は其一部として順序數を包括せり.
前節に於て定められたる算法を のみに適用するときは,是れ卽ち順序數の加法に外ならず.げにも順序數の加法は I,II の條件に適合せること明白なり,さて I,II は一定の算法を定むるものなるが故に,前節の算法は加法と異なることを得ず.前節に於て證明せる諸定理が順序數の加法に關せる諸定理と趣を同くせること,怪むに足らざるなり.
是故に前節の算法を廣義の數の加法と名づけ,常用の記法に從ひて を表すに を以てすべし.
前節最終の定理八は順序數の場合に於けると大に其趣を異にせり.此定理は廣義の數の範圍內に於ては,加法の逆卽ち減法の凡ての場合に可能なるべきを證せり. を と書くときは,第二章(五)に揭げたる減法の諸定理は廣義の數につきては盡く無條件にて成立す.今其證明を反復せんは無限の耐忍を讀者に要望するに似たり.
正敷
は順序數 と全く同一なるが故に,今後正數を表すに其數字に冠せる箭を撤去して之を自然數と區別することなかるべし. より小なる數卽ち負數
は次の等式に適合す,
一般に
但最後の等式にありては は正數を表はせり.此等式は數學的歸納法を用ゐて容易に證明すべきものなれば,其證明をば讀者の練習に資せんとす.
今後 を表すに常用の記法
を以てせんとす.
上文說明せる廣義の數を整數といふ.
此處に正數負數の大小の關係及加法,減法に關する事實の中特に二三を反復して思想の明確を期すべし.
共に正數にして, は より小なるときは なる減法は自然數の範圍內にては不可能なり.今正數 を と名づくれば
にして此減法の結果は負數なり.
凡て正數は より大,負數は より小なり,從て凡て正數は負數より大なり.一般に , を以て正又は負の數となすとき, が正數又は負數なるに隨て は より大或は小なり.げにも(二)の七によりて と との大小は 卽ち と 卽ち との大小に隨伴すべきなり.
, を正數となさば , は負數にして其大小は , の大小に反せり.げにも
右邊の式を第二章(五)の定理を用ゐて變形し
を得.是故に
と共に
卽ち
が如何なる數なりとも, を以て,
なる條件に適合せる數を表し,, を反對の數と名づく,例へば を とせば,之に反對せる數卽ち は なり.
或數を加ふるは之に反對せる數を減ずるに同じく,又或數を減ずるは之に反對せる數を加ふるに同じ.げにも を と名づくれば
卽ち は
の に代入して,此等式を成立せしむべき數なり,よりて
卽ち
に を加ふるも又 より に反對せる數を減ずるも其結果同一なり. に代ふるに を以てせば,此等式は より を減ずるは, に に反對せる數を加ふるに同じきを表せり.正數,負數を打して一團とせる廣義の數の範圍內にありては,加法,減法,其致一なり.
は 自らに反對せる數なり. 若し にあらずば , の中一は正數にして他の一は負數なり.げにも假に , 共に正數或は共に負數,卽ち共に より大又は共に より小なりとせば,其和 も亦或は より大或は より小なるべき筈なり.相反對せる二つの數の中,正數なるものを,此等の數の絕對値と云ふ,, の絕對値は同一なり. の絕對値を表すに なる記號を用ゆ.例へば を となさば
, の絕對値を , となすときは , の和の式次の如し.
,
共に正,
,
共に負,
,
の中一は正,一は負,
正負の數を其大さの順序に排列せる式
を利用して,次の如く,加法の應用上の意義を定むることを得,曰, に正數 を加へて得べき和は直ちに に次げる數より順に數へて第 番目に當れる數にして,又 に負數 を加ふとは直ちに に先てる數より逆に數へて第 番目に當れる數に至るべきの謂なり.此處 の正負は措て問はざること論を俟たず.
げにも加法の意義をかく解釋するときは前節の I,II の成立すべきこと明白なり. には を配し,道ちに に次げる數には ,又直ちに之に次げる數には を配し,次第に斯の如くなし行きて竟に に配せらるゝ數を と名づけんに,若し更に一步を進めて,直ちに に次げる數に移らば,こは勿論 の次の順序數に配せらるべきものなり. に代ふるに を以てするときは,上の說明の中「次ぐ」と云ふ語に代ふるに「先だつ」を以てすべきなり. に を加ふる此手續きを の なる場合に適用して前節の I 成立すとなすことは,よく此意義に調和せりといふべし.
同樣にして又 より正數 を減ずるは には を配し,直ちに に先てる數には ,又直ちに之に先てる數には を配し行きて竟に に配せらるべき數に至るをいひ,又 を減ずるは逆の方向に此手續きを行ふをいふものとせば, を減ずるは を加ふるに同じく,又 を減ずるは を加ふるに同じ,といふ前に述べたる加法,減法の關係は,遺憾なく又最明亮に解釋せらるゝを見るべし.
負數は又物の數の增減を表はせるものとして解釋することを得.吾輩が特殊の應用に固着せずして,抽象的に負數及其加法,減法の意義を定めたるは,一見甚だ唐突,不自然,形式的なる觀あるに似たりと雖,熟ら考ふればかく袖象的に根本的の觀念を定むるは,却て其觀念の應用の區域を擴大する所以なるを知るべし.第一章,第二章に於て說きたる自然數の觀念及其四則算法の意義は,物に順序を賦すること及物を數ふといふ特殊の應用上の傾向を基礎となせるが故に,一方に了解し易きの利あると共に,一方には論法の蕪雜なること及應用の範圍の始めより限定せられたるの不利あり.例へば數は長さ,時間の如き所謂量の大さを表はせるものなりと考ふるときは,再び其大小及加減乘除の意義を定め,再び其間に成立すべき關係を論證するの煩勞を反復するを避け難し.數は物の順序を表はせりとするも,物の數を表はせりとするも,或は量の大さを示せりとするも,此等特殊の應用上の意義以上に超立して動かざるは,其基本原則及四則の定義(例へば加法につきての前節の I,II)なり.數の加法を特殊の實際上の問題に應用せんとするものは,宜しく先づ其加法と稱する所のものゝ果して,よく前節の I,II の二條件に適合せるや否やを檢すべし.若し此二條件にして充實せられなば,前節に說きたる,組み合はせの法則,交換の法則及其他の定理も盡く成立すべきなり.斯の如くにして個々の特殊なる應用上の意義につき,一々同趣の推論を反復するの勞を避くることを得べし.第二章(四)に於て算法の順序に關する一般の定理を特に加法,若くは乘法に關するものとせずして,一般の假定の上に其基礎を置きたる所以の者,實はこゝに說きたると其精神を同じくせるなり.
(四)
(二)に於て廣義の數の加法に袖象的の定義を與へ,此定義を前提として加法の諸性質を證明せるに當りて,思想の紛亂を避けんが爲に,故らに加法の常用記法を用ゐざりし用意は,此處に再び同樣の見地より乘法を論ぜんとするに際しては,旣に其要を認めざるべし.
乘法とは次の等式によりて定めらるゝ算法なり.
I
II
II に於て に代ふるに を以てせば
を得,之を II と倂せて
II*
を得.
I,II は循環的に一種の算法を定むるものなり.例へば が なる場合につきて言はんに,先 I によりて
次に II* によりて
一般に
(1)
なるべきこと,數學的歸納法によりて容易に證明せらるべし.
又 II* を用ゐて一般に
(2)
を得.
又 を となすときは,前の如くにして一般に
(2*)
を得. が , 等なる場合には斯の如く簡單なる一般の結果を得ざれども乘法の結果が凡ての につきて,或定まりたる數なることを確め得べし.
次に揭ぐる乘法の諸性質は,いづれも數學的歸納法によりて證明せらるべきものにして,其趣(二)の諸定理に同じ.
一,加法に對する分配の法則.
(3)
(4)
(3) の證.第一段, の なるとき此定理明白なり. より に移るに加法の組み合せ法則及 I,II を用ゐて
特に となせば (3) より
(5)
を得.是故に (3) の に代ふるに を以てして
(3*)
を得.
(4) の證. につきて數學的歸納法を適用す. より に移るに
始めには II* に於て に代ふるに 又 に代ふるに を以てせり.其他は加法の性質及 II* の簡單なる應用に過ぎず.
特に となせば
(6)
を得.之を利用して
(4*)
を得.
(3),(4) を擴張して
(3**)
(4**)
を得.
二,組み合せの法則.
(7)
につきて數學的歸納法を適用すべし.
につきての假定及
(5)
三,交換の法則.
(8)
が なるときは (1), が なるときは (2),(2*) によりて,此定理旣に成立せり. につきて數學的歸納法を適用するに特別の困難あることなし.
四,符號の法則,符號同一なる二つの數の積は正數にして,符號異なる二つの數の積は負數なり.
證., 共に正數なるときは其積の正數なること明なり.さて (5) は の負數なるを示し.(6) 又は交換の法則は の負數なるを示す. は (5) によりて其符號 の符號に反す,故に は正數なるを知る.
積の絕對値は因子の絕對値の積に等しきこと明白なり.
五, なるとき 若し正數ならば又 なり, 若し負數ならば却て なり.
なるにより の符號は の符號に伴ふなり.自然數の乘法は I,II の條件に適合せるが故に,此處に定めたる算法を自然數に適用する限り,其乘法と異なる結果を與ふることなきや明なり.
或は又更に一步を進めて次の如く乘法の應用上の意義を定むることを得.曰く,或數 に正數 を乘ずとは を 個加へ合はするの謂にして, に負數 を乘ずとは, に反對せる數 を 個加へ合はするの謂なり.更に に を乘ぜる結果は なりとの規約を附加するときは,斯くして定められる算法は果してよく I,II の二條件に適合せるものなること明白なり.故に此算法につきても亦前に證明せる諸定理の成立すべきを知るべし.(前節結尾の注意を參照せよ)
乘法の逆は正數負數の範圍內に於ても亦必しも可能ならず,, の與へられたるとき
なる如き數 存在するときは,斯の如き數は唯一個に限り存在し得べし.而して又同時に なるが故に數の整除の問題は直ちに正數の範圍內に歸着す.
除法の可能なる場合にありては,第二章(五)に揭げたる諸定理の正數及負數の全範圍に於ても仍ほ成立すべきこと勿論なり.