新体詩抄/勧学の歌(尚今居士)
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勸學の歌
[編集]尚今居士
昔し唐土の朱文公 | よに博學の大人ながら |
わか學問をすゝめんと | 少年易老の詩を作り |
一生涯は春の夜の | 夢の如しと嘆きけり |
國の東西世の古今 | 人の高卑を問はずして |
學の道に就くものは | いかに才能ありとても |
同し多少の感慨を | 起さぬことのあるべしや |
春の初花秋の月 | 夏のみどり葉冬の雪 |
渾て此世の物事に | 心をとむる時あらば |
わが學藝を省みて | 過る月日を思ふべし |
池のみぎはの春草の | みじかき夢も覺ぬまに |
軒端に茂るきりの葉は | 吹く秋風にさそはれて |
此年も半ば過ぬるを | ふみ讀む人はしらずやは |
年の月日は長けれど | 難波入江の村あしの |
ひとよの如く思はれて | わが身の上のはづかしさ |
螢や雪の光りにて | ふみは讀めども業ならず |
昔の人の學問は | 唯一すぢの道なれど |
なほ賢人の嘆きあり | 今は學術多端にて |
枝に小枝に末葉まで | いかで凡夫の能すべき |
さは云ふものゝ諺に | 山のはじめは一塊土 |
海のはじめはひとしづく | いかに急げど詮はなし |
心をこめていつまでも | 怠らぬこそよかりけれ |
たとひ多くにわたらぬも | 唯一藝を修めなば |
身の為となる多からん | 蜘蛛に藝あり網をはり |
蜂に能あり蜜つくる | 何とて蟲に及ばざる |
勉め勉めよたゆみなく | 進み進めよよどみなく |
難き事とて厭ふなよ | 學の海に舟路あり |
教の山にしをりあり | 丈夫何かは怯るべき |
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