新しい歌の味ひ
人聲の耳にし入らば、このゆふべ、
涙あふれむ、――
もの言ふなかれ。(哀果)
「妻よ、子よ、また我が老いたる母よ、どうか物を言はないで呉れ、成るべく俺の方を見ないやうにして呉れ、俺はお前達に對して怒つてるのぢやない、いや、誰に對しても怒つてなぞゐない。だが今は、何とか言葉でもかけられると、直ぐもうそれを切掛けに泣き出しさうな氣持なのだ。さうでなければ、また
かう言つたやうな心を抱きながら、無言で夕の食事をしたゝめてゐる男がある。年は二十七八であらう。濃い眉を集め、さらでだに血色のよくない顏を痛々しい許り暗くして、人の顏を見る事を何よりも恐れてゐるやうな容子を見ると、神經が研ぎすました西洋剃刀の刄のやうに鋭くなつてゐて、皿と皿のカチリと觸れる音でさへ、電光のやうに全身に響くらしい。
書を閉ぢて
秋の風を聽く、
カアテンの埃汚れのひどくなれるかな。
書といふのは、あの不思議な形をした金色の文字が濃青の
この著作物は、1912年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)80年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。