小学校令改正並小学校令施行規則発布ニ関スル件
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[編集]文部省訓令第十号
府県沖縄県ヲ除ク
今般勅令第三百四十四号ヲ以テ小学校令ヲ改正発布セラレ文部省令第十四号ヲ以テ小学校令施行規則ヲ発布セリ蓋従来ノ小学校令ハ明治二十三年ノ制定ニ係リ其ノ施行以来年ヲ閲スルコト已ニ十余年之ヲ其ノ実施ノ蹟ニ徴シ時勢ノ進歩ニ考フルニ改正ヲ要スルモノ少カラス是レ今回小学校令ノ改正発布アルニ至リ又施行規則ヲ発布シテ其ノ改正ノ旨趣ニ依リ之カ施行ニ要スル諸般ノ事項ヲ総括規定セル所以ナリ本大臣ハ府県知事カ能ク改正小学校令ノ旨趣ヲ体シ施行規則ニ遵ヒ以テ小学教育ノ施設ヲシテ国運ノ進歩ニ伴ヒ時宜ニ適応セシメンコトヲ望ム為左ニ小学校令改正ノ要旨ト其ノ施行上特ニ注意ヲ要スルノ点ヲ挙示セン
小学校ノ教科目ニ於テハ従来其ノ数或ハ多キニ過キ児童ノ負担重キニ拘ラス其ノ得ル所ノ知識ハ却テ散漫ニ失シ確実ナルヲ得サルノ憂アリ故ニ教科目ノ数ハ成ルヘク之ヲ減少シ児童心身ノ発育ニ応シテ適切ノ教授ヲ為シ力ヲ必須ノ科目ニ集注セシメ務メテ日常生活ノ用ニ資セシメンコトヲ期シ従来ノ加ヘ得ヘキ科目ヲ減シ、除キ得ヘキ科目ヲ増シ、読書、作文、習字ノ如キ之ヲ合セテ国語ノ一科目トセラレタリ而シテ其ノ教授ハ元相関聯スルモノナルヲ以テ務メテ分離スルノ弊ヲ避ケ相待テ児童学習ノ知識ヲ完実ナラシメンコトヲ要ス故ニ其ノ読ミ方、綴リ方、書キ方ノ教授時間ノ如キハ各〻其ノ主トスル所ニ依リ区別シテ教授スルコトヲ得ルモ彼此相資シテ適宜ノ方法ヲ取ルヘシ又小学校ニ於テ教授ニ用フル仮名ノ字体並ニ字音仮名遣ノ例ヲ示シ以テ児童ヲシテ簡便ニ実際ノ応用ニ資シ易カラシメンコトヲ期シ徒ニ複雑繁密ノコトノ為ニ過度ノ心力ヲ費スコトナカラシメ且尋常小学校ニ於テ教授ニ用フル漢字ノ数ヲ凡ソ千二百字内外ニ於テ選用スルコトヽセリ従来小学校ニ於ケル教授ノ実況ヲ視ルニ専ラ力ヲ文字ノ教授ニ尽シテ徳育上智育上肝要ナル事項ニ及フ能ハサルノ憾アリ而モ猶文字ノ知識確実ヲ闕キ自在ニ之カ応用ヲ為スヲ得ス蓋学習スル文字ノ数ヲ減シ日常須知ノモノニ限ルトキハ之ニ練熟セシメ易ク従テ応用上ニ於ケル利益却テ多クシテ必要ナル知識技能ヲ得シムルニ於テ亦敢テ不便ヲ感スルコトナキヲ得ン是レ今回尋常小学校ニ於テ教授ニ用フル漢字ノ大体ノ範囲ヲ示シタル所以ナリ又小学校ニ於テ各学年ノ課程ノ修了若ハ全教科ノ卒業ヲ認ムルニハ卒業[1]ノ成績ヲ考査シテ之ヲ定メ試験ノ方法ニ依ラサルコトヽセリ是レ心身ノ発育未タ十分ナラサル児童ヲシテ競争心ニ駆ラレ試験前一時ニ過度ノ勉強ヲ為シ是カ為ニ往々其ノ心身ノ発育ヲ害スルノミナラス試験ノ為ニ勉強スルノ陋習ヲ馴致スルヲ避ケンカ為ナリ又小学校ニ於ケル毎週教授時数ヲ減シ従来其ノ制限尋常小学校ニ在リテハ三十時ナリシヲ二十八時トシ高等小学校ニ在リテハ三十六時ナリシヲ三十時トセリ是レ小学校ニ於ケル教授ヲシテ特ニ児童心身ノ発達ニ応セシメンコトヲ期スルカ為ナリ其ノ他教則中ニ於ケル数多ノ改正ハ従来ノ実験ニ徴シテ小学教育ノ目的を全カラシメンカ為ニ外ナラス
修業年限ニ於テハ義務教育ノ年限即チ尋常小学校ノ修業年限ハ三年若ハ四年ニシテ此ノ年限内ニ於テ小学校ノ本旨トスル道徳教育及国民教育ノ基礎並ニ生活ニ必須ナル普通ノ知識技能ヲ授クルハ蓋シ為シ難キ所ナリ之ヲ欧洲諸国ニ於ケル義務教育ノ年限ニ比スルニ短キコト三四年ナルノミナラス言語文字ノ学習ニ於テ我ハ彼ニ比シ数倍ノ困難アリ故ニ尋常小学校ノ修業年限ハ之ヲ延長スルノ要アルニ似タレトモ国度民情ニ考ヘ義務教育普及ノ実況ヲ察スレハ未タ遽カニ四年以上に延長スルヲ許サヽル事情アリ是ヲ以テ従来三年ナリシモノヲ四年ニ改正スルニ止メラレタリ是レ義務教育ヲシテ今日ノ国度民情ニ適合シ且其ノ普及上支障少カラシメンコトヲ期スルカ為ナリ
修業年限ノ延長ハ直ニ之ヲ今日ニ実行シ難キモ将来ノ為ニ予メ其ノ準備ヲ為スハ当ニ務ムヘキ所ナリ従来修業年限ニ長短アルニ拘ラス同一ノ教科ヲ授クルノ制ナリシヲ改正シテ高等小学校ニ於テハ修業年限ニ応シテ其ノ教科目ヲ斟酌スルコトヲ許シタリ故ニ二年ノ高等小学校ノ教科目ヲシテ成ルヘク尋常小学校ノ教科目ト相聯絡セシメンコトヲ期シ以テ尋常小学校ニ二年ノ高等小学校ヲ併置スルノ便ヲ図レリ従来補習科ノ名義ヲ以テ高等小学校ニ類似セル教科ヲ置キタル場処ノ如キハ成ルヘク之ヲ二年程度ノ高等小学校ノ編制ニ改メテ尋常小学校ニ併置スルノ方法ヲ講スヘシ而シテ高等小学校ヲ増設スルニ当リテハ資力ヲ量ラスシテ濫ニ修業年限ノ長キモノヲ設ケンヨリモ寧ロ二年程度ノモノヽ設置ヲ奨励スヘシ
尋常小学校ニ高等小学校ヲ併置スルニ至ルハ希望スル所ナレトモ町村ノ資力或ハ其ノ併置ニ堪ヘサルモノ亦少カラサルヘシ此ノ如キ場処ニ於テハ補習科ヲ設クルヲ以テ利便多シトス従来設クル所ノ補習科ハ多クハ通常教授時間内ニ之ヲ設ケ是カ為ニ別ニ教室ヲ要シ教員ヲ置クニ至レリ此ノ如キハ補習科ノ本旨ニ称フモノニアラス元来補習科ハ通常教授時間内ニ於テハ学習スルコト能ハサル児童ヲシテ既修ノ学科ヲ練習補充セシムルヲ旨トス故ニ補習科ヲ設置スルニハ或ハ夜間ニ於テシ或ハ日曜日ニ於テシ或ハ季節ヲ選ヒテ教授シ既設ノ教室ヲ之ニ利用シ正科ヲ担任スル教員ヲシテ之ヲ兼担セシムル等土地ノ情況ヲ斟酌シ専ラ便宜ヲ旨トスヘキナリ此ノ如キ方法ヲ以テ補習科ヲ設クルトキハ其ノ要スル費用ハ誠ニ少額ヲ以テ弁スルヲ得ヘシ而シテ小学校ヲ卒リテ後直ニ職業ニ従事スル者ヲシテ其ノ学習セル所ヲ一層実用ニ適応スルニ足ルノ練習補充ヲ為サシムル為補習科ヲ設クルハ最モ必要トスル所ナリ故ニ補習科ハ将来意ヲ用ヒテ其ノ増設ヲ奨励スヘシ
就学ニ於テハ之ニ関スル規定ヲ明確ニシテ義務教育ノ施行上不便ナカラシメンコトヲ期セラレタリ近年各地方ニ於テ学齢児童ノ調査ヲ精確ニシ就学ノ督促ニ務ムルカ如キモ自今一層義務教育ノ普及ヲ図リ邑ニ不学ノ戸ナク家ニ不学ノ徒ナカラシメ以テ国基ノ鞏固ヲ図ルヘキナリ而シテ改正小学校令中雇傭ニ依リテ学齢児童ノ就学ヲ妨クルヲ得サルコトヲ規定セラレタルハ苟モ未タ尋常小学校ノ教科ヲ卒ラサル児童ハ仮令貧家ノ子弟ナリト雖モ之ヲ雇傭セサラシムルノ旨意ニアラス寧ロ雇用主ヲシテ簡易便宜ノ方法ニ依リ其ノ雇傭スル児童ニ教育ヲ施サシメントスルノ精神ニ外ナラス
授業料ニ於テハ従来ノ小学校令ノ規定ハ之ヲ徴収スルヲ本体トシ唯各個人ニ対シテノミ減免ノ道ヲ存シタリシカ明治二十六年ニ至リ勅令第三十四号ヲ以テ学校基本財産等ノ収入アルトキハ府県知事ノ許可ヲ受ケテ尋常小学校ニ於テハ之ヲ徴収セサルヲ得ルコトヽセラレタリ然ルニ爾来時勢ノ進歩ニ察シ且義務教育ノ性質ニ考フルニ尋常小学校ノ授業料ヲ徴収セサルヲ本体ト定ムルハ当然ノコトニ属スルヲ以テ改正令ニ於テハ特別ノ事情アリ府県知事ノ認可ヲ受ケテ徴収スル場合ヲ除キ尋常小学校ニ於テハ授業料ヲ徴収スルコトヲ得スト規定セラレタリ蓋就学ノ督促ヲ為シ義務教育ノ普及ヲ図ランカ為ニハ授業料ヲ徴収セサルハ其ノ方法ノ一タラサルヲ得ス然レトモ授業料ノ収入ヲ以テ学校維持費ノ重要ナル財源ト為シタル地方ニ在リテ遽ニ之ヲ廃止セントシテ其ノ経済上ニ大ナル影響ヲ生スルカ如キハ亦深ク戒メサルヘカラサル所ナリ宜ク土地ノ情況ヲ察シ緩急ヲ量リテ適当ノ施設ヲ為シ小学教育ノ実効ヲ挙クルヲ以テ旨トナサヽルヘカラス
小学校図書審査委員会ニ於テハ其ノ組織ヲ改正シ従来加ヘタル所ノ府県参事会員及小学校教員ヲ除キ新ニ府県書記官、府県立高等女学校長及郡視学ヲ加フルコトヽセラレタリ蓋府県参事会員ハ府県ノ経済ノ情況ニ通スルヲ以テ図書審査ノ際成ルヘク府県経済ノ実況ニ伴ハシムル為従来ハ之ヲ加ヘタリシモ多年ノ経験ニ依リ今日ニ至リテハ最早参事会員ヲ加フルノ必要ナキヲ以テ之ヲ除カレタリ又従来小学校教員ヲ加ヘタリシハ図書審査ノ際小学校ノ学科程度ニ適セシムルヲ要スルカ為ナリシモ郡、府県ニ視学ヲ置カレ之ヲ審査委員会ニ加ヘラレタル今日ニ於テハ最早教授ニ余暇少キ小学校教員ヲ強テ加フルノ必要ナキニ至レルヲ以テ之ヲ除カレタリ而シテ更ニ府県書記官ヲ加ヘラレタルハ之ヲシテ審査委員会ノ委員長ニ充テ審査会ヲ統轄セシムルノ必要アルヲ以テナリ高等女学校長及郡視学ヲ加ヘラレタルハ師範学校長、中学校長、及府県視学等ト同様ノ職務上関係アルヲ以テナリ又施行規則ニ於テハ審査ノ旨趣ヲ明ニシ学校ノ種類、男女ノ区別又ハ学校所在地ノ情況ニ依リテ各別ニ適切ナル図書ヲ選定スルコトヲ得シメ全府県ヲ通シテ同一種類ノ図書ヲ二種以上併用スルカ如キコトナカラシメントス然レトモ市街地ト村落トノ如キ或ハ山間ト海辺トノ如キハ成ルヘク各〻其ノ土地ノ情況ニ適切ナルモノヲ選ヒテ之ヲ用フルヲ可トス又府県知事ニ於テ採定シタル図書ハ之ヲ使用セントスル学年ノ開始ヨリ少クモ九十日以前ニ其ノ採定シタル図書ニ関スル必要ノ事項ヲ公布セシムルコトヽシテ学年開始ニ至リ採定シタル図書ノ供給ヲ闕キ教授ニ支障ヲ来スカ如キ憂ナカラシメンコトヲ期シタリ
小学校ノ職員ニ於テハ正準教員ノ外代用教員ヲ認メラレタリ是レ実際ノ情況ニ顧ミテ今日ノ時宜ニ応セラレタルニ外ナラス現在資格アル正教員ノ不足数夥シキ際ニ当リテハ代用教員即チ従来ノ雇教員ヲ採用シテ之ヲ補充セサルヘカラス是レ今日ニ在リテハ巳ムコトヲ得サル所ナリ而シテ又学校編制ノ規定ニ於テモ最モ教員ノ配置ニ注意シ小学校ニ於テハ単級小学校ト雖モ必ス正教員ヲ置クヲ本体トシ多級小学校ニ於テハ正教員ヲ得難キトキハ必スシモ学級毎ニ正教員ヲ置カス二学級毎ニ一人ノ割合ヲ以テ之ヲ置クヲ得ルコトヽシ以テ平均ニ資格アル正教員ノ配置ヲ為スヲ得シメタリ故ニ能ク注意シテ独リ都会ノ地ニ在ル小学校ニ資格アル教員集注シテ僻陬ノ地ニ在ル小学校ハ資格ナキ者ノミヲ以テ充タサルヽカ如キ弊ナカラシメンコトヲ要ス
改正小学校令中以上ニ示ス所ノ外猶従来ノ実験ニ徴シ時勢ノ進歩ニ考ヘ必要ノ改正ヲ施サレタルモノ多シ然レトモ以上示ス所ノ如キハ其ノ最モ主要ナルモノナリ殊ニ改正小学校令ニ於テハ意ヲ用ヒテ従来ノ施設ヲ改造スルノ方法ヲ避ケ之ヲ補綴改善スルノ方針ヲ取ラレタリ蓋往々改正ニ伴フ通弊タル従前ノ施設ヲシテ無効ニ帰セシメ経済上大ナル変動ヲ生スルニ鑑ミタルナリ而シテ其施行上ノ手続ノ如キハ之ヲ従来ノ経験ニ徴シ務メテ簡便ニ従ハンコトヲ期セリ
小学校教育ノ事タル其ノ実効ヲ奏セント欲スレハ単ニ法規ノ整備ニノミ頼ルコトヲ得ス必スヤ小学校教員ニ其ノ人ヲ得学事ノ監督其ノ宜キヲ得サルヘカラス而シテ小学校教員ニ其ノ人ヲ得ント欲スレハ之ヲ優待スルノ道ヲ講スルト之ヲ皷舞奨励スルノ法ヲ設クルヲ要ス近年市町村ハ概ネ教員ヲ優遇セントスルノ状アリ政府モ亦年功加俸ノ制ヲ改メ特別加俸ノ制ヲ新設シ且教育基金ノ一部ヲ以テ教員奨励ノ費ニ充ツルコトヲ許シタリ府県知事ニ於テハ能ク教員ノ選任ニ注意シ有能ヲ奨メ有功ヲ推シ小学校教員ヲシテ各〻楽ミテ其ノ職ニ励精セシメンコトヲ期図スヘシ又学事ノ監督ニ関シテハ曩ニ地方官官制ノ改正ニ依リ郡、府県ニ視学ノ官ヲ置カレタルヲ以テ学事監督ノ機関略〻備ハリタリ今ヤ小学校令ノ改正発布セラレ又小学校令施行規則ヲ発布シタルニ依リ府県知事ハ能ク其ノ旨趣ヲ体認スルト共ニ深ク小学校教員ノ選任ト学事ノ監督トニ注意シ以テ小学校ノ教育ヲシテ益〻実用ニ適セシメ国民教育ノ実効ヲ挙クルニ於テ遺算ナカランコトヲ務ムヘシ
明治三十三年八月二十二日文部大臣 伯爵樺山資紀
正誤
昨二十二日文部省訓令第十号中三四五頁下段二十八行卒業ヲ認ムルニハノ下卒業(﹅﹅)ハ平素(○○)ノ誤
文部省参事官
- 底本中の旧字を新字に改めた。
- 傍点は括弧を用いて、二の字点は「〻」を用いて表記した。
- 脚註:
関連項目
[編集]- 小学校令 (明治33年勅令第344号)
- 小学校令施行規則 (明治33年文部省令第14号)
- 北海道庁沖縄県ニ於テモ亦訓令第十号同様心得シム (明治33年文部省訓令第11号)
外部リンク
[編集]この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。
- 法律命令及官公󠄁文󠄁書
- 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
- 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁
この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。