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小さな星

提供:Wikisource


小さな星


彼ハママ小さな星です

片隅にまたたいてゐます

太陽の雄辯もありません

月󠄁の抒情󠄁も持ちません

金星の魔󠄁術󠄁もないのです

彼は小さな星です

花󠄁屋が落していつた菫ノママ一輪です

少女がすつた燐寸の一本です

草の葉にかくれた子供の螢です

夜 それぞれの星が それぞれの

  沈默で歌ふとき

遠󠄁い太古ムカシ、深い森、

黑い、大きな炎、

戰爭やときめく心臓のことなど

  歌ふとき

彼は小さな星です

小さい蟲や小ママ供のことを

うたひます

咳をしながらとぎれとぎれに

うたひます


風が吼える晩󠄁や

霧が湧く夜は

どつかへ隠󠄂れてしまひます


月󠄁が照らす空󠄁や

窓の明󠄁るい街では

自分の火をふきけしてしまひます

彼は小さな星です

梢󠄁の小枝にひつかゝつて

小さい眼をしばたたいてゐます。


この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。