大塚徹・あき詩集/放蕩息子
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放蕩息子[編集]
東洋の
あおい囀りのなかにうづくまって
花守りの老爺は
この春――にせんろっぴゃくろっぺンの
としつきの花束を編んでいる
ほろりと熱いものが頬をぬらして
はっと気がつく
ああ 俺は泣いていたんだ
と、たちまちに嗚咽して
杳いむかしの花びらの
いちまい いちまいの儚さが
赤道越えて 帰ってくる。
傷つき破れた
神話のなかの
白い蝶が
おーい おーい
と群 ち
追いすがる
追いすがる
大陸のはての蜃気楼などに――
花守の老爺は
しょぼしょぼとメガネの曇りをふきながら
日本の夕景を飽かず見まわしている
春は 惜しみなく
くさぐさの凋花を棄てて
放蕩息子のように
きさる
熾んなる夏の方向へ――
〈昭和二二年、新涛〉