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大塚徹・あき詩集/ひびき

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ひびき

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悲鳴をあげて黒暗やみ崩壊くずれはじめる。
夥しい菌類が頭を擡上もたげはじめる
すると 小っぽけな旋風が湿地の此處彼處に
 勃り

狂奔するあいつ
氾濫するあいつ
邂逅する、必然と、必然とが
いよいよ膨張する、上昇する、旋風。――
空間にスパークする
生きとし生きるものの 忿怒を 呪詛を
移動しつつ
  けれども極めて正確に時間に換算するも
  の、
例えば 貝殻類や昆虫達の零細な熱量にいた
 るまで
漸次 展開する科学の頁に
始終その破壊の愉しさを如実に記録するもの
 がある。

同志ともだち
やがて黎明ちかく
見よ 薔薇色の海の彼方を
羽搏きのような 足跫のような
無数の肩と肩とが相尅あいうつような
整爽な肉体の濤が響いてくるのだ。

〈昭和十二年、ヴァリエテ〉