和歌十體
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- 一 古 體
小笠原みつのみまきにあるゝ駒のとればぞつなぐこの我袖とれ
和歌の浦に潮みち來れば潟をなみ葦邊をさしてたづ鳴きわたる
- 二 神 妙
わが君は千世にましませさゞれ石のいはほとなりて苔のむすまで
み山には霰ふるらし外山にはまさ木のかづら色づきにけり
- 三 直 體
何をして身のいたづらに老いぬらむ年の思はむことぞやさしき
秋來ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる
- 四 餘 情
我がやどの花見がてらに來る人は散りなむ後ぞ戀しかるべき
今來むといひしばかりに長月の有明の月を待ちいでつるかな
- 五 寫 思
君が住む宿の梢を行く〳〵と隱るゝまでにかへり見しかな
來ぬ人をしたに待ちつゝ久堅の月をあはれといはぬ夜ぞなき
- 六 高 情
冬ながら空より花の散り來るは空のあなたは春にやあるらむ
行きやらで山路くらしつ郭公いま一聲の聞かまほしさに
- 七 器 量
昨日こそ年は暮れしか春霞かすがの山にはや立ちにけり
梅の花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべて降れゝば
- 八 比 興
雪のうちに春は來にけり鶯のこほれる淚いまやとくらむ
花の色は霞にこめて見えずとも香をだにぬすめ春の山風
- 九 花 體
梅が枝に來ゐる鶯春かけて鳴けども未だ雪は降りつゝ
花見にも行くべきものを青柳の糸にかゝりて今日も暮しつ
- 十 兩 方
山高み雲居に見ゆる櫻花心の行きてをらぬ日ぞなき
年を經て花のかゞみとなる水は散りかゝるをや曇るといふらむ
右以宮内省圖書寮藏本書寫畢、昭和十五年一月。
このファイルについて
[編集]- 底本は、佐々木信綱編著『日本歌学大系第一巻』第7版、1991年。
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