利用者:Gminky/昭和17(れ)973

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國家總動員法違反被告事件

事實[編集]

第二審ハ 左記ノ 如ク 事實ノ認定 及 法律ノ適用ヲ 爲シ 被告人ヲ 罰金 四千圓ニ 處ス 右罰金ヲ 完納スルコト 能ハサルトキハ 金 二十五圓ヲ 一日ニ 換算シタル 期間 勞役場ニ 留置スル旨ノ 判決ヲ 爲シタリ

被告人ハ 肩書 住所ニ 店舖ヲ 設ケテ 靴製造販賣業ヲ 營ムモノナルトコロ

第一、被告人ハ 昭和十六年一月頃 被告人ノ 右店舖 附近 路上ニ 於テ 神戸市神戸區北長狹通五丁目 富田豊太郎ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人ニ 對シ 法定ノ 除外事由ナキニ 拘ラス 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 等八百十九號ニ 依リ 指定セラレタル 特別註文ニ 依ル 紳士靴(舶來ボツクス革)ノ 小賣價格 一足 三十三圓五十二錢八厘ヲ 超エ 同靴一足ヲ 代金 五十圓(超過額十六圓四十七錢二厘)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
第二、藤本勳夫ハ 被告人ノ 二男ニシテ 被告人ヲ 代理シテ 被告人ノ 前記營業 一切ヲ 統轄 擔當シ 居ルモノナルトコロ 被告人ノ 右業務ニ 關シ 法定ノ 除外事由ナキニ 拘ラス 被告人ノ 前記 店舖ニ 於テ
一、(一)昭和十四年二月九日ヨリ 同年九月十一日迄ノ 間 前後 二十三回ニ 亙リ 長澤某 外 二十二名ニ 對シ 昭和十四年一月二十七日 兵庫縣告示 第七十六號ニ 依リ 指定セラレタル 靴和製ボツクス 最上品 一足ノ 小賣價格 十九圓二十五錢ヲ 超エ 同靴 二十三足ヲ 代金 一足 二十五圓 乃至 三十五圓 合計 六百二圓(超過額 百五十九圓二十五錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(二)同年九月二十七日 及 同年十月十四日ノ 二回ニ 亙リ 同市葺合區磯上通二丁目 バツセルマンヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人ニ 對シ 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十九號ニ 依リ 指定セラレタル 特別註文ニ 依ル 婦人靴(牛革)上ノ 小賣價格 一足 二十二圓二十錢ヲ 超エ 同靴 二足ヲ 代金 一足 各 二十五圓 合計 五十圓(超過額五圓六十錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(三)同年十一月三十日ヨリ 昭和十五年八月十五日迄ノ 間 前後 三十八回ニ 亙リ 播磨某 外 三十七名ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人等ニ 對シ 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十八號ヲ 以テ 改正セラレタル 同年一月二十七日 兵庫縣告示 第七十六號ニ 依リ 指定セラレタル 特別註文ニ 依ル 靴和製ボツクス最上品ノ 小賣價格 一足 二十三圓十錢ヲ 超エ 同靴 三十八足ヲ 代金 一足 二十四圓 乃至 四十五圓 合計 千百五圓(超過額 二百二十七圓二十錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(四)昭和十五年二月十三日ヨリ 同年八月十五日迄ノ 間 前後 五十回ニ 亙リ 大前某 外 四十九名ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人等ニ 對シ 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十九號ニ 依リ 指定セラレタル 特別註文ニ 係ル 紳士靴(舶來ボツクス革)ノ 小賣價格 一足 三十三圓五十二錢八厘ヲ 超エ 同靴 五十足ヲ 代金 一足 三十五圓 乃至 六十圓 合計 二千六十七圓(超過額 三百九十圓六十錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(五)同年十二月十二日 木本某ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人ニ 對シ 右公定價格ヲ 超エ 右同靴 一足ヲ 代金 三十五圓(超過額 一圓四十七錢二厘)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(六)同年三月二十一日 神戸市須磨區一ノ谷町 澤野彦三郎ニ 對シ 右兵庫縣告示ニ 依リ 指定セラレタル 紳士靴(舶來ボツクス革)ノ 小賣價格 一足 二十七圓九十四錢ヲ 超エ 同靴 一足ヲ 代金 三十一圓(超過額 三圓六錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(七)同年三月七日ヨリ 同年八月五日迄ノ 間 前後 二十六回ニ 亙リ 喜田某 外 二十五名ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人等ニ 對シ 右兵庫縣告示ニ 依リ 指定セラレタル 特別註文ニ 依ル 婦人靴(牛革)特上ノ 小賣價格 一足 二十四圓六十錢ヲ 超エ 同靴 二十六足ヲ 代金 一足 二十五圓 乃至 四十三圓 合計 七百九十五圓(超過額 百五十五圓四十錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(八)昭和十六年三月五日ヨリ 同年五月二十九日迄ノ 間 前後 二十三回ニ 亙リ 佐藤某 外 二十二名ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人等ニ 對シ 右公定價格ヲ 超エ 右同靴 二十三足ヲ 代金 一足 三十五圓 合計 八百五圓(超過額 二百三十九圓二十錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(九)同年二月五日ヨリ 同年七月十日迄ノ 間 前後 十二回ニ 亙リ 芦屋市打出 吉田金太郎 外 十一名ヨリ 特別註文ヲ 受ケ 同人等ニ 對シ 右兵庫縣告示ニ 依リ 指定セラレタル 特別註文ニ 依ル 婦人靴(牛革)上ノ 小賣價格 一足 二十二圓二十錢ヲ 超エ 同靴 十二足ヲ 代金 二十三圓 乃至 二十八圓 合計 三百二圓(超過額 三十五圓六十錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(一〇)同年八月二十二日ヨリ 昭和十六年五月二十九日迄ノ 間 前後 八十回ニ 亙リ 東京市大森區千束町 砂田重政 外 七十九名ニ 對シ 昭和十五年八月二十一日 商工省告示 第四百六十三號ニ 依リ 指定セラレタル 大人男子用短靴(材料 甲 和製牛革 底 牛革 製造寸法 九寸四分以上 製法 複式縫)ノ 小賣業者 販賣價格 一足 二十七圓二十錢ヲ 超エ 同靴 八十足ヲ 代金 二十九圓五十錢 乃至 三十五圓 合計 二千七百七十七圓(超過額 六百一圓)ニテ 小賣賣販スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(一一)昭和十五年十二月二十九日 仲某ニ 對シ 右商工省告示ニ 依リ 指定セラレタル 大人男子用編上靴(材料 甲 和製牛革 底 牛革 製造寸法 九寸四分以上 製造 複式縫)ノ 小賣業者 販賣價格 一足 三十二圓六十四錢ヲ 超エ 同靴 一足ヲ 代金三十五圓(超過額 二圓三十六錢)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
(一二)昭和十六年二月二十八日 神戸市葺合區籠池通一丁目 グラハムニ 對シ 右商工省告示ニ 依リ 指定セラレタル 大人男子用短靴(材料 甲 和製豚革 底 牛革 製造 寸法九寸四分以上 製法 複式縫)ノ 小賣業者 販賣價格 一足 二十圓ヲ 超エ 同靴 一足ヲ 代金 三十五圓(超過額 十五圓)ニテ 小賣販賣スヘキ 旨ノ 契約ヲ 爲シ
何レモ 右 各 代金ヲ 受領シ
二,昭和十五年七月六日 商工省農林省令 第二號 奢侈品等製造販賣制限規則 昭和十五年七月六日 商工省告示 第三百四十號ニ 依リ 靴製造販賣業者ハ 指定年月日タル 昭和十五年十月七日以後ハ 靴ニシテ 一足ニ付 販賣價格 三十五圓ヲ 超ユルモノヲ 賣渡スコトヲ 得サルコトト ナリタルニモ 拘ラス 昭和十五年十月十五日ヨリ 昭和十六年六月十一日迄ノ 間 前後 八十五回ニ 亙リ 田村某 外 八十四名ニ 對シ 前記 販賣價格ヲ 超ユル 靴タル 紳士用舶來革靴 六十四足 婦人用舶來革靴 十五足 及 紳士用和製革靴 六足 合計 八十五足ヲ 一足 三十八圓 乃至 八十圓 合計 四千四百九十九圓ニテ 賣渡シ

タルモノニシテ 藤本勳夫ノ 右 第二ノ一ノ(一) 乃至 (十二)ノ 公定價格ヲ 超エテ 靴ヲ 販賣スヘキ旨ノ 契約ヲ 爲シ 其ノ 代金ヲ 受領シタル 各 所爲 竝ニ 右第二ノ二ノ 販賣價格 三十五圓ヲ 超ユル 靴ヲ 賣渡シタル 各 所爲ハ 夫々 犯意 繼續ニ 係ルモノトス

法律ニ 照スニ 被告人ノ 判示第一ノ 所爲ハ 昭和十六年 勅令 第八百四十一號ニ 依ル 改正前ノ 昭和十四年 勅令 第七百三號 價格等統制令 第七條 第二十一條 昭和十三年 商工省令 第五十六號 物品販賣價格取締規則 第一條 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十九號ニ 違反シ 行爲時法ニ 依レハ 左記 改正前ノ 國家總動員法 第三十三條第六號 第十九條ニ 裁判時法ニ 依レハ 昭和十六年 法律 第十九號ニ 依リ 改正セラレタル 國家總動員法 第三十一條ノ二第二號 第十九條ニ 各 該當スルトコロ 犯罪後ノ 法律ニ 因リ 刑ノ 變更アリタルヲ 以テ 刑法 第六條 第十條ニ 則リ 輕キ 舊法ヲ 適用 處斷スヘク 所定刑中 罰金刑ヲ 選擇シ 藤本勳夫ノ 判示所爲中 判示 第二ノ一ノ(一)ノ 點ハ 各 昭和十三年七月九日 商工省令 第五十六號 物品販賣價格取締規則 第一條 昭和十四年一月二十七日 兵庫縣告示 第七十六號ニ 判示 第二ノ一ノ(二)ノ 點ハ 各 右 物品販賣價格取締規則 第一條 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十九號ニ 違反シ 何レモ 昭和十六年 法律 第二十號ニ 依リ 改正セラレタル 輸出入品等ニ關スル臨時措置ニ關スル法律 第五條 第二條 ニ該當 判示 第二ノ一ノ(三)ノ 點ハ 各 昭和十六年 勅令 第八百四十一號ニ 依ル 改正前ノ 價格等統制令 第七條 第二十一條 右物品販賣價格取締規則 第一條 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十八號ヲ 以テ 改正セラレタル 同年一月二十七日 兵庫縣告示 第七十六號ニ、判示第二ノ一ノ(四) 乃至 九ノ 點ハ 各 右價格等統制令 第七條 第二十一條 右物品販賣價格取締規則 第一條 昭和十四年九月十八日 兵庫縣告示 第八百十九號ニ、判示 第二ノ一ノ(一〇) 乃至 (一二)ノ 點ハ 各 右價格等統制令 第七條 昭和十五年八月二十一日 商工省告示 第四百六十三號ニ 違反シ 各 國家總動員法 第三十一條ノ二第二號 第十九條ニ 該當シ 以上ハ 連續犯ナルヲ 以テ 刑法 第五十五條 第十條ニ 則リ 重キ 後者ノ 一罪トス 藤本勳夫ノ 營業主タル 被告人ニ 對シ 國家總動員法 第四十八條ヲ 適用シ 判示 第二ノ二ノ點ハ 輸出入品等ニ關スル臨時措置ニ關スル法律 第五條 第二條 昭和十五年七月六日 商工省農林省令 第二號 奢侈品等製造販賣制限規則 第二條 昭和十五年七月六日 商工省告示 第三百四十號 刑法 第五十五條ニ 該當スルヲ 以テ 藤本勳夫ノ 營業主タル 被告人ニ 對シ 輸出入品等ニ關スル臨時措置ニ關スル法律 第七條ヲ 適用シ 以上ハ 刑法 第四十五條前段ノ 併合罪ナルヲ 以テ 同法 第四十八條第二項ニ 則リ 各罪ニ付 定メタル 罰金ノ 合算額ノ 範圍内ニ 於テ 被告人ヲ 罰金 四千圓ニ 處スヘク 被告人ニ 於テ 右罰金ヲ 完納スルコト 能ハサルトキハ 換刑處分ヲ 定メタル 刑法 第十八條ハ 本件 第一ノ犯行後 昭和十六年 法律 第六十一號ニ 依リ 改正セラレタルヲ 以テ 同法 第六條ノ 趣旨ニ 則リ 新舊兩法條ヲ 比照スルニ 舊法條 被告人ニ 利益ナルニ 依リ 同法條ヲ 適用スヘク 尚 本件 第二ノ刑責ニ 付テハ 右改正法條ヲ 適用スヘキモノナレトモ 之ト 前記 第一ノ犯行トハ 一個ノ 主文タル 罰金刑ニ 依リ 處斷スヘキモノナルヲ 以テ 結局 被告人ニ 利益ナル 舊法條ヲ 適用シ 二十五圓ヲ 一日ニ 換算シタル 期間 被告人ヲ 勞役場ニ 留置スヘキモノトス

主文[編集]

本件上告ハ 之ヲ 棄却ス

理由[編集]

辯護人 中村俊夫 上告趣意書 第一點(イ) 原審ハ 藤本勳夫ノ 犯罪事實ニツキ 藤本勳夫ヲ 被告人ノ 代理人ト 認定シ 且 「自分ハ 勳夫ニ 商賣ヲ 讓リテ後モ 家ニ 居リテ 材料ヲ 買入ルル際 品物ノ 良否ヲ 見タリ 靴ノ 製造ニ付 職工ノ 技術上ノ 監督ヲ シタリシ居タルカ 營業名義モ 老舖ノ 關係上 自分名義ニ 爲リ居リ 又 税務署ニ 對スル 屆書ノ 名義モ 自分ノ 名義ニ 爲リ居リ 神戸靴商組合ニモ 自分ノ 名義ニテ 加入シ居タルカ 昭和十六年中頃 解散シ 之ニ 代リテ 神戸靴工業組合 創立ト 同時ニ 自分ノ 名義ニテ 之ニ 加入シ 自分ノ 名義テ 皮革使用許可申請書ヲ 同組合ニ 提出シテ 靴材料ノ 皮革ノ 配給ヲ 受ケ居ルモノ」ト 事實ヲ 認定シ 被告人ヲ 國家總動員法 第四十八條ニ 基キ 罰シテヰルノテアルカ 右判斷ハ 事實ノ 認定ヲ 誤リ 且 法ノ 解釋ヲ 誤リタル 不當アリト 思量スルモノテアル(ロ)抑々國家總動員法第四十八條ニ規定スル「人」トハ如何ナル地位ニアル者ヲ指スノテアラウカ即チ責任者トシテノ「人」ハ其ノ事業ニ對シ如何ナル權限ヲ持ツモノヲ指スノテアラウカ或ハ單ニ營業名義人ヲモ「人」ノ内ニ包含スルモノナリヤ或ハ又其ノ事業ノ目的ノ歸屬スル主體換言セハ自己ノ計算ニ於テ其ノ事業ヲ經營スル者ノミヲ「人」ト稱スルノテアルカ大審院ノ判例ニ依レハ(大正十四年九月十八日言渡)「大阪府令遊技場營業取締規則第九條第一號ノ違反者タルニハ自己ノ計算ニ於テ遊技場營業ヲ爲シタル者タラサル可カラスソノ遊技ニ關スル業務ノ取扱者ノ如キハ同條ノ違反者トシテ罰スヘキニ非ス」トアリ即チ營業者タルニハ自己ノ計算ニ於テ遊技場營業ヲ爲シタル者ナル事ヲ必要トシテヰルノテアル從ツテ單ナル營業名義人ハ斷シテ右ノ「人」ニ該當シナイノテアル之ヲ本件ニミルニ前掲事實摘示ノ如ク原審ハ被告人ノ營業名義カソノ儘トナリオリ且神戸靴商組合ニモ自分ノ名義ニテ加入セル事實及被告人名義ニテ配給皮革ノ申請ヲ爲シテヰル點ヲ強張シテヰルカ何レモ單ニ名義カ被告人トナツテヰル丈テアツテ被告人ハ何等自己ノ計算ニ於テ靴商ヲ現實ニ營業セル者テナイ事ハ明カテアルノテアル(ハ)次ニ原審ハ「被告人カ藤本勳夫ノ營業ニツキ材料ヲ買入ルル際品物ノ良否ヲ見タリ靴ノ製造ニ付キ職工ノ技術上ノ監督ヲシタリシテヰル」點ヲ擧ケテヰルノテアルカ本件藤本勳夫ノ犯罪ハ何レモ昭和十四年二月以降ノモノテアル成程被告人ノ原審公判廷ノ供述ニハ「私ノ家ニヰテ材料ヲ買入レル際品物ノ良否ヲ見タリ靴ノ製造ニツキ職工ノ技術上ノ監督ヲシタリシテヰマシタ」トアルカ又ハ勿論店ノ營業ヲ勳夫ニ讓渡シタ當時ノコトテアツテ(「ソレハ事變前テ事變後ハ店ノ事ハ關係ナイノテアリマス」――第一審公判調書)昭和十三年七月皮革ノ使用制限規則カ出テ皮革カ組合ヨリ配給トナツテカラハ皮革ノ買入ニ良否ヲ檢別シテ良イモノ丈ヲ買取ルト云フカ如キ自由ハ許サレナクナツタノテアル(第一審公判調書中「〔問〕事變始マツテカラ昭和十三年七月皮革ノ使用制限規則カ出テカラトノ樣ナ状態テアツタカ〔答〕私ハ軍靴ノ事テ多忙テアリマシタノテ店ノ事ハ一切關係シテオリマセヌ」及第一審證人島信義ノ證言中「〔問〕組合カラ材料ノ配給カアルノテ材料ノ選擇等ハ出來ス配給サレタモノヲ作ツテヰタノカ〔答〕左樣テス」又原審公判調書中辯護人ノ「〔問〕昭和十四年頃以後ニ於ケル被告人ノ職工ノ監督ハ什ウ云フ風ニシテヰタカ〔答〕事變前ハ私カ監督シテオリマシタカ其ノ後ハ監督シテ居リマセヌ」云々)況ンヤ昭和十二年十一月頃ヨリ被告人ハ島信義ト共ニ陸軍ノ命令ニヨリ日夜軍靴ノ製作ニ專念シタノテアルカラ藤本勳夫ノ犯罪當時ハ全然勳夫ノ業務ニ關シ一切ノ關與ヲ爲シテヰナイノテアル換言セハ被告人ハ昭和十二年十一月以後ハ藤本勳夫ノ業務ニ關シテハ全然關知セサルモノテアル之ヲ何レノ方面ヨリ觀察スルモ藤本商店ノ業務ハ單ニ名義カ被告人タルニ止マリ業務ノ一切ハ凡テ勳夫ノ計算ニ於テ爲サレテオリ(原審公判調書八九九丁ノ前 軍靴ヲヤル前ハ勳夫カラ小遣トシテ月五十圓宛貰ツテ居リ軍靴ヲヤリ出シテ後ハソノ方カラ多少金カ入リマスノテ之ヲ小遣ニ充テテ居リマシタノテ家ノ方ノ事ハ判リマセヌ)材料ノ檢査ハ勿論職工ノ監督等ニツキテモ被告人ハ一切關係カナイノテアル如此事實ニツキ尚原審カ勳夫ヲ被告人ノ代理人ト認定シ國家總動員法第四十八條ヲ適用 以テ被告人ニ地位罰ヲ科シタルハ正ニ法律ノ解釋ヲ誤リタル不當アリ破毀ヲ免レサルモノト思量スルノテアルト云ヒ」第二點原審ハ其ノ事實ニ於テ前陳ノ如ク勳夫ノ營業ニツキ其ノ名義カ依然トシテ被告人ナル點ヲ指摘シ且材料ノ買入レニ際シ品物ノ良否ヲミ且靴ノ製造ニ付職工ノ技術上ノ監督ヲ爲シタリトノ認定ヲ爲シテヰルカ其ノ認定カ誤レル事ハ第一點ニ於テ陳ヘタ通リテアルカ今假ニ右認定カ妥當ナリトシテモ名義人タル被告人カ果シテ勳夫ノ犯罪行爲ニツキ其ノ監督ノ責任其ノ他ニ關シ故意又ハ過失アリタリヤ否ヤニ付何等判斷ヲ爲サスシテ漫然被告人ニ地位罰ヲ科シタルハ亦地位罰ノ解釋ヲ過リタル不當アリト思量スルモノテアル元來民法第七一五條ノ規定ニヨルモ「但使用者カ被用者ノ選任及其ノ事業ノ監督ニツキ相當ノ注意ヲ爲シタルトキ又ハ相當ノ注意ヲ爲スモ損害カ生スヘカリシトキハ此ノ限ニ非ス」ト但書シテヰルノテアル彼ノ猛烈ナル獨逸ノ價格刑法テスラ業務ノ主人又ハ指揮者ニ對シテ秩序罪ヲ科スルニハ此等ノ者カ違反行爲ノ防止ニツイテ取引上必要ナル注意ヲ用ヒサリシ事ヲ條件トシテヰル位テアル抑々經濟刑法ハ單純ナル取締法テアツテ其ノ違反ハ單純ナル形式テアルト云フヤウニ輕クミラレテハナラナイ事ハ云フマテモナイコトテアル暴利ヲ貧ツテ私腹ヲ肥ヤス爲メニ國家及同胞國民ノ經濟活動ノ圓滑ヲ保護セントスル統制ヲ破ルコトハ國民道徳上カラ觀テ單純ナル詐欺ヤ横領等ノ犯罪ヨリモ一層惡質ナル破廉恥テアル統制經濟ハ此ノ意味ニ於テ國民ノ道義心ニ訴ヘテソノ支持ヲ受クルノ必要カアル然ルニ業主カ何等ノ過失責任ナクシテ此ノ種ノ犯罪ニ付テ高額ノ罰金刑ニ處セラレ完納不能ナレハ二年以下ノ勞役場留置ニ處セラレネハナラヌノテ同人モ安ンシテ業務ヲ經營スルコトハ出來ナイノテアル(泉二博士法窓餘滴ニ三頁以下御參照)ト云ヒ」第三點原審ハ藤本勳夫ノ犯罪行爲ニ對シ父タル被告人ヲ罰金四千圓也ニ處シタノテアル道徳的ニ云ヘハ子ハ父ノ爲メニ庇ヒ父又子ノ爲メニ匿スハ我國古來ノ美風ニシテ本件警察官聽取書及檢事聽取書ニハ其ノ點カ明ラカニ看取サレルノテアルシカシ乍ラ既ニ明ラカナル如ク被告人ハ昭和九年杖トモ柱トモ頼ム長男ヲ失ヒ(ソレ迄ニ又其ノ後モ多數ノ近親ヲ失ツテヰル)遂ニ無情ヲ感シ業務一切ヲ次男勳夫ニ讓リ小遣錢ヲ二男ヨリ貰ツテ隱居生活ヲシテヰタノテアルカ日支事變勃發後間モナク(昭和十二年暮)陸軍ヨリノ委囑ニヨリ老躯ニ鞭ツテ文字通リ軍靴ノ製造ニ專念シ(證人島信義ノ證言ニヨルモ「毎朝二人工場ヘ行キ職人ニ材料ヲ渡シ製品ヲ受取レハ軍ノ檢査カ通ル樣ニ精密ニ眼ヲ通シ軍ノ方ヘ製品ヲ引渡ス迄朝カラ晩マテ詰メキリテ會計ノ事カラ一切ヲシテ居リマシタ」トアリ)他ヲ顧ミル餘裕ハ絶無テアツタノテアル其ノ間圖ラスモ息子勳夫ノ違反アリ全ク被告人ニトツテハ寢耳ニ水ノ驚キテアツタノテアル如此事情ニ於テ尚業者カ故意又ハ過失ノ有無ヲ問ハス從業者等(又ハ代理人)ノ行爲ニ付テ絶對的ニ重イ處罰ヲ受ケネハナラナイノテアラウカ辯護人ハ泉二博士ト共ニ「徒ラニ苛酷ヲ極ムルコトハ皇道刑法ノ精神ニ副ハナイモノテアル」ト叫ヒタイ即チ原審判決ハ此ノ點ニ於テモ所謂刑ノ量定甚シク不當ナリト思料スヘキ顯著ナル事由アルモノト考フルモノテアル以上何レノ點ヨリスルモ原審判決ハ破毀ヲ免レサルモノト信スト云ヒ」

辯護人 中村俊夫、赤井幸夫 上告趣意書 第四點 上告人ニ 對シ 判示犯罪ヲ 認ムヘキモノナリトスルモ 之レニ 罰金四千圓ヲ 科シタルハ 其ノ 科刑 過重ナルコト 顯著ナル事由アルモノナリ 蓋シ 其ノ 第一 第二ノ(一)ニ 於ケル 超過額ナルモノ 總計 二千圓ニモ 達セス 其ノ第一ノ(二)ニ 於ケル 販賣額 總計 約四千五百圓ナリ 而モ 上告人方 製靴ハ 其ノ 技術ノ 優秀ヲ 以テ 知ラレタルモノニ 係リ 遠隔ノ 地ニ 在ル 者ヨリ 態々 其ノ 註文ヲ 受ケテ 製造シタルモノモ 之レ アル 次第ニシテ 縱令 同材料ヲ 用ヒテ 製造シタル 同規格ノ 靴ナリト 云ヒ 他ノ 拙劣ナル 製靴業者ノ 製品ヨリ 幾分ノ 高價トナル 亦 已ムナキ 處ニ 係リ 若シ 公定價格ナルモノヲ 示シテ 嚴密精細ニ 定メ得ヘキモノトセハ 此等ノ 點ヲ 參酌シテ 其ノ 間差等ヲ 設ケサルヘカラスシテ 此等ノ 點ヲ 酌ムコトナク 唯 一律ニ 定メラレタル 公定價格ナルモノハ 寧ロ 其ノ 不公平ノ 謗アルヲ 免レサルモノニ 係ル 左レハ 斯ル 點ハ 其ノ 起訴ニ 際リ 又ハ 量刑ニ 於テ 充分 考慮セサルヘカラサル 處ナリト 信ス 尚 上告人ハ 事ノ 實際ニ 於テ 其ノ 營業ノ 一切ヲ 擧ケテ 其ノ 二男 勳夫ニ 讓リ 自ラハ 軍靴製造ノ業ニ 專念セル 次第ニシテ 唯 其ノ 營業名義カ 上告人タリシ 爲メ 本件ノ 起訴ヲ 受クルニ 至レルモノナリ 然ルニ 原判決カ 此等ノ 點ヲ 考慮スル 處ナク 上告人ニ 對シ 前示 重刑ヲ 科シタルハ 其ノ 科刑 過重ナルコト 顯著ナル 事由アルモノニシテ 此ノ 點ニ 於テ 破毀ヲ 免レサルモノト 信スト 云ヒ 第五點 原判決ハ 其ノ 事實理由 第二ニ 於テ 訴外 藤本勳夫ハ 上告人ノ 營業ニ 關シ 判示 取引ヲ 爲シタルモノナリト 判示シタリ 然レトモ 上告人ハ 其ノ 妻ニ 死別シ 其ノ 長男ヲ 喪ヒタルヨリ 深ク 世ノ 無情ヲ 感シ 其ノ 營業財産等 一切ヲ 其ノ 二男 勳夫ニ 讓リ 事實上 隱居ヲ 爲シ居リタルカ(唯營業名義ノミハ 老舖ノ 關係上 上告人トナリ居レルニ 過キス)事變勃發後 軍ノ 命ヲ 受ケ 他ノ 有力者ト 共ニ 別ニ 軍靴製造ノ 工場ヲ 設ケ 之レカ 經營ニ 專念シ 居リシ 次第ニシテ 判示 營業ノ 主體ハ 藤本勳夫 ナリトス 然ルニ 原判決カ 前示ノ 如ク 事實ヲ 認定シテ 上告人ニ 其ノ 責ヲ 負ハシメタルハ 事實ノ 誤認 アルコト 顯著ナル 事由アルモノニシテ 此ノ 點ニ 於テ 破毀ヲ 免レサルモノト 信スト 云フニ 在レトモ

原判示ニ 依レハ 原審ノ 認定シタル 事實ハ 被告人ハ 原判示 場所ニ 店舖ヲ 設ケ 自己ノ 計算ニ 於テ 靴製造販賣業ヲ 營ムモノニシテ 即チ 所論ノ 如ク 右營業ノ 單ナル 名義人ニ 止マルモノニアラス 其ノ 實質上ノ 主體ニシテ 被告人ノ 二男 勳夫ニ 於テ 右被告人ノ 營業 一切ヲ 統轄擔當中 被告人ノ 右業務ニ 關シ 判示 第二ノ 各 所爲ヲ 爲シタリト 云フニアルコト 明カニシテ 該 事實ハ 原判決 擧示ノ 諸證據ヲ 綜合シテ 之ヲ 認ムルニ 十分ニシテ 記録ヲ 精査スルモ 原判決ノ 右事實認定ニ 重大ナル 誤認アルコトヲ 疑フニ 足ルヘキ 顯著ナル 事由ナク 斯ル 業者カ 國家總動員法 第四十八條ニ 所謂 人ニ 該當スルコト 亦 論ナキトコロナリトス 又 國家總動員法 第四十八條ハ 營業者ノ 代理人カ 其ノ 營業者ノ 業務ニ 關シ 同條 列擧 法條ノ 違反行爲ヲ 爲シタルトキハ 營業者ニ 故意 又ハ 過失アリタルト 否トヲ 問ハス 常ニ 之ニ 對シ 同條 所定ノ 刑責ヲ 負ハシムル 法意ナルコト 疑ヲ 容レサルカ 故ニ 原判決カ 右事實ニ付 被告人ニ 於テ 所論ノ 如キ 故意 又ハ 過失 アリシヤ否ヲ 審理セスシテ 前記 法條ヲ 適用 處斷シタルハ 毫モ 違法ニ 非ス 尚 記録ニ 就キ 所論ニ 鑑ミ 犯情 其ノ他 諸般ノ 情状ヲ 商量斟酌スルモ 原審カ 被告人ヲ 罰金 四千圓ニ 處シタルヲ 目シ 量刑 甚シク 失當ナリト 思料スヘキ 顯著ナル事由ナシ 論旨 孰レモ 理由ナシ(其ノ他ノ 上告論旨 及 判決理由ハ 之ヲ 省略ス)

右ノ理由ニ 依リ 刑事訴訟法 第四百四十六條ニ 則リ 主文ノ 通リ 判決ス

檢事 槙田麟二 關與