利用者:村田ラジオ/sandbox

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またしやうにんちくぜんのくににてあるぶしのやかたにいらせたまひければ、しゆえんさいちうにてはべりけるに、しゆしやうぞくことにひきつくろひ、あらひくちすすぎておりむかひ、ねんぶつけてまたいふこともなかりければ、しやうにんたちさりたまふに、ぞくいふやうは、『このそうにつぽんいちわうわくものや。なんぞたふとしきぞ。』といひければ、きやくじんありけるが[1]、『さてはなにとして、ねんぶつをばうけたまふぞ。』とまをせば、ねんぶつにはわうわくなきゆゑなりとぞいひける。しやうにんいはく、『おほくのひとひたりしかども、これぞまことにねんぶつしんじたるものとおぼへてにんみなひとしんじてほふしんずることなきに、このぞくほふふえにんのことはりをしりてはんきんかいあひかなへり。めづらしきことなり』とて、いろほめたまひき。

またしやうにんかまくらにいりたまふとき[2]ゆゑありてぶしかたくせいしていれたてまつらず。ことさらにばうをなしはべりければ、しやうにんいはく、『ほつすべてえうなし。ただひとねんぶつをすすむるばかりなり。なんぢいつまでかながらへてかくのごとくぶつぽふばうすべき、ざいごふにひかれてめいにおもむかんときは、ねんぶつにこそたすけられたてまつるべきに』と。ぶしへんたふもせずしてしやうにんふたつゑまでうちたてまつるに、しやうにんはいためるしきもなく、『ねんぶつくわんじんわれいのちとす。しかるをかくのごとくいましめられば、いづれのところへかゆくべき。ここにてりんじうすべしとへり』と。云云

またあるひとうんたちはなりけるをうたがひをなしてとひたてまつりければ、しやうにんこたへていはく、『はなことはなにとへ、うんことうんにとへ、いつぺんはしらず』と。

またしうじんもくにてしちにちぎやうほふしゆしたまひけるに、やうちからつきてそうなげきあひければ、しやうにんいはく、『こころざしあらばいくにちなりともとどまるべし。しゆじやうしんじんよりかんずればそのこころざしうくるばかりなり。さればぶつぽふあぢあいげうしてぜんざんまいじきとすといへり。もしのためにじきこととせば、またくしゆじやうりやくもんにあらず。しばらくざいにたちむかふと。これずゐるゐおうどうなり。ゆめなげきたまふことなかれ。われなぬみたすべし』と。

またしやうにんせいさつしんにておはしますよしたうけうほふいんれいもちまゐられければ、しやうにんいはく、『ねんぶつよりせんにてあれ。せいならずばしんずまじきか』といましめたまふ。

またわうじやうとしごぐわつころしやうにんいはく、『えんすでにうすくなり、ひとけうかいをもちひず。しやうがいいくばくならず。しごちかきにあり』と。云云

またわうじやうぜんげつとほあさあみだきやうみて、しよしよせきとうづからやきてたまひて、『いちだいしやうげうみなつきて、なむあみだぶつになりはてぬ』とおほせられける。

またわうじやうまへぜんゆゐかいほふもんをしるさせたまひて、かさねしめしていはく、『わがわうじやうののちかいていなぐるものるべし。あんじんさだまりなばなにとあらんともさうあるべからずといへども、しふつきずしてはしかるべからざることなり。うけがたぶつどうをむなしくすてことあさましきことなり』と。云云

またわうじやうのまへ、ひとさいほふもんうけたまはらんとまをしければ、『さんごふほかねんぶつどうずといへども、ただことばばかりにてぎりをもこころえず。いちねんほつしんもせぬひとどものためとて、たあみだぶつなむあみだぶつはうれしきか』とのたまひければ、たあみだぶつらくるゐしたまふと。云云

またわうじやうのまへ、〈正應二年八月九日より十日にいたる。〉うんのたちはべるよしをけいたてまつりければ、しやうにんいはく、『さてはこんみやうりんじうにあらざるべし。しうえんときはかやうのことはいささかもあるまじきことなり』と。しやうにんつねおほせにも、ものもおこらぬものは、てんまこころにてへんこころをうつして、まことぶつぽふをばしんぜぬなり。なにせんなし。ただなむあみだぶつなりとしめしたまひぬ。

またしやうにんいはく、『わがもんでしにおきては、さうれいしきをととのふべからず。けものにほどこすべし。ただしざいものけちえんのこころざしをいたさんをばいろふにおよばず』

またあるひとかねてしやうにんりんじうことをうかがひたてまつりければ、しやうにんいはく、『よきぶしだうじやとはするおんことをあたりにしらせぬことぞ。わがをはらんをばひとのしるまじきぞ』とのたまひしに、はたしてりんじうそのおことばにたがふことなかりき。



いつぺんしやうにんろくまきのげ 


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  ろく

しやうにんわかかりしとき、おんゆめたまひけるとなん、

をわたりそめてたかのそらのくもたゆるはもとのこころなりけり

くまごんげんよりゆめさづけたまひししんえい

ましへゆくみちにないりそくるしきにもとちかひのあとをたつねて

おほすみしやうはちまんぐうよりじきじゆしんえい

ことなむあみたぶつととなふれはなもあみたぶつうまれこそすれ

あはぢのくにしつきといふところに、きたてんじんくわんじやうたてまつやしろありけるに、しやうにんをいれたてまつらざり。さればたちまちしやだんよりあらはしたまひけるしんえい

にいつることもまれなるつきかげにかかりやすらんみねのうきくも
  1. 【客人の有けるが】其座に在りし客人がの意。
  2. 【上人鎌倉に到る】弘安五年三月朔日なり。