初等科國語 六/姿なき入城

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三 姿なき入城[編集]

いとし子よ、
ラングーンは落ちたり。
いざ、汝も
勇ましく入城せよ、
姿なく、
聲なき汝なれども。

昭和十六年十二月、
ラングーン第一回の爆撃に、
汝は、別動隊編隊へんたい機長として、
近郊ミンガラドン飛行場にせまり、
敵スピットファイヤー二十數機と、
空中戰はなばなしく、
陸鷲りくわしは、その十六機をほふれり。
更にラングーンの上空に現れ、
巨彈きよだんを投じたる一瞬いつしゆん
敵高射砲彈は、
汝が愛機の胴體を貫ぬきつ。

機は、たちまちほのほを吐き、
翼は、空中分解を始めぬ。
汝、につこりとして天蓋てんがいを押し開き、
二王立ちとなつて僚機に別れを告げ、
「天皇陛下萬歳。」を奉唱、
若き血潮に、
大空の積亂雲をいろどりぬ。

それより七十六日
汝は、母の心に生きて、
今日の入城を待てり。
今し、母は齋壇さいだんをしつらへ、
日の丸の小旗二もとをかかげつ。
一もとは、すでになき汝の部隊長機へ、
一もとは、汝の愛機へ。
いざ、親鷲を先頭に、
続け、若鷲。
ラングーンに花と散りにし汝に、
見せばやと思ふ今日の御旗ぞ。

いとし子よ、
汝、ますらをなれば、
大君の御楯みたてと起ちて、
たくましく、
ををしく生きぬ。
いざ、今日よりは
母のふところに歸りて、
安らかに眠れ、
幼かりし時
わが乳房ちぶさにすがりて、
すやすやと眠りしごとく。