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倭歌作式

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風聞、和歌自神御世傳而未章句。隱人文殊現於聖徳御世、擇字定三十一。從此以降貴賤共學流布良弘之。雖爾未遠跡。余智拙才暗弘之何安耶。

抑五七五七七、一文之中豫有四病

一者岩樹、二者風燭、三者浪船、四者落花也。今表聖詠跡、摸以立つ此四病。職達君子幸無哢咲。成道中間以爲睡覺。文殊師利奏聖徳太子和歌一首、例此爲跡。

いかるがやとみのを川のたえばこそ我おほきみのみなは忘れめ

此三十一文別五句而立[1]四病

第一岩樹者、第一句初字與第二句初字同聲也。如此云、

てる日さへてらす月さへ   て與て同聲也。

第二風燭者、毎句第二字與第四同聲也。如此云、

かのとのはさとのとりくる   の與の同聲也。

第三浪船者、五言之第四五字與七言之第六七字同聲也。如此云、

くさののゝわかれにしのゝ   のの與のの同聲也。

第四落花者、毎句交於同文、詠誦上中下文散亂也。如此云、

のちのたのしきしあしたの   の與の同聲也。

第四病者若雖去又有何過。然而詠誦聲不順由也。誠是狂歌何冷寒不病、若言不精美。可去之中、疊句若連句者非例。疊句者如此云、

思ひなき思ひにわたる思ひこそ思ひの中に思ひ出つゝ

連句者如此云、

春の野の、夏の野の、秋の野の、冬の野の、此等句也。

長歌文句 五七五、五七五、七七也。此等雖異詠准落耳。望病着於女涕詠之無常歌、

はじめあれば   さだめてをはり   あることは
うつせみの   世のことわりと   おもへども
あまそゝぎの   そのきしかげと   たのめれば
さいたづま   まよふ草ばに   おとろへて
あがねさす   ひまごとに   なりければ
ぬばたまの   いねもねられず   ねざめつる
くさまくら   たびにはあらねど   みづどりの
うきならで   ときの日ふるとも   たびしきて
あま雲に   たえにしことも   かたらはむ
ともおもひつゝ   ほれたることも   ひらけねば
うきふねの   沖にたゞよひ   風まつと
ゆめのごと   いともつれなく   なりゆれば
かくなはに   思ひみだれて   なきなけば
袖のうちに   よするなみだの   しきぬれば
すべなしと   あまのわぶるを   みきゝつゝ
たまほこの   道行ずりに   見るわれも
あまぐもの   ゆき過ぎかねて   さまよひぬ
あなうのよ   あはれ我が身を   かぎろふの
夢かうつゝか   なぞもつれなき
 浪のまに風まつ舟のいでていなばあはれつれなき人はいかゞせむ

混本歌 失心人爲題詠耳。

いはのうへにねざす松かへと思ひしを
あさがほの夕かげまたずうつろへるかな

凡諸詠有八階

一者詠物 二者贈物 三者述懷 四者恨人 五者惜別 六者謝過 七者題歌 八者和歌

夫詠物者先初不名色對。詠春山時先可冬山。如此云、

ふゆすぎて思ひはるやま等也。

若贈物者純不其物、表色髣髴矣。都贈人物豈皆美物耶。如此云、

ものと見むかずにはあらねど等也。

若述懷者後代令軌摸心莫[2]再三議述之。如此云、

あさか山かげかへ見ゆる山の井の等也。

若恨人者終不其心靜念掇華述意焉。如此云、

いせの海にもしほやくなるうらみしま等也。

若惜別者悦喜悲歎猶滿心裏寂寞意。如此云、

ゆくからにけふわかれなば等也。

若謝過者毎句不義而解結詠同謝過。如此云、

いまはわがひとつふたつのあやまちに等也。

若題歌者忽得題早速不善惡纔去病可好。如此云、

おもひてやそではこほらであやしくもたどるそでかもたどきなきかな

若和歌者其歌人中取章句遠水火。如其毎句和。如此云、

あかずしてわかれし袖はほせどひず胸のおもひはもゆるものから

返歌

おのれたきおのれすなはちこがれつゝきえぬおもひはわれもしるこそ

凡詠物神世異名在此。和歌之人何不此。如先可云也。

若詠天時 あまのはらと云又なかとみのと云也[3]   若詠地時 しまのねと云又あらがねと云[4]
若詠日時 あかねさすと云   若詠月時 ひさかたと云
若詠海時 おしてるやと云   若詠湖時 にほてるやと云
若詠嶋時 まつねひと云   若詠磯時 ちかなみのと云
若詠浪時 ちりくらしと云   若詠海底時 わたつうみと云
若詠河時 はやたづのと云   若詠山時 あしびきと云
若詠野時 いもきのやと云   若詠岩時 さちつねと云
若詠高峯時 あまそぎと云   若詠峯時 さちつねと云
若詠谷時  いはたねと云   若詠瀧時 しらとゆきと云
若詠神時 ちはやぶると云又ひさしきもと云[5]   若詠潮時 うろしまと云
若詠倭時 しきしまと云   若詠平城京時 あをによしと云
若詠臣時 かけなびくと云   若詠人時 ものゝふと云
若詠民時 いちゞゆきと云   若詠父時 たらちねと云
若詠母時 たらちめと云   若詠夫時 たまくらと云
若詠婦時 わかくさのと云   若詠夫婦時 たひのねと云
若詠男時 いはなびくと云又せなと云[6]   若詠女時 はしけやしと云又わぎもこと云
若詠人形時 はらへぐさと云   若詠下人時 やまがつと云
若詠海人時 なみしなと云   若詠鏡時 ますみのいろと云
若詠髮時 むばたまと云   若詠心時 てゝのなかにと云又からあかにと云[7]
若詠念時 わくなみのと云   若詠枕時 しきたへのと云
若詠衣時 しろたへのと云   若詠歳時 あらたまのと云
若詠月時 しまほしのと云   若詠日時 いろかけと云
若詠時時 つかのまと云   若詠旬時 みつぼしのと云
若詠春時 かすみしくと云   若詠夏時 かげろひのと云
若詠秋時 さはぎりのと云   若詠冬時 こるつゆのと云
若詠朝時 たまひさのと云   若詠夕時 すみぞめのと云
若詠夜時 ぬば玉のと云   若詠夢時 ぬるたまのと云
若詠曉時 玉くしげと云   若詠京時 玉しきのと云
若詠田舍時 いなゝきのと云   若詠道時 玉ほこのと云
若詠橋時 つくしねと云   若詠旅時 草まくらと云
若詠別時 むらどりのと云   若詠常時 ときとなしと云
若詠寶物時 あぢひこねと云   若詠木時 やまちかきと云
若詠草時 さいたづまと云   若詠竹時 たちはしくと云
若詠鶯時 もゝちどりと云   若詠蛙時 かはづと云
若詠蛬時 させと云   若詠鹿時 すがると云
若詠蜘蛛時 さゝがにと云   若詠猿時 ましらと云
若詠花時 しめしいろのと云   若詠菓時 しまひこのと云
若詠浮物時 うつたへのと云   若詠風時 しまなびくと云
若詠雲時 たにたつのと云   若詠霧時 ほのゆけると云
若詠霞時 しらたまひねと云   若詠雨時 しづくしくと云
若詠露時 けしたまのと云   若詠霜時 さちひこすと云
若詠雪時 いろきえずと云   若詠淺時 いさゝきなみと云
若詠不忘物時 うたかたのと云   若詠古時 かりほしと云
若詠新時 われしなぬと云   若詠和琴時 あづまと云
 合八十八物

上束種々物也。異名隨掇得分事如件。〔但殘餘可尋。〕頃從武州一書、其名謂神世古語。見此式間事考粗相似。不替處相用註異説左右。載彼本此式二十六種則書寫紙奧。次第雖混雜指非遺恨。故不之。頗夫婦・夢・霜、右三種者勿彼本此式。委遂校合錯亂、尤爲欣然者也。

煙、ほのゆけると云   大石、ちびきと云
沙、さゞれいしと云   山川、たまみづと云
庭水、にはたづみと云   内裏、もゝしきと云
東宮、はるのみやと云   中宮、秋のみやと云
皇帝、すべらぎと云   朝廷、わかくさと云
匣、みづのすがとたみと云   瓶、たまだれと云 たまやきたる也[8]
簾、たまだれと云   船、うたかたと云
書、たまづさと云   筆、みづくきと云
邂逅、たまさかと云   君、さきたけと云
賤人、やまがつと云   鶴、たづと云
鷄、ゆふつけどりと云、又はなちどりと云、又やこゑのとりと云
薦、はながつみと云   出雲國、やぐもたつと云
梅、このはなと云   雉、きゞすと云
響、とゞろくと云
 以上二十六種

脚注

[編集]
  1. ママ
  2. 判読不能
  3. 底本は「あまのはらと云」と「又なかとみのと云也」を2行に書く
  4. 底本は「しまのねと云」と「又あらがねと云」を2行に書く
  5. 底本は「ちはやぶると云」と「又ひさしきもと云」を2行に書く
  6. 底本は「いはなびくと云」と「又せなと云」を2行に書く
  7. 底本は「てゝのなかにと云」「又からあかにと云」を2行に書く
  8. 底本は「たまだれと云」と「たまやきたる也」を2行に書く

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