伝行成筆貫之集切
11世紀書写と推定される貫之集の断簡。詳しくはw:伝行成筆貫之集切を参照されたい。
本文
[編集]1.益田家旧蔵切(1葉9行)
みのうへをよめる
しもかれにみえこしむめはさきにけりはるにはわかみあはむとはすや
けふみれはかゝみにゆきそふりにけるおいのしるへはゆきにやあるらむ
ものへゆきしにひとのまつほとすくるに
おもふ人きたにもあはすあふさかのせきのなこそはなのみなりけれ
2.岡谷家蔵切(1葉9行)
かならすありぬへきことをさわかしうおもふ人に
たかあきにあらぬものゆゑをみなへしなといろにいてゝまたきうつろふ
きみこふるなみたしなくはからころもむねのあたりはいろもえなまし
かうぶりたまはりてつかさはあれとこゝろにもつかすよきつかさにうつら(以下欠)
3.菅原家蔵切(1葉10行)
(上文欠)にかはらぬこゑきこゆなり
かゝみのやまをこゆとて
あしひきのやまの山もりもるやまのもみちせさするあきはきにけり
うちむれていさわきもこかゝみやまこえてもみちのちらむかけみむ
あきのはつるころひくらしのこゑをきゝて
ひくらしのこゑもいとなくきこゆるはあきゆふくれになれはなりけり
4.根津美術館蔵切(1葉5行)
ひとのいへにあつまりてさけのみあそびするにさくらのちるさかりにてこのはなをたいにて人ゝのよみしに
ちるかうへにちりもまかふかさくらはなかくてそこそのはるもすきにし
5.山内家蔵切(1葉9行)
あるかんたちめのうせたまへるゝ(「の」を傍書)ひさしくあ(「か」を傍書)のとのにまいらでまいれるにことともさひしくあはれになりたるにせさいのくさきはかりそかはらすおもしろかりけるあきのもなりかせさむくふきてたけまつなとのおもしろけれはよみてうへにたてまつりいるゝ
まつもみなたけのわかれをおもへはやなみたのしくれふるこゝちする
6.中村家蔵切(1葉8行)
としころふみつかはすひとのつれなくのみあるに
しらたまとみえしなみたもとしふれはからくれなゐにうつらひにけり
おもひにはへるとしのあきやまてらにまかるみちにて
しら(「あさ」を傍書)つゆのおくてのやまたかりそめにうきよのなかをおもひぬるかな
7.西脇家蔵切(1葉7行)
かの中納言のみむすめのみやすむところ
ひとへたにきるはわひしきふちころもかさぬるあきをおもひやらなむ
とてとさにたまへる御かへりことに
ふちころもかさぬるおもひおもひやるこゝろは今日もやすまさりけり
8.水戸幸家蔵切(1葉3行)
いへにあるむめのはなのちるを
くるとあくとめかれぬものをむめのはないつのひとまにうつろひぬ覧
9.摂津家蔵切(1葉11行)
あおやきのいとよりかくるはるしもそみたれてはなのほころひにける
はつせにまうつるたひことにやとる人のいへにひさしくやとらてほとへていたれゝはあるしかくさたかになむやとりはあるといひいたしたれはそこにたてるむめのはなをゝりて
ひとはいさこゝろもしらすふるさとはゝなそむかしのかにゝほひける
10.御物手鑑所収切(2葉46行)
ほとひさしくありてなむかへるへきとひとにいひおきてものへまかるみちよりつかはす
つきかへてきみをはみむといひしかとひたにくれなはこひしきものを
人のもとへまかれるにひなきよしをのみいひたしたるに
うらみみも身こそつらけれからころもきていたつらにかへるとおもゑは
いひかはすをむなのもとよりなほさりにいふそなといへるかへりことに
いろならはうつるはかりもそめてましおもふこゝろをえやはしりける
ひとのもとよりかへりはへりて
あかつきのなからましかはしらつゆのおきてわひしきわかれせましや
山のさくらのちるを
しらくもとみえつるものをさくらはないまはちるとやいろことになる
11.某家蔵切(1葉7行)
さくらのちるをみて
ことならはさかすやはあらぬさくらはなみるわれさへにしつこゝろなし
ひえにのほりてかへりまうてきて
やまたかみゝつゝわかこしさくらはなかせはこゝろにまかすへらなり
ふちはかまをひとのもとにつかはすとて
やとりせしひとのかたみかふちはかまわすられかたきかにゝほひつゝ
12.某家蔵切(1葉7行)
(上文欠)つきせぬものはなみたなりけり
ひとゝもにいふによのあくれは
いかてなほひとにもとはむあかつきのあかぬわかれやなにゝたりと
七月七日
あきかせによのふけゆけはあまのかはかはへになみのたちゐこそまて
13.某家蔵切(1葉11行)
ゆくとしのをしくもあるかなますかゝみゝるわれさへにくれぬとおもへは
あひしれるひとのまうてきてかへれるのちにはなにさしてつかはす
ひとひみしきみもやくるとさくらはなきょうはまたてもちらはちらなむ
参考文献
[編集]- 萩谷朴 『土佐日記全注釈』 角川書店、1967年