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九管及製鉄所涜職予審決定

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九管及製鉄所涜職予審決定

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宇佐美参事外三十八名有罪
免訴は太田副参事外五名

九州鉄道管理局及び製鉄所二瀬出張所に関する涜職事件は 十六日予審決定発表せられたるが 九管局は元副参事太田為二外五名予審免訴の外 宇佐美参事以下十二名 及び炭砿側十五名(外に免訴一名)は何れも有罪に決し 二瀬出張所雇員平島丑太郎杭木運搬受負業松岡守太郎の両名免訴となり 坑区倉庫係主事川上積外十一名は 何れも有罪として 公判に附せられたり

二瀬関係

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製鉄所二瀬出張所倉庫係主任   **積
同雇員 **丑太郎
二瀬村酒小売商 **太吉
同炭坑日雇稼 **清次郎
同炭坑飲料水運搬業 **与三吉
二瀬出張所貨物運搬請負業 **徳太郎
幸袋駅長 **十五郎
二瀬駅助役 **千太郎
二瀬村古川西部鉱業所納屋頭 **茂
元製鉄所二瀬出張所技手 **勲一
製鉄所二瀬出張所中央炭坑納屋頭   **啓太郎
枕木運搬請負業 **守太郎

右被告事件に付き併合予審を遂げ終結決定すること左の如し

△ 主文 被告積、太吉、清次郎、与三吉、十五郎、千太郎、茂、勲一、啓太郎に対する本件被告事件を当地方裁判所公判に附す、被告丑太郎、守太郎は免訴放免す、被告徳太郎が被告十五郎、千太郎に対し職務に関する請託をなして饗応し被告十五郎、千太郎は其饗応を受けたりとの公訴事実に就ては右被告等を各免訴す

 理由(概要)

△ 第一 被告積(二瀬出張所主任)は大正六年六月中出張所所属高尾炭坑第一第二坑の倉庫運搬請負人松岡守太郎が其業務を怠りしより同人を罷めしめ其が適任者を選定するに際し被告太吉、清次郎、与三吉、茂、徳太郎より守太郎の後継者として推薦尽力ありたき旨職務に関する請託を受け之に対し犯意を継続して

(イ)被告太吉、清次郎、与三吉他一名より大正六年六月中直方町料理屋玉川事玉村たに方にて外一名と共に金七十五円三十銭に相当する饗応を受け
(ロ)被告徳太郎より同年八月十一日幸袋料理屋松月事中村新太郎方に於て外二名と共に金十九円八十銭同二十八、二十九両日飯塚町料理屋市橋勝太郎方に於て外二名とともに五十四円五十二銭に相当する饗応を受け
(ハ)被告仲上茂より大正六年六月末頃同人の宅に於て謝礼金八百円を貰う約束を為し其内金として同年七月中金十五円八月中旬頃金二十五円九月十七日飯塚町料理屋紀国屋にて金五十円を授受し尚同人より大正六年六七月に亙り飯塚町料理屋曙事原田まさ方に於て五円に金三十円九十四銭八月二十八九両日同町料理屋紀伊国屋にて金三十九円二十九銭に相当する酒肴其他の饗応を受け且其頃被告の曙楼に於ける遊興費支払代金十五円を同人に支払わず
(ニ)被告太吉、清次郎、与三吉、徳太郎、茂は何れも其前項記載の如く被告積に対し其職務に関する請願を為し酒肴其他を饗応し若くは金銭供与の約束又は交付を為したるものにして徳太郎、茂は継続犯意に出でたり

△ 第二 被告十五郎(幸袋駅長)は駅長在勤中犯意継続して(一)合名会社幸袋工作所より大正五年十二月中歳暮名義にて価額十円の反物一反六年八月中中元名義にて価額十四円の白絽を収受し鉱西炭坑事務長宮崎政雄より炭車配給の謝礼として大正六年八月中金四十円を収受せり

△ 第三 被告千太郎(二瀬駅助役)は鎮西炭坑事務長宮崎政雄より大正六年八月中中元名義の下に三十円を収受す

△ 第四 (一)被告楢崎勲一(製鉄所技手)は大正五年十月頃被告服部啓太郎より仕繰係及世話役に推薦し呉れとの職務上の請託を受け犯意継続して

(イ)同人より直方町料理店山根屋にて同十月中外二名と共に金三十一円三十四銭、外一名と共に金十円と共に金二十七円八十五銭の酒肴其他の饗応を受け
(ロ)高雄炭坑第一坑主任として在任中大正六年十月頃被告徳太郎より同坑内の運搬工事の請負及び賃銀引上げ等職務に関する請託を受け同人より幸袋料理屋松月に於て外一名と共に金五十一円八十銭金二十九円五十銭、金二十五円八十銭に相当する三回の饗応を受け

(二)被告啓太郎徳太郎は何れも被告勲一に対し酒肴其他の饗応を為したるものなり

 以上の犯罪事実は其の証拠十分にして被告積、十五郎、千太郎、勲一の行為は各刑法第百九十七条第一項前段に、被告太吉、清次郎、与三吉、徳太郎、茂、啓太郎の行為は各同法第百九十八条第一項に該当す、被告積、十五郎の行為被告徳太郎の第一の(ニ)第四の(ニ)の行為被告勲一の第四の(一)の(イ)(ロ)の行為は各連続犯に付き同法第五十五条、被告徳太郎、勲一は併合罪に付き同法四十五条四十七条を適用し孰れも処断すべき犯罪なるを以て刑事訴訟法第百六十七条に依り尚公訴事実中被告丑太郎、守太郎に対する処分及び被告徳太郎が其の職務に対し被告十五郎、仙太郎を饗応し被告十五郎、千太郎が其の饗応を受けたりとの部分は何れも証拠十分ならざるを以て同法第百六十五条により各主文の如く決定す
大正七年三月十六日
福岡地方裁判所予審利事 佐々木与三

土地不正買収

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元製鉄所二瀬出張所雇 **正一
二瀬村大字伊岐須農業兼醤油製造業   **利生

右涜職被告事件予審決定し福岡地方裁判所の公判に附せらるることとなりたるが被告正一は製鉄所二瀬出張所雇として経理課用度係在勤中同出張所高雄炭鉱第二坑新坑開墾に就き土地買収をなすに当り大正六年七月被告利生より同人実父野見山伊八郎外二名の土地買収代金の支払を迅速ならしむるよう手続を為し呉れたき旨の請託を受け又亡畑間善兵衛よりも同様の請託を受け現金八十八円六十銭を収賄し被告利生は正一に対し五十八円六十銭を贈賄したり

 福岡地方裁判所予審判事 浅沼猪助

九管関係

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前九管本局運輸課長貨物係長兼
配車係長兼鉄道院参事
**寛爾
元鉄道院書記運輸課配車係     **鼎
元熊本駅長 **猛雄
元長崎駅長 **七郎
元赤間駅長 **巌衛
元門司運輸事務所配車係 **槙太郎
岩崎炭坑事務長 **吉太郎
三好炭坑主 **十四郎
畿内工業所販売部長 **延年
同所部 **幸三郎
同所事務員 **鷹俊
川崎炭坑主 **敬五郎
明治鉱業株式会社庶務係長 **為之助
元鎮西炭坑人事係長 **則幸

△ 主文 被告寛爾、鼎、猛雄、七郎、巌衛、槇太郎、吉太郎、十四郎、延年、幸三郎、鷹俊、敬五郎、為之介、則幸に対しての本案被告事件は当地方裁判所の公判に附し被告太田為二(鉄道院副参事)を免訴し且放免す

△ 理由(概要) 筑豊地方炭鉱の出炭は主として鉄道により若松港に輸送するを以て輸送力の欠乏せる九州鉄道株式会社時代は炭車配給上忌むべき弊風の存在せし如くなりしも国有後幾分其弊を減じ大正三年初頃炭業不振の為め殆んど其弊を絶つに至りしが同年八月以来欧洲戦乱の影響にて炭価暴騰し又々炭車の不足を感じ其争奪を始めしかば大正六年一月九管局に於ては大輸送の計画を立て炭車増配の標準を側定するに至りしなり被告等は其間に処し炭車配給に就ての請託を受け若くは過去及将来の取扱に対し謝礼として左の如く金員を収受又は酒肴の饗応を受けたり

被告寛爾は大正六年二日より同八月迄の間に蔵内砿業所より狭間、井上、林、岩崎炭砿、伊藤、明治鉱業、三井其他より呉服券四十五円反物合計百三十九円八十銭饗応三十四円八十五銭合計二百十九円六十五銭を収賄し其全部を費消せり

被告鼎は大正五年十二月より大正六年八月迄蔵内、川崎、飯塚、三好、貝島麻生、三池、鈴木商店、沖野裏炭砿其他の炭砿より現金千五百十円呉服券六百円反物四百二十六円五十銭物品六十九円九十銭総計二千六百六円四十銭を収賄し反物及呉服券の一部の外全部費消したり

被告猛雄は蔵内、三井、明治鉱業及中島其他の炭砿より合計現金八百円呉服券百四十円反物百八十円総計千八百二十八円を収賄し全部費消したり

被告七郎は前同様の炭砿より呉服券百四十円反物百九円八十銭品物三十円総計二百七十九円八十銭を収賄し全部費消したり

被告巌衛は前記各炭砿より現金八百円呉服券六十円反物二十七円品物二十三円饗応百三十三円八十九銭総計一千百六十三円八十九銭を収賄し全部費消せり

被告槇太郎上記各炭砿より現金三百円呉服券七十五円反物二十一円総計六百九十六円を収賄全部費消したり

被告吉太郎は宇佐美井上森上村川添等に対し呉服券反物其他総計二百二十五円九十銭を贈賄し

及被告十四郎は井上森等に対し現金九十円外呉服券反物等総計百九十円の内六十三円は運輸課長吉川孝一同改良係井上幸一に提供せしも拒絶さる為被告延年幸三郎鷹俊三名は共謀して井上、森、岡、川添、等に対し現金六百八十五円反物百十一円六十銭を贈賄し

▲被告敬五郎は前同様現金呉服券反物計五百九十円を贈賄し

▲被告為之介は宇佐美等に対し呉服券反物計二百七十五円を贈賄し

▲被告則幸は植村に対し百四十三円八十九銭を贈賄したり

 以上の事実は其証拠十分にして被告寛爾、鼎、猛雄、巌衛、槇太郎、七郎の所為は各刑法第百九十七条第一項前段第五十五条に、被告吉太郎、十四郎、延年、幸三郎、鷹俊、啓五郎、為之介、則幸の所為は各刑法第百九十八条第一項第五十五条に該当する犯罪なりと思料するを以て刑事訴訟法第百六十七条に則り処分するべきものとす

被告太田為二(鉄道院副参事)は蔵内鉱業所、川崎炭砿所、明治鉱業会社、鐘ヶ淵紡績博多支店、同市製鋼株式会社、小倉製鋼所、住友若松砿業所中島鉱業所等より合計百四十六円九十四銭の呉服券反物類を収賄したる事実は之を認むる事を得るも其職務に関し収受したりとの証拠十分ならざるを以て刑事訴訟法第百六十五条に則り同被告を免訴し且つ放免すべく

又被告寛爾は川崎炭砿所、日本製粉会社久留米支店、鐘ヶ淵紡績博多支店、馬山金山所員、江口成護等より総計二百二十八円五十銭の現金反物類を収賄したりとの事実に就ては証拠十分ならざるも連続犯の一部に係るを以て特に免訴の決定を為さず仍て主文の如く決定す

大正七年三月十六日
福岡地方裁判所予審判事 高橋武一郎

炭鉱側贈賄

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元鉄道院書記 **鶴松
元鉄道院雇 **雅由
久原砿業所所長心得 **廣成
麻生商店理事長事務長会計部長   **米吉
三井物産株式会社社員 **繁
麻生商店会計主事補 **公義
元鉄道院書記 **春喜
麻生商店若松出張員 **晋

△ 主文 被告鶴松、広成、米吉、繁春喜、晋に対する本被告事件は当裁判所の公判に附す、被告雅由、公義は各免訴し放免す

 理由(概要)

△ 第一 被告米吉、繁、広成、晋(以上麻生商店事務員)は出炭輸送に要する炭車配給並に運搬事務に関係ある鉄道院職員に対し従来の謝意と尚将来便宜の取扱を受けんが為め共謀の上継続して名を中元歳暮に借り

(一)九州管理局配車係首席書記井上鼎に対し大正二年より五年迄八回に呉服券八枚合計二百四十円及被告米吉、晋よりは現金三十円を贈与し

(二)同上の職務に関し門司運輸事務所配車係柴田猛雄に対し七回に呉服券七枚合計百四十円を贈与し

(三)配車係書記森七郎に対し二十円の呉服券一枚を

(四)配車係書記川添卯三に対し金二十五円の呉服券及被告米吉、晋より現金十五円を贈与し

(五)若松駐在配車係書記坂本才重に対し六回に合計金六十五円及被告米吉、晋より金二十円を贈与し

(六)同配車係雇山本繁同後藤古三郎に対し金十円宛を、被告米吉、晋より別に十円宛を贈与し

(七)若松駅長林麻司に対し六回に呉服券六枚合計百二十円被告米吉、晋より三十円の呉服券一枚を贈与し

(八)同駅助役塚原岩太郎に対し十円、被告米吉、晋より十円位の反物一反

(九)麻生商店経営各炭坑の石炭積込駅を管轄せる芳雄駅長たる被告鶴松に対し同駅構内官舎に於て被告米吉繁、広成より大正四年八月以降四回に反物四反合計価格六十円位及被告米吉より呉服券一枚を贈与し以上合計現金百八十円呉服券五百八十円反物価格七十円許りの贈賄を為したり

△ 第二 被告鶴松(芳雄駅長)は継続して麻生商店員より前記第一(九)の如く収賄し更に山野炭砿より事務員松井敬次郎等の手にて五回に反物五反合計価格七十五円位を収賄したり

△ 第三 被告春喜(鉄道院書記)は伊田駅長在勤中田中炭鉱より事務員美濃村謙太郎渡辺貞の手を経て継続して三回に合計四十五円を収受す尚飯塚駅長在勤中継続して鈴木商店神浦炭坑長大滝義重より十三円位の反物一反中島鉱業所員富田実太郎より十円位の反物一反を収受せり

 以上の事実は其証拠十分にして鶴松春喜の行為は各刑法第百九十七条第一項前段第五十五条に被告米吉、繁、広成、晋の行為は各同法第百九十八条第一項第六十条第五十五条に該当するを以て刑事訴訟法第百六十七条第一項に則り尚被告雅由及公義に対する公訴事実は其証拠十分ならざるを以て同法第百六十五条により主文の如く決定す
 大正七年三月十六日
 福岡地方裁判所予審判事高橋武一郎

戸畑、若松両駅長の収賄

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元鉄道院書記   **要次郎
同  **麻司

右両名に関する涜職被告事件の予審決定し被告両人は各公判に附せらるることとなりたるが被告要次郎は明治四十二年三月以降戸畑駅長、被告麻司は明治四十一年四月以降若松駅長を夫々奉職中三井物産若松出張所若松市石炭商佐藤慶太郎、安川松本商店住友若松炭砿所等より二十五円乃至三十円位の反物四反宛及額面三十円の呉服券一枚十二円九十銭の反物額面十円の呉服券三枚及十円位の反物二反其他を収受したり、

又被告麻司は右の外麻生商店若松出張所より五回に現金百十円蔵内砿業所より五回に価格十五円の反物三反婦人用帯締一個及現金十五円、貝島砿業所より四回に十五円の反物三反及現金二十円を収受し

尚麻司は若松市にて麻生商店若松出張所員、三井物産若松出張所員、貝島若松出張所員其他より四百三十二円四十五銭に相当する饗応を受け以て収受せり

福岡地方裁判所予審判事代理  平田和三郎

若松駅員収賄

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休職鉄道院書記   **才重
**信次
貝塚鉱業所庶務主任 **治部
同若松出張所員 **清勝
中野商店若松出張所主任   **秀吉
休職鉄道院雇 **竹一

被告才重、信次、治部、清勝、秀吉に対する本案被告事件は当地方裁判所の公判に附す被告竹一は免訴す、

被告坂本才重は饗応二百十七八円現金二百五十二円呉服券百四十三円反物八十五六円総計六百九十七八円収賄、

被告川辺信次は二百十円収賄す、

被告赤松治部は宇佐美、林等に饗応現金反物総計七百十三四円贈賄す、

被告炊江秀吉は同様総計百二十四円八十銭のものを贈賄せり、

被告竹一に対する公訴事実は証拠十分ならざるを以て免訴す

福岡地方裁判所予審判事  木村安次郎

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。