一筆啓上仕候。逐日寒威相募候処、先以御家内様被レ成二御揃一愈々御安全可レ被レ成二御渡一奉レ賀候。偖て春来は御東遊の処、過日御首尾能御帰杖奉レ賀候。御旅倦一入の儀と奉レ存候。然者総老の方一儀に付、北川駒十郎先に御地へ立越候趣、僕於レ是為二足下一打明御噺申度都合有レ之候へ共遠路不レ得レ果、抑も君志を御立被レ成、我道を大成せんとて天下に横行し、虎穴に入て虎児を得んと被レ成、実に彼士太夫、千万石の禄を譲り、妻すに天下第一の美女を以てす共、不レ附の御本意にて、俗吏輩の知る能はざる所也。
然るに方今親戚の家主物故、実子病故に因て家跡滅せんとするが為に、親類集議し、君に非ずんば興す可き人なし、依て君の遠遊を妨ぐ、僕等御気毒御心事奉レ察候。雖レ然家族親戚の貴きは不レ得レ廃、之を廃すれば則士太夫の子を以て、百姓下人の家に主たりと雖可也、一家興廃豈微事ならんや。或人君を謂ふ、彼志あり、読書将に名門貴族を継がんとするかと。僕曰ふ、決して不レ然、丈夫立志学を為す、何ぞ一時貴賤を以て心を動かさんや、継がんと欲する所の者は大道耳、一家一族の比に非ず。且又人の世に在る、今朝貴と雖明朝賤を知らず、今朝賤と雖明日貴を知らず、又家門貴しと雖君子に非ず。君子小人は人に在り、家に在らず、是等の儀は僕抔の拙言を待たざる也。何分君は大道に志ある御方にて、必ず御志は御遂可レ被レ成、且当方へ御立越被レ下候はゞ、吏事御互の事故、成丈け繰合せ折々半季位は遊学も出来候様可レ致、何分志の儀は、僕と雖未だ不レ得レ廃、況んや君に於てをや。如何様有レ之候ても、御立入被レ下不レ申ては不二相成一儀に御座候間、彼是宜敷御考慮可レ被二仰下一候。尚近々拝面、万緒御面陳に可二申述一候へ共、不レ敢レ取後や先書記如レ此に御座候。恐憧謹言
竹次郎 盟台几下
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