スザンナ物語

提供: Wikisource
ナビゲーションに移動 検索に移動
Wikisource:宗教 > 聖書 > 旧約聖書続篇
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

スザンナ物語[編集]

   この物語と、次の『ベルと龍』とは、前の『三童兒の歌』と共に、ダニエル書への追加として取扱はるへ[べ]きものなり。

1 バビロンにめるひとあり、そのをヨアキムといふ。
2 かれつまめとる。そのをスザンナとび、ヘルキアのむすめにていとうるはしく、しゆおそるる婦人をんななりき。
3 その兩親ふたおやもまたたゞしきものにて、モーセの律法おきてしたがひてそのむすめをしへたり。
4 ヨアキムはゆたかなるとみてるものにて、その邸宅やしきにつづきてうるはしき庭園そのあり。ユダヤびときたりてかれしたしむ。そはかれほかのすべてのものまさりて、うやまはれたればなり。
5 そのとし二人ふたりたみ長老ちやうらう審判官さばきづかさにんぜらる。それは『あくはバビロンより、たみをさむるがごとゆるいたる審判官さばきづかさよりきたれり』と、しゆかたたまへるがごと審判官さばきづかさなりき。
6 此等これら審到官さばきづかさおほくヨアキムの邸宅やしきつどひしが、訴訟そしようをなすものことぐ彼等かれらきたれり。
7 さてひるころ人々ひと〴〵きしとき散歩さんぽせんとてスザンナはをつと庭園にはでぬ。
8 しかして二人ふたり長老ちやうらうは、日毎ひごとをんな庭園にはあゆむをぬすて、ひそかにかれにむかひて情慾じやうよくもやたり。
9 かくてかれら、てんあふることをせざらんため、またたゞしき審判さばきおもでざらんためみづからのこゝろげ、そむけたり。
10 かれらはともこひのためにきずつきながらも、あへ各自お〳〵そのなやみいろあらはさず。
11 かれらはこのをんなんとねがたれば、みづからの情慾じやうよぐかたるをぢたるなり。
12 されどかれらはひび熱心ねつしんに、かれ姿すがた看守みまもりぬ。
13 一人ひとりのものほかのものをかへりみていへり『いざわれいへかへらん、とき晝餐頃ひるごろなればなり』と。
14 かくてかれきしが、たがひ對手あひてきて、ふたゝおなところかへきたれり。程經ほどへかれたがひに、そのゆゑひ、たがひにそのこひかたへり。こゝかれらは、スザンナが唯一人たゞひとりあるをうかゞひ、たがひ相會あひあふべきときさだめたり。
15 偶々たま〳〵かれらがねらたるをりをたれり。かのをんなつねごとく、二人ふたり侍女じぢよともなひてでしが、暑氣あつさはなはだしかりしかば、かれはそのにてあらはんことをねがへり。
16 そのときかくしてをんなつめたる二人ふたり長老ちやうらうのぞきて、たれもそのかたはらものなかりき。
17 ときにスザンナ、侍女じぢよたちにいひぬ『われ香油にほひあぶらたらひとをきたれ、またそのとびらとざせ、われゆあみせん』と。
18 侍女じちよたちはめいぜらるるまゝそのとびらとざし、ゆだねられたることをなさんと、各自おの〳〵そのへや退しりぞきたり。されど侍女じぢよらは長老ちやうらうたちをざりき。かれかくたればなり。
19 さて侍女じぢよらのくや、二人ふたり長老ちやうらうあがり、をんなせかかりてへり
20 『よ、そのとびらとざされ、たれわれらをものなし、われらはなんぢしたふ、われらの懇望ねがひれて、われらとねよ
21 なんぢもしわれちにかずば、われなんぢむかひてあかしをなし、なんぢ年若としわかをとこともたり、ゆゑ侍女じぢよらをらしめたるなりとうつたへん。』
22 ときにスザンナ嘆息なげきていひけるは、『われ板挾いたばさみとなりぬ、われこれをさば、そはわれにとりてなり。もしこれさずば、なんぢらののがるるあたはず、
23 しゆ御前みまヘつみをかさんよりは、むしろこれをなさずしてなんぢらのおちいるにかず』と。
24 かくいひて、スザンナ大聲おほごゑさけびければ、また二人ふたり長老ちやうらうもかれにたいしてさけびぬ。
25 ときにその一人ひとりきたりてそのとびらひらけり。
26 またしもべそのおこれるさけびきて、かれ何事なにごとおこれるかをんとて裏木戸うらきど押寄おしよせたり。
27 しかるに長老ちやうらうら、かれらのはなしげたれば、召使めしつかひいたぢたり。そはかつてスザンナにきて、かかるうはさきしことなかりしがゆゑなり。
28 かくて翌日あくるひひと〴〵かれをつとヨアキムのもとに.つどきたれり。また二人ふたり長老ちやうらうもスザンナをさだめんものと、そのこゝろ姦計わるだくみ滿みたしつつきたれり。
29 かれひと〴〵々のまへかたりていひぬ『ヘルキアのむすめ、ヨアキムのつまなるスザンナを召喚よびいだせよ』と。彼等かれらかれをきたりぬ。
30 スザンナは兩親ふたおやら、およすべての血族けつぞくともきたれり。
31 さてスザンナはいと優雅やさしき婦人をんなにて、容姿かほかたちうつくしかりき。
32 しかして此等これら惡漢わるものども『をんな顔覆かほおほひれ』とめいじたり。かれらそのうつくしきをこゝろ滿みたさんとせしなり。
33 そのともとすべて彼女かのをんなたるものごとごとけり。
34 とき二人ふたり長老ちやうらうら、ひとびと々のなかち、かれかしらきぬ。
35 かれなみだながしつつてんあふぎぬ。こゝろうちしゆしんじゐたればなり。
36 長老ちやうらうかたでぬ『われそのあゆとき婦人をんな二人ふたり侍女じちよともきたり、そのとびらとざし、侍女じぢよらをらしめたり。
37 ときかくたる一人ひとり若者わかもの、このをんなちかより、これとねたり。
38 たまたまわれ一隅かたすみにありてそのあくたれば、かれらのところけり。
39 われかれらのともるをしも、その若者わかものとらふるあたはざりき。そはかれわれらよりもつよく、とびらひらきて、をどりたればなり。
40 されどわれをんなとらへたり。われらその若者わかものたれなりしかをたづねたれど、かれこたふるをうけがはざりき。われらこれのことをあかしす』と。
41 かれらはたみ長老ちやうらうまた審判者さばきびとなりしかば、民衆たみらかれらをしんじたり。かくてかれらスザンナをさだめたり。
42 ときにスザンナ大聲おほごゑさけびていふ『ああもろもろの秘密ひみつり、またよろづのもののまへこれたま永遠とこしへいまかみよ。
43 なんぢなんぢはしためたいして虚僞いつはりあかししたるかれらをたまふ。よ、はしためさだめられたり。されどはしためは、ひと〴〵々が、われをおとしいれんがために、捏造ねつざうせるかかることをけつしてなしたるにあらず。』
44 しかしてしゆ、そのうつたへこゑたまへり。
45 さてスザンナはしよせられんとてかれしが、しゆはダニエルと一人ひとり若者わかもの聖靈せいれいふるたしめたまひぬ。
46 かれ大聲おほごゑさけべり『われ婦入をんなあづからず』と。
47 とき全會衆ぜんくわいしゆうめぐらし、かれむかひていふ『なんぢかたれる此等これらことばなにぞや』と。
48 かくてかれひと〴〵々の直中たゞなかちていひぬ『なんぢ何故なにゆゑにかくもおろかなるか、なんぢらイスラエルのらよ、たゞすことなく、なんぢらは、また眞理まこと知 識ちしきしたがはずして、のイスラエルのむすめさだめたり。
49 ふたゝ審判さばきかへれ。そはかれらは、このをんなたいして虚僞いつはりあかししたればなり。』
50 ここにおい全會衆ぜんくわいしゆうは、ふたゝいそをめぐらししに、長老ちやうらうらダニエルにいひけるは『きたれ、われらのあひだし、そのおもところわれらにしめ せ、かみなんぢ長老ちやうらうたる名譽めいよあたたまひしにあらずや』と。
51 ときにダニエルかれらにいひけるは、『これらの二人ふたりわかちて、たがひとほはなれしめよ、われかれらにたゞさん』と。
52 かくかれわかわかれにはなされしときかれはその一人ひとりびていへり『ああなんぢあくのうちにとしかさねたるものよ、いまなんぢがさきにをかせるもろもろのつみこと〴〵あきらかになれり。
53 そはなんぢいつはり審判さばき宣告いひわたし、つみなきものおとしいれ、つみあるものゆるしたり。されどしゆのたまふ「なんぢつみなきもの、また正義者たゞしきものころすべからず」と
54 なんぢもし、かのをんなたりとせば、われげよ、かれ如何いかなるもとともりしや。』彼答かれこたふ『乳香樹にゆうかうのきもとに』と。
55 ダニエルこたへてふ『よし、なんぢなんぢ自身じしんかしらたいしていつはりたり。かみ御使みつかひいま宣告いひわたしけたれば、なんぢまふふたつに|かん』と。
56 かれはその一人ひとりかたはらしりぞけ、ほか一人ひとりきたらしめていふ『なんぢユダヤびとにあらざるカナンびと子孫しそんよ、うつくしきかたちなんぢあざむき、情慾じやうよくなんぢこゝろげしめたり。
57 かくなんぢらイスラエルのむすめらををかし、かれなんぢおそれてしたがへり。されどこのユダのむすめは、あへなんぢらのあくしたがふをほつせず。
58 さればいまわれこたへよ、如何いかなるもとにてかれともるをしや。』かれふ『ひひらぎもとにて。』
59 ときにダニエルいふ『よし、なんぢもまたなんぢかしらたいしていつはれり。かみ御使みつかひつるぎり、なんぢかんとてるなり、かれなんぢをほろぼさん』と
60 ここにおい全會衆ぜんくわいしゆう大聲おおごゑさけびて、すべたのものすくたまかみめたり。
61 かくかれ二人ふた長老ちやうらうたいしてあがれり。そはダニエルかれらがいつはりあかししたることを、かれみづかららのくちびるにてり、告白こくはくせしめ、彼等かれらつみさだめたればなり。
62 かくてモーセの律法おきてしたがひ、姦計わるだくみをもて、その隣入となりびとあくをなせるもの相應ふさはしくかれらにむくい、かれらをしよしたり。しかしてつみなきのはそののうちにすくはれたり。
63 ゆゑにヘルキアとそのつまとは、スザンナのをつとヨアキムおよびそのすべての血族けつぞくとともに、そのむすめスザンナのために、かみめたり。そはかれすべての汚名をめいまつたすゝがれたればなり。
64 そのよりのち、ダニエルはたみまへおほいなる名聲ほまれたり。