ジェラルド・フォードの大統領就任演説

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演説[編集]

最高裁判所長官、朋友諸君、同胞たる国民諸君よ。

只今私が行った宣誓は、ジョージ・ワシントン以来の全大統領が憲法の下で行ったのと同じ宣誓である。だが私は、これまで米国民が経験したことのない只ならぬ状況下で、大統領に就任する。今は歴史の中でも、我々の精神を乱し、心を痛める時である。

故に私は、国民諸君と先例のない約束をすることこそ自分の第一の義務であると感じている――これは就任演説でも炉辺談話でも選挙演説でもない。友人同士の率直な対話である。これを皮切りに、今後も対話を数多く行う所存である。

私は、諸君の投票によって大統領に選出された訳ではないことを痛感している。故に、諸君の祈りをもって私を大統領として追認してほしい。そして今後も、こうした祈りを数多く捧げてほしい。

私は投票で選ばれた訳ではないが、密約によってこの職を得たわけでもない[1]。私は、大統領にも副大統領にも立候補したことがない。特定の政党の綱領を支持したこともない。この極めて困難な職務を始めるに際して借りがあるのは、他でもない――最愛の妻[2]だけである。

私はこの重責を自ら求めた訳ではないが、忌避するつもりもない。私を副大統領として指名し、承認したのは我が友らであり、今も友情は続いている。我が友とは、全国民によって選出され、憲法の下で国民の名において行動する、両党[3]の面々のことである。だとすれば、私が全国民の大統領となることを、彼らと諸君に対して誓うことは理に適っている。

トマス・ジェファスンは語った。我々の自由を維持するための唯一の拠り所は国民であると。そして後年、エイブラハム・リンカンはこの米国の信条を改めて語った。「これより良き道が、これに匹敵する希望が、世界にあるだろうか?」と。

来週月曜日、私は下院議長[4]上院仮議長[5]に対し、議会に出席する権限を要請する所存である。かつての同僚及び米国民諸君に対して、国家の優先課題に関する私の見解を述べると共に、国民諸君の見解や議員諸君の見解を求めたい。議長その他の議員諸君とは、この演説の後で面会できれば幸いである。

選挙の時期が迫っているが、我々は協力なくして前進できないし、国民の緊急要請を果たさずしては誰も勝利できない。我々は立ち止まったり、後戻りしたりする訳にはゆかない。我々は今、共に前進せねばならないのである。

全友邦の国民及び政府よ。私は友邦が世界中に広がることを願いつつ、絶えずひたすらに平和を模索することを誓う。米国は今後も強さと結束を維持するが、その強さを己の貴重な自由のためのみならず、全人類の安全と健全性のために捧げ続ける。

真実は政府を結束させる接着剤である――我が国の政府のみならず、文明人自体についても同様である――と、私は信ずる。その絆は傷付いてはいるものの、国内でも海外でも断たれてはいない。

私は大統領としての公私にわたる行動の中で、結局は常に正直こそが最善の政策であると固く信じつつ、寛大で率直な気質を保ち続けたい。

同胞たる国民諸君よ。我が国の長き悪夢は終わった。

我が国の憲法は機能している。我々の偉大な共和国は法治国家であり、私益のための国家ではない。国民が国家を支配するのである。だが、「徳のみならず愛を。正義のみならず慈悲を」と命じる至高の力が存在する。我々がその力を如何なる名で崇めるにしても。

我々は、対外戦争による傷よりも辛く苦しいウォーターゲートによる心痛を癒しつつ[6]、我が国の政治過程に黄金律を復活させ、猜疑と憎悪の心を兄弟愛で浄化しよう。

冒頭、私は諸君に対し、私のために祈るよう求めた。最後に、リチャード・ニクソンとその家族のために、もう1度祈ってほしい。何百万もの民に平和をもたらした前大統領が、己の心にも平和を見出さんことを。素晴らしい妻子諸君に、神の恵みと癒しがあらんことを。妻子諸君の愛と誠は、今後ホワイト・ハウスで孤独な重責に耐えることになる者全てにとって永久に、輝かしき財産となるであろう。

その重責に関しては推し量ることしかできないが、これまで3人の大統領に振り掛かった悲劇[7]や、その他諸々の試練[8]を間近で目撃してきた。

生涯で得た力と良識の全て、家族と友人と献身的なスタッフから寄せられる信頼の全て、先日40州を歴訪した際に巡り会った多くの米国民の善意をもって、私は昨年12月6日に諸君にした約束を、今謹んで再び誓う。私は憲法を支持し、神の教えに従って正しい行いを為し、米国のために最善を尽くす[9]

神の助けを受け、私は諸君の期待に応える。

ありがとう。

訳註[編集]

  1. 原文は「If you have not chosen me by secret ballot, neither have I gained office by any secret promises」。「secret ballot(秘密の投票)」と「secret promises(秘密の約束)」を対比させている。
  2. ベティ・フォード(1918年 - )。
  3. 民主党共和党を指す。
  4. カール・B・アルバート(任1971年1月21日 - 1977年1月3日)。
  5. ジェイムズ・イーストランド(任1974年8月9日 - 1974年12月19日)。
  6. 原文は「bind up」。「縛る、束ねる、包帯を巻く」の意。
  7. ジョン・F・ケネディ暗殺リンドン・ジョンソンヴェトナム戦争への介入、リチャード・ニクソンの不祥事発覚を指す。
  8. 原文は「the lesser trials」。「lesser」は、「less」の比較級であるから「より程度の低い」の意。
  9. 1973年12月6日にフォードが副大統領に就任した際の演説の一節。前任のスパイロ・アグニューは、メリーランド州知事時代に行った贈収賄が発覚したことにより、辞任に追い込まれた。
  • 底本
    • 大谷立美(監修・解説)、石川真弓(訳)『アメリカ大統領の英語――就任演説 第4巻 ニクソン/フォード』 アルク、1993年。ISBN 4872342909
  • 訳者

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