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1 我に遣はされたる御使(その名はウリエル)我に答へていふ
2 『汝の心この世の事にいたく煩はさるるに、汝いかでいと高き者の道を悟り得んや。』
3 我いふ『わが主よ、然り。』
かれ我に答へて云ふ『われ三つの道を汝に示し、三つの譬喩を汝の前に擧げんがために遣はされたり。
4 もし、汝、この三つのうちの一つを我に告ぐる事を得ば、我も亦汝に汝の見んとする道を教へん。又人の心は何故に惡しきかをも教へん。』
5 我いへり『語りたまへ、わが主よ。』
彼われにいふ『往け、わがために火熖の重さを量れ。升にて風を量れ。又わがために過ぎし日を呼びかへせ。』
6 我答へていふ『此等のことをなし得るもの一人もなきに、何故我にこれを尋ね給ふか。』
7 かれ我にいふ『もし我汝に「海の深處に住居幾つありや、又淵の源に泉幾つありや、空の上に道幾つありや、陰府の出口何處虜にありや、又パラダイスに到る道何處にありや」と問はば、
8 恐らくは汝われに「われ淵に降りしこともなく、陰府に到りしこともなく、又天に昇りしことも無ければ」と答ふるならん。
9 されどわれ汝に火と風と日の事のみを尋ねたり。汝此等のものの中を輕來れり。此等のもの無くば、汝は在るを得じ、されど汝これ等につきてすらも答へ得ざりき。』
10 彼又われにいふ『汝若き時より、汝と共に在りしものを知ることすら能はざるに、
11 汝の器、いかでいと高き者の道を悟るを得んや。又朽ちはてし世にありて朽ちはてしもの、いかで朽ちはてぬものを悟るを得んや。』
12 我これらの事を聞きたればひれふして、彼にいふ『我らここに來り、不義の中に生き、且苦しみて、その何故なるを悟らざるよりは、むしろ來らざりし方宜かりしならん。』
13 彼われに答へていふ『嘗て野の林の樹出でて互に語り合ひぬ
14 「我ら出で往きて、海我らの前より退き、われらなほ多くの林をつくり得んがため、海に向ひて戰をいどまん。」
15 海の波も同じく共に議りて云ふ「いざ昇りて我等のために新しき地を造らんがため、野の林に向ひて戰をいどまん。」
16 されど林の思ふところ空しくなれり。そは、火來りて、その林を燒き盡したればなり。
17 海の波の思も亦同じく空しくなれり。そは、砂立ちて彼等を止めたればなり。
18 もし汝これらのものの間に審判者なりしとせば、いづれを義とし、いづれを罪ありとせしぞ。』
19 我答へていふ『彼ら互に空しきことを考へぬ。そは陸は林に與へられ、又海の面はその波を持つなり。』
20 かれ我に答へていふ『汝義しく審きたり。何ぞ己のことにつきて同じ審判をなさざるか。
21 陸を林に、海をその波に與へられたるが如く、地の上に住む者は地の上のことのみを悟り、天の上に住む者は天の高き事を悟らん。』
22 その時我答へていひぬ『主よ、いかなれば我ものを辨ふる能力を與へられしぞ。
23 われ上に在る道を尋ぬるを欲せず。唯日々我らの前に過ぎゆくことを尋ぬ。そはイスラエル異邦人の中に罵られ、汝の愛せし民、神を知らぬ人々に渡され、我等の先祖たちの律法空しくなりて、錄されたる契約も守られざればなり。
24 我らは蝗の如く此世を過ぎ往く。我等の生命は呼吸の如く、我等は恩惠を得るに足らざるなり。
25 されど彼、われらの呼びまつる御名につきて何をなし給ふや。われ此等のことにつきて尋ねたるなり。』
26 かれ我に答へていふ『汝かの時生き居らば見ることあらん。又汝生存へなばあやしと思ふことあらん。世はとく過ぎ逝けばなり。
27 この世は義しき者に約されたるものを保つこと能はず。そはこの世は苦惱と弱とにて充つればなり。
28 汝我に問ひたる惡しきこと既に蒔かれたり。されどそれを苅り取る時機未だ來らず。
29 若し蒔かれたるもの苅り取られず、又惡しきものの蒔かれたる處失はれずば善き者の蒔かるる畑來らず。
30 元始よりアダムの心に一粒の惡しき種、蒔かれたれば、今に至るまで如何に多く不義の實を結び、又收穫の來らん時まで如何に多くこれを結ぶべきぞ。
31 惡しき種の一粒より不義の實如何に多く結ばれしや。汝自らこれを思ひめぐらすべし。
32 數へ盡すこと能はぬ穗、蒔かれなば、大なる禾場をも充たさん。』
33 われ答へていふ『如何なる時までにか、又如何なる時にか、これらのことども起るべき。何ぞ我等の歳かく少くして惡しきや。』
34 彼我に答へていふ『汝はいと高き者に勝りて急ぐ能はじ。そは汝は己のために急げど、上に在す者は多くの人の爲に急ぎ給へばなり。
35 義しき人の魂、その安息所に於て此等のことにつきて尋ねたるにあらずや。卽ちわれ如何なる時までかくの如く希望を有つべき。又我らの禾場の報の實はいかなる時に來らんとするや。』
36 御使の長エレミエル彼等に答へていふ『汝に似たる者の數滿つる時なり。そは、かれ秤をもて世を量るべければなり。
37 かれ時を量れり。數によりて季節を量り、これを數へたり。定められたる秤の滿つる時まで彼これらのものを搖り動し給はじ。』
38 我答へていふ『主よ、わが主よ、我等皆不義に滿たされぬ。
39 義しき人の禾場の止めらるるは、我らのため、又地に住む者の罪のためにあらずや。』
40 彼我に答へていふ『往きて孕みたる者に尋ねよ「彼九月滿つればその胎自然に子を生むことを得るや」と。』
41 我いふ『否、主よ、そは能はぬことなり。』
彼我にいふ『陰府の中の魂の室は女の胎の如し。
42 産まんとする者その産の苦痛を遁れんと急ぐが如く、此等の處も初めより預けられたるものを返へさんと急ぐなり。
43 その時汝の見んと望むもの汝に顯されん。』
44 我答へていふ『若し我汝の御前に恩惠を得なば、又もしこはあり得べき事にして、我之に相應しくば、
45 願くは我にこの事をも示したまへ。卽ち過ぎたる事よりも來らんとする事多きか、或は我等の上を過ぎ逝きし事却つて多かりしか。
46 我は過ぎし事を知れども來らんとする事を知らず。』
47 彼われにいふ『右の方に立て。我この比喩の説明を示さん。』
48 われ立ちて、見しに、視よ、燃ゆる爐わが前を通りて、その火熖すぎゆきたれば、われ見しに、視よ、煙のみ殘れり、
49 その後、雨の滿ちたる雲、わが前を過ぎ、激しき勢をもて雨を降らせたり。その雨の勢すぎし時、雫のみ殘れり。
50 彼われにいふ『汝自ら心の中に辨へよ。雨、その滴よりも大なるが如く、又火その煙よりも大なるが如く、過ぎゆきしものの量多し。しかも雨の滴と煙猶殘れり。』
51 我祈りていふ『我その時まで生くべしと汝思ひたまふか。誰かその時まで殘らんや。』
52 かれ我に答へていふ『汝の我に尋ねたるかの徴につきて、我その一部を語り得るなり。されど汝の生命につきては、我これを汝に語らんがために遣されしにあらず。我これを知らざるなり。