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1 然るに、わが子婚禮の室に入りし時、忽ち倒れて死ねり。
2 その時我等燈火を倒したり。わが隣人立ちて我を慰めぬ。かくてわれ翌日の夜に至るまで休めり。
3 我を安らかにせんとて我を慰さめゐたりしもの皆鎮まりたれば、我その夜汝の見る如くこの野に逃れ來れり。
4 我死ぬる時まで、絶間なく嘆き、斷食し、何をも喰はず、何をも飲まず、都にも歸らずして、此處に留らんと思ひ定めたり。』
5 その時、われ思ひめぐらし居りしことを止め、怒をもてかの女に答ふ
6 『女の中の最も愚なる者よ、我らに起りたる我等の惱を視ずや。
7 卽ち我等の母シオン大なる惱の中に惱みて卑くせられたり。
8 汝はただ一人の息子のために嘆く。我等は皆悲哀の中に居れば共に嘆くは當然なり。
9 地に問へ。地その上に成長せる多くのもののために嘆くは宜なりと答へん、
10 地よりすべての者出でたり。又他のものも來らん、されど視よ、彼等は殆ど皆滅亡に向ひて歩み、その數盡きんとす。
11 地と汝といづれか大に嘆くべき、地は大なる群衆を失ひしにあらずや。
12 もしなんぢ「我と地との情態は異なり。そは我大なる苦と惱とを以て産みしわが胎の實を失ひしなれど、
13 地は地の風習に從ふ。その上に來れる群衆はその來りしが如く過ぎ往けるなり」といはば、我は汝に答へん。
14 汝惱を以て子を産みしが如く、地も亦初よりその實、卽ち人を、造主のためにささげたり。
15 故に己が嘆を己の心のうちに保て。汝に起りし苦難を勇ましく忍べ。
16 もし汝神の誡命を正しとせば、時に依りてはまた子を授けられ、女の中に譽を得ん。
17 されば汝町にゆき、汝の夫に、歸へるべし。』
18 彼女われに答へていふ『然すまじ、町にも入るまじ、我は此處にて死なん。』
19 我更に言を重ねて、彼女にいふ。
20 『女よ、汝の心のままにすな。シオンの苦難のためにわがいふことを聞き、エルサレムの悲嘆のために慰を受けよ。
21 汝見る如く我等の聖所は荒れ果て、我等の聖壇は毀たれ、
22 我等の宮は滅び、我等の讃美の聲は低くなり、我等の歌は默し、我等の喜悦は盡き、我等の燈火は消え、我等の契約の櫃は破られ、我等の聖き物は瀆され、我等の呼ばるる名は罵られ、我等の自主なる男は蔑され、我等の祭司たちは燒かれ、我等のレビ人は俘虜にせられ、我等の處女たちは汚され、我等の妻たちは犯され、我等の義しき人々は携へ去られ、我等の子等は裏切られ、我等の若者らは奴隷とせられ、我等の強き者は弱くなれり。
23 しかのみならずシオンの紋章はその榮光を失ひ、我らを憎む者の手に渡されたり。
24 されば汝の大なる悲痛を振ひすて、多くの嘆を汝より打ち捨てよ。さすれば、至強者再び汝を憐み、至高者、汝の勞苦に代へて休息と平安とを與へ給はん。』
25 われ猶この女と語り居る程に、視よ、其顔忽ち輝やき、その姿稻妻の如く光りたれば、我いたくかれを懼れ、こは何事ぞと想ひ𢌞はせり。
26 視よ、かの女忽ち、恐しき大なる聲を發し、地そのために震へり。
27 我見しに、視よ、その女の姿もはや見えず、代りにそこに都建てられ、大なる墓の如き場所顯れたれば、我懼れて聲を擧げ、而していへり
28 『初に我に來たりし御使ウリエルは何處に居るや。彼われをこの大なる幻象に陥らしめぬ。わが終は空に歸し、わが祈は拒まれたり。』
29 われ此等の事を語り居る間に、視よ、初に來りし御使我に來りて我を見たり。
30 視よ、われ死にし者の如く伏して氣を失ひ、わが悟亂れたり。御使わが右の手を執りて我を強め、我をわが足にて起たせ、而して我にいふ
31 『汝何ぞ頂垂るるや、何ぞ思ひ惑ふや。何ぞ汝の悟、汝の心の思亂るるや。』
32 我いふ『なんぢ我を棄てたるが故なり。われ汝の言の如く野に往きしに、言ひ得ざる事を視たり。我今猶これを見る。』
33 彼われにいふ『雄々しく立て。我汝に示さん。』
34 我いふ『わが主よ、我徒らに死なざるやう我を去り給ふな。我に語り給へ。
35 我悟らざる事を見、又知らざる事を聞きたればなり。
36 或はわが心誤り、或はわが魂夢み居るならんか。
37 願くは彼の幻象を僕に示し給へ。』
38 彼われに答へていふ『我に聽け、いと高き者汝に多くの奥義を示したれば、われ汝に汝の懼るる事を示し且語らん。
39 彼なんぢの道の正しきを見たまへり。そは汝常に汝の民のために嘆き、シオンのために大なる哀悼をなせばなり。
40 これは幻象の意味なり。
41 暫時前に汝に現れて悲み居りし、汝の慰めんとしたる女は、
42 今汝の見る如く、女の姿にあらで、建てられつつある都として顯れぬ。
43 汝にその子の變事を語りしかの女につきての説明は左の如し。
44 汝の見しかの女は汝の見るところの建てらるる都シオンなり。
45 かれ汝に、三十年子を産まざりしといひしは、これシオンに於て三千年の間犧牲獻げられざりしことをいふ。
46 その三千年の後に、ソロモンかの都を建て、犧牲にささげたり。これかの石女の子を産みしことなり。
47 かれ苦み勞してその子を養へりといひしは、エルサレムに民の住みしことを云ふ。
48 又かのをんな、その子婚禮の室に入りて死に、大なる苦惱起りたりといひしは、エルサレムの滅びたることを云ふなり。
49 視よ、汝かの女の、子のために嘆く樣を見て、これを慰め始めたるとき、その眞の姿示されしなり。
50 今いと高き者、汝が心より悲み、かの女のために心を盡して苦みたりし事をみそなはし、その榮光の輝とその優しき美しさとを汝に示したまへり。
51 この故に、われ汝に、家の建てられしことなき野に宿るべきことを命ぜしなり。
52 これいと高き者、汝に此等のことを示し給ふべきことを我知りたればなり。
53 さればわれ汝に、建物の基もなき野に往くことを命じたり。
54 いと高き者の都の顯るるところに、人の手の業立つこと能はず。
55 故に懼るな、汝の心を騷がすな。汝の眼の見得る限り。建物の榮光と偉大とを見よ。
56 後汝は、汝の耳の聞き得る限を聞かん。
57 汝は多くの人に勝りて祝福せらる。少數の者と共にいと高き者の御前に名をもて呼ばれん。
58 明日の夜、汝は此處に留まるべし。
59 いと高き者、夜の幻象の中に、終末の日に、地に住む者になさんとすることを示したまはん。』我その夜も、またその次の夜も御使の命ぜし如く、其處に寢ねたり。