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1 かれ我にいふ『地の創造せられし始、世の出立未だ定まらざりし時、風未だ集り吹かざりし時、
2 雷の聲未だ鳴り轟かざりし時、電光の閃光未だ輝き渡らざりし時、パラダイスの基底未だ固まらざりし時、
3 美しき花未だ開かざりし時、地震の勢威未だ確ならざりし時、數へ盡せぬ天使の軍勢未だ集まらざりし時、
4 空氣の高層未だ高く達せざりし時、穹蒼の極未だ名づけられざりし時、シオンの足臺、未だ据ゑられざりし時、
5 今の年未だ現れざりし時、今罪を犯す者どもの企圖たくらみ未だ遠けられざりし時、己がために信仰の寳を蒐むる人々未だ印せられざりし時、
6 その時すでにわれ此等のことをわが心の衷にて深く想ひ𢌞らせり。此等のものは他の者によらず我のみに由りて造られし如く、その終も他の者によらず、ただ我のみによりて定められん。』
7 我答へていふ『時の區分は如何、初の代の終、又それに續く次の代の始は何時ぞ。』
8 かれ我にいふ『アブラハムよりアブラハムまでなり。アブラハムよリヤコブとエサウ生れ出づ。ヤコブの手はじめよりエサウの踵を握り居れり。
9 エサウはこの世の終にして、ヤコブは次の世の始なり。
10 人の始はその手なり。人の終はその腫なり。エズラよ、踵と手との間に、もはや何をも求むな。』
11 われ答へていふ『主よ、もしわれ汝の目の前に恩惠を得なば、
12 願くは、僕に前の夜少しく示し給ひし汝の徴の終をも示し給へ。』
13 彼われに答へていふ『汝足にて立て。さらば汝大なる聲を聞くべし。
14 汝の立ち居る處甚しく動きて、その聲の響聞ゆとも懼るな。
15 その言は終末に關ることにして、地の基もこれを悟らん。
16 その言は地の基に關ることなれば、地の基、震ひ動き、變り行く終末の様を知らん。』
17 我これを聞きて起ち上り、尚耳を傾くる程に、視よ、語る聲ありて、その聲の音は大水の音の如し。
18 その聲いふ『視よ、地に住む者を顧みんがため、わが近づかんとする日來らん。
19 我不義の業をなせし人々の不義を調べ始むる時、又シオンの苦難の充つる時、
20 又過ぎゆく世の極印を捺さるる時、われ此等の徴を示さん。穹蒼の前に卷物開かれ、すべての人共にこれを見ん。
21 當歳の幼兒らその聲を以て語らん。孕みたる女、三、四箇月にして月足らぬ子を産まんに、その子等生きて躍らん。
22 種の蒔かれたる處忽ちにして荒地と化せん。滿ちたる庫忽ちにして虚くならん。
23 ラツパその聲を出さば、これを聞くすべての人々俄かに懼れおののかん。
24 その時、敵のその敵と戰ふが如く、友その友と鬪ひ、地とその上に住むもの懼れおののかん。又泉の源止まりて三時の間流れざるべし。
25 わが汝にいひしこのすべての事の成就せらるるまで殘れる人々は救はれ、わが救とわが世の終とを見ん。
26 その時、彼等は、生れしより後死を味ひし事なく天に受けられたる人々を視ん。地に住む人の心變りて、異りたるものとならん。
27 惡は取り除かれ、僞は消え失すべし。
28 かくて信仰は榮え、汚穢は敗れて、久しき間實を結ばざりし眞理明かに示されん。』
29 彼われとものいひ居りし時、視よ、わが立ち居たる處、少しく動き始めたり。
30 彼われにいふ『われ此等のことを夜中に汝に示さんがために來れり。
31 もし汝再び祈り、七日の間、再び斷食せば、われ再び晝の間、此等のことよりも大なることを汝に告げん。
32 汝の聲いと高き者に聽かれたり。強き者汝の義をみそなはし又、若き時より汝の保ち來りし操を顧みたまへり。
33 而して此等のすべての事を汝に示し、且告げんがために、かれ我を遣はしたまへり。汝心を安んぜよ、懼るな。
34 終の時の審問を恐れて、慌しく前の日の惡を思ひ煩ふな。』
35 此等のことの後、我再び泣き、前の如く七日の間、斷食して、命ぜられたる三週を過さんとせり。
36 八日目の夜、わが心再びわが衷に煩ひていと高き者の前にて語り始めたり。
37 わが魂大に燃えて、わが心惱みたればなり。
38 我いへり『主よ、汝開闢の始、第一日に御言を出して「天と地と造られよ」といひ給ひたれば、汝の御言その業を全うしたまへり。
39 而して汝の靈地の上を掩ひたれば、暗黑と沈默地を占め、人の聲未だ御前に聞こえざりき。
40 その時、汝の御業の顯はれんがため、命じて寳庫の中より光を輝き出でしめたまへり。
41 第二日に汝穹蒼の靈を造り、これに命じて水と水とを分たしめ、一部を上に昇らしめ、其他を下に殘らしめ給へり。
42 第三日に、汝水に命じて、これを地上の七分の一に集め、七分の六を乾かし、之を守り、そのうちの一部を耕やし、且種蒔くに相應はしからしめ給へり。
43 汝の御言出でたれば、御業忽ち成れり。
44 直ちに樹の實さわに實り、その味美はしく、その類多かりき。又たぐひなき色といとかぐはしき香の花咲き出でたり。此等は第三日に成れり。
45 第四日に、汝命じて、日を輝き出でしめ、月に光を放たしめ、星の順序をととのへ給へり。
46 而して汝、後に造くられんとする人に仕ふべきことを彼等に命じ給へり。
47 第五日に、汝水の集まり居れる、地の第七部に生物と鳥と魚とを出さん事を命じ給ひければ、彼ら出で來れり。
48 聲もなく、生命もなき水、汝の命に從ひて生物を造り、これによりて、地上の民等汝の不思議なる業を讃むるに至れり、
49 その時、汝二つの活物を護り、その一つにベヒモテ、他のものにレビアタンの名を與へ、
50 この二つのものの間に區別を作りたまへり。
そは水の集まれる地の第七部はこの二つのものを共に有つこと能はざればなり。
51 汝ベヒモテに第三日に乾きたる地の一部を與へたれば、彼その處に住めり。その處に、一千の山あり。
52 されど汝濕ひ居る地の第七部をレビアタンに輿へたまへり。汝は、汝の欲し給ふ時、汝の欲し給ふ人にこの二つのものの食せられんがためにこれを護り給へるなり。
53 第六日に、汝地に命じて汝の御前に家畜と獸と爬ふものとを造り給へり。
54 この上に汝の造り給ひしすべてのものの主長たるアダムを造りたまへり。汝の選民たる我等は彼より出でたる者なり。
55 主よ、我これ等のすべてのことを汝の御前に語りたるは、汝この創の世を我らのために造れりと宣ひしが故なり。
56 アダムより生れたる他の民等に就きて、彼等は、何者にもあらず、唾液の如き者なりと汝宣へり。汝、彼等の富を器より落つる水の一滴になぞらへ給へり。
57 主よ、見給へ。今この無きが如き民、我等を抑へ、我等を喰はんとす。
58 主よ、我等は、汝の民、汝の初生兒、汝の獨子、汝の最も愛する者と呼ばる。然るに我等は、彼等の手に渡されぬ。
59 もし地我等のために造られしならば、いかにして我らこの世を嗣ぐものとはならざる。ああ此等のこと、何時までかくあるべきか。』