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1 彼われに答へていふ『至高者は、この世をば多くの人のために、來らんとする世をば少數の人のために造り給ひたり。
2 エズラよ、われ汝の前に比喩を語らん。もし地に問はば、地汝に、土の器を作る土は多く出づれども、金を出す砂は少しといはん。この世のわざもこれに同じ。
3 多くの人々造られたれど、救はるゝ者は少し。』
4 我答へていふ『わが魂よ、知識を飲み、智慧を喰へ。
5 なんぢ暫時の間のみここに活くるを許されたれば、喜ばずしてここに來り、又望まずしてここを去るなり。
6我等の上に在す主よ、願くは、われらの心に種を與へ、我らの理性を培ひ、實を結ばしめんがために祈ることを汝の僕に許したまへ。これによりて人の像を持つ汚れたるすべての者活きん。
7 主は唯一なり。我らは汝のいひし如く御手の一つの業なり。
8 主は胎の中に造れる身體に生命を與へ、又肢體を與へ給ふ。汝の造り給ひしものは、火と水との中に護られ、又その生れんとする者を、九ヶ月の間、胎内に保つなり。
9 護る者も護らるる者も、等しく汝の御守護のうちに護られん。後に、胎、その内に造られし者を出す時、
10 汝その母の身體の肢體なる乳房をして乳を出さしめ、
11 これによりて暫時の間、その中に造られし者は養はれ、その後汝、憐憫によりてこれを守りたまはん。
12 汝正義をもてこれを養ひ、律法をもてこれを育て、御意をもてこれを誡めたまふ。
13 汝造りしものとしてこれを死なしめ、又御業としてこれを活かし給ふ。
14 かくの如き大なる勞苦をもて造られしものを、御言をもてかくも容易く亡ぼし給ふとせば、何とて之を造り給ひしぞ。
15 我いはん、凡べての人に就きて汝知り給ふ。されど我、わが心の痛む汝の民につきて、
16 わが悲む汝の産業につきて、わが嘆くイスラエルに就きて、わが苦しむヤコブの裔につきて、我いはん。
17 地に住む我等の堕落は明らかなれば、われ汝の前に己のため又彼等のために祈らん。
18 來らんとする審判の速やかなることを我聞けり。
19 願くは、わが聲を聽き、わが言を聰りたまへ、われ汝の前に語らん。』
エズラの擧げられし前の言。エズラいふ。
20 『主よ、主は永遠に在す。主の眼は高く擧げられ、主の御住居は空に在り。
21 主の御座は測り難く、主の御榮光はさとり難し。主の御前に天の萬軍は戰きて立ち、
22 主の命によりて彼等は風と火との貌に變へらる。主の御言は眞實にして、主のいひ給ふ所は動かず。主の勅令は確く、主の誡命は畏し。
23 主の御顔は淵を乾かし、主の御怒は山を熔かし、主の眞理は證をなす。
24 主よ、僕の祈を聽きたまへ。主の造り給ひし者の願に耳を傾けたまへ。
25 わが言をみそなはしたまへ。われ生くる間は語り、悟ある限は答へ奉らん。
26 ああ御民の罪を念ひ給ふ勿れ。誠實を以て汝に仕へ奉る者を憶え給へ。
27 惡しき事をなすものの業を顧みずして、苦難の中にも汝の誠命を守りたる者を顧みたまへ、
28 汝の前に僞りて歩みし者を念はず、喜びて汝の畏きを知りし者を憶え給へ。
29 家畜の如くふるまひし者を亡ぼすことを喜び給はず、御律法を明らかに教へし者をみそなはし給へ。
30 獸よりも惡しく思はるる者を怒りたまはずして、常に主の榮光に賴りし者を愛したまへ。
31 我等とわれらの先祖たちは死に到る道を歩みたれど、主は我等罪人の故に、憐憫深き者と稱へられ給ふ。
32 我等には義しき業なけれど、主もし我等に憐憫を施す御心あらば、主は憐憫深き者と、稱へられ給はん。
33 汝の御許に多くの業を貯はへたる義しき者は各自の業によりて報をうけん。
34 人は如何なる者なれば之を憤り給ふや。朽ちはつべき世の人は如何なる者なれば、苦きをもてこれを遇ひ給ふや。
35 實に生れし者の中に一人だに惡しきを行はざりし者なし。又汝の選びし者の中に罪を犯さざりし者なし。
36 主よ、善き行爲の富をもたぬ者に對して、憐憫を施し給はば、之によりて汝の正義と恩惠とは宣べ傳へられん。』
37 彼われに答へていふ『汝のいひし言の中、或ものは良ければ、その如くにならん。
38 我罪を犯せし者の貌と、死と、審判と、その滅亡とを思はずして、
39 義しき者の貌とその巡禮と、その救と、その受くべき應報とを喜ばん。
40 故にわがいひし如くに成らん。
41 農夫地の上に多くの種を蒔き、多くの苗を植ゑたれど、時到りて、猶その種とその苗とは救はれず、又すべての植ゑしものも根付かざるが如く、この世に蒔かれし人々も悉くは救はれじ。』
42 我答へていふ『もし我御前に恩惠を得なば、我いはん。
43 農夫の種、時到りて雨を受けず、或は雨の多きが故に、その葉伸びずして、その種朽ち果つる事あらん。
44 かくの如く人は御手の業にして、汝に肖たる者、汝の像と稱へられ、すべての物かれのために造られたれど、汝は彼を農夫の種に擬へ給へり。
45 主よ、汝は汝の造り給ひしものを憐み給へば、我らを怒り給ふ勿れ。御民を赦し、汝の嗣業を憐み給へ。汝は自ら造り給ひしすべてのものを憐み給ふ。』
46 彼われに答へていふ『今の世のものは今の世の人のため、後の世のものは後の世の人のためなり。
47 我よりもわが造りしものを愛するは、汝に猶足らぬ處あればなり。汝は屢不義に近づけり。此はかくあるべきにあらず。
48 されど汝はこれによりて、至高者の御前に譽を得ん。
49 汝は大なる光榮を得んがために己を義しき人々の中に數へず、却て汝にふさはしく自らを卑くしたればなり。
50 世に住む人々、大なる高慢の中に歩みたれば、終末の時に、彼等の上に多くの悲むべき苦惱來らん。
51 汝己のために自ら悟りて汝に似たる者より榮光を求めよ。
52 汝らのためにパラダイスは開かれ、生命の樹は植ゑられ、來世は備へられ、喜悦は滿たされ、都は建てられ、平安は定められ、恩惠は完うせられ、智慧も既に成就せられたり。
53 汝等より惡の根は封印せられ、虚弱は消され、死は絶たれ、陰府は逃れ、腐敗は忘られたり。
54 悲哀過ぎ去りて、永遠の生命の寳終に顯はれん。
55 されば亡ぶる者の數につきて問ふな。
56 彼ら自由を享けて後、いと高き者を棄て、その律法を罵り、その途を離れたり。
57 しかのみならず、彼らは主の聖徒を蹂躪れり。
58 彼等は自ら死ぬべき者なりと知りつつ、その心の中に神無しといへり。
59 此等のこと汝等を待ち受くるが如く、渴と苦痛とは彼らのために定められたり。いと高き者は、人の亡ぶるを欲し給はざれど、
60 造られたる者は、造主の御名を汚し、彼等のために生命を備へ給ひし者に恩を報いず。
61 さればわが審判既に近づきぬ。
62 我この審判を多くの者に示さず、ただ汝と汝に似たる少數の人々とに示せり。』
63 我答へていふ『主よ、主は、終の日に自らなさんとする多くの徴を我に示したれど、その何時なるかを示し給はざりき。』