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日本國普魯士國修好通商條約

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萬延元年庚申十二月十四日(西曆千八百六十一年第一月二十四日)於江戶調印

文久三年癸亥十二月十三日(西曆千八百六十四年第一月二十一日)於同所本書交換

帝國大日本大君と孛漏生國王と兩國の閒に懇親の因を結び且其各臣民に緊要たる和親交易の條約に及ばん事を決し日本大君は村垣淡路守竹本圖書頭黑川左中に此事を任じ孛漏生國にては其王族の攝政たる者孛漏生國王の名を以て日本に差越たるフレーデレッキ、アルブレクト、ガラーフ、ヅ、ヲイレンブルグに命じ雙方委任の書を照應し狀質良好にして其至適たるを見下文の條々を合議決定せり

   第一條

日本大君と孛漏生國王其親族竝に世々と其互の所領臣民の閒に永久の平和懇親あるへし

   第二條

日本大君はベルリンに在留する政事に預る役人を任し竝に孛漏生國諸港の中に在留する諸取締の役人及び貿易を處置する役人を任すへし其政事に預る役人及び頭立たる諸取締の役人は故障なく孛漏生の國內を旅行すへし

孛漏生國王は江戶府在留するヂプロマチーキ、アゲントを緊要を鑑る時は之を命し竝に此條約にて孛漏生貿易の爲に開きたる日本の各港の中に在留するコンシュライル吏人を命すへし其ヂプロマチーキ、アゲント及コンシュルゼ子ラールは故障なく日本國內を旅行すへし

   第三條

神奈川長崎函館の港及び町は此條約施行の日より孛漏生臣民交易の爲に開くへし前條の港及び町に於て孛漏生臣民居住する事を許すへし其者等地所を賃を以て借り又其地に在る建物を買ふ事を得且住宅倉庫を建る事を許すと雖是を建るに托して要害の場所を營むへからす

此規定を守る事を證せん爲其建物を普請修補するに當て日本役人見分する事當然たるへし

孛漏生國の臣民住すへき爲得る處の場所建物及び港々の規則は其所々の日本役人と孛漏生コンシュルとにて定むへし若し同意し得さる時は其事件を日本政府と孛漏生のヂプロマチーキ、アゲントに示し處置せしむへし○日本にては孛漏生國の臣民住すへき場所の周圍には門塙を設けす自由の出入を妨くへからず○日本開港の場所に於て孛漏生人遊步の規定左の如し

神奈川 六鄕川筋を限とし其外は各方へ十里

函館 各方へ十里

都て里敷は港港の奉行所又は御用所より陸路の程度なり

其壹里ハ 孛 壹萬貳千四百五十六フース 英 四千貳百七十五ヤールヅ 佛 三千九百十メートル

長崎 其所の周圍にある御料所を限りとす

   第四條

日本に居留する孛漏生人は自國の宗旨を自由に信仰し且其居留場內へ拜所を營む事障なし

   第五條

日本に在る孛漏生人の閒に起る爭論は孛漏生司人の裁斷たるへし

若し孛漏生人日本人に對し訴訟或は異論ある時は日本官府に於て此事件を裁斷すへし

前同樣日本人孛漏生人に對し訴訟或は異論ある時は孛漏生コンシュルに於て此事件を裁斷すへし

若し日本人孛漏生人に逋債ありて償を怠り又は僞を以て遁んとする時は日本司人是を裁斷し逋債を償はしむる事を務むへし

孛漏生人日本人に逋債あるも孛漏生コンシュル是を所置するは同樣たるへし日本奉行所孛漏生コンシュルは雙方國人の逋債を償う事なし

   第六條

孛漏生人に對し惡事を爲せる日本人は日本司人にて糺し日本法度に隨て罰すへし

日本人或は外國人に對し惡事を爲せる孛漏生人はコンシュル或は其他の官人にて糺し孛漏生の法度に從て罰すへし

   第七條

此條約竝に規則の規律を犯せる過料又は取揚品は吟味の爲孛漏生のコンシュライル吏人に相達し其吏人吟味し過料又は取揚品は都て日本役所に屬すへし

   第八條

孛漏生人日本の開くへき港々に於て自國の品物は勿論他國の品物にても日本禁止の品にあらさる交易の諸品物を輸入し賣拂又は買入れ輸出する事自由なるへし

制禁外の品物規定運上納濟の上は其他の運上を拂ふ事なし

孛漏生人日本人と品物を賣買する事總て障なく其拂方等に付ては日本役人之に立合わす諸日本人は孛漏生人より得たる品を賣買し或は所持する事倶に妨なし

   第九條

日本に在留する孛漏生人は日本人を雇ひ是を法度に於て禁せさる諸用に給する事障りなし

   第十條

此條約及ひ稅則にて交易の規律を全備するものと見るへし

日本に在る孛漏生國のヂプロマチーキ、アゲントは日本政府より委任の役人と相接し此條約に附屬する稅則規律の趣意を施行する爲交易に開くへき諸港緊要至當の規律等談判を遂へし

   第十一條

開くへき港の日本司人密商奸曲を防ぐため相當の規則を立へし

   第十二條

孛漏生國の船日本の開きし港に來る時竝に規定の租稅及ひ逋債拂濟にて港を出る時は水先案內を雇ふ事勝手たるへし

   第十三條

孛漏生國の商民は開きたる港に品物を輸入し規定の運上納濟の證書あれは再び其品物を他の開きたる港に轉致し陸揚する共重稅は取立さるへし

   第十四條

輸入の荷物定例の運上拂濟の上は日本人より國中に輸送する共別に運上を取立る事なし

   第十五條

外國の諸貨幣は日本の貨幣と同種の同量を以て通用すへし

雙方の國人互に物價を拂ふに日本と外國との貨幣を用ふるに妨なし

日本諸貨幣は(銅錢を除く)輸出する事を得竝外國の金銀は貨幣に鑄るも鑄さるも輸出する事を得へし

   第十六條

日本運上所にて荷主申立の價を奸ありと察する時は運上役より相當の價を得其品を買入るゝ事を談すへし

荷主若し之を否む時は運上所にて附たる價に從て運上を納むへし禾允するに於ては其價を以て直に買上へし

   第十七條

孛漏生國の船日本海岸にて破船又は漂着し或は危難を遁れ來る事を知らは其所の司人是を救い厚く扶助を加えて最寄のコンシュルへ送り渡すへし

   第十八條

孛漏生軍艦用意の諸品は神奈川長崎箱館に陸揚し倉庫に納め孛漏生の番人守護すへし

尤それか爲運上を收むる事なく若し其品を日本人又は外國人に賣拂ふ時は買得る人より規定の運上を日本役所に收むへし

   第十九條

日本政府より向後外國の政府及び臣民を許すへき殊典ある時は孛漏生政府國民へも同樣の免許あるを方今確定せり

   第二十條

兩國にて條約の實地を驗し改革せん事を求る時は其一年前に通達して再驗を爲すへし

其事は今より凡十二年の後にあるへし

   第二十一條

孛漏生國のヂプロマチーキアゲント及ひコンシュライル吏人より日本司人にいたす公事の書通は獨逸語を以て書すへし尤此條約施行の時より五箇年の閒は日本語又は和蘭語の譯文を添ゆへし

   第二十二條

此條約は日本獨逸及ひ和蘭語を以て書し各飜譯は同義同意なりと雖和蘭譯文を以て原と見るへし

   第二十三條

此條約は日本にては大君の御名と奧印を署し孛漏生にては孛漏生國王の名と印とを調し江戶に於て取替すべし

此條約は申十二月より凡二十四箇月にして(卽西洋千八百六十三年一月一日)施行すべし

右取極として萬延元年申十二月十四日江戶に於て雙方委任の役人等名を記し調印するもの也

黑  川  左  中     花押


この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。