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陸軍軍法会議法

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陸軍軍法会議法

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第一編 軍法会議

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第一章 軍法会議の裁判権
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第一條 軍法会議は左に記載したる者に対し其の犯罪に付き裁判権を有す

  一 陸軍刑法第八條第一号乃至第三号、第四号後段、第五号及び第九條に記載したる者

  二 陸軍用船の船員

  三 前二号に記載したる者を除くの外陸軍部隊に属し又は従う者

  四 俘虜

  前代二号及び第三号に記載したる者中特に除外すべき者あるときは命令を以て之を定む

第二條 軍法会議は前條に記載したる者に対し其の身分発生前の犯罪に付き又裁判権を有す

  軍法会議は前條に記載したる者其の身分を喪失したるときと雖も身分継続中捜査の報告あり又は逮捕拘引若しくは拘留せられたるときは其の者に対し亦裁判権を有す

第三條 軍法会議陸軍刑法第八條第四号前段に記載したる者に対し其の犯したる陸軍刑法の罪に付裁判権を有す

  前條第二項の規定は前項に規定する犯罪に付き之を準用す

第四條 軍法会議合囲地境に在る第一條に記載したる以外の者に対し左の各号に規定する犯罪に付き裁判権を有す

  一 第十五條一号又は第二号に記載したる者と共に犯したる同一又は別個の罪

  二 陸軍刑法海軍刑法、軍機密保護法其の他軍事の必要に因り特に設けたる法令の罪

  犯人蔵匿の罪、証拠隠滅の罪、偽証の罪、虚偽鑑定通訳の罪及び贓物に関する罪は之を其の本犯と共に犯したるものと看做す

第五條 軍法会議戒厳令に定められたる特別裁判権を行う

第六條 軍法会議は戦時事変に際し軍の安寧を保持する為必要あるときは第一條に記載したる以外の者に対し犯罪に付き裁判権を行うことを得

第七條 第四條及び前條の規定は海軍軍法会議法第一條乃至第三條の規定に依り海軍軍法会議裁判権を有する犯罪に付きては之を適用せず但し被告人の所在海軍軍法会議の所在地と交通断絶したる場合に於いて

  は此の限りに在らず

第二章 軍法会議の管轄権
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第八條 軍法会議を設くること左の如し

  一 高等軍法会議

  二 師団軍法会議

  三 軍軍法会議

  四 独立師団軍法会議

  五 独立混成旅団軍法会議     

  六 兵站軍法会議

  七 合囲地軍法会議

  八 臨時軍法会議

第九條 高等軍法会議及び師団軍法会議は之を常設す

  軍軍法会議独立師団軍法会議独立混成旅団軍法会議及び兵站軍法会議は戦時事変に際し必要に因り之を特設す

  合囲地軍法会議は戒厳の宣告ありたるとき合囲地境に之を特設す

  臨時軍法会議は戦時事変に際し必要に因り特設又は分駐したる陸軍の部隊に之を特設す

第十條 高等軍法会議陸軍大臣を以て長官とす

  師団軍法会議は師団長を以て長官とす

  特設軍法会議軍法会議を設置したる部隊又は地域の司令官を以て長官とす

第十一條 高等軍法会議は左の事件に付管轄権を有す

  一 陸軍の将官、将官相当官、勅任文官及び勅任文官待遇者並び海軍の将官、勅任文官及び勅任文官待遇者に対する被告事件

  二 上告

  三 非常上告

第十二條 師団軍法会議は左事件に付管轄権を有す

  一 師団長の部下に属する者及び監督を受くる者に対する被告事件

  二 師管内に在る陸軍の部隊に属する者及び其の部隊の長の監督を受くる者に対する被告事件但し其の部隊に軍法会議を設けざる場合に限る

  三 師管内に在り又は師管内に於いて罪を犯したる第一條乃至第三條記載の者に対する被告事件

  但し被告人の所属部隊の軍法会議師管内に在らざる場合に限る

第十三條 軍軍法会議独立師団軍法会議又は独立混成旅団軍法会議は左の事件に付管轄権を有す

  一 軍、独立師団又は混成独立旅団の長の部下に属する者及び監督を受くる者に対する被告事件

  二 作戦地域に在る第一條乃至第三條記載の者に対する被告事件但し被告人の所属部隊に軍法会議其の地域に在らざる場合に限る

  三 作戦地域に在る第六條記載の者に対する被告事件

第十四條 兵站軍法会議は左の事件に付管轄権を有す

  一 兵站の長の部下に属する者及び監督を受くる者に対する被告事件

  二 兵站地域若しくは兵站の属する軍隊の作戦地域に在り又は此等の地域に於いて罪を犯したる第一條乃至第三條記載の者に対する被告事件但し被告人の所属する部隊の軍法会議此等の地域に在らざるときに限る

  三 兵站地域又は兵站の属する軍隊の作戦地域に在る第六條記載の者に対する被告事件

第十五條 合囲地軍法会議は左事件に付管轄権を有す

  一 合囲地司令官の部下に属する者及び監督を受くる者に対する被告事件

  二 合囲地境にあり又は合囲地境に於いて罪を犯したる第一條乃至第三條記載の者に対する被告事件

  三 第四條乃至第五條に定めたる裁判権に属する被告事件

第十六條 臨時軍法会議は左の事件に付管轄権を有す

  一 臨時軍法会議の設置せられたる部隊の長の部下に属する者及び監督を受くる者に対する被告事件

  二 臨時軍法会議の設置せられたる部隊の管轄地域若しくは守備地域に在り又は此等の地域に於いて罪を犯したる第一條乃至第三條の者に対する被告事件但し被告人の所属部隊の軍法会議此等の地域に在らざると

    きに限る

  三 臨時軍法会議の設置せられたる部隊の管轄地域又は守備地域にある第六條記載の者に対する被告事件

第十七條 第一條乃至第三條に記載したる者に対する被告事件に付管轄軍法会議なきときは被告人の現在地又は犯罪地の付近にある軍法会議之を管轄す

第十八條 管轄を異にする数個の事件牽連するときは一個の事件に付管轄権を有する軍法会議併せて他の事件を管轄することを得但し高等軍法会議の管轄に属する事件及び第四條乃至第六條に記載したる事件は牽連

  の事由により併せて之を管轄することを得

第十九條 軍法会議牽連事件に付公訴を受けたる場合に於いて併せて審判することを必要とせざるものあるときは高等軍法会議検察官の請求に依り決定を以て管轄権を有する他の軍法会議に之を移送することを得

第二十條 数個の軍法会議牽連事件に付各別に公訴を受けたるときは高等軍法会議検察官の求めに依り決定を以て之を一の軍法会議に併合することを得

第二十一條 高等軍法会議牽連事件に付公訴を受けたる場合に於いて併せて審判することを必要とせざるものあるときは検察官の請求に依り決定を以て管轄権を有する他の軍法会議に之を送付することを得

第二十二條 高等軍法会議及び他の軍法牽連事件に付き各別に公訴を受けたるときは高等軍法会議検察官の請求に依り決定を以て他の軍法会議の管轄に属する事件を併せて審判することを得

第二十三條 数個の事件は左の場合に於いて牽連するものとす

  一 一人数罪を犯したるとき

  二 数人共に同一又は別個の罪を犯したるとき

  三 数人通謀して各別に罪を犯したるとき

  四 数人同時に同一の場所に於いて各別に罪を犯したるとき

  犯人蔵匿の罪、証拠隠滅の罪、偽証の罪、虚偽の鑑定通訳の罪及び贓物に関する罪とその本犯の罪は共に犯したるものと看做す

第二十四條 数個の軍法会議同一事件に付公訴を受けたるときは第二十五條に規定したる場合ヲ除く外最初に公訴を受けたる軍法会議漏れを審判

  前項の場合に於いて高等軍法会議検察官の請求に依り決定を以て後に公訴を受けたる軍法会議をして其の事件を審判せしむることを得

第二十五條 高等軍法会議及び其の他の軍法会議同一事件に付公訴を受けたるときは高等軍法会議之を審判

  前項の場合に於いて高等軍法会議検察官の請求に依り決定を以て管轄権を有する他の軍法会議をして其の事件を審判せしむることを得

第二十六條 管轄は公訴提起後に於いては被告人の転属、失官其の他管轄を定る事由の変更により変更せらるることなし但し被告人第十一條第一号に記載したる身分を取得したる場合は此の限りの在らず

第二十七條 第十一條第一号に記載したる者被告人なる場合に於いて其の現在高等軍法会議の所在地と交通断絶したるとき又は其の所在地と著しく離隔し且審判急速を要するときは被告人の現在地又は其の付近にある

  軍法会議被告事件を管轄することを得

第二十八條 管轄軍法会議に於いて法律上の理由又は特別の事情に因り裁判権を行うこと能わざるときは高等軍法会議検察官の請求に因り管轄移転の決定を為すべし

第二十九條 軍法会議を廃したるときは陸軍大臣は後継軍法会議を指定すべし

第三十條 訴訟手続は管轄違いの理由により其の効力を失わず

第三章 軍法会議の職員
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第三十一條 軍法会議判士陸軍法務官、陸軍録事及び陸軍警査を置く

第三十二條 判士は陸軍の将校を以て之に充つ

第三十三條 将官を以て判士と為すときは陸軍大臣の奏請に因り之を命ず

  特設軍法会議に於いては長官又は其の直系の上官は急速を要する場合に限り将官中より判士を命ずることを得

第三十四條 佐官以下の将校を以て判士と為すときは長官之を命ず

  長官の部下に非ざる将校を以て判士とすることを要するときは陸軍大臣之を命ず特設軍法会議に於いては急速を要する場合に限り長官の直系上官は部下の将校中より之を命ずることを得

第三十五條 法務官終身官とし勅任又は奏任とす

第三十六條 法務官は在職中左の諸件を為すことを得ず

  一 公然政事に関すること

  二 政党の党員又は政社の社員と為ること

  三 帝国議会に議員又は道、府、懸、軍、師、区、長、村会の議員と為ること

  四 報酬ある公務に就くこと

  五 商業を営むこと

第三十七條 法務官は刑事裁判又は懲戒処分によるに非ざれば其の意に反して免官又は転官せらるることなし

第三十八條 法務官身体又は精神の衰弱により職務を執ること能わざるに至りたるときは陸軍大臣高等軍法会議総会に決議に依り之に退職を命ずることを得

第三十九條 陸軍大臣は左の場合に於いては法務官に現俸の半額を給して休職を命ずることを得

  一 懲戒により懲戒委員会の審査に付されたるとき

  二 刑事事件に関し起訴せられたるとき

  三 官制又は定員の改正により過員を生じたるとき

  四 戦時又は事変に際し臨時増員したる場合に於いては其の必要止み過員を生じたるとき

  五 病気のため執務せざること六月に至りたるとき

  休職の期間は前項第一号及び第二号の場合に於いては其の事件の係属中とし第三号乃至第五号の場合に於いては三年とす

第四十條 法務官前條第一項第三号乃至第五号の規定に依り休職を命ぜられ満期と為りたるときは退職とす

第四十一條 法務官の任用及び懲戒に関する規定は勅令を以て之を定む

第四十二條 録事は判任とす

第四十三條 警査は長官之を命ず

第四十四條 特設軍法会議に於いては長官は陸軍の准士官又は下士をして録事の職務を行わしめ陸軍の下士又は兵卒を以て警査の職務を行わしむることを得

第四十五條 合囲地軍法会議に於いては長官は合囲地境にある判任文官をして録事の職務を行わしむることを得

第四章 審判機関
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第四十六條 軍法会議審判を為すに付他の干渉を受くることなし

第四十七條 審判は裁判官五人を以て構成したる会議に於いて之を為す

  裁判官判士及び法務官を以て之に充て上席判士裁判長とする

  特設軍法会議に於いては上席判士及び法務官を除くの外裁判官二人を減ずることを得

第四十八條 裁判官は長官之を定む

第四十九條 師団軍法会議及び特設軍法会議に於いては判士四人及び法務官一人を以て裁判官とす

  前項の判士は左の区別に従う

  一 被告下士又は兵卒なるときは中佐又は少佐一人大尉一人、大尉、中尉又ハ少尉二人

  二 被告人中尉、少尉又は准士官なるときは中佐又は少佐一人大尉二人大尉又は中尉一人

  三 被告人大尉なるときは大佐又は中佐一人少佐二人大尉一人

  四 被告人少佐なるときは大佐一人中佐二人少佐一人

  五 被告人中佐なるときは少将一人大佐二人中佐一人

  六 被告人大佐なるときは中将一人少将二人大佐一人

  七 被告人将官なるときは被告人と同等以上の将官四人

  交通断絶したる地にある軍法会議に於いては被告人と同等以上の判士を以て裁判官と為すことを得

第五十條 合囲地軍法会議に於いては長官は陸軍の将校又は合囲地境にある高等文官をして法務官に代わり裁判官の職務を行わしむることを得

第五十一條 高等軍法会議に於いては判士三人及び法務官二人を以て裁判官とす

  前項の判士は左の区別に従う

  一 被告人下士又は兵卒なるときは佐官一人大尉二人

  二 被告人中尉、少尉又は准士官なるときは大佐又は中佐一人少佐一人大尉一人

  三 被告人大尉なるときは大佐一人中佐一人少佐一人

  四 被告人少佐なるときは大佐一人中佐二人

  五 被告人中佐なるときは少将一人大佐二人

  六 被告人大佐なるときは中将一人少将二人

  七 被告人少将なるときは大将又は中将一人中将又は少将一人少将一人

  八 被告人中将なるときは大将一人大将又は中将一人中将一人

  九 被告人大将なるときは大将三人

第五十二條 被告人官等又は等級を有せざる士官の候補者にして士官の勤務に服する者なるときは少尉に準じ士官の勤務に服せざる者なるときは下士に準じ判士を区別す

  被告人准士官又は下士たる士官の候補者にして士官の勤務に服する者なるときは少尉に準じ判士を区別す

第五十三條 被告人将校相当官、軍属、海軍軍人又は海軍軍属なるときは其の官等、等級又は階級に従い将校、准士官又は兵卒に準じ判士を区別す

第五十四條 被告人第四十九條及び第五十一條乃至五十三條に記載したる者に非ざるときは下士又は兵卒に準じ判士を区別す

  前項の場合に於いて長官は事情に因り判士の区別を変更することを得

第五十五條 被告人俘虜なるときは第四十九條及び第五十一條乃至前條の規定に準じ判士を区別す

第五十六條 二個以上の異なる官等、等級又は階級を有する被告人に付いては其の最高き官等、等級又は階級に従い判士を区別す

第五十七條 官等、等級又は階級を異にする共同被告人に付いては其の官等、等級真野は階級の最高き者に従い判士を区別す

第五十八條 判士の区別は被告人の身分に移動あるも官等、等級又は階級の高き身分を取得したる場合を除くの外変更せらるることなし

第五十九條 上告非常上告又は再審を為す場合の判士の区別は原軍法会議裁判官を定めたる当時の被告人の身分に従う但し被告に官等、等級又は階級の高き身分を取得したる場合は此の限りに在らず

  前項の来ては第百七十三條第三項、第四百十五條、第四百十六條、第四百三十六條又は第五百三十條の決定を為す場合の判士区別を準用す

第六十條 上告非常上告又は再審の審判を為す場合に於いては裁判長の官等は原軍法会議裁判長より下ることを得ず

第五章 予審機関
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第六十一條 予審予審官之を行う

第六十二條 予審官法務官中より長官之を命ず

第六十三條 特設軍法会議に於いては長官は陸軍の将校をして予審官の職務を行わしむることを得

第六十四條 合囲地軍法会議に於いては長官は合囲地境に在る高等文官をして予審官の職を行わしむることを得

第六章 検察機関
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第六十五條 陸軍大臣は公訴及び捜査を指揮監督す

第六十六條 長官は所管軍法会議の管轄に属する事件に付公訴を指揮す

第六十七條 検察官は長官に隷属し捜査を為し公訴を行う

第六十八條 検察官法務官中より長官之を命ず

第六十九條 長官は法務官試補をして検察官の職務を行わしむることを得

第七十條 特設軍法会議に於いては長官は陸軍の将校をして検察官の職務を行わしむることを得

第七十一條 合囲地軍法会議に於いては長官は合囲地境に在る高等文官をして検察官の職務を行わすむることを得

第七十二條 検察官陸軍司法警察官又は司法警察官をして捜査の補佐を為さしむることを得

第七十三條 憲兵の将校、准士官又は下士は陸軍司法警察として捜査を為す

  陸軍大臣は所管の大臣と協議して警察官中より陸軍司法警察官として勤務する者を指定することを得

第七十四條 左に記載したる部隊の長は其の部下に属する者及び監督を受くる者の犯罪に付き陸軍司法警察官の職務を行う

  一 中隊以上の軍隊及び之に準ずべき軍隊

  二 官衙、学校、特務機関及び戦時に於ける特設機関

  臨時集成部隊の長は其の部隊本属部隊の所在地と遠隔の地にある場合に限り前項の規定に準じ陸軍司法警察官の職務を行う

第七十五條 前條に記載したる部隊の長は部下の将校に委任して特定の事件に付陸軍司法警察官の職務を行わしむることを得

第七十六條 陸軍司法警察官陸軍司法警察官の職務を行う者は捜査を為すに付上官の命令に従う

第七十七條 警査又は憲兵卒は検察官又は陸軍司法警察官の命令を受け陸軍司法警察吏として捜査の補助を為す

  第七十三條第二項の規定に依り指定せられたる警察官の部下に属する巡査又前項に同じ

第七十八條 検察官は司法警察吏をして捜査の補助を為さしむることを得

第七十九條 陸軍司法警察官の職務を行う者は其の部下をして捜査の補助を為さしむることを得

第二編 訴訟手続

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第一章 総則
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第一節 裁判官除斥及び回避
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第八十條 長官は除斥の原由其の他正当の事由ありと認るときは裁判官を変更すべし

第八十一條 裁判官の執行より除斥せらるべき場合左ノ如し    

  一 裁判官被害者なるとき

  二 裁判官被告人又は被害者の配偶者、四等親内の血族、三等親内の姻族又は同居の戸主若しくは家族なるとき

  三 裁判官被告人又は被害者の法定代理人、後見監督人又は補佐人なるとき

  四 裁判官事件に付証人又は鑑定人となりたるとき

  五 裁判官事件に付被告人の代理人、弁護人又は補佐人となりたるとき

  六 裁判官事件に付長官又は検察官の職務を行いたるとき

  七 裁判官事件に付捜査、予審又は前審に干与したるとき

第八十二條 検察官又は被告人は除斥の原由其の他裁判官を変更すべき正当の事由ありと思慮するときは其の旨を長官に具申することを得

第八十三條 長官前條の具申を受けたるときは其の旨軍法会議に通知すべし

  軍法会議前條の通知を受けたるときは裁判官の変更に関し通知を受くる迄訴訟手続を停止すべし但し急速を要する場合は此の限りに在らず

第八十四條 裁判官除斥の原由其の他回避すべき正当の事由あると思慮するときはその旨を長官に具申すべし

第八十五條 前五條の規定は予審官及び録事に之を準用す

第八十六條 特設軍法会議に於いては本節の規定に依らざることを得

第二節 弁護及び補佐
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第八十七條 被告人は公訴の提起ありたる後何時にても弁護人を選定することを得

  被告人の法定代理人、補佐人又は夫は独立して弁護人を選任することを得

第八十八條 弁護人は左に記載したる者より之を選任すべし

  一 陸軍の将校又は将校相当官

  二 陸軍高等文官又は同試補

  三 陸軍大臣の指定したる弁護士

第八十九條 弁護人の選任は審級毎に之を為すべし

  弁護人の選任は弁護人と連署したる書面を以て之を為す

第九十條 弁護人の数は被告人一人に付き二人を超ゆることを得ず

第九十一條 弁護人は軍法会議に於いて被告事件に関する書類及び証拠物を閲覧し且其の書類を謄写することを得

第九十二條 弁護人は別段の規定ある場合に限り独立して訴訟行為を為すことを得  

第九十三條 前六條の規定は特設軍法会議に付いては之を適用せず

第九十四條 被告人の法定代理人、補佐人又は夫は公訴の提起ありたる後何時にても補佐人と為ることを得

  補佐人たらしむるときは審級毎に書面を以て其の旨届出ずべし

  補佐人は独立して被告人の為すことを得べき訴訟行為を為すことを得但し別段の規定ある場合は此の限りに有らず

第三節 裁判
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第九十五條 裁判は定数の裁判官評議をして之を為す但し別段の規定ある場合は此の限りに在らず

第九十六條 裁判官の評議は之を公行せず但し法務官試補の傍聴を許すことを得

  裁判官の評議は裁判官之を開き且之を整理す其の評議の顛末及び各裁判官の意見は秘密とす

第九十七條 裁判官意見を述ぶるの順序は法務官を始めとする法務官二人なるときは席次の低き者を始めとす其の他の裁判官にありては席次の最低き者を始めとし裁判長を終わりとす

第九十八條 裁判は過半数の意見による

  裁判官の意見三説以上に別れ各過半数に至らざるときは過半数に至る迄被告人に不利なる意見より順次利益なる意見に合算す

第九十九條 裁判官は裁判すべき事項に付自己の意見を表すことを拒むことを得

第百條 判決は口頭弁論に基づき之を為すべし但し別段の規定ある場合は此の限りに在らず

  決定は公判廷に於いては訴訟関係人の陳述を聴き之を為すべし其の他の場合に於いては訴訟関係人の陳述を聴かずして之を為すことを得但し別段の規定ある場合は此の限りに在らず

  命令は訴訟関係人の陳述を聴かずして之を為すことを得

  決定又は命令を為すに付必要ある場合に於いては事実の取調を為すことを得

第百一條 裁判には理由を付すべし但し決定又は命令には理由を付せざることを得

  刑の言い渡しを為すには罪となるべき事実及び其の事実を認めたる理由並び法令の適用を示すべし

第百二條 裁判の告知は公判廷に於いては宣告により之を為し其の他の場合に於いては裁判書の謄本の送付により之を為すべし但し別段の規定ある場合は此の限りに在らず


第百三條 裁判の告知は裁判長之を為すべし

  判決の宣告を為すには主文及び理由を朗読し又は主文朗読と同時に理由の要旨を告ぐべし

第百四條 検察官の執行指揮を要する裁判を為したるときは速やかに裁判書又は裁判を記載したる調書の謄本又は抄本を検察官に送付すべし

第百五條 裁判書又は裁判を記したる調書の謄本又は抄本は被告人其の他訴訟関係人の請求に依り之を交付す

  前項の場合には其の費用を徴すことを得

第四節 書類
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第百六條 訴訟に関する別段の規定ある場合を除くの外録事之を調整すべし

第百七條 裁判官予審官は又検察官録事の作りたる書類に付意見あるときは録事に命じ之を変更せしむることを得

  前項の場合に於いては自己の意見を書類に付記することを得

第百八條 被告人、証人、鑑定人、通事又は翻訳人の取調に付きては調書を作るべし

  調書には左の事項を記載すべし

  一 被告人、証人、鑑定人、通事又は翻訳人に対する訊問及び其の供述

  二 証人、鑑定人、通事又は翻訳人宣誓をなさざるときは其の事由

  調書は録事をして之を供述者に読聞かさしめ又は供述者をして之を閲覧せしめ其の記載の相違なきか否かを問うべし

  供述者増減変更を申し立てたるときは其の供述に記載すべし

  調書には供述者をして署名捺印せしむべし

第百九條 検証、押収又は捜査に付いては調書を作るべし

  押収したるときは其の品目を調書に記載し又は別に目録を作り之を調書に添付すべし

第百十條 前二條の調書には取調又は処分を為したる年月日及び場所を記載し其の取調又は処分を為したる者録事と共に署名捺印すべし但し公判期日以外に於いて軍法会議取調又は処分を為したるときは裁判官たる法

  務官録事と共に署名捺印するを以て足る

  前條の調書には取調又は処分を為したる時をも記載すべし

第百十一條 録事の立合なくして取調又は処分を為す場合に於いては録事の行うべき職務は其の取調又は処分を為す者之を行うべし

第百十二條 公判期日に於ける訴訟手続については公判調書を作るべし

  一 公判を為したる軍法会議及び年月日

  二 裁判官検察官及び録事の官氏名並び被告人、代理人、弁護人、補佐人及び通事の氏名

  三 被告人出頭せざりしときは其の旨

  四 弁論の公開を禁じたるときは其の旨及び理由

  五 被告事件の陳述の他弁論の要旨

  六 第百八條第二項に記載したる事項

  七 朗読したる書類及び要旨を告げたる書類

  八 被告人に示したる証拠物

  九 公判廷に於いて為したる検証及び押収

  十 裁判長より記載命令をしたる事項及び訴訟関係人の請求に因り記載を許されたる事項

  十一 弁論の最終に被告人又は弁護人をして陳述を為さしめたること

  十二 判決其の他の裁判を為したること

第百十三條 公判調書に付いては第百八條第三項乃至第五項の規定に依る手続を為すことを要せず

第百十四條 公判調書は公判廷の日より五日以内に之を整理すべし

第百十五條 公判調書には裁判官たる法務官録事と共に署名捺印すべし

  法務官二人なるときは上席者署名捺印し上席者差し支えあるときは他の法務官署名捺印すべし

  法務官差し支えあるときは裁判長其の事由を付記して署名捺印すべし

  録事差し支えあるときは前参考の規定に依り署名捺印する者其の事由を付記して証明捺印すべし

第百十六條 公判期日に於ける訴訟手続は公判調書のみにより之を証明することを得

第百十七條 裁判を為すときは裁判書を作るべし但し決定又は命令を宣告する場合に於いては裁判書を作らずして之を調書に記載せしむることを得

第百十八條 裁判書裁判官之を作るべし

第百十九條 裁判書には裁判官署名捺印すべし裁判長署名捺印すること能わざるときは上席の裁判官其の事由を付記して署名捺印し他の裁判官署名捺印すること能わざるときは裁判長其の事由を付記して署名捺印すべ

  し

第百二十條 裁判書には別段の規定ある場合を除く外裁判を受く者の氏名、年齢、職業及び住居を記載すべし

  判決書には前項に記載したる事項の外公判に干与したる検察官の官氏名を記載すべし

第百二十一條 裁判書又は裁判を記載したる調書の謄本又は抄本は原本又は謄本に依り之を作るべし

第百二十二條 前四條の規定は予審官裁判を為す場合に之を準用す

第百二十三條 官吏又は公吏の作るべき書類には別段の規定ある場合を除く外年月日を記載して署名捺印其の所属官署又は公署を表示すべし

  書類には毎葉に契印すべし

第百二十四條 官吏又は公吏書類を作るには文字の改竄すべからず挿入、削除又は欄外記入を為したる時は之に認印し其の字数を記載すべし削除したる部分は読み得べき為字体を存ずべし

第百二十五條 官吏及び公吏に非ざる者の作りたる書類には年月日を記載し署名捺印すべし  

第百二十六條 官吏及び公吏に非ざる者の署名捺印すべき場合に於いて署名すること能わざるときは他人をして代署せしめ捺印すること能わざるときは花押又は拇印すべし

  他人をした代署せしめたる場合に於いては代署したる者其の事由を記載して署名捺印すべし

第百二十七條 特設軍法会議に於いて審判すべき事件の書類に付いては本節の規定に依らざることを得

第五節 送達
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第百二十八條 送達は録事送達吏をして之を為さしむ但し陸軍司法警察官の発する書類の送達は其の書類を作りたる者之を為さしむ

  送達吏は陸軍司法警察吏を以て之に充つ

第百二十九條 送達は郵便により之を為すことを得此の場合に於いて郵便配達人を送達吏と為す

第百三十條 送達は之を施行すべき地を管轄する区裁判所の書記又ハ之に相当する官署に嘱託して之を為すことを得

第百三十一條 兵営其の他軍事用の庁舎又は艦船の内にある者に対する送達は庁舎若しくは艦船の長又は之に代わるべき者に嘱託して之を為す

  第一條又は海軍軍法会議法第一條に記載したる者にして前項に記載したる以外の場所にある者に対する送達は其の所属の長若しくは監督者又は之に代わるべき者に嘱託して之を為すことを得

  前二項の規定に依る送達は書類を本人に交付したる旨の証書を以て之を証す

第百三十二條 第一條及び海軍軍法会議法第一條に記載したる以外の者被告人、代理人、弁護人又は補佐人となりたるときは書類の送達を受くる為書面を以て其の住所又は事務所を軍法会議に届出ずるべし軍法会議

  在地に住居及び事務所を有せざるときは其の所在地に住居又は事務所を有スル者を送達受取人に選任し其の旨送達受取人の住居又は事務所を其の者と共に書面を以て届出ずべし

  前項の規定は在監者に付之を適用せず

  送達受取人は送達を受くべき本人と看做し送達受取人の住居又は事務所は本人の住居又は事務所と看做

第百三十三條 前條第一項の規定に依る届出を為すべき者其の届出を為さざるときは交付すべき書類を郵便にて送達を為すことを得

  前條の送達は書類を郵便に付したる時を以て之を為したるものと看做

第百三十四條 検察官に対する送達は書類を其の所属官庁に送付して之をなす

第百三十五條 被告人の現在地知れざるときは公示送達を為すことを得

  被告人裁判権の及ばざる場所に在る為他の方法を以て送達を為すこと能わざるとき亦前項に同じ

第百三十六條 公示送達は軍法会議の指揮ありたるときに限り之を為すことを得

  公示送達は交付すべき書類又は其の抄本を軍法会議の掲示場に公示して之を為す

  公判に於ける第一回の召喚状の公示送達は召喚状を軍法会議の掲示場に公示し且其の謄本を官報又は新聞紙に掲載して之を為す

  前項の公示送達は最後に官報又は新聞紙に掲載したる時より三十日其の他の公示送達は掲示場に公示したる時より七日の期間を経過するに因りて其の効力を生ず

第百三十七條 送達については別段の規定ある場合を除くの外民事訴訟法を準用す

第六節 期間
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第百三十八條 期間を計算するに時を以てするものは即時より之を起算し日、月又は年を以てするものは初日を算入せず但し時効期間の初日は時間を論ぜず一日として之を計算す

  月及び年は歴に従いて之を計算す

  期間の末日日曜日、一月一日、二月四日、十二月二十九日三十日三十一日、一般の休日として指定せられたる大祭日若しくは祝日は又は陸軍一般の休日に当たるときは之を期間に算入せず但し時効期間に付いては

  此の限りの在らず

第百三十九條 法定の期間は公訴行為を為すべき者の住居地と軍法会議所在地との距離に従い海路二十里毎に一日を加う二十里に満たざるも五里以上なるとき亦同じ但し海路は二海里を一里として之を計算す

  外国又は交通不便の地にある者の為には特に期間を定むることを得

第七節 被告人の召喚拘引及び拘留
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第百四十條 軍法会議公訴を受けたるときは被告人を召喚すべし

第百四十一條 被告人の召喚状を発して之を為すべし

  被告人期日に出頭すべき旨を記載したる書面を差出し又は出廷したる被告人に対し口頭を以て次回の出頭を命じたるときは召喚状を発送したると同一の効力を有す口頭を以て出頭を命じたる場合に於いては其の旨

  を調書に記載すべし

  兵営の外軍用庁舎又は艦船の内にある被告人の召喚は庁舎若しくは艦船の長又は之に代わるべき者に通知して之を為すことを得此の場合に於いては被告人庁舎若しくは艦船の長又は之に代える者より通知を受けた

  る時を以て召喚状の送達ありたりと看做

  前項の規定は軍法会議に近接する監獄に在る被告人を召喚する場合に之を準用す

第百四十二條 召喚を受けたる被告人期日に出頭せざる時は更に之を召喚し又ハ之を拘引することを得

第百四十三條 右の場合は直ちに被告人を拘引することを得

  一 軍紀を保持する為必要あるとき

  二 被告人逃走したるとき又は逃走する虞あるとき

  三 被告人罪証を隠滅する虞あるとき

  四 被告人定まりたる住居を有せざるとき

第百四十四條 被告人を拘引拘引状を発して之を為すべし

第百四十五條 拘引したる被告人は軍法会議に引致したる時より四十八時間以内に之を訊問すべし

  其の時間内に勾留状を発せざる時は被告人を釈放すべし

第百四十六條 第百四十三條に記載したる事由あるときは被告人を勾留することを得但し被告人監獄に在るときは其の事由なしと雖も之を拘引することを得

  前項の規定は五百円を超過せざる罰金、拘留又は過料に該るべき事件に付いては第百四十三情第四号の場合を除くの外之を適用せず

  被告人の勾留は訊問したる後に非ざれば之を為すことを得ず但し第百四十三情第一号の場合及び被告人逃走したる場合は此の限りに在らず

第百四十七号 被告人の勾留勾留状を発して之を行うべし

第百四十八條 裁判長は急速を要する場合に於いては第百四十條乃至前條の規定に依る処分をなし又は受命裁判官をして之を為さしむることを得

第百四十九條 裁判長は被告人現在地の予審官陸軍司法警察官、予審判事、区裁判所判事、検事、司法警察官又は法令に依り特別に裁判権を有する官署に被告人の拘引を嘱託することを得

  受託官署は更に受託の権限ある官署に転嘱することを得但し陸軍司法警察官及び司法警察官は此の限りに在らず

  受託官署受託事項に付権限を有せざるときは受託権限のある官署に委託を移送することを得但し陸軍司法警察官及び司法警察官は此の限りに在らず

  嘱託又は移送を受けたる官署は拘引状を発すべし

第百五十條 被告人の現在地を覚知すること能わざるときは裁判長は検事長又は之に相当する官署に被告人の人相書きを送付し其の捜査及び拘引を委託することを得

  委託を受けたる官署は其の管轄区域内の検事又は相当官署をして拘引状を発し捜査及び拘引の手続を為さしむべし

第百五十一條 前二項の場合に於いて嘱託により拘引状を発しタル官署は被告人を引致したる時より四十八時間以内にその人違いなきか否かを取りしたぶべし

  被告人人違いに非ざるときは速やかに之を指定せられたる軍法会議に送致すべし此の場合に於いては第百四十五條の期間は被告人の送致を受けたる時より之を起算す

第百五十二條 召喚状、拘引状又は勾留状には被告事件並び被告人の氏名住居を記載し裁判長又は受命裁判官之に記名捺印すべし

  勾引状又は勾留状を発する場合に於いて被告人の住居分明ならざるときは之を記載することを要せず其の氏名分明ならざるときは容姿、体格其の他の徴表を以て被告人を指示すべし

  召喚状には被告人の出頭すべき年月日時及び場所並び召喚に応ぜざるときは勾引状を発することあるべき旨記載すべし

  拘引状には被告人を勾留すべき監獄を指定すべし

  第百四十八條の規定に依り召喚状、拘引状又は勾留状を発する場合に於いては其の旨記載すべし

第百五十三條 前條第一項及び第二項の規定は第百四十九情第四項の規定に依り予審官検察官又は陸軍司法警察官の発する拘引状に之を準用す此の場合に於いては勾引状に嘱託を為したる裁判長の氏名及び其の

  嘱託により之を発する旨を記載すべし

第百五十四條 召喚状は之を送達す

第百五十五條 拘引状又は勾留状検察官の指揮に依り陸軍司法警察官吏之を執行す但し急速を要する場合に於いては裁判長、受命裁判官又は予審官其の執行を指揮することを得

  監獄に在る被告人に対して発したる勾留状は監獄管理之を執行す

  拘引状又は勾留状は必要あるときは司法警察官吏をして之を執行せしむることを得

  特設軍法会議に於いては陸軍下士卒を以て勾引状又は勾留状を執行せしむることを得

第百五十七條 勾引状は数通を作り之を陸軍司法警察官吏、陸軍下士卒又は司法警察官吏数人に交付することを得

第百五十八條 勾引状を執行するには之を被告人に示して指定せられたる軍法会議に引致すべし

  第百四十九條第四項及び第百五十條第二項の場合に於いては勾引状を発行したる官署に引致すべし

  勾留状を執行するには之を被告人に示して指定せられたる監獄に引致すべし 

第百五十九條 兵営其の他軍用の庁舎又は艦船内に在る者に対し勾引状又は勾留状を執行すべき場合に於いては庁舎又は艦船の長又は之に代わるべき者に勾引状又は勾留状を示して引渡を求むべし

  軍用の庁舎又は艦船の外に在りて現に陸海軍の勤務に従事する者に対し拘引状又は勾留状を執行すべき場合に於いては其の所属の長又は之に代わるべき者に勾引状又は勾留状を示して引渡を求むべし

第百六十条 軍法会議は必要あるときは決定を以て指定の場所に被告人の出頭又は同行を命ずることを得被告人正当の事由なくして之を肯せざるときは其の場所に拘引することを得

第百六十一條 勾引状又は勾留状の執行を受けたる被告人を護送する場合に於いて必要あるときは仮に最寄りの監獄に留置することを得

第百六十二條 勾引状の執行を受けたる被告人を引致したる場合に於いて必要あるときは之を監獄に留置することを得

第百六十三條 勾引状又は勾留状を執行したるときは之に執行場所及び年月日時を記載し之を執行すること能わざるときは其の事由を記し氏名捺印をすべし

  勾引状又は勾留状の執行に関する書類は之を検察官又は執行を指揮したる官署に差し出すべし

  勾引状の執行に関する書類受け取りたる検察官其の他の官署は被告人引致せられたる年月日時を勾引状に記載すべし

第百六十四條 検察官拘留せられたる被告人を他の監獄に移すことを得

第百六十五條 拘留せられたる被告人は法令の範囲内に於いて他人と接見し又は書類若しくは物の授受を為す事を得拘引状態により監獄に留置せられたる被告人亦同じ

第百六十六條 軍法会議は罪証を隠滅し、逃走し又は軍事上の機密を漏洩する所あるときは拘留せられたる被告人と他人との接見を禁止し又は他人と接受すべき物を査閲し又は其の授受を禁止し又は之を差し押うるこ

  とを得

  軍法会議書類又は物の査閲を為すこと能わざるときは検査官之を為す事を得

第百六十七條 拘留の原由消滅したるときは軍法会議検察官の意見を聴き決定を以て拘留を取り消すべし

第百六十八條 拘留せられたる被告人第一條第一項第一号、第四号及び海軍軍法会議第一條第一甲第一号、第四号に記載したる以外の者なるときは被告人又は其の法定代理人、補佐人若しくは夫は保釈の請求を為す

  事を得

第百六十九條 保釈の請求ありたるときは軍法会議検察官の意見を聴き決定を為すべし

  保釈を許す場合に於いては補償金額を定むべし

  保釈を許す場合に於いては被告人の住居を制限することを得

第百七十條 保釈を許す決定は保障金を差し出したる後之を執行すべし

  検察官は保護請求者に非ざる者をして保障金を差し出さしむることを得

  検察官は有価証券又は軍法会議の所在地に住居し保障金を収るに十分な資産を有する者の保証書を以て保障金に代うることを許すことを得

  前項の保証書には補償金額及び何時にても保障金を収べき旨を記載すべし

第百七十一條 軍法会議検察官の意見を聴き決定を以て拘留せられたる被告人を責付することを得

  責付は被告人営内居住者なるときは其の所属部隊の長に之を為し営内居住者に在らざる時は親族其の他の者に之を為すべし

  営内居住者に非ざる者を責付するには親族其の他の者より何時にても召喚に応じ被告人を出頭せしむるべき旨の書面を差し出さしむべし

第百七十二條 被告人営内居住者に非ざるときは軍法会議検察官の意見を聴き決定を以て住居を制限して勾留の執行を停止することを得

第百七十三條 軍法会議検察官の意見を聴き何時にても決定を以て保釈、責付又は拘留の執行を取り消すことを得

  保釈中被告人召喚を受け正当の理由なくして出頭せず、住居の制限に違反し又は逃走したる為保釈を取り消す場合に於いては軍法会議検察官の意見を聴き決定を以て保障金の全部又は一部を没収すべし

  保釈せられたる者刑の言い渡しを受け其の判決確定したる後執行のため召喚を受け正当の事由なくして出頭せず又は逃走したるときは軍法会議検察官の請求に依り決定を以て保障金の全部又は一部を没収すべし

第百七十四條 拘留若しくは保釈を取消又は拘留の効力消滅したるときは検察官は没収に係わらざる保障金を還付すべし

第百七十五條 上告提起期間内又は上告中の事件に付拘留を取消保釈、責付若しくは執行停止を為し又は之を取り消すべき場合に於いては原軍法会議其の決定を為すべし  

第百七十六條 予審官は被告人の召喚拘引及び拘留に関し軍法会議又は裁判長と同一の権を有す

第百七十七條 左の場合に於いて被告事件急速の処分を要し軍法会議又は予審官拘引状を求むること能わざるときは検察官又は陸軍司法警察官拘引状を発することを得

  一 軍紀を保持するため必要あるとき

  二 現行犯の被告人其の場所に在らざるとき

  三 現行犯の取調により其の事件の共犯を発見したるとき

  四 屍体の検証に因り其の事件の被告人を発見したるとき

  五 既決の囚人又は法令に依り拘禁せられたる被告人逃走したるとき

  六 被告人強盗又は窃盗の罪を犯したるものなるとき

  七 被告人定まりたる住居を有せざるとき

  前項の規定に依り勾引状を発することを得る場合に於いては検察官は之を他の検察官陸軍司法警察官又は司法警察官に嘱託し陸軍司法警察官は之を他の陸軍司法警察官又は司法警察官に命令し又は嘱託するこ

  とを得

第百七十八條 検察官陸軍司法警察官吏又は司法警察官吏其の職務を行うに当たり現行犯あることを知りたる場合に於いて被告人其の場所にありて住居若しくは氏名分明ならざるとき又は第百四十三條に記載したる

  事由あるときは左の処分を為すべし

  一検察官陸軍司法警察官又は司法警察官は直ちに被告を逮捕すべし又は其の逮捕陸軍司法警察吏又は司法警察吏に命ずべし

  二 陸軍司法警察吏又は司法警察吏は命令を待たずして直ちに被告を逮捕すべし

第百七十九條 現行犯の被告人其の場所に在るときは何人と雖も之を逮捕することを得

  被告人を逮捕したるときは速やかに之を検察官陸軍司法警察官吏又は司法警察官吏に引き渡すべし

第百八十條 陸軍司法警察吏又は司法警察吏被告人を逮捕し又は之を受け取りたるときは速やかに之を検察官陸軍司法警察官又は司法警察官に引致すべし

  陸軍司法警察吏又は司法警察吏被告人を受け取りたる場合に於いては逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由を聴き取るべし必要あるときは逮捕者に対し共に官署に到ることを求むることを得

第百八十一條 司法警察官被告を逮捕し又は之を受け取りたるときは速やかに訊問し留置の必要なしと思慮することは直ちに釈放すべし留置の必要ありと思慮するときは速やかに書類及び証拠物と共に被告人を検察官

  又は陸軍司法警察官に送致する手続を為すべし

第百八十二條 陸軍司法警察官被告を逮捕し又は之を受け取りたるときは速やかに訊問し留置の必要なしと思慮するときは直ちに釈放すべし留置の必要ありと思慮するときは遅くとも三日内に書類及ぶ証拠物と共に被

  告人を管轄軍法会議検察官又は相当官署に送致する手続を為すべし

第百八十三條 検察官被告人を逮捕し又は之を受け取りたるときは遅くとも二十四時間内に訊問し留置の必要なしと思慮するときは直ちに釈放すべし被告事件急速を要し軍法会議又は予審官勾留状を求むる能わざる

  場合に於いて留置の必要ありと思慮するときは勾留状を発すべし但し五百圓を超過せざる罰金、拘留又は過料に該るべき事件に付きては第百七十七條第一項第七號の場合を除くの外勾留状を発することを得ず

  検察官勾留状を発したるときは速やかに長官に捜査の報告を為し又は書類及び証拠物と共に被告人を管轄軍法会議検察官若しくは相当官署に送致する手続を為すべし

  検察官他の検察官より被告人を受け取りたるときは前二項の規定に準じ処分すべし但し留置の必要なしと思慮するときは拘留を取り消すべし

第百八十四條 現に罪を行い又は現に罪を行い終わりたる際に発覚したる者を現行犯とす

  凶器贓物其の他のものを所持し、誰何せられて逃走し、判任として追呼せられ又は身体被服に顕著なる犯罪の痕跡ありて犯人と思慮すべき場合は現行犯の被告人其の場所に在りたるものと看做

第百八十五條 第百七十七條以下の場合に於ける拘引又は拘留に付いては第百五十一条乃至第百五十三条及び第百五十五条乃至第百六十四條の規定を準用す

第八節 被告人訊問
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第百八十六條 被告人に対しては先ずその人違いなきことを確かむるに足るべき事項を訊問すべし

第百八十七條 被告人に対しては被告事件を告げ其の事件に付陳述すべきことありや否やを問い其の利益と為るべき事実を陳述する機会を与うべし

第百八十八條 被告人に対して訊問を為すときは録事をして立ち会わしむべし但し検察官陸軍司法警察官又は司法警察官訊問を為す場合は此の限りに在らず

第百八十九條 事実発見あるときは被告人と他の被告人又は証人と対質せしむることを得

第百九十條 被告人聾なるときは書面を以て問い唖為るときは書面を以て答えしむることを得

第九節 押収及び捜査
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第百九十一條 軍法会議は別段の規定ある場合を除くの外証拠物又は没収すべき物と思慮するものは之を差し押うべし

  軍法会議は差し抑うべき物を指定し所有者、所持者又は保管者に其の物の提出を命ずることを得

第百九十二條 軍法会議は被告人より発し又は被告人に対して発したる郵便物又は電報其の頼信紙にして通信事務を取り扱う官署其の他のもの保管又は所持するものを差押え又は之を提出せしむることを得

  前項に記載したる以外の郵便物又は電報及び其の頼信紙にして通信事務を取り扱う官署其の他の者の保管又は所持するものは被告事件に関係ありと思慮するに足るべき状況在るものに限り之を差押又は之を提出せ

  しむることを得

  前二項の規定に依る処分を為したるときは之を発信人に通知すべし但し通知によりて審理を妨ぐる虞ある場合は此の限りに在らず

第百九十三條 軍法会議は被告其の他の者の遺留したる物又は所有者、所有者若しくは保管者に於いて任意に提出したる物を領置することを得

第百九十四條 軍法会議は必要あるときは被告人の身体、物又ハ住居其の他の場所に付捜索を為すことを得

  被告人に非ざる者の身体、物又は住居其の他の場所に付いては押収すべき物の存在を認知するに足るべき状況にある場合に限り捜索を為すことを得

第百九十五條 押収又は捜索に付いては鎖錀又は封緘の開披其の他必要なる処分を為すことを得押収物に付亦同じ

第百九十六條 軍事上秘密を要する場所に於いては其の長又は之に代わるべき者の承諾あるに非ざれば押収又は捜索を為すことを得ず

第百九十七條 公務員又は公務員たりし者の保管又は所持する物に付本人又は当該公務所より職務上秘密に関するものなることを申し立つるときは当該監督官庁の承諾あるに非ざれば押収を為すことを得ず但し当該監

  督官庁は帝国の安寧を害する場合を除くの外承諾を拒むことを得ず

  国務大臣、内務大臣、内大臣樞密院議長枢密院副議長枢密院顧問官会計検査院長元帥参謀総長海軍軍令部長教育総監若しくは軍事参議官又は此等の職にありし者其の保管又は所持する物に付前項

  の申立を為すときは勅許を得ざるに非ざれば押収することを得ず

第百九十八條 医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、公証人、宗教若しくは祭祀の職に在る者又は此等の職に在りし者は業務上委託を受けたる為所持する物にして他人の秘密に関する物に付押収

  を拒むことを得但し本人承諾したるときは此の限りに在らず

第百九十九條 軍法会議は押収すべき物又は捜索すべき場所、身体若しくは指定したる命令状を発し陸軍司法警察官又は司法警察官をして押収又は捜索を為さしむることを得

  命令状には押収又は捜索を為すべき事由を記載し裁判長之に記名捺印すべし

  命令状は処分を受くる者の請求あるときは之を示すべし

第二百條 陸軍司法警察官又は司法警察官前条第一項の規定に依り押収又は捜索を為すに当たり其の被告事件に関する他の証拠物を発見したるときは之を押収することを得

第二百一條 陸軍司法警察官又は司法警察官前二条の規定に依り押収又は捜索を為したる時は検察官を経て之に関する書類及び押収物を軍法会議に差し出すべし

第二百二條 軍法会議押収又は捜索を為すに当たり他の犯罪に関する顕著なる証拠物を発見したるときは仮に之を押収して検察官に送付することを得

  検察官前項の規定に依り押収したる物を留置する必要なしと思慮するときは之を還付すべし

第二百三條 押収又は捜索は受命裁判をして之を為さしめ又は処分を為すべき地の予審官、予審判事、区裁判所判事又は法令に依り特別に裁判権を有する官署に之を嘱託することを得

  受託官署は受託権限ある官署に転嘱することを得

  受託官署受託事項に付権限を有せざるときは受託権限ある官署に嘱託を移送することを得

  受命裁判官又は受託予審官は押収又は捜索を為すに付軍法会議に属する処分を為すことを得但し第百九十二條第三項の通知は軍法会議之を為すべし

第二百四條 日出前、日没後は居住主若しくは保管者又は之に代わるべき者の承諾あるに非ざれば押収又は捜索の為人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に入ることを得ず但し猶予すべからざる場合は

  此の限りにあらず

  日没前押収又は捜索に着手したるときは日没後と雖も其の処分を継続することを得

第二百五條 左の場所に付いては前条第一項に規定する制限に依ることを要せず

  一 賭博、富籤又は風俗を害する行為に常用せらるるものと認べき場所

  二 旅館、飲食店其の他夜間と雖も公衆の出入りすることを得べき場所但し公開したる時間内に限る

第二百六條 官署、公署又は兵営其の他の軍用の庁舎若しくは船舶の内に於いて押収又は捜索を為すときは其の長又は之に代わるべき者に通知して其の処分に立ち会わしむべし

  前項ノ場合ヲの属の外人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶の内に於いて押収又は捜索を為すときは住居主若しくは保管者又は之に代わるべき者をして其の処分に立ち会わしむべし此等の者をして

  立ち会わしむること能わざるときは隣人又は市町村官吏をして立ち会わしむべし

第二百七條 検察官、被告人又は弁護人は押収又は捜索処分に立ち会うことを得但し拘禁せられたる被告人は此の限りに在らず

  押収又は捜索の処分を為すに付必要あるときは被告人をして其の処分に立ち会わしむることを得

第二百八條 押収又は捜索を為すべき日時及び場所は予め前条の規定に依り其の処分に立ち会うことを得べき者に之を通知すべし但し急速の処分を要するときは此の限りに在らず

第二百九條 押収又は捜索を為すに付必要あるときは陸軍司法警察官吏又は司法警察官吏をして補助を為さしむることを得

第二百十條 押収又は捜索の処分中は何人に限らず許可を得ずして其の場所に出入りすることを禁止することを得

  前項の禁止に従わざる者は之を退去せしめ又は処分を終うる迄之を留置することを得

第二百十一條 押収又は捜索の処分を中止する場合に於いて必要あるときは其の場所を閉鎖し又は看守者を置くべし

第二百十二條 押収を為したる場合に於いて所有者、所持者若しくは保管者又は之に代わるべき者の請求ありたるときは品目を記載したる調書又は目録の謄本又は抄本を之に付すべし

第二百十三條 押収物に付いては喪失又は毀損を防ぐ為相当の処置を為すべし

  運搬又は保管に不便なる押収物に付いては看守者を置き又は所有者其の他の者をして之を保管せしむることを得

  危害を生ずる所ある押収物は之を廃棄することを得

第二百十四條 募集することを得べき押収物にして滅失若しくは毀損の處あるもの又は保管に不便なるものは之を公売して其の代価を保管することを得

第二百十五條 押収物にして留置の必要なきものは被告事件の終結を待たず検察官の意見を聴き決定を以て之を還付すべし

  押収物は所有者、所持者、保管者又は差出人の請求に因り検察官の意見を聴き決定を以て仮に之を還付することを得

第二百十六條 押収したる贓物にして留置の必要なきものは被害者に還付すべき理由明瞭なるときに限り被告事件の終結を待たず検察官の意見を聴き決定を以て之を被害者に還付すべし

第二百十七條 押収又は捜索を為すときは録事をして立ち会わしむべし

第二百十八條 予審官は押収及び捜索に関し軍法会議と同一の権を有す

第二百十九條 検察官は第百七十七條、第百七十八條又は第百八十三條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り押収若しくは捜索を為し又は之を他の検察官陸軍司法警察官若しくは司

  法警察官に嘱託することを得

  陸軍司法警察官は第百七十七條、第百七十八條又は第百八十二條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り押収若しくは捜索を為し又は之を他の陸軍司法警察官若しくは司法警察官

  命令し若しくは嘱託することを得

  司法警察官は第百七十八條又は第百八十一條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り押収若しくは捜索を為し又は之を他の司法警察官に命令し若しくは嘱託することを得

  陸軍司法警察官又は司法警察官押収を為したる場合に於いて留置の必要ありと思慮するときは速やかに押収物を検察官に送付すべし但し第二百十三條第二項又は第三項の処分を為したるときは速やかに其の旨を

  検察官に通知すべし

第二百二十條 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船の内に現行犯ある場合に於いて急速の処分を要するときは検察官陸軍司法警察官又は司法警察官は何時にても其の場所に入り押収又は捜索を為

  すことを得

第二百二十一條 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船の内に現行犯ある場合に於いては何時にても其の場所に入り之を捜索することを得此の場合に於いては第二百六條第二項の規定に依ることを要

  せず

  検察官陸軍司法警察官吏又は司法警察官吏現行犯の被告人を逮捕する為追行したる場合に於いて被告人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船の内に逃げ入りたる時は亦前項に同じ

第二百二十二條 勾引状又は勾留状を執行する場合に於いて必要あるときは人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船の内に入り捜索を為すことを得但し第百七十七條第一項第一号又は第三号乃至第六号の

  規定に依り発したる拘引状を執行する場合に於いては前条による

第二百二十三條 検察官陸軍司法警察官又は司法警察官の為す押収及び捜索に付いては別段の規定ある場合を除くの外第百九十一條乃至第百九十八條、第二百二條、第二百四條乃至第二百六條及び第二百十條乃

  至第二百十六條の規定を準用す

  陸軍司法警察吏、下士卒又は司法警察吏の為す捜索に付いては別段の規定ある場合を除くの外第百九十五條、第百九十六條、第二百四條乃至第二百六條及び第二百十條の規定を準用す

第十節 検証
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第二百二十四條 軍法会議は事実は権の為必要あるときは検証を為すべし

第二百二十五條 検証については身体の検査、屍体の解剖、墳墓の発掘其の他必要なる処分を為すことを得

  被告人に非ざる者の身体の検査は一定の証跡の存否を確認するに必要なる場合に限り之を為すことを得

第二百二十六條 日出前、日没後には住居主若しくは保管者又は之に代わるべき者の承諾あるに非ざれば検証のため人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に入ることを得ず但し猶予すべからざる場合又

  は日出後に於いては検証の目的を達すること能わざる處ある場合は此の限りに在らず

  日没前検証に着手したるときは日没後と雖も其の処分を継続することを得

  第二百五條に記載したる場所に付いては第一項に規定する制限に依ることを要せず

第二百二十七條 検証に付いては第百九十六條、第二百三条、第二百六條乃至第二百十一條及び第二百十七條の規定を準用す

第二百二十八條 予審官は検証に関し軍法会議と同一の権を有す

第二百二十九條 検察官は第百七十七條、第百七十八條又は第百八十三條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り検証を為し又は之を外の検察官陸軍司法警察官若しくは司法警察官

  嘱託することを得

  陸軍司法警察官は第百七十七條、第百七十八條又は第百八十二條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り検証を為し又は之を他の陸軍司法警察官若しくは司法警察官に命令し若しくは

  嘱託することを得

  司法警察官は第百七十八條、第百八十一條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り検証を為し又は之を他の司法警察官に命令し若しくは委託することを得

第二百三十條 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船の内に現行犯ある場合に於いて急速の処分を要するときは検察官陸軍司法警察官又は司法警察官は何時にても其の場所に入り検証を為すことを得

第二百三十一條 変死人又は変死と思慮すべき者第一條に記載したる者なるときは部隊内に於いては陸軍司法警察官の職務を部隊の長其の他ノ場所に於いては検察官又は陸軍司法警察官検視を為すべし

  変死人又は変死人と思慮すべき者第一條に記載したる以外の者なるときと雖も部隊内に於いて屍体を発見したる場合に於いては陸軍司法警察官の職務を行う部隊の長検視を為すべし

  前二項の場合に於いて部隊の長は検察官又は陸軍司法警察官に検視を嘱託することを得

  検視に因り犯罪あること発見したる場合に於いて急速の処分を要するときは引き続き検証を為すことを得

  第一項乃至第三項の規定は他の法令に依る検視を妨げず

第二百三十二條 検察官又は陸軍司法警察官は前条の処分を理法警察官に嘱託することを得

第二百三十三條 検察官陸軍司法警察官又は司法警察官の為す検証に付いては第二百九十六条、第二百六條、第二百十條、第二百十一條、第二百二十五條及び第二百二十六條の規定を準用す

第十一節 証人訊問
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第二百三十四條 軍法会議は別段の規定ある場合を除くの外何人と雖も証人として訊問することを得

第二百三十五條 公務員又は公務員たりし者の知得したる事実に付当該公務所より職務上の秘密に関するものなることを申立つるときは当該監督官庁の承諾あるに非れば証人として之を訊問することを得ず但し当該監

  督官庁は帝国の安寧を害する場合を除くの外承諾を拒むことを得ず

  国務大臣宮内大臣内大臣樞密院議長枢密院顧問官会計検査院長元帥参謀総長海軍軍令部長教育総監若しくは軍事参議官又は此等の職に在りし者前項の申立を為すときは勅許を得るに非れば証人

  として之を訊問することを得ず

第二百三十六條 左に記載したる者は証言を拒むことを得

  一 被告人の配偶者、四親等内の血族若しくは三親等内の姻族又は被告人と此等の親族関係ありたる者

  二 被告人の後見人、後見監督人又は補佐人

  三 被告後見人、後見監督人又は補佐人と為す者

  共同被告人の一人又は数人に対し前項の関係ある者と雖も他の共同被告人のみに関する事項に付きては証言を拒むことを得ず

第二百三十七條 医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、公証人、宗教若しくは祭祀の職に在る者又は此等の職に在りし者は業務上委託を受けたる為知得したる事実にして他人の秘密に関するもの

  に付証言を拒むことを得但し本人承諾したるときは此の限りに在らず

第二百三十八條 証言を為すに因り自己又は自己と第二百三十六條第一項に規定する関係ある者刑事上の訴追を受くる所あるときは証言を拒むことを得

  現に供述を為すべき事件の被告人と共犯の関係ありとして起訴せられ未だ確定判決を経ざるとき亦前項に同じ

第二百三十九條 証言を拒む者は之を拒む自由を疎明すべし但し前条の場合に於いては其の事由の相違なき旨の宣誓を持って疎明に代うることを得

  証言を拒む者之を拒む理由を疎明すること能わざるとき又は宣誓を為さざるときは決定を以て其の申立を却下すべし

第二百四十條 第二四一条及び第二五四条の規定は証人の召喚に之を準用す

第二百四十一條 召喚を受けたる証人正当の事由なくして出頭せざるときは検察官の意見を聴き決定を以て五十圓以下の過料に処し且不参により生じたる費用の賠償を命ずることを得

第二百四十二條 前条の言い渡しを受けたる者裁判書の送達ありたる日より三日以内に正当の事由ありて出頭すること能わざりしこと証明したるときは検察官の意見を聴き決定を以て其の言い渡しを取り消すべし

  天災其の他避くべからざる事故の為期間内に前項の証明を為すこと能わざりし者事故の止みたる日より三日以内に其の証明を為したるとき亦前項に同じ

第二百四十三條 召喚に応じざる証人に対しては更に召喚状を発し又は拘引状を発することを得

第二百四十四條 証人の召喚状又は拘引状には証人の氏名及び住居、被告人並び被告事件を記載し裁判長之に記名捺印すべし

  召喚状には出頭すべき年月日時及場所並召喚に応ぜざるときは過料に処し且勾引状を発することあるべき旨記載すべし

  召喚状の送達と出頭との間には少なくとも二十四時間の猶予を存すべし但し急速を要する場合は此の限りに在らず

  証人第一條に記載したる者なるときは前項の規定に依らざることを得

第二百四十五條 証人の拘引に付第百五十五條乃至第百五十九條及第百六十三條の規定を準用す 

第二百四十六條 証人に対しては先ず人違いなきか否及び第二百三十六條第一項に記載したる者なりや否を取調ぶべし

  第百三十六條第一項に記載したる者には証言を拒むことを得る旨を告ぐべし

第二百四十七條 証人は宣誓を為さしむべし但し別段の規定ある場合は此の限りに在らず

第二百四十八條 宣誓は訊問前之を為さしむべし但し宣誓を為さしむべき者なりや否に付疑あるときは訊問後之を為さしむることを得

第二百四十九條 宣誓は宣誓書により之を為すべし

  宣誓書には真実を述べ何事も黙秘せず又何事も付加せざることを誓う旨を記載すべし

  訊問後宣誓を為すべき場合に於いては真実を述べ何事も黙秘せず又何事も付加せざりしことを誓う旨を記載すべし

  裁判長は宣誓書を朗読し証人をして署名捺印せしむべし

第二百五十條 宣誓を為さしむべき証人には宣誓前偽証の罰を告ぐべし

第二百五十一條 同一の被告事件に付数名の証人出頭したる場合に於いては其の宣誓は同時に之を為さしむることを得

第二百五十二條 左に記載したる者には宣誓を為さしめず之を訊問すべし

  一 十五歳未満の者

  二 宣誓の本旨を解すること能わざる者

  三 現に供述すべき事件の被告人と共犯関係にある者又は其の嫌疑ある者

  四 第二百三十六條第一項に記載したる者にして証言を拒まざる者

  五 第二百三十八條の場合に於いて証言を拒まざる者

  六 被告人の雇人又は同居人

  前第三号の規定の適用に付いては犯人蔵匿の罪、証拠隠滅の罪、虚偽の鑑定通訳の罪及贓物に関する罪の犯人は其の本犯の共犯と看做

  第一項に記載したる者宣誓を為したるときと雖も其の供述は証言たる効力を妨げらるること為し

第二百五十三條 証人の供述が其の証人若しくは之と第二百三十六條第一項に規定する関係ある者の恥辱に帰し又は其の財産上に重大なる損害を生ずる虞あるときは宣誓を為さしめずして訊問することを得

第二百五十四條 証人の訊問は後に訊問すべき証人の在らざる場所に於いて各別に之を為すべし

第二百五十五條 事実発見の為必要あるときは証人と他の証人又は被告人と対質せしむることを得

第二百五十六條 証人は訊問事項に付連絡したる供述を為さしむべし

  必要ある場合に於いては証人の供述を明白ならしめ又は其の真偽を判断する為適当なる訊問を為すべし

第二百五十七條 証人は其の実験したる事実に因り推測したる事項を供述せしむることを得

  前項の供述は鑑定に属する故を以て証言たるの効力を妨げらるることなし

第二百五十八條 第百八十八條及び第百九十條の規定は証人の訊問に付之を準用す

第二百五十九條 証人軍法会議構内に在るときは召喚を為さずして之を訊問することを得

第二百六十條 証人は必要ある場合に於いては軍法会議外の指定の場所に之を召喚し又は其の所在に就き之を訊問することを得

第二百六十一條 親任官又は親任官の待遇を受くる者は其の現在地に於いて之を訊問すべし

  帝国議会の議員議会の期間中開会地に滞在するときは其の滞在地に於いて之を訊問すべし

第二百六十二條 証人正当の理由なくして宣誓又は証言を拒みたるときは検察官の意見を聴き決定を以て百圓以下の過料に処すべし第二百三十九條第一項但し書きの場合に於いて虚偽の宣誓を為したるとき亦同じ

第二百六十三條 軍法会議は必要あるときは決定を以て指定の場所に証人の同行を命ずることを得証人正当の事由なくして同行を肯せざるときは之を拘引することを得

第二百六十四條 軍法会議外に於いて証人の訊問を為す場合に於いては受命裁判官をして之を為さしめ又は証人現在地の予審官、予審判事、区裁判所判事若しくは法令に依り特別に裁判権を有する官署に之を嘱託することを得

  受託官署は受託の権限ある官署に転嘱することを得

  受託官署受託事項に付権限を有せざるときは受託権限ある官署に嘱託を移送することを得

  受命裁判官又は受託予審官は証人訊問に付軍法会議又は裁判長に属する処分を為すことを得但し第二百四十一條及び第二百六十二條の決定は軍法会議又之を為すことを得

第二百六十五條 予審官は証人訊問に関し軍法会議又は裁判長と同一の権を有す

第二百六十六條 検察官は第百七十七條、第百七十八條又は第百八十三條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り第二百三十四條乃至第二百六十四條の規定ニ準じ証人を訊問し又

  は其の訊問を他の検察官陸軍司法警察官若しくは司法警察官に嘱託することを得

  陸軍司法警察官は第百七十七條、第百七十八條又は第百八十二條の場合に於いて急速を要する呂機は予審請求前又は公訴提起前に限り第二百三十四條乃至第二百六十四條の規定に準じ証人を訊問し又は其

  の訊問を他の陸軍司法警察官若しくは司法警察官に命令し若しくは嘱託することを得

  司法警察官は第百七十八條又は第百八十一條の場合に於いて急速を要するときは予審請求前又は公訴提起前に限り第二百三十四條乃至第二百六十四條の規定に準じ証人を訊問し又は其の訊問を他の司法警察官

  に命令し若しくは職託することを得 

第二十六七條 検察官証人を訊問する場合に於いては宣誓を為さしめざることを得

  陸軍司法警察官又は司法警察官は宣誓を為さしむることを得

第二百六十八條 検察官陸軍司法警察官又は司法警察官は証人に対し過料又は賠償の言い渡しを為すことを得ず

第二百六十九條 証人は旅費、日当及び止宿料を請求することを得但し正当の事由なくして宣誓又は証言を拒みたる者は此の限りに在らず

第十二節 鑑定
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第二百七十條 軍法会議は学識経験ある者に鑑定を命ずることを得

第二百七十一條 鑑定人は鑑定を為す前宣誓を為さしむべし

  宣誓は宣誓書により之を為すべし

  宣誓書には誠実に鑑定を為すことを誓う旨を記載すべし

第二百七十二條 鑑定の經過及び結果は鑑定人をして書面又は口頭を以て之ヲ報告せしむべし

  鑑定人数人あるときは共同して報告を為さしむることを得

  書面を以て報告を為さしめたる場合に於いて必要あるときは口頭を以て其の説明を為さしむることを得

第二百七十三條 軍法会議は必要ある場合に於いては鑑定人をして軍法会議外に於いて鑑定を為さしむることを得

  前項の場合に於いては鑑定に関する物を鑑定人に交付することを得

  被告人精神又は身体に関する鑑定を為さしむるに付必要あるときは軍法会議は期間を定め病院其の他相当の場所に被告人を留置することを得

第二百七十四條 鑑定人は鑑定に付必要ある場合に於いては軍法会議の許可を得て身体を検査し死体を解剖し又は物を毀損することを得

第二百七十五條 鑑定人は鑑定に付必要ある場合に於いては軍法会議の許可を得て書類若しくは証拠物を閲覧し若しくは謄写し又は被告人若しくは証人の訊問に立ち会うことを得

  鑑定人は被告人若しくは証人訊問を求め又は許可を得て此等の者に対し直接に問いを発することを得

第二百七十六條 軍法会議は受命裁判官をして鑑定に付必要なる処分を為さしむることを得但し第二百七十三條第三項の規定に依る処分は此の限りに在らず

第二百七十七條 軍法会議は鑑定を十分ならずと思慮するときは鑑定人を増加し又は他の鑑定人に命じて鑑定を為さしむることを得

第二百七十八條 検察官及び弁護人は鑑定に立ち会うことを得

  第二百八條の規定は前項の場合に準用す

第二百七十九條 鑑定に付いては拘引に関する規定を除くの外第十一節を準用す

  検察官陸軍司法警察官又は司法警察官は第二百七十三條第三項の規定に依る処分を為すことを得ず

第二百八十條 鑑定人は旅費、日当及び止宿料の外鑑定料及立替金の弁償を請求することを得

第二百八十一條 軍法会議は官署公署に鑑定を嘱託することを得

  前九條の規定は前項の場合に之を準用す但し第二百七十二條第三項に依る説明は官署公署の指定したる者をして之を為さしむべし

第二百八十二條 特別の知識に因り知得したる過去の事実に付其の事実を知りたる者を訊問する場合には本節の規定に依らず第十一節の規定を適用す

第十三節 通訳
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第二百八十三條 国語に通ぜざる者をして陳述を為さしむる場合に於いては通事をして通訳を為さしむべし

第二百八十四條 聾者又は唖者をして陳述を為さしむる場合に於いては通事をして通訳を為さしむることを得

第二百八十五條 国語に在らざる文字又は符合は之を飜訳せしむることを得

第二百八十六條 軍法会議は官署公署に飜訳を委託することを得

第二百八十七條 通訳及び飜訳については第十二節の規定を準用す

第二章 始審
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第一節 捜査
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第二百八十八條 犯罪に因り害を被りたる者は告訴を為すことを得

  被害者の法定代理人又は夫は独立して告訴を為すことを得

  被害者死亡したるときは其の家督相続人又は親族告訴を為すことを得但し被害者の明示したる意思に反することを得ず

  前二項の規定は刑法第百八十三條の罪に之を適用せず

第二百八十九條 前条第二項の場合に於いて被害者の法定代理人被告人なるとき、被告人の配偶者なるとき又は被告人の四等親内の血族若しくは三等親内の姻族為るときは被害者の親族は独立して告訴を為すことを得

第二百九十條 刑法第二百三十條第二項の罪に付いては死者の親族、遺族又は後裔告訴を為すことを得

第二百九十一條 前三條の規定に依り告訴を為すことを得べき者なき場合に於いては管轄軍法会議検察官は利害関係人の申立に因り告訴を為すことを得べき者を指定することを得但し刑法第百八十三條の罪に付いて

  は此の限りに在らず

第二百九十二條 親告罪の告訴は犯人を知りたる時より六月内に之を為すに非れば其の効なし

  刑法第二百十九條但し書きに於ける告訴は婚姻の無効又は取消の裁判確定したるときより六月内に之を為すに非れば其の効なし

第二百九十三條 告訴を為すことを得べき者数人ある場合に於いて一人の期間の懈怠は他の者に其の効を及ぼさず

第二百九十四條 告訴は始審の判決の告知あるまで之を取り消すことを得

  告訴の取消を為したる者は告訴を為すことを得ず

  前二項の規定は請求を待ちて受理すべき事件に付ての請求に之を準用す

第二百九十五條 親告罪に付共犯の一人又は数人に対して為したる告訴又は其の取消は他の共犯に対し亦其の効を生ず

  前項の規定は請求を待ちて受理すべき事件についての請求又は其の取消に之を準用す

  刑法第百八十三條の罪に付き相姦者の一人に対し告訴又は其の取消ありたるときは他の一人に対し亦其の効を生ず

第二百九十六條 何人に限らず犯罪ありたると思慮したるときは告発を為すことを得

  官吏又は公吏其の職務を行うに因り犯罪ありと思慮したるときは告発を為すべし

第二百九十七條 告訴又は告発は代理人によりて之を為すことを得

第二百九十八條 告訴又は告発は書面又は口頭を以て検察官陸軍司法警察官、検事若しくは司法警察官又は之に相当する官署に之をなすべし

第二百九十九條 検察官陸軍司法警察官、検事若しくは司法警察官又は相当官署口頭の告訴又は告発を受けたる時は調書を作るべし

  第百八條第三項乃至第五項及び第百十一条の規定は検察官又は陸軍司法警察官の作るべき前項の調書に之を準用す

第三百條 検事若しくは司法警察官又は相当官署告訴又は告発を受けたる時は速やかに之に関する書類及び証拠を検察官又は陸軍司法警察官に送付すべし

第三百一條 告訴又は告発の取消又は変更については前四條の規定を準用す

第三百二條 自首については告発に関する規定を準用す

第三百三條 検察官又は陸軍司法警察官捜査を為すに付いては其の目的を達するに必要なる取調を為すことを得但し強制の処分は別段の規定ある場合に非れば之を為すことを得ず

  捜査に付きては公務所に照会して必要なる事項の報告を求むることを得

第三百四條 検察官捜査を為すに付き強制の処分を必要とするときは予審請求前又は公訴提起前と雖も長官の認可を受け押収、捜査、検証、被告人の勾留、被告人若しくは証人の訊問又は鑑定の処分を予審官に請求す

  ることを得

  請求を受けたる予審官の処分に付いては予審に関する規定を準用す

第三百五條 予審官前条の処分を為したるときは速やかに之に関する書類及び証拠物を検察官に送付すべし

第三百六條 陸軍司法警察官捜査を為したるときは長官に捜査の報告を為し又は検察官若しくは相当官署に事件を送致すべし

  捜査の報告を為すには書類及び証拠物と共に報告書を検察官に送付すべし

  検察官前項の規定に依り報告書の送付を受けたる時は意見を付し書類及び証拠物と共に之を長官に提出すべし

第三百七條 検察官捜査を為したるときは書類及び証拠物に意見を添え長官に捜査の報告を為し又は管轄軍法会議検察官若しくは相当官署に事件を送致すべし

第三百八條 長官捜査の報告を受けたる場合に於いては検察官に対し左の命令を為すべし

  一 公訴を提起する者と思慮するときは公訴提起の命令

  二 予審に付するの必要ありと思慮するときは予審請求の命令

第三百九條 長官は前条の命令を為さざる場合に於いて被告事件其の軍法会議に管轄に属せざるものなるとき又は軍法会議裁判権に属せざるものなるときは検察官に対し其の事件を管轄軍法会議検察官又は相当官

  署に送致すべき旨の命令を為すべし

  検察官被告事件の送致を為す場合に於いて拘留せられたる被告人に対し拘留を継続する必要なしと思慮するときは之を釈放すべし

第三百十條 長官二条の命令を為さざるときは速やかに其の旨を検察官に告知すべし

第三百十一條 検察官前条の規定に依る告知を受けたる時は拘留したる被告人は速やかに之を釈放し押収したる物は速やかに之を還付すべし但し必要なる場合に於いては公訴の時効完成するに至る迄之を保管すること

  を得

第二節 予審
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第三百十二條 予審の請求は検察官の属する軍法会議予審官に之をなすべし

第三百十三條 同一事件に付数個の軍法会議予審官予審の請求ありたるときは高等軍法会議検察官の請求に依り決定を以て其の予審官中より予審を為すべき者を指定すべし

  前項の決定ありたるときは予審官は書類及び証拠物を指定せられたる予審官に送付すべし

第三百十四條 予審の請求は書面を以て之を為すべし

  予審は急速を要する場合に限り口頭又は予定の符号を用いたる電報を以て之を為すことを得口頭又は電報を以て予審の請求を為したるときは之を調書に記帳し予審官録事と共に署名捺印すべし

第三百十五條 予審の請求を為すには犯罪に事実を示すべし

  被告人分明なるときは之を指定すべし

  被告人の指定は氏名を以てし氏名知れざるときは容貌、体格其の他の徴表を以てすべし

  予審請求の後被告人分明となりたるときは速やかに之を指定し予審官に通知すべし

第三百十六條 予審官予審検察官の指定せざる被告人を発見したる場合に於いて急速を要するときは検察官の指定を待たずして之を被告人と為すことを得

  前項の規定に依る処分を為したるときは速やかに其の旨を検察官に通知すべし

第三百十七條 予審官予審中被告人に他の犯罪あることを認知したる場合に於いて急速を要するときは検察官の請求を待たず予審処分を為すことを得

  前項の処分を為したるときは速やかに其の旨を検察官に通知すべし

  検察官前項の通知を受けたる時は意見を付し速やかに長官に報告すべし

第三百十八條 長官前条の報告を受け予審の必要ありと思慮するときは予審の請求を命ずべし

  予審官検察官より予審を請求せざる旨の通知を受け又は前条の通知を為したるときより四十八時間内に予審の請求なきときは其の処分を継続することを得ず若し被告人を勾留したるときは之を釈放し押収したる物あるときは之を還付すべし

第三百十九條 公訴を受けたる被告人に対しては同一事件に付予審を為すことを得ず

第三百二十條 予審官予審請求の手続その他の規定に違いたる為無効なるときは又は第三百三十二條、第三百三十七條若しくは第四百條の規定に違反して予審請求をしたるときは予審の請求を却下すべし

第三百二十一條 予審は事件が公訴を提起すべきものなりや否やを決するに必要なる事項を取りしらぶるを以て限度とする

  公判に於いて取り調べ難しと思慮する事項に付亦其の取調を為すべし

第三百二十二條 予審官は公務に照会し必要なる事項の報告を求むることを得

第三百二十三條 予審官は被告人を訊問すべし

  予審官は被告人の所在に就き之を訊問することを得

第三百二十四條 予審官予審終了前被告に対し嫌疑を受けたる原由を告知し弁解を為さしむべし但し被告人正当の事由なくして出頭せざるときは此の限りに在らず

第三百二十五條 予審官予審処分の一部に付其の軍法会議予審官に補助を求むることを得

第三百二十六條 検察官及び被告人は予審中何時にても必要なる予審処分を予審官に請求することを得

  検察官予審中何時にても書類及び証拠物を閲覧することを得

第三百二十七條 予審官は左に記したる場合に於いては検察官の意見を聴き予審手続を中止することを得

  一 被告人分明ならざるとき

  二 被告人の所在分明ならざるとき

  三 被告人心神喪失の状態にあるとき

第三百二十八條 予審中の事件に付高等軍法会議の管轄に属するものとして高等軍法会議検察官より予審の請求ありたるときは予審官予審手続を止むべし

第三百二十九條 予審官被告事件に付取調を終了したりと思慮したるときは書類及び証拠物を検察官に送付すべし

  前項の場合に於いて検察官事項を指示して取調を請求したるときは予審官は更に其の取調を為し之に関する書類及び証拠物を検察官に送付すべし

第三百三十條 検察官前条の規定に依り書類及び証拠物の送付を受けたるときは之に意見書を添え長官に予審終了の報告を為すべし

第三百三十一條 長官前条の報告を受けたるときは検察官に対し左の命令を為すべし

  一 公訴を提起すべきものと思慮するときは公訴提起の命令

  二 不起訴の処分を為すべきものと思慮するときは不起訴処分命令

  三 被疑事件其の軍法会議の管轄に属さざるものなるとき又は軍法会議裁判権に属せざるもの為るときは事件送致の命令

  検察官前項第一號又は第二號の命令に依り公訴提起又は不起訴処分を為したるときは其の旨を予審官及び被告人に通知すべし

第三百三十二條 被告人に対し不起訴処分を為したる場合に於いては新たなる事実又は証拠を発見したるときに非れば同一事件に付之を予審の被告人と為し又は之に対し公訴を提起することを得ず

第三百三十三條 検察官不起訴処分を為したるときは直ちに被告人を釈放すべし

第三百三十四條 検察官不起訴処分を為したるときは直ちに押収物を還付すべし但し必要ある場合に於いては公訴の時効完成するに至る迄之を還付せざることを得

  押収したる贓物にして被害者に還付すべき理由明瞭なる者は之を被害者に還付すべし

  前項ノ規定は民事訴訟法の手続きに従い利害関係者より其の権利を主張することを妨げず

第三百三十五條 検察官事件送致の命令を受けたるときは事件を管轄軍法会議検察官又は相当官署に送致すべし

  前項の場合に於いて拘留せられたる被告人に対し拘留を継続する必要なしと思慮するときは之を釈放すべし

第三百三十六條 検察官は長官の命令に依り予審の請求を取り消すことを得予審の請求を取り消したる場合に於いて被告人として訊問を受けたる者あるときは其の旨を之に通知すべし

  予審請求取消前為したる処分は其の効力有す

  予審請求の取消について第三百十四條の規定を準用す

第三百三十七條 第三百三十二條乃至第三百三十四條の規定は予審の請求を取り消したる場合に之を準用す

第三百三十八條 第三百七十九條及び第三百八十一條の規定は予審に之を準用す但し同條中裁判長又は軍法会議とあるは予審官とす

第三節 公訴
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第三百三十九條 公訴は検察官の指定したる以外の者に其の効力を及ぼさず

第三百四十條 検察官は長官の命令に依り公訴を取り消すことを得

  公訴の取り消しは書面により之をなすべし

第三百四十一條 時効は左の期間を経過するに依りて完成す

  一 死刑に該る罪に関しては十五年

  二 無期の懲役又は禁錮に該る罪に付きては十年 

  三 長期十年以上の懲役又は禁錮に該る罪に付きては七年

  四 長期十年未満ノ懲役又は禁錮に該る罪に付いては五年

  五 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に該る罪に付いては三年

  六 刑法第百八十五條の罪に付いては六月

  七 拘留又は過料に該る罪に付いては六月

第三百四十二條 二以上の主刑を併科し又は二以上の主刑中其の一を課すべき罪の時効は其の重き刑に該る罪に付き定めたる期間に従う

第三百四十三條 刑法により刑を加重又は軽減すべき場合に於いては時効は加重又は軽減せざる刑に該る罪に付き定めたる期間に従う

第三百四十四條 時効は犯罪行為を終わりたる時より進行す

  数人共犯の場合に於いては最終の行為ありたる時より総ての共犯に対して時効の期間を起算す

第三百四十五條 時効は公訴の提起、予審の請求、公判若しくは予審の処分又は第三百四條に定めたる予審官の処分により中断す

  共犯の一人に対して為したる手続による時効の中断は他の共犯に対す効力を有す

第三百四十六條 時効は中断の事由の終了したる時より更に進行す

第三百四十七條 公訴提起の命令は書面により之をなす

  公訴提起の命令を為すには被告人を指定し犯罪事実を示すべし

第三百四十九條 公訴の提起は控訴状により之をなす

第三百五十條 公訴を提起するには被告人を指定し犯罪の事実及び罪名を示すべし

第三百五十一條 告訴に係る事件に付公訴を提起し若しくは提起せず又は其の事件を他の軍法会議検察官若しくは相当官署に送致したるときは検察官は速やかに其の旨を告訴人に通知すべし

第四節 公判
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第三百五十二條 裁判長は公判期日を定べし

  期日には被告人、弁護人及び補佐人を召喚すべし

  第百四十一条及び第百五十四条の規定は弁護人及び補佐人の召喚に之を準用す

  期日は之を検察官に通知すべし

第三百五十三條 第一回の期日と被告人に対する召喚状の送達との間には少なくとも三日の猶予期間を存すべし但し特設軍法会議に於いては此の限りに在らず

  被告人意義なきときは前項の猶予期間を存せざることを得

第三百五十四條 裁判長は期日を変更することを得

  期日の変更に関する請求を却下する命令は之を送達することを要せず

第三百五十五條 軍法会議は第一回の期日に於ける取調準備の為期日前被告人の訊問を為し又は受命裁判官をして之をなさしむることを得

第三百五十六條 軍法会議は第一回の期日に於ける取調の為期日前証拠物若しくは証拠書類に提出を命じ又は証人、鑑定人、通事若しくは飜訳人に対し期日に出頭すべき旨の召喚状を発することを得

  前項の規定に依り召喚する証人、鑑定人、通事又は翻訳人の氏名は直ちに之を訴訟関係人に通知すべし

  検察官、被告人又は弁護人は第一項の処分を軍法会議に請求することを得

  前項の請求を却下するときは決定を以て之を為すべし

  前四項の規定は第二回以降の期日に於ける取調に関し之を準用す

第三百五十七條 検察官、被告人又は弁護人は期日前証拠物又は証拠書類を軍法会議に提出することを得

第三百五十八條 軍法会議は証人疾病その他の事由に因り期日に出頭すること能わずと思慮するときは期日前之を訊問し又は受命裁判官をして訊問せしむることを得

  検察官及び弁護人は前項の訊問に立ち会うことを得

  第二百八條の規定は前項の場合に之を準用す

第三百五十九條 軍法会議は急速を要する場合に於いては期日前鑑定若しくは飜訳を為さしめ又は押収、捜索若しくは検証を為すことを得

第三百六十條 軍法会議は期日前公務所に照会し必要なる事項の報告を求むることを得

第三百六十一條 期日に於ける取調は公判廷に於いて之を為す

  公判廷は裁判官検察官及び録事列席して之を開く

第三百六十二條 公判数日引続くべき見込みある事件に付いては長官は判士一人又は二人に補充裁判官を命じ公判に立ち会わしむることを得

  補充裁判官は其の官等被告人より下ることを得ず

  裁判長以外の判士疾病其の他の事故により引続き干与することを得ざる場合に於いては裁判長は第四十九條又は第五十一條乃至第五十五條に規定する区別に拘わらず補充裁判官をして之に代わらしむべし

第三百六十三條 被告人期日に出頭せざる時は別段の規定ある場合を除くの外開廷することを得ず

第三百六十四條 罰金以下の刑に該当する事件の被告人は代人をして出頭せしむることを得但し軍法会議は本人に出廷を命ずることを得

第三百六十五條 被告人は公判廷に於いて身体の拘束を受くること為し但し之に看取者を付することを得

第三百六十六條 被告人は裁判長の許可あるに非ざれば退廷することを得ず

  裁判長は被告人を在廷せしむる為相当の処分を為すことを得

第三百六十七條 死刑又は無期若しくは一年以上の懲役若しくは禁錮に該る事件に付いては弁護人なくして開廷することを得ず但し判決の宣告を為す場合は此の限りに在らず

  弁護人出廷せざるとき又は弁護人の選任なきときは裁判長職権を持って弁護人を付すべし

第三百六十八條 左の場合に於いて弁護人出廷せざるとき又は弁護人の選定なきときは検察官の意見を聴き決定を以て弁護人を付することを得

  一 被告心神喪失又は心神耗弱者たる疑いあるとき

  二 被告人聾者又は唖者なるとき

  三 其の他必要と認めたるとき

第三百六十九條 前二条の規定に依り付すべき弁護人は第八十八條に記載したる者より裁判長之を選任すべし

  被告人の利害反せざるときは同一の弁護人をして数人の弁護を為さしむることを得

第三百七十條 前三條の規定は特設軍法会議に付いては之を適用せず

第三百七十一條 弁論は之を公開す

第三百七十二條 安寧秩序若しくは風俗を害し又は軍事上の利益を害する虞あるときは弁論の公開を停るむる決定を為すことを得

第三百七十三條 弁論の公開を停むる決定ありたるときは公衆を退廷せしむる前裁判長は其の決定を理由と共に宣告すべし

第三百七十四條 裁判長は公開を停めたるときと雖も入廷を至当と認る者の入廷を許すことを得

第三百七十五條 裁判長は被告人の部下に属する者又は被告人より官等、等級若しくは階級の下なる第一條第一項第一号に記載したる者の入廷を禁じ又は其の退廷を命ずることを得

第三百七十六條 裁判長は婦女、児童又は相当なる衣服を着せざる者の入廷を禁じ又は其の退廷を命ずることを得

第三百七十七條 前二条の規定に依る処分を為したるときは其の処分及び理由を公判調書に記載すべし

第三百七十八條 開廷中秩序の維持は裁判長之を行う

第三百七十九條 裁判長は弁論を妨ぐる者又は不当行状を為すものを法廷より退かしむことを得

  裁判長は前項に記載したる者の行状に依り閉廷に至る迄之を留置することを得此の場合に於いては軍法会議は決定を以て五十圓以下の過料に処することを得


第三百八十條 裁判長は不当の言語を用いる弁護人に対し同一事件に付き引続き陳述することを禁ずることを得

第三百八十一條 前二条の規定に依る処分を為したるときは其の処分及び理由を公判調書に記載すべし

  前項の場合に於いて懲戒処分に付すべきものと思慮するときは裁判長公判調書の写しを添え其の旨を相当官署に通知すべし

第三百八十二條 弁論の指揮は裁判長之を行う

第三百八十三條 事実の認定は証拠に依る

第三百八十四條 証拠の証明力は裁判官の自由なる判断に任す

第三百八十五條 被告人の訊問及び証拠調べは裁判長之を為すべし

  裁判長以外の裁判官裁判長に告げ被告人、証人又は鑑定人を訊問することを得

  検察官、被告人又は弁護人は必要とする事項に付被告人、証人又は鑑定人を訊問すべきことを裁判長に請求することを得

第三百八十六條 裁判長は共同被告人、証人其の他の者被告人の面前に於いて充分なる供述を為す事を得ざるべしと思慮するときは其の供述中被告人を退廷せしむることを得供述終わりたるときは被告人を入廷せしめ

  供述の要旨を告ぐべし

第三百八十七條 証拠書類は裁判長之を朗読し若しくは其の要旨を告げ又は録事をして朗読せしむべし

  証拠物は裁判長之を被告人に示すべし

第三百八十八條 期日前訴訟関係人より提出したる証拠物又は証拠書類は公判廷に於いて之を取調ぶべし第三百五十八條又は第三百五十九條の規定に依り集取したるもの又同じ但し訴訟関係人意義なきものは之を取

  調ざることを得

第三百八十九條 証拠調べの請求を却下するときは決定を以て之を為すべし

  新期日の指定其の他別段に手続を要する証拠調べは決定により之を為すべし

第三百九十條 裁判長被告人に対し第百八十六條の訊問を為したる後検察官は被告事件に要旨を陳述すべし

  前項の陳述終わりたるときは裁判長は被告人の訊問及び取調を為すべし

第三百九十一條 裁判長は各個の証拠に付取調を終えたる毎に被告人に意見ありや否を問うべし

  裁判長は被告人に対し其の利益と為るべき証拠を差し出すことを得べき旨を告ぐべし

第三百九十二條 証拠調終わりたる後検察官は事実及び法律の適用に付き意見を陳述すべし

  被告人及び弁護人は意見を陳述することを得

  弁論の最終は被告人又は弁護人をして陳述せしむべし

第三百九十三條 軍法会議は必要ある場合に於いては弁論を再開することを得

第三百九十四條 軍法会議は計算其の他煩雑なる事項に付公判廷に於いて取調ぶることを不便とするときは受命裁判官をして其の取調を為さしむることを得

  前条の取調を為す場合に於いては予審官と同一の権を有す

  受命裁判官は取調の結果に付報告を為すべし

第三百九十五條 裁判長裁判官の一人をして被告人の訊問、証拠調又は弁論の指揮に関する事項を行わしむることを得 

第三百九十六條 被告人心神喪失の状態にあるときは検察官の意見を聴き決定を以て其の状態の継続する間公判手続を停止すべし

  被告人疾病に因りて出廷すること能わざるときは検察官の意見を聴き決定を以て出廷することを得るに至る迄公判手続を停止すべし

  第三百六十四條の規定に依り代人を出廷せしめたる場合に於いては前二項の規定を適用せず

第三百九十七條 開廷後被告人の心神喪失に因り公判手続を停止し又は其の他の事由に因り引き続き十五日以上開廷せざりし場合に於いては弁論を更新すべし

第三百九十九條 左の場合に於いては決定を以て控訴を棄却すべし

  一 公訴の取消ありたるとき

  二 被告人死亡したるとき

  三 第二十四條又は第二十五條の規定に依り審判を為すべからざるとき

第四百條 公訴の取消により公訴棄却の決定ありたるときは再び公訴を提起し又は予審を請求することを得 

第四百一條 被告事件軍法会議の管轄に属せざる時は判決を以て管轄違の言い渡しを為すべし

第四百二條 被告事件に付き犯罪の証明ありたるときは判決を以て刑の言い渡しを為すべし

  刑の執行猶予の言い渡しは刑の言い渡しと同時に判決を以て為すべし

第四百三條 被告事件罪と為らず又は犯罪の証明なきときは判決を以て無罪の言い渡しを為すべし

第四百四條 左の場合に於いては判決を以て免訴の言い渡しを為すべし

  一 確定判決を経たるとき

  二 犯罪後の法令に因り刑の廃止ありたるとき

  三 刑を免除すべきとき

  四 大赦ありたるとき

  五 時効完成したるとき

第四百五條 左の場合に於いては判決を以て公訴棄却の言い渡しを為すべし

  一 長官の命令なくして公訴を提起したるとき

  二 公訴提起の手続其の規定に違いたる為無効なるとき

  三 第三百三十二條、第三百三十七條又は第四百條の規定に違反して公訴を提起したるとき

  四 告訴又は請求を待ちて受理すべき事件に付き告訴又は請求の取消ありたる時

  五 公訴の提起ありたる事件に付き更に同一軍法会議に公訴を提起したるとき

  六 被告人に対して裁判権を有せざるとき

第四百六條 被告人陳述を肯せず若しくは許可を受けずして退廷し又は秩序維持の為裁判長より退廷を命ぜられたるときは其の陳述を聴かずして判決を為すことを得

第四百七條 罰金以下の刑に該るもの又は罰金以下の刑に処すべきものと認る事件に付き被告人出廷せざるときは其の後の取調に因り禁錮以上の刑に処すべきものと認る場合を除くの外被告人の陳述を聴かずして判決

  を為すことを得

第四百八條 弁論終結の後は被告人出廷せずと雖も宣告により判決を告知す

第四百九條 判決の宣告は公開して之を為す但し弁論の公開を停め足る事件に付いては決定を以て理由の告知に限り公開せずして之を為す事を得

  第三百七十三條の規定は前項の決定ありたる場合に之を準用す

第四百十條 無罪、免訴、刑の執行猶予、公訴棄却、管轄違又は罰金若しくは科料の言い渡しを為したるときは其の事件に付き拘留せられたる被告人に対し放免の言い渡しありたるものとす

  公訴棄却又は管轄違の言い渡しを為す場合に於いては軍法会議は前に発したる勾留状を存し又は新たに之を発行することを得

  勾留状を存し又は新たに之を発したる事件に付き三日内に公訴を提起せず又は管轄軍法会議検察官に事件を送致せざるときは検察官は直ちに被告人を釈放すべし被告事件の送致を受けたる検察官五日内に公訴を

  提起せざる時亦同じ

第四百十一條 押収したる物に付没収の言い渡しなきときは押収を解く言い渡しありたるものとす

  公訴棄却又は管轄違の言い渡しを為す場合に於いては軍法会議は押収を存続することを得

  押収存続したる事件に付き三日内に公訴を提起せず又は管轄軍法会議検察官に事件を送致せざるときは検察官は其の押収を解くべくし被告事件の送致を受けたる検察官五日内に公訴を提起せざる時亦同じ

第四百十二條 押収したる贓物にして被害者に還付すべき理由明瞭なるときは之を被害者に還付する言い渡しを為すべし

  贓物の対価として得たる物に付被害者より交付を請求したるときは前項の例に依る

  仮に還付したる物に付別段の言い渡しなきときは還付の言い渡しありたるものとす

第四百十三條 犯罪により生じたる損害に付被害者より被告人に対し其の回復を請求したる場合に於いて被告事件の取調に因り請求を相当なりと認めたるときは被告人異議なきときに限り其の請求に応ずべき旨の言い

  渡しを為すことを得

第四百十四條 前二条の規定は民事訴訟法の手続きに従い利害関係人より其の権利を主張することを妨げず

第四百十五條 刑の執行猶予の言い渡しを取り消すべき場合に於いては刑の言い渡しを為したる軍法会議又は刑の言い渡しを受けたる者の所在地若しくは所属部隊の軍法会議検察官其の軍法会議に請求を為すべし但

  し高等軍法会議に於いて刑の言い渡しを為したる事件に付いては高等軍法会議検察官高等軍法会議に請求を為すべし

  第二十七條の規定に依り審判を為したる事件に付いては刑の言い渡しを為したる軍法会議又は高等軍法会議に前項の請求を為すべし

  前二項の請求ありたるときは軍法会議は被告人又は其の代理人の意見を聴き決定を為すべし

第四百十六條 刑法第五十二條又は第五十八條の規定に依り刑を定べき場合に於いては其の犯罪事実に付最終の判決を為したる軍法会議検察官其の軍法会議に請求すべし

  軍法会議前項の請求を受けたるときは被告人又は其の代理人の意見を聴き決定を為すべし

第四百十七條 本節中審判の公開に関する規定は之を特別軍法会議の訴訟手続に適用せず

第三章 上告非常上告
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第四百十八條 上告師団軍法会議の判決に対して之を為すことを得

第四百十九条 上告は判決の一部に対し之を為すことを得其の部分を限らざるときは判決全体に対して為したるものとす

第四百二十條 上告検察官又は被告人之を為すことを得

第四百二十一條 被告人の法定代理人、補佐人、又は夫は被告人の為独立して上告を為すことを得

第四百二十二條 原審の弁護人又は代理人は被告人の為上告することを得但し被告人の明示したる意思に反することを得ず

第四百二十三條 上告は法令違反を理由とするときに限り之を為すことを得

第四百二十四條 左の場合に於いては常に上告の理由あるものとす

  一 法律に従い軍法会議を構成せざりしとき

  二 法律に依り職務の執行より除斥せらるべき裁判官審判に干与したとき

  三 審理に干与せざりし裁判官判決に干与したるとき     四 軍法会議不当に管轄又は管轄違を認めたるとき

  五 軍法会議不当に公訴を受理し又は之を棄却したるとき

  六 審判の公開に関する規定に違いたるとき

  七 法律に別段の規定ある場合を除くの外被告人の出廷なくして審判を為したるとき

  八 公判廷に於いて被告人の身体を拘束したるとき

  九 法律に依り弁護人を要する事件又は決定により弁護人を付したる事件に付き其の出廷なくして審理を為したるとき

  十 検察官の為す被告事件の陳述を聴かずして審判を為したるとき

  十一 法律に依り公判に於いて取調ぶべき証拠の取調をなさざりしとき

  十二 公判に於いて為したる証拠調の請求に付決定を為すべき場合に於いて之をなさざりしとき

  十三 法律に依り公判手続を停止又は更新すべき事由ある場合に於いて之を停止又は更新せざりしとき

  十四 弁論の最終に被告人又は弁護人をして陳述を為さしめざりしとき

  十五 請求を受けたる事項に付判決を為さず又は請求を受けざる事項に付判決を為したるとき  

  十六 判決に理由を付せず又は理由に齟齬あるとき

  十七 判決書に裁判官の署名若しくは捺印又は契印を欠きたるとき

第四百二十五條 前条場合を除くの外法令に違反したる所ありと雖も判決に影響を及ぼさざること明白なるときは之を上告の理由と為すことを得ず

第四百二十六條 判決ありたる後刑の廃止若しくは変更又は大赦ありたるときは之を上告の理由と為すことを得

第四百二十七條 上告の提起期間は三日とす

  前項の期間は判決告知の時を以て始まる

第四百二十八條 検察官又は被告人は上告の抛棄又は取り下げを為すことを得但し被告人は第四百二十一條に記載したる者の同意を得るに非れば抛棄又は取り下げを為すことを得ず

第四百二十九條 第四百二十一條に記載したる者は被告人の同意を得て上告の取り下げを為すことを得

第四百三十條 上告は対手人の同意あるに非れば之を取り下ぐることを得ず

第四百三十一條 上告抛棄の申立は原軍法会議に之を為すべし

  上告取り下げの申立は高等軍法会議に之を為すべし但し書類を高等軍法会議検察官に送付する前上告の取り下げを為す場合に於いては其の申立書を原軍法会議に差し出すことを得

第四百三十二條 上告抛棄又は取り下げの申立は書面を以て之を為すべし但し公判廷に於いては口頭を以て之を為すことを得この場合に於いては其の申立を公判調書に記載すべし

第四百三十三條 上告抛棄又は取り下げを為したる者は上告権を喪失す

第四百三十四條 第四百二十條乃至第四百二十二條に記載したる者自己又は代人の責に帰すべからざる事由に因り上告の期間を内に上告を為すこと能わざるときは原軍法会議上告権回復の請求を為すことを得

第四百三十五條 上告権回復の請求は事由の止みたる時より三日内に書面を以て之を為すべし

  上告権回復の原因たる事実は之を疎明すべし

  上告権回復の請求を為す者は其の請求と同時に原軍法会議上告の申立書を差し出すべし

第四百三十六條 原軍法会議検察官に意見を聴き上告権回復の請求を許すべきか否かを決定すべし

第四百三十七條 上告権回復の請求ありたるときは前条の決定を為す迄裁判の執行を停止する決定を為すことを得

  前条の規定に依り裁判の執行を停止する決定を為すときは被告人に対し勾留状を発することを得

第四百三十八條 上告を為すには申立を原軍法会議に差し出すべし

第四百三十九條 監獄に在る者上告を為すには監獄の長又は其の代理者を経由して其の申立書を差し出すべし此の場合に於いて上告の提起期間内に申立書を監獄の長又は其の代理者に差し出したるときは上告申立の

  効力生ず

  監獄にいる者自ら申立書を作ること能わざるときは監獄の長又は其の代理は之を代書し又は所属官吏をして之を代署せしむべし

  監獄の長又は其の代理者は原軍法会議に申立書を送付し且之を受け取りたる年月日時を通知すべし

第四百四十條 前条ノ規定は上告の抛棄若しくは取り下げ又は上告権回復の請求を為す場合に準用す

第四百四十一條 上告の申立、抛棄若しくは取り下げ又は上告権回復の請求ありたるときは録事は速やかに之を対手人に通知すべし

第四百四十二條 上告の申立法律上の方式に違い又は上告消滅後に為したるものなるときは原軍法会議検察官の意見を聴き決定を以て之を棄却すべし

第四百四十三條 前条の場合を除くの外軍法会議は書類を其の軍法会議検察官に送付し検察官は之を高等軍法会議検察官に送付すべし

  高等軍法会議検察官は書類を其の軍法会議に送付すべし

第四百四十四條 高等軍法会議は遅くとも最初に定めたる公判期日の三十日前に其の期日を上告人及び対手人に通知すべし

  最初に公判期日を定る前弁護人の選任ありたるときは被告人に対する前項の通知は弁護人に対して之を為すべし

第四百四十五條 上告人は遅くとも最初に定めたる公判期日の十四日前に上告趣意書高等軍法会議に差し出すべし

第四百四十六條 上告対手人は最初に定めたる公判期日の十四日前まで上告を為すことを得

  前項の上告上告趣意書高等軍法会議に差し出すに依りて之を為す

第四百四十七條 上告趣意書には法令違反の理由を明示すべし

  訴訟手続に違反したることを理由とする場合に於いては尚違反に関する事実を明示すべし

第四百四十八條 高等軍法会議上告趣意書を受け取りたるときは速やかに其の謄本を対手人に送達すべし

第四百四十九條 上告期間内に上告趣意書を差し出さざるときは高等軍法会議検察官の意見を聴き決定を以て上告を棄却すべし

第四百五十條 上告対手人は上告趣意書の謄本の送達を受けたる日より十日内に答弁書を高等軍法会議に差し出すことを得

  検察官対手人なるときは重要と認る上告の理由に付答弁書を差し出すべし

  高等軍法会議答弁書を受け取りたるときは速やかに其の謄本を上告人に送達すべし

第四百五十一條 裁判長は受命裁判官をして上告申立書、上告趣意書及び答弁書を閲して報告書を作らしむることを得

第四百五十二條 上告審判に於いては被告人の為にする弁論は弁護人に非れば之を為すことを得ず

第四百五十三條 期日には受命裁判官は弁論前報告書を朗読すべし

  検察官及び弁護人は上告趣意書に基づき弁論を為す

第四百五十四條 弁護人出廷せざるとき又は弁護人の選任なきときは法律に依り弁護人を要する場合又は決定により弁護人を付したる場合を除くの外検察官の陳述を聴き判決を為す

第四百五十五條 高等軍法会議上告趣意書に包含せられたる事項に限り調整を為すべし

  軍法会議の管轄、公訴の受理及び原判決により定まりたる事実に対する法令の適用の当否に付いては職権を持って調査を為すことを得原判決ありたる後に於ける刑の廃止若しくは変更又は大赦に付亦同じ

第四百五十六條 高等軍法会議軍法会議の管轄、公訴の受理及び訴訟手続の当否に関しては事実のみ取調を為すことを得

  前項の取調は受命裁判官をして之を為さしめ又は他の軍法会議予審官に之を嘱託することを得

第四百五十七條 上告の申立法律上の方式違い又は上告権消滅後に為したるものなるときは高等軍法会議は判決を以て上告を棄却すべし

第四百五十九條 高等軍法会議上告を理由ありとするときは判決を以て原判決を破毀すべし

  前項の場合に於いては其の事件を原軍法会議に差し戻し又は原軍法会議以外の師団軍法会議に移送すべし但し別段の規定ある場合は此の限りに在らず

第四百六十條 法令を適用せざりしこと、法令の適用を誤りたること、判決ありたる後刑の廃止若しくは変更又は大赦ありたることを理由として原判決を破毀する場合に於いて被告事件の事実原判決により定まりたるときは高等軍法会議は其の事件に付き判決を為すべし不当に公訴を受理したることを理由として原判決を破毀するとき亦同じ

第四百六十一條 不当に管轄違を認め又は公訴を却下したることを理由として原判決を破毀するときは判決を以て其の事件を原軍法会議に差し戻すべし

第四百六十二條 不当に管轄違いを認めたることを理由として原判決を破毀するときは判決を以て其の事件を管轄軍法会議に移送すべし

第四百六十三條 上告趣意書及び重要なる答弁の要旨は之を判決書に記載すべし

第四百六十四條 被告人上告を為し又は被告人の利益の為上告を為したる事件に付いては高等軍法会議は原判決に定めたる刑より重き刑を言い渡すことを得ず

第四百六十五條 師団軍法会議不当に公訴棄却の決定をなさざりしときは高等軍法会議は決定を以て控訴を棄却すべし

第四百六十六條 事件の差し戻し又は移送を受けたる軍法会議は其の事件に付き高等軍法会議に表示したる法律上の意見に集束せらる

第四百六十七條 上告審については本章に規定したるものを除くの外第二編第二章第四節の規定を準用す

第四百六十八條 軍法会議の判決確定後其の判決法律に於いて罰せざる所為に対し刑を言い渡し又は相当の刑より重き刑を言い渡したるものなること発見したるときは高等軍法会議の長官は検察官をして

  高等軍法会議非常上告を為さしむることを得

第四百六十九條 非常上告を為すには其の理由を記載したる申立書を高等軍法会議に差し出すべし

第四百七十條 期日に検察官は申立書に基づき陳述を為すべし

第四百七十一條 高等軍法会議非常上告を理由となしとするときは判決を以て之を棄却すべし

第四百七十二條 高等軍法会議非常上告を理由ありとするときは原判決を破毀し更に判決を為すべし但し原判決に定めたる刑より重き刑を言い渡すことを得ず

第四章 再審
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第四百七十三條 再審の請求は左の場合に於いて刑の言い渡しを為したる確定判決に対して刑の言い渡しを受けたる者の利益の為之を為すことを得

  一 原判決の証拠と為りたる証拠書類又は証拠物確定判決により偽装又は変造なりしこと証明せられたるとき

  二 原判決の証拠と為りたる証言、鑑定、通訳又は飜訳確定判決により偽証又は虚偽の鑑定、通訳若しくは飜訳なりしこと証明せられたるとき

  三 刑の言い渡しを受けたる者誣告したる罪確定判決により証明せられたるとき但し誣告により刑の言い渡しを受けたるときに限る

  四 原判決の証拠と為りたる裁判確定判決により変更せられたるとき

  五 刑の言い渡しを受けたる者に対して無罪又は免訴を言い渡すべき明確なる証拠又は原判決に於いて認めたる罪より軽き罰を認べき明確なる証拠を新たに発見したるとき

  六 原判決に干与したる予審官、捜査若しくは控訴の提起に干与したる検察官又は第三百四條の規定に依り検察官に請求を受けてて処分を為したる予審官被告事件に付き職務に関する罪を犯したること確定判決

    により証明せられたるとき但し原判決を為す前裁判官予審官又は検察官に対して公訴の提起ありたる場合に於いては原判決を為したる軍法会議其の事実をしらざりしときに限る

第四百七十四條 再審の請求は左の場合に於いて言い渡し又は無罪、免訴若しくは公訴棄却の言い渡しを為したる確定判決に対して刑の言い渡しを受けたる者又は被告人たりし者の不利益の為之を為すことを得

  一 前条第一号、第二号、第四号又は第六号に記載したる原由あるとき

  二 無罪又は相当の罪により軽き罪に付刑の言い渡しを受けたる者軍法会議又は軍法会議外に於いて自白したるとき

  三 免訴又は公訴棄却の言い渡しを受けたる者軍法会議又は軍法会議外に於いて其の原由なかりしことを陳述したるとき

第四百七十五條 再審の請求は左の場合に於いて上告を棄却したる判決に対して之を為すことを得

  一 第四百五十六條の規定に依り取り調べたる事実に付第四百七十三條第一号、第二号又は第四号に記載したる原由あるとき

  二 原判決又は其の基礎と為るべき取調に干与したる裁判官又は予審官に第四百七十三條第六号に記載したる原由あるとき

  始審の確定判決に対して再審を請求したる事件に付き再審の判決ありたる後は上告棄却の判決に対して再審の請求を為すことを得ず

第四百七十六條 前三條の規定に従い確定判決により犯罪の証明せられたることを再審の原由と為すべき場合に於いて其の犯罪に付き公訴を実行すること能わざるときは其の事由及び犯罪事実を証明して再審の請求を

  為すことを得

第四百七十七條 再審の請求は別段の規定ある場合を除くの外原判決を為したる軍法会議之を管轄す

第四百七十八條 第四百六十條の規定に依り為したる判決に対する再審の請求は左ノ場合を除くの外始審の判決を為したる軍法会議之を管轄す

  一 第四百五十六條の規定に依り取り調べたる事実に付第四百七十三條第一号、第二号又は第四号に記載したる原由ありたるとき

  二 高等軍法会議の判決は其の基礎と為るべき取調に干与したる裁判官又は予審官に第四百七十三條第六号に記載したる原由ありとするとき

第四百七十九條 刑の言い渡しを受けたる者の利益の為にする再審請求は左に記載してる者之を為すことを得

  一 管轄軍法会議検察官

  二 刑の言い渡しを受けたる者

  三 刑の言い渡しを受けたる者の法定代理人、保佐人又は夫

  四 刑の言い渡しを受けたる者死亡し又は心神喪失の状態にある場合に於いては其の配偶者、家督相続人、直系親族又は兄弟姉妹

  第四百七十三條第六号又は第四百七十五語得第一項第二号の場合に於いて刑の言い渡しを受けたる者の利益の為にする再審の請求が刑の言い渡しを受けたる者の行為に依り罪を犯すに至らしめたる場合に於いて

  は検察官に非れば之を為すことを得ず

  刑の言い渡しを受けたる者又は被告人たりし者の不利益の為にする再審の請求は管轄軍法会議検察官之を為すことを得

第四百八十條 検察官に非ざる者再審の請求を為す場合に於いては弁護人を選任することを得但し特設軍法会議に付きては此の限りに在らず

  前項の規定に依る弁護人の選任は再審の判決あるまで其の効力を有す

第四百八十一條 再審の請求は刑に執行を終えたるとき又は其の執行を受けるくることなきに至りたるときと雖も之を為すことを得

第四百八十二條 刑の言い渡しを受けたる者又は被告人たりし者の不利益の為にする再審の請求は判決確定後公訴の時効に付定めたる期間を経過したる後に於いては之を為すことを得ず

第四百八十三條 再審の請求は刑の執行を停止する効力を有せず但し管轄軍法会議検察官は長官の命令に依り再審の請求に付ての決定あるまで刑の執行を停止することを得

第四百八十四條 再審の請求を為すには其の趣意書に原判決の謄本及び証拠を添え之を管轄軍法会議に差し出すべし

第四百八十五條 再審の請求は之を取り下ぐることを得

第四百八十六條 第四百三十條、第四百三十九條及び第四百十一條の規定は再審の請求及び其の取り下げに之を準用す

第四百八十七條 第四百六十條の規定に依り為したる判決に対して高等軍法会議及び師団軍法会議に再審の請求ありたるときは高等軍法会議は決定を以て師団軍法会議の訴訟手続終了に至り迄訴訟

  手続を停止すべし始審の確定判決と上告却下の判決とに対して再審の請求ありたるときは亦同じ

第四百八十八條 再審の請求法律上の方式に違いたるものなるときは決定を以て之を棄却すべし

第四百八十九條 再審の請求を理由なしとするときは決定を以て之を棄却すべし

第四百九十條 再審の請求を理由ありとするときは再審開始の決定を為すべし

  再審の決定を為したるときは決定を以て刑の執行を停止することを得

第四百九十一條 第四百八十七條の場合に於いて師団軍法会議再審の請求を受けたる事件に付き判決を為したるときは高等軍法会議は決定を以て再審の請求を棄却すべし

第四百九十二條 再審の請求に付決定を為す場合に於いては請求を為したる者及び其の対手人の意見を聴くべし但し第四百七十九條第一項第三号に記載したる者再審の請求を為したる場合に於いては併せて刑の言い

  渡しを受けたる者の意見を聴くべし

第四百九十三條 再審開始の決定を為したる事件に付きては其の審級に従い更に審判を為すべし

第四百九十四條 死亡者又回復の見込みなき心神喪失の状態にある者の利益の為再審の請求を為したる事件に付いては公判を開かず検察官及び弁護人の意見を聴き判決を為すべし此の場合に於いて再審の請求を為

  したる者弁護人を選任せざるときは裁判長は第三百六十九條の規定に準じ職権を持って弁護人を付するべし

  刑の言い渡しを受けたる者の利益の為再審の請求を為したる事件に付き再審の判決を為す前刑の言い渡しを受けたる者死亡し又は心神喪失の状態にありて回復の見込みなきに到りたるとき又前項に同じ

  前二項の規定中弁護人に関するものは特設軍法会議に付いては之を適用せず

  第一項又は第二項の規定に依り為したる判決に対しては上告を為すことを得ず

第四百九十五條 刑の言い渡しを受けたる者又は被告人たりし者の不利益の為再審の請求を為したる事件に付き再審の判決を為す前刑の言い渡しを受けたる者又は被告人たりし者死亡したるときは再審の請求及び其の

  請求に付為したる決定は其の効力を失う

第四百九十六條 刑の言い渡しを受けたる者の不利益の為為したる再審に於いては原判決に於いて言い渡したる刑より重き刑を言い渡すことを得ず

第四百九十七條 再審に於いて言い渡したる判決確定したるときは官報を以て其の判決を公示すべし

第五章 裁判の執行
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第四百九十八條 裁判は確定したる後之を執行す

第四百九十九條 裁判の執行は其の裁判を為したる軍法会議検察官又は其の裁判を為したる予審官の属する軍法会議検察官之を指揮す但し其の性質上軍法会議裁判長、受命裁判官又は予審官の為すべきもの

  は此の限りに在らず

  上告の裁判又は上告の取り下げに因り原軍法会議の裁判を執行すべき場合に於いては高等軍法会議検察官其の執行を指揮す

  前二項の場合に於いて訴訟書類原軍法会議に在るときは其の軍法会議検察官裁判所の執行を指揮す

第五百條 裁判の指揮は書面を以て之を為し裁判書又は裁判を記載したる調書の謄本又は抄本を添付すべし但し刑の執行を指揮する場合を除くの外裁判書の原本、謄本若しくは抄本又は調書の謄本若しくは抄本に認印して之を為すことを得

第五百一條 二以上の主刑の執行は罰金及び科料を除くの外其の重きものを先にす但し検察官は長官の命令に依り重き刑の執行を停止し他の刑の執行を為さしむることを得

第五百二條 死刑の執行は陸軍大臣の命令に依る

第五百三條 死刑を言い渡したる判決確定したるときは検察官は速やかに訴訟記録を長官を経由して陸軍大臣に差し出すべし

第五百四條 陸軍大臣死刑の執行を命じたるときは5日以内に其の執行を為すべし

第五百五條 死刑の執行は検察官及び録事の立合にて監獄の長之を為すべし

  長官は監獄の長の申請により兵員の出場を命ず

  検察官又は監獄の長の許可を得たる者の外刑場に入ることを得ず

第五百六條 死刑の執行に立ち会いたる録事は執行始末書を作り検察官及び監獄の長と共に之に署名捺印すべし

第五百七條 死刑の言い渡しを受けたる者心神喪失の状態にあるときは陸軍大臣の命令に依り其の痊癒に至る迄執行を停止す

  死刑の執行を受けたる婦女懐胎なるときは陸軍大臣の命令に依り分娩に至る迄執行を停止す

  前二項の規定に依り死刑の執行を停止したる者に付きては痊癒又は分娩の後陸軍大臣の命令あるに非れば其の執行を為すことを得ず

第五百八條 特設軍法会議死刑を言い渡したる場合に於いては其の執行又は執行の停止に関する陸軍大臣の職務は長官之を行うことを得

第五百九條 懲役、禁錮又は拘留の言い渡しを受けたる者心神喪失の状態にあるときは刑の言い渡しを為したる軍法会議又は刑の言い渡しを受けたる者の所在地の軍法会議検察官の指揮に依り痊

  癒に至る迄刑の執行を停止する

第五百十條 前条の規定に依り刑の執行を停止したる場合に於いて刑の言い渡しを受けたる者第一條に記載したる身分を有せざるときは検察官は之を監護義務者又は市区町村長に交付し病院其の他の適当の場所に

  入れしむることを得

  刑の執行を停止せられたる者は前項の処分あるまで監獄に留置し其の期間を刑期に算入す

第五百十一條 左に記載したる場合に於いては刑の言い渡しを為したる軍法会議又は刑の言い渡しを受けたる者の所在地の軍法会議検察官の指揮に依り事故の止む迄懲役、禁錮又は拘留の執行を

  停止することを得

  一 刑の執行により生命を保つこと能わざる虞あるとき

  二 受胎後7月以上なるとき

  三 分娩後一月を経過せざるとき

  四 刑の執行により回復すべからざる不利益を生ずる虞あるとき

  五 其の他重大なる事由あるとき

第五百十二條 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言い渡しを受けたる者拘禁中に非ざるときは検察官は執行の為之を召喚すべし召喚に応じざるときは逮捕状を発すべし

第五百十三條 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言い渡しを受けたる者逃走したるとき又は逃走する虞あるときは検察官は直ちに逮捕状を発し又は陸軍司法警察官若しくは司法警察官に請求し若し

  くは嘱託して之を発せしむることを得

第五百十四條 逮捕状には刑の言い渡しを受けたる者の氏名、住居、年齢、刑名、刑期其の他逮捕に必要なる事項を記載し検察官又は陸軍司法警察官之に記名捺印すべし

  逮捕状を発する場合に於いて必要あるときは人相書きを添付すべし

第五百十五條 逮捕状は拘引状と同一の効力を有す

第五百十六條 逮捕状の執行に付いては拘引状の執行に関する規定を準用す

第五百十七條 検察官刑の言い渡しを受けたる者の現在地を覚知すること能わざるときは検事長又は之に相当する官署に人相書きを送付し其の捜査及び逮捕を嘱託することを得

  嘱託を受けたる官署は其の管轄区域内の検事又は相当官署をして逮捕状を発し捜査及び逮捕の手続を為さしむべし

第五百十八條 罰金、科料、過料、没収、没取、追徴又は費用賠償の裁判は検察官の命令を以て之を執行す其の執行を受くべき者に付き相続ありたるときは相続財産に就き執行することを得

第五百十九條 前条の執行に付き強制執行を要するときは兵営其の他軍用の庁舎又は艦船の内に於いて之を為す場合を除くの外検察官の嘱託により区裁判所其の他民事裁判に付強制執行を為す権ある官署

  に於いて之を為す此の場合に於いては検察官の命令は執行力ある債務者名儀と同一の効力を有す

  嘱託により為す官署の執行手続については民事裁判の執行に関する規定を準用す但し執行前裁判の送達を為すことを要せず

第五百二十條 前条第二項の規定に依る執行費用は執行を受くる者の負担とし民事訴訟法の規定に準じ執行と同時に之を取り立つべし

第五百二十一條 第四百十三條の規定に依り為したる賠償の言い渡しに付被害者より強制執行の請求ありたるときは前三條の規定を準用す

第五百三十二條 没収物は検察官之を処分すべし

第五百二十三條 没収の執行後三月内に権利を有する者より没収物の交付を請求したるときは検察官は破壊又は破棄すべき物を除くの外之を交付すべし

  没収物を処分したる後前項の請求ありたる場合に於いては検察官は購買によりて得たる代価を交付すべし

第五百二十四條 偽造又は変造に係る物を返還する場合に於いては偽造又は変造の部分を其の物に表示すべし

  偽造又は変造に係る物押収せられたるときは之を提出せしめ前項の手続を為すべし但し其の物公務所に属するときは偽造又は変造の部分を公務所に通知して相当の処分を為さしむべし

第五百二十五條 押収物の返還を受くるべき物の所在不明なる為又は其の他の事由に因り其の物を還付すること能わざる場合に於いては検察官は其の旨を広告すべし

  公告を為したる時より六月内に還付の請求なきときは其の物は国庫に帰属す

  前記の期間内と雖も価値なきものは之を廃棄し保管に不便なる物は之を公売して其の代価を保管することを得

第五百二十六條 検察官は必要なる場合に於いては他の軍法会議検察官、地方裁判所若しくは区裁判所の検事又は相当官に裁判の執行に関する処分を嘱託することを得

第五百二十七條 刑を言い渡したる裁判の解釈に付疑いあるときは其の言い渡しを受けたる者は言い渡しを為したる軍法会議に付き疑義の申立を為すことを得

第五百二十八條 刑の執行を受くる者又は其の法定代理人、保佐人若しくは夫執行に関し検察官の為したる処分を不当とするときは裁判の言い渡しを為したる軍法会議に異議の申立を為すことを得

  疑義若しくは異議の申し立て又は其の取り下げは書面を以て之を行うべし

  第四百三十九條の規定は疑義若しくは異議の申し立て又は其の取り下げに之を準用す

第五百三十條 疑義又は異議の申し立てを受けたる軍法会議検察官の意見を聴き決定を為すべし

第五百三十一條 罰金又は科料を完納すること能わざる為為したる労役場留置の執行に付きては刑の執行に関する規定を準用す

附則
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第五百三十二條 本法施行に期日は勅令を以て之を定

  本法第二編第2章中親告罪の告訴、請求を待ちて受理すべき事件に付いての請求及び時効に関する規定に付いては勅令を以て別に其の施行期日を定

  親告罪の告訴、請求を待ち手授留守べき事件に付いての請求及び時効に関しては前項の規定に依り定る施行期日に至る迄仍従前の例に依る


第五百三十三條 陸軍治罪法、台湾陸軍軍法会議法関東都督府及び韓国駐剳軍軍軍法会議法および明治二十八年勅令第九十二号は之を廃す

第五百三十四條 本法は本法施行前に生じたる事件に又之を適用す

  前項の規定は本法施行前旧法に依り為したる訴訟手続の効力を妨げず

  本法施行前旧法に依り為したる訴訟手続にして本法に之に相当する規定あるものは之を本法に依り為したるものと看做

第五百三十五條 本法施行前裁判権を有する事件に付審問、審判又は判決の命令ありたるときは本法に依り軍法会議裁判権を有せざるときと雖も軍法会議之を審判

第五百三十六條 本法施行前軍法会議裁判権を有せざる事件に付通常裁判所その他の官署に公訴の提起ありたるときは本法に依り軍法会議裁判権を有するときと雖も公訴を受けたる官署之を審判

第五百三十七條 従来の軍法会議は本法に於いて之に相当する軍法会議とす

第五百三十八條 本法施行前管轄権を有する事件に付審問、審判又は判決の命令ありたるときは本法に依り管轄権を有せざるときと雖も其の命令を受けたる軍法会議之を審判

第五百三十九條 本法施行の際在職の判士長及び判士は本法に依る判士とす

第五百四十條 本法施行の際在官の理事は別に辞令を用いず陸軍法務官に任ぜられたるものとす

  本法施行の際退職又は予備の理事は本法に依り退職を命ぜられたる陸軍法務官とす

  本法施行の際非職の理事は本法に依り休職を命ざられたる陸軍法務官とす

  本法施行の際に限り第三十九条の事由なきときと雖も陸軍大臣陸軍法務官に休職を命ずることを得

  前二項の規定に依り休職と為りたる陸軍法務官の休職の期間は三年とし第三項の者に在りては非職となりたるときより之を起算す

  前項の休職の期間満期となりたるときは退職とす

第五百四十一條 本法施行前発したる收禁状は之を本法に依り発したる勾留状と看做

第五百四十二條 本法施行前闕席判決を受けたる者に対しては旧法に依り逮捕状を発することを得

第五百四十三條 本法施行前闕席判決を受けたる者に対して発したる逮捕状及び前条の規定に依り発したる逮捕状は之を本法に依り発したる勾留状と看做

第五百四十四條 本法施行前に為したる検察の処分は之を本法に依り為したる捜査の処分と看做

第五百四十五條 本法施行前検察の処分に着手したる官署本法に依り捜査権を有せざるときは速やかに之に関する書類及び証拠物を検察官又は陸軍司法警察官に送付すべし本法施行前告訴又は告発を受けたる

  官署亦同じ

第五百四十六條 第二百九十二條の期間は同條施行前犯人を知り又は結婚の無効若しくは取消の裁判確定したる場合に於いては同條施行の日より之を起算す

第五百四十七條 本法施行前検察具申ありたる事件にして陸軍治罪法第四十六条の手続を為さざるものは之を第三百六條又は第三百七條の規定に依り報告ありたるものと看做


第五百四十八條 本法施行前に為したる審問は之を本法に依り為したるものと看做

  本法施行前審判に着手したる事件は之を本法に依り為したる予審と看做

第五百四十九條 本法施行前陸軍治罪法第七十三條第二号の規定に依り具申ありたる事件にして陸軍大臣又は長官の命令又は認可なきものは之を第三百三十條の規定に依り報告ありたるものと看做

第五百五十條 本法施行前審問に於いて免訴の言い渡しありたる事件に付いては新たなる事実又は証拠を発見したるときに限り更に予審を請求し又は公訴を提起することを得

第五百五十一條 本法施行前判決に着手したる事件は之を本法に依り公訴の提起ありたるものと看做

第五百五十二條 本法施行前判決を終え裁判官宣告を為さざる事件は旧法に依り之を終結すべし

第五百五十三條 本法施行前言い渡したる闕席判決に対しては旧法に依り再審の申訴を為すことを得

  前項の申訴ありたるときは長官は公訴の提起を命ずべし

第五百五十四條 本法施行前陸軍治罪法第九十五條の規定に依り又は同法第九十六條各号に記載したる事由に因り再審の命令ありたる事件は旧法に依り之を終結すべし

  本法施行前陸軍治罪法等九十八條の規定に依る再審の申訴により再審の命令ありたる事件は之を本法に依り公訴の提起ありたるものと看做

第五百五十五條 本法施行前陸軍治罪法第九十六條又は同法第九十七条の規定に依り再審の申訴又は具申ありて命令なき事件は之を本法に依り管轄軍法会議に再審の請求ありたるものと看做

  本法施行前陸軍治罪法第九十八條の規定に依り再審の申訴ありたりて命令なき事件に付いては長官は公訴の提起を命ずべし

第五百五十六條 本法施行前提起したる私訴は之を第四百十三條の規定に依る損害回復の請求と看做

第五百五十七條 本法施行前言い渡したる私訴裁判強制執行に付いては第五百二十一條の規定を準用す

第五百五十八條 本法施行前進行を始めたる私訴の時効は従前の規定に従う

第五百五十九條 本法に依り市町村吏員の行うべき職務は市町村制を施行せざる地並朝鮮、台湾、樺太及び満州に在りては勅令を以て指定する官吏吏員之を行う

第五百六十條 本法に記載したる刑法の規定は朝鮮、台湾及び関東州に在りては各之に相当する法令の規定とす

第五百六十一條 内地に非ざる地に在る師団には師団軍法会議を設けざることを得   

  内地に非ざる地に在る師団に軍法会議を設くる場合に於いて其の師団に師管の設けなきときは命令を以て師管と看做べき地域を定むることを得

第五百六十二條 別段ノ規定ある場合を除くの外他の法律中陸軍の理事とあるは陸軍法務官とす  

この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)


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