念佛は。村中挙て异口同音に称名する事。幾千万といふその数を知らす。併是汝がためにゑかうす此上に何の不足有てかふたゝび來て菊をなやまさん。但し一つの願ひ有て來れりといふ。既に成佛得脱の所におゐて。娑婆の願ひ有べしとも覚ず能〻此理りをわきまへてすみやかに去れといへば。かさねこたへていわく庄右衛門殿今の教化。近比うけたまはり事甘心せられ候去ながら。先日きくにもことわるごとく。我地獄のくるしみを脱れ。位をすこしのぼる事。各〻念佛の徳によるゆへなり。しかれども成仏のいまだしき事は。よく案じても見たまへよ目連の神足那律の道眼。其他六通無碍の聖者達。直に來り直に見てすくひたまふすら。まぬかれがたきは墮獄の罪人なり。しかる所に念佛の功徳は能〻甚深微妙なればこそ各〻ごとき三毒具足の凡夫達の廻向心によつて。我既に地獄の責を脱れ。少し位をすゝむ事を得たりき。さて又望みといふは別義にあらず我がためにせきぶつ一躰建立して得させたまといへば名主がいわく。流轉をいとひ出離を願ふて。念仏を乞もとむるは其道理至極せり。今石佛の望みいさゝか以て心得られず。但し念佛の功徳より。石佛の利益すぐれたるゆへに。かくは願ふかとたつぬれば。かさねが