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ビンゲンに至る間ラインは洋々として平野の中央を貫けり、ビンゲンを越ゆれば兩岸の山次第に迫り來りて水勢漸く加はる、流れ愈急にして山は肉を削られ骨を露はし遂に斷崖をなせり、斷崖の上には此處彼處に半崩れかゝりし古城址ありて風雲往來す、此あたり中世の諸侯が浪漫的史劇を演じたりし舞臺なれど駒に鞭うちてラインの流れを亂せし騎土の勇姿は今あらで川波の音昔に咽ぶ許りなり、途中ハイネの詩によりて有名となりしローレライを過ぐ、ローレライは高さ四百三十呎に達する一大巖にして其麓を急流の洗ふに任せて毅然として聳立す、水底も此邊最も深くして約八十呎に達すと云ふ、此地傳說文學によりて一世に喧傳せらると雖も妙義耶馬溪の奇あるに非ず、風