Page:Sengo ōbei kenbunroku.pdf/113

提供:Wikisource
このページは検証済みです

ず。

 余は此地に來りて始めて勞働なるものが近代生活に於いていかに重大なる要素をなせるかを最痛切に實驗したり、即ち去る五月一日當市に於て勞働者全部の同盟罷工あり、これは勞働の威力のいかに偉大なるかを示す爲の一種の示威運動にして何等直接の目的あるに非ず、極めて靜肅にして穩當なるものなりしが當日は電車自動車等一切の交通機關は凡て停止し平常は車馬絡繹して喧囂を極むる街上も寂として人影甚稀に、料理店は皆閉されホテルの食堂も亦開かれず、余等は前夜より用意せしパンと水と少量の冷肉とによりて僅に一日の飢を凌ぎたり、余は實に此時程不便と苦痛と一種の寂莫とを感じたる事な