というものである。
5 平成元年判決は、改正前民法724条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には、裁判所は、当事者からの主張がなくても、除斥期間の経過により同請求権が消滅したものと判断すべきであっ て、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当である旨を判示している。
しかしながら、本件の事実関係の下において、除斥期間の経過により本件請求権が消滅したものとして上告人が損害賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない。平成元年判決が示した上記の法理をそのまま維持することはできず、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用となる場 合もあり得ると解すべきであって、本件における上告人の除斥期間の主張は、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。以下、これを詳述する。
6(1)ア 本件訴訟において、被上告人らは、本件規定は憲法13条、14条1項等に違反しており、本件規定に係る国会議員の立法行為は国家賠償法1条1項の適用上違法であるなどと主張して、本件規定に基づいて不妊手術が行われたことにより第1審原告らに生じた損害の賠償を求めている。
イ 本件規定は、①優生保護法の定める特定の疾病や障害(以下「特定の障害等」という。)を有する者、②配偶者が特定の障害等を有する者又は③本人若しくは配偶者の4親等以内の血族関係にある者が特定の障害等を有する者を対象者とする不妊手術について定めたものである。
憲法13条は、人格的生存に関わる重要な権利として、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障しているところ(最高裁令和2年(ク)第993号同5年10月25日大法廷決定・民集77巻7号1792頁参照)、不妊手術は、生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であるから、不妊手術を