このページはまだ校正されていません
叩けば埃もたつ情痴の
妻は
やがて
たがいにいたわりいたわる今朝の冬――
家をめぐってすすり泣く、凩の
せめて
なあ、いとしい妻よ、ともに熱い澁茶など
ろう。
端座すれば、身近に濛々とたちのぼる
湯気は淡粧のニヒルの香気。
妻も
〈昭和七年、愛誦〉
流木
涯しない 海霧の
濡れて漂うこころの磯辺。
流木の――わが妻よ。
かい抱けば
身にも沁む 海藻の匂い
眼刺す 夜光の虫か
流木の――わが妻よ。
俺も海鳥 岩暗く
濡れて漂うこころの磯辺。
〈昭和七年、愛誦〉
夜
こんな夜は、白くふくよかなる砂丘をくだり
つめて
オトコは丹念に 眞赤な
こんな夜は、海藻焚く遠い島あかりを瞳に点
して
しんみりと靜かに更けてゆく海浜の恋の
白いシーツの浪にうら若き男女の情死があっ
た。
こんな夜は、オンナは純白の蛇身と化して
瞼や耳や唇や、薄情なオトコの肩に絡みつい
た
昔昔の妖婉な伝説がうまれるのかもしれない
こんな夜は、松も月も
砂丘を歩むオトコの跫音が浪のように高まる
ので
眞赤な海磐車はしっとりと濡れてゆく。
こんな夜は、濡れた海磐車を夢のように廻し
て
オンナはろんろんと
故郷の栗の花の匂いに染むオトコの爪を抱い
て眠る。
〈昭和八年、愛誦〉
海浜の虚
ぽっちりと、情艶の灯を点して
夕昏の雨のように、
私の胸にしのびこんできたオンナよ!
おまえは、眼のない魚の住むという