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其の悲しむ所に非ずと云へり。然るに今ま汝此の美麗なる感情を忘却し、吾等法律を尊敬せず、却つて之れを破らんとし、下等なる奴隸が爲さんが如く、汝は市民として誓ひたる所の約束に背を向けて脫走し去らんとせり。汝先づ第一に余の問ふ所に答へよ、――汝は單に言語のみに非ずして、又た實行上に於ても吾等法律に由つて支配さるゝことに同意したりと云ふは、吾等誤れるか。之れ眞なるか或は否か』と。クリトーンよ、吾等如何に之れに答ふべきぞ。吾等同意せざる可からざるに非ずや。

クリ ソークラテースよ、他に如何ともすべきなし。

ソー 然らば法律等は又た此く云はざるか、曰く『ソークラテースよ、汝は十分なる時を有して吾等と爲したる同意の約束を破らんとせるか。此の約束たるや、決して急速に壓制され、或は欺かれて爲したるものに非ざるべく、其可否の思考に就いては、汝は七十年の年月を有したりしなり。此の長年月の間、汝若し吾等を好まず、又た、吾等の約束にして好ましからずとせば、此のアテーナイ市を去りて何處に至るとも汝の自由たりしなり。汝は自ら心に擇び、汝が數々其政府の善良なることを稱揚し居たる