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るが如きことを爲すべからず。而して戰塲たれ、法庭たれ、或は其他何れの處たれ、人は必ず其都市或は國家の命じたるが如く行ひ、又た吾等自己の意見を變じて、國家が認めて正理とせし所の見解に從はざる可からざることあるなり。人若し其父母に對して決して害惡を加ふ可からずとせば、其國家を害す可からざるは又た一層然りとなす』と。クリトーンよ、余は何と之れに答ふべきや。法律の言は眞なるか、或は然らざるか。

クリ 思ふに甚だ正しき如し。

ソー 法律又た云はん、曰く『ソークラテースよ、若し之れ眞なりとせば、汝の目下企圖せる所は、之れ吾等を害せんとする所のものなりと考へざる可からず。何となれば、吾等は汝を世に生れ出でしめ、汝を保育し、汝を敎育し、汝及び其他の一切の市人に與ふべき有らゆる善事は之を與へ、之れに加ふるに吾等全アテーナイ人に權利を發布して之れを與へたり。故に人若し相當の年齡に逹し、都市の道とする所を見、又た吾等を熟知したる上にて、若し吾等を好まざらんには、彼れ其好む所に到り、又た其財產をも共に携へ去ることを得べく、吾等法律は毫も之れを禁ずることなく、