Page:Platon zenshu 01.pdf/872

提供:Wikisource
このページは校正済みです

――之れ正しきことなるか否か。

クリ 正しきことにあらず。

ソー 何となれば惡を他人に行ふは、之れ其人を害するに等しき故なるか。

クリ 眞に然り。

ソー 然らば吾等復讎すべからず、又た吾等他人より如何なる害惡を加へらるゝことありとも、吾等は何人にも、惡に對して惡を行ふべきに非ざるなり。然りと雖クリトーンよ、余の君に一考を煩はさんとするは、君は眞に口に言へるが如く、心にも亦しか思や否やにあり、何となれば此說たるや、多くの人々の取らざりし所にして、又た將來も取らざる所の者なるべければなり。而して此點に同意せざる者と同意せる者とは議論上全く共通の基礎なく、大に意見の異るを見る時は、互に相輕蔑するのみ。故に君は余の第一原理とせる所の、惡に對するに惡を以つて人を害し、復讎し、防禦するは決して正理に非ずとするの說に同意し、又た吾等の議論の前提となすことを承認するか。或は然らざれば之れに反對し、同意する