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ならんには、余は諸君に敎ふるに、諸神の存在せざることを以つてし、又た余の辯解は、却つて余が諸神を信ぜざることを自ら確證するに止まりならん。然りと雖其實然らず。余は諸神の存在を信ずるものにして、其の之れを信ずるや、余の吿發人等の中の何人よりも遙かに高尙なる意味に於てするものなり。而して余は此の訴訟事件は、之れを諸君と神とに一任す。諸君は、諸君及び余に取つて、共に宜しきに之れを處理せよ。

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嗚呼アテーナイ人諸君、余が死刑の投票を以て敢て悲しまざるに就いては多くの理由在つて存せり。余は始めより此事は預期せしなり、而して寧ろ投票の兩者殆と同一なりしに驚く者なり、何となれば余に反對する方は今一層遙かに多數なるべしと思ひ居たればなり。今若し三十票一方に行きしならんには、余は無罪たりしなるべく、余はメレートスより遁れたりしと云ふことを得ん。余は又た言はん、若しアニュトス及びリュコーン等の助勢なき時は、彼れメレートス决して現票數の五分の一だも得ること能はざりしなるべく。若し然らんには、法律の要求するが如く、彼