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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/77

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本的欲求に從ひて行動して他を顧みざる者なるが故に其の原始の狀態は決してアリストテレース及びグローチウス等の云へるが如く社會的のものに非ずして寧ろ萬人を敵とする(Bellum omnium contra omnis)狀態なり。

されど斯く萬人が萬人を敵とする狀態に於いては吾人は少しも安寧なる生活を營むこと能はず、かくては却つて自己の保存に便利ならざるを覺るに至る。是に於いてか人類は其の根本性なる利己心によりて遂に安寧の必要なることを發見せり。然るに安寧を保たむには互に自然に有する絕對の自由を制限して他を害せざることを約せざる可からず、而して件の約束を實行して全體の結合を保たむには全體の上に立ち絕對の權力を有して破約者を罸する主權者なかる可からず。是に於いて人類は國家の必要を發見せり。一國家の主權は全體の上に絕對の權力を有する者にして臣民は皆絕對の服從を義務とせざる可からずと、是れ即ちホッブスが當時政治上の動搖甚だしからむとせる英國の政治界に在りて主張したる專制主義なり。

彼れ以爲へらく、斯く國家の主權者立ち其の制定したる法律ありて始めて爲さね