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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/629

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の著『純理性批判解說』"Erläuterungen über des Herrn Professor Kant Kritik der reinen Vernunft" は一千七百八十四年に出版せられき)又カント哲學を傳播したることに與りて最も力ありしは


ラインホルド(Karl Leonhard Reinhold 一七五八―一八二三)

なり。彼れがイェーナの大學に聘せられて其の哲學敎授の椅子に坐してよりは該大學はカント哲學の一大中心となり、其の市に於いて發行されたる『イェーナ文學叢誌』の如きは其の哲學を擴張する最も勢力ある機關となれり。ラインホルドはおほむねカントの所說を守りて之れを世に傳播せむと力めたりしが尙ほ彼れは吾人の觀念の由來を論ずる點に於いてカントの所說に缺けたる所ありと見て之れを補はむと試みたり。カントは直觀、悟性及び理性といふ如き種々の作用を說きたるのみにて未だ其等の由來する一根柢を示さざりき、換言すれば、カント哲學に於いて缺けたる所は一の最高原理なり、而して此の最高原理てふものは各人が凡べて證明を要することなくして直接に認め得べき事實ならざるべからず、而し