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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/467

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其は決して故らに作れるものに非ずまた實際世に無効力なるものにもあらざることを示さむと力めたり。以上述べたる所によりて見れば、ルソーが感覺論、意志決定論、唯物論、無神論及び自利主義の道德說に反對して當時の大潮勢と戰はむとしたる者なること明らかなり。

《人類墮落の次第。》〔三四〕彼れは其の著 "Discours sur l'Origine et les Fondements de l'Inégalité parmi les Hommes" (一七五三出版)に於いて人類社會が其の原初の純樸なる自然の狀態より墮落し來たれる次第を描けり。以爲へらく、人類は原初に於いては各〻獨立に又自由に生活したる者なり。而して其の生活せむとするや自ら猛獸の害を防ぎ又食物を得る必要あるより先づ器具の發明を爲すことによりて其の心力の發達を來たし、次いでは各〻さゝやかなる茅屋を造りて之れに住するに至り、是に於いて始めて家族的生活の端緖を開き又財產所有の萌芽を發したるものなり。かくて初めには水草を追うて生活したる者が後には一定の塲所に住居を卜し而して自然に村落を成すに至り、且つ此くの如く集合的生活をなすに至りては從來存せざりし新らしき感情及び善德を喚起し來たると共に惡德も亦萌芽し來たれり、何となればかく